抱き締めたい

恐怖にこわばった身体






 ――遠くから、剣撃の音がする。

 仮眠していたわたしは、かすかに聞こえてくる穏やかならない騒音に、はっと身を起こした。
 金属音が聞こえてきた場所は――クラウドが夜営している方向だ。

 ――まさか、クラウドに敵襲か?!

 わたしは外していた防具と武器を素早く身に付け、クラウドのもとに走りだした。
 何だか、嫌な予感がする。クラウドの身に危機が迫っている――。
 わたしは全速力で駆け付け、襲撃の現場を見た。


 腰を覆うほどの銀髪が、黒皮のロングコートに映え、輝いている。
 左手には血で汚れた長い刀。右手に抱えられているのは、皮膚を斬り刻まれ血塗れになった、蜂蜜色の髪の青年――。


 ――堕ちた英雄・セフィロス!

 わたしの気配に気付いたのか、僅かにこちらを振り返り、セフィロスは鼻で笑った。

「遅かったな。正義を振りかざし戦いを好む光の戦士よ。
 もう少し早ければ、クラウドを助けることができたのに、間抜けなことだな」
「何を――!?」

 クラウドを小脇に抱えたまま、セフィロスはわたしに向き直る。

「クラウドを護るために、付かず離れずの場所にいたのだろう。
 残念だったな、クラウドはわたしの手のなかに落ちた」

 わたしは焦ってクラウドを見る。斬り刻まれた痛みと出血からか、彼は気を失っていた。
 ――クラウドがセフィロスの腕のなかにいては、巻き添えに攻撃してしまいそうで、迂闊に手を出せない。

「クラウド、目を覚ませッ!」

 わたしはあらん限りの声で叫ぶ。
 このまま目覚めなければ、セフィロスに連れ去られてしまう。
 が、クラウドは呻くだけで、目を開けようとしない。

「無駄だ、クラウドは目覚めん。
 このままこいつを連れてゆく。――邪魔はさせん」

 そう言って、セフィロスは刀を一閃させる。
 幾つもの剣筋がわたしを襲い掛かる。わたしは防御一方で攻撃に転じることができなかった。
 気が付けば、クラウドもろともセフィロスは姿を消していた。
 わたしは唇を噛み締め、思案する。

 ――セフィロスがクラウドを連れ去るとすれば、行く先は星の体内か。

 わたしは眼尻を釣り上げ、虚空を見上げた。






 翠の光が渦巻く星の体内。
 以前セフィロスと戦ったときは、フリオニールののばらを奪われたときだった。
 ――そして今また、クラウドを奪われた。
 あの時は結局のばらを取り戻すことができなかったが、今度は仲間が捕われているのだ、絶対に取り返さなければ――。
 わたしは足場を飛び移りながら、一番大きな広場に向かう。



 ――そして、見てしまった。
 セフィロスに組み敷かれ、凌辱を受けているクラウドを。


 クラウドは繋がった身体をセフィロスに揺らされながら、恐怖で顔を強ばらせていた。


 

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