抱き締めたい
幸せそうに、ほころぶ笑顔
――なん、だ……これは……。
黒皮の戦闘服の下になっていて分かりにくいが、セフィロスの腰が終わりに向かうため激しく動いている。
「いゃ、ぁ……、ああっ、たす、け……」
クラウドは苦しげに顔を歪めながら、くぐもった声で名を呼んだ。
――ウォーリア、と。
血が、逆流する。頭がくらくらする。
時折わたしを窺っていた、憂い深い瞳。
寂しげな背中。
――あんたはいいよな。光の戦士なだけあって、輝ける道ばかり歩み、闇を知ったことがないんだから。
わたしに向けクラウドが言った言葉。
クラウドの闇は底がないと思った。が、それは間違いだ。
――闇に蹂躙されているから、光であるのに輝けないのだ。
闇――堕ちた英雄・セフィロスが妄執する限り、クラウドは闇に捕われ続ける。
熟み火がわたしのなかを焦がし、暗い炎となって爆発しかかっている。
クラウドが痙攣し、互いの激しい蠢きが鎮まったあと、セフィロスは腕のなかの身体を抱き締める。
そしてわたしを振り返り、英雄は勝ち誇ったように笑った。
セフィロスの目線を追ったクラウドが、わたしの存在に気付き、青ざめていく。
――腰に帯びた剣を抜き、わたしはセフィロスに斬り掛かった。
秩序・混沌両陣営の戦士のなかでも、抜きんでた強さを持つといわれるだけある。――堕ちた英雄は手強い。
わたしの攻撃を軽がると避け、セフィロスは素早い剣撃を仕掛けてくる。
ガードし、回避しながら、わたしはセフィロスの隙を窺い盾を振り上げた。
鈍い音を発てて盾が敵に命中する。続けてわたしは剣でセフィロスを斬り付けた。
吹き飛ばされる英雄。が、ひらりと身体を翻し、セフィロスは刀を中段に構えた。
わたしはガードしようとするが間に合わず、セフィロスの攻撃を受けてしまう。
「グハァッ!」
目に見えぬ速さで八回斬られ、わたしは地面に叩きつけられた。
「おまえの力はこれ程のものか。
他愛無いことだな」
嘲りを込めた言葉にカッとし、身体を起こそうとするが、痛みに力が入らない。
――そのとき、
「セフィロスッ!」
銀髪の剣士の背後から現われたクラウドがセフィロスを斜めに斬り上げる。
そのまま何度も斬撃を加え、クラウドは叫んだ。
「すべてを断ち切る!」
セフィロスを斬り付けながら周りを素早く動くたび、クラウドは攻撃を続ける。最後に真上からセフィロスを斬り下げ、クラウドは橙色の爆発を起こした。
わたしは眩しい光彩を、瞠目して見つめていた。
「これでわたしが諦めると思うな、クラウド。
おまえは、永劫わたしの人形であり続けるのだ――…」
光に包まれたセフィロスは輪郭をなくし、言葉を残して消えた。
宿敵が消えたのを見届けたあと、クラウドはわたしを見ずに呟いた。
「……セフィロスに抱かれた俺は醜いか?」
返す言葉が見つからず、わたしは黙り込む。
わたしを振り返り、クラウドは自嘲ぎみに言った。
「光だけが正しいあんたには、俺はぶれ続けているように見えるだろうな。
宿敵に捕われ、揺さ振られ続ける俺が。
仇敵に抱かれた俺は、さぞかし汚れているように見えるだろうな」
「……クラウド」
わたしは立ち上がり、クラウドに近づく。
身構え、後退りしながらクラウドは口を開いた。
「あぁ、俺はあんたが羨ましかったんだ。
羨ましくて、眩しかったんだ。
……俺は闇に浸されているから、あんたの光が、欲しかった」
わたしは目を見開く。
クラウドがわたしを見つめていた瞳。
闇を理解しないわたしを詰った言葉。
――それはすべて、闇にあらがい、光に焦がれるからこそのものなのだ。
わたしはクラウドの腕を掴み、胸に引き寄せる。
引っ張られるまま倒れこんだクラウドの身体を、わたしは抱き締めた。
「おまえのなかには、光がある。
今は闇の影響が強いが、間違いなく光が存在する。
――わたしは、おまえの光を引き出す標になりたい」
クラウドの身体が、びくりと揺れる。
「あんた……」
か細い声に、わたしは抱く力を強くした。
「おまえはずっとわたしを見ていた。
そしてわたしも、おまえを見ていた……。
おまえが闇に被われそうになったとき、わたしがおまえを光に染めてみせよう」
そしてそのまま、わたしはクラウドに接吻する。軽く唇を重ねたあと、舌をクラウドの口のなかに潜り込ませた。
返ってくる反応に、クラウドもわたしを欲していると悟る。
顔を離すと、わたしはクラウドの耳元に囁いた。
「先程おまえが浴びた闇を、今わたしの光で清めようか……?」
クラウドの腰を引き寄せ、そっと臀部を愛撫する。
大きく目を見開き、クラウドはしどろもどろに言った。
「でも、あんたセフィロスに攻撃されて、怪我してるんじゃ……」
クラウドの問いに、わたしは懐からポーションを取り出す。
「……あ」
「すぐ回復できるから、大丈夫だ」
真剣に言うわたしをまじまじと見たあと、クラウドはプッと吹き出した。
「あんたって、くそ真面目なのに、どこか可笑しいな」
「そうか? 普通にしているだけだが」
「あぁ」
そう言って、クラウドはわたしに口づけた。
わたしは闇と光のあわいにある青年を自分――光のもとに引き寄せた。
これからずっと、愛しさという光で青年を包み続けよう。
――幸せに、ほころぶ笑顔を見続けるために。
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