抱き締めたい
スネて丸まった背中
「わたしが輝ける道ばかり歩み、闇を知ったことがないんだから……だと?」
思わず詰問口調で出てしまった言葉。
違うのか? と暗い眼差しで問われ、わたしは口をつぐむ。
――確かに、闇のなかに引きずり込まれるような経験などしたことはない。
が、他のコスモスの戦士も、多かれ少なかれ色々あったはずだ。
フリオニールは皇帝に国や大事なひとを亡きものにされ、反乱軍に入り復讐に燃えていた。
オニオンナイトは孤児だ。淋しさなら人一倍覚えているだろう。
セシルは暗黒騎士の一面を持つだけあって、闇に浸かったこともあった。
バッツはエクスデスに故郷を消されかけた。
ティナは赤子の頃から囚われの身であり、殺戮人形として長年操られてきた。そのせいで、ひととしての感情を中々取り戻せないでいた。
スコールは姉のような女性に少年期に去られ、こころを閉ざした。
ジタンはテラの民の器として、また殺戮兵器として造られた事実に打ちのめされかけた。
ティーダは滅びを怖れた者たちの都合のよい夢想として作り出された。
皆一様に陰りを持っている。が、それを表に出さず強く前に進めるのは、過去を乗り越え、強い意志を持ち続けられる力があるからだ。
「……おまえは、根本から脆弱なのだろう。
過去に捕われ、未来を見ることができない。
だから何物をも乗り越えられる他の戦士と違い、迷い続けるのだ」
わたしの一言に、クラウドの目が見開かれる。
暫らく硬直したあと、彼はぎりりと歯を食い縛った。
「……ひとの気持ちも分からずに、よくそんなことが言えるな」
いつもは暗いクラウドの瞳が、強く煌めく。
「あぁ、あんたはまったくぶれない、お強い勇者サマだよ。
だから、ひとそれぞれこころの襞が違うことにも、構いやしない。
あんたは闇を知らずに前だけを向いて生きていけばいいさ」
そう言うと、クラウドはわたしから背を向ける。
「……どこへ行く。はぐれたら危ないだろう」
クラウドは振り向き、荒んだ瞳でわたしを睨んだ。
「どこだっていいだろう。俺だって簡単にやられる程、柔じゃない」
そう言い捨てて早足に歩きだしたクラウドの背中を、わたしは呆然と見送る。
――迷いを持つと命取りだ、なぜそれが分からない。
わたしはクラウドに気付かれないよう跡を追い、離れたところで野営する。
時折クラウドの様子を見に行くと、クラウドは拗ねたように背を丸めて焚き火に当たっていた。
――わたしは、当たり前のことを言っただけだ。というのに、何故傷つく?
所詮わたしも、ひとの機微が分からぬ愚か者だったのだ。
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