roundabout
danger night
眠らない街、ミッドガル。魔晄炉から碧い光が煌々と立ち上がり、常に昏い天を照らしている。
不夜城のネオンは消えることなく、街の生彩を醸して出していた。
――人工的な街……腐ったピザとは、よくいったものだな。
八番街にある高級マンションの高層階。ガラス張りの窓にもたれ、長い銀髪の美丈夫がブランデー片手に黄昏ていた。
華やかに見えるプレートの下にはスラムがあり、貧困の差が出ている。彼らが怨嗟を込めてミッドガルの構造を『腐ったピザ』と罵っていた。
――フッ、わからんでもない。ひとりの成金の虚栄心が形になった街なのだから。
その男のもとで戦う精鋭・ソルジャー――彼はそのなかでも抜きんでた戦闘力と頭脳を持ち、いつしか『英雄』と呼ばれるようになっていた。
だが、戦闘に明け暮れ、大量にひとを殺戮するなか思う。
――オレは血に塗れて生きなければならないのか、それがオレの業なのか、と。
今でも返り血が身体に染み込み、葬られた命の怨恨が絡み付いているような気がする。
「――ひとを殺しすぎて、そろそろ限界なんだろ? セフィロス。
あんた、すごく抱かれたそうな顔をしている。
お望みどおり、あんたを可愛がってやるさ」
言われた声に、男――セフィロスは後方をゆっくり振り返る。
ライトを落とした部屋を横切り、赤毛の男が彼のもとに歩み寄ってきた。
「ジェネシス」
セフィロスの背後に廻ると、ジェネシスは自分より上背のある男の腰に腕を絡める。
「悔悛する聖女のような素振りで擬態し、男を誑かすスキュブス……あんたは極上の淫魔さ」
セフィロスのバックルを外してベルトを緩め、ジェネシスはスエードパンツのジッパーを下ろす。下肢に手を這わす掌の感触に、息が震えたのを隠しながら、セフィロスは妖しく笑った。
「クク……淫魔に精を搾り取られ、脱け殻になりたいか? 哀れな生け贄」
セフィロスはブランデーを口に含むと、身体を捻りジェネシスに口移しで飲ませる。そのまま互いの口内を探りあう接吻をし、ふたりは身体を高めあう。
唇を離すと、ジェネシスは挑戦的に笑った。
「あぁ、あんたみたいな淫魔に搾り取られるなら、満足だ。
――といいたいところだが、あんたのような高慢ちきな女王を虜にするのも、最高だな」
反応するセフィロス自身を巧みに愛しながら、ジェネシスはねっとりと囁く。
「フフ……オレを下せるか?」
堪らなく震える自身にあらがい、あくまで平気な顔をしてセフィロスは挑発する。
「あぁ……やってみなければ、分からないだろう?」
セフィロスのカットソーをたくし上げ、ジェネシスがなめらかな胸に直に触れ、ゆっくりと撫で擦る。
沸き上がる快楽に、セフィロスは軽く眉を寄せる。
ジェネシスが両の尖りを指で摘んで扱くと、セフィロスは唇を噛み締めた。
明らかに感じているのに何もない振りをする相手に、ジェネシスは微笑む。
――まだ夜は始まったばかり、じっくり攻略してやるよ、淫らな女王サマ。
セフィロスの白い項に息を吹き掛け、びくりと震えるのを確認したジェネシスは、にやりと唇を釣り上げた。
堕ちようとしないセフィロスと、堕とそうとするジェネシス。――彼らの喰うか喰われるかの関係は、セフィロスの巧妙な策略から始まった。
彼は任務で大量の敵を屠るたび、慚愧に震えていた。
誰か、どんな形でもいい、自分を痛め付けてほしい――。苦しみに身悶えているセフィロスの目に入ったのが、日頃親しくしていたソルジャー・クラス1stのジェネシスだった。
ジェネシスと非番が重なったセフィロスは、彼に誘われ、休憩所を備えた会員制のバーに飲みに行った。
セフィロスは酔った振りをし、ジェネシスを意識的に誘惑した。セフィロスに惹かれ盲目だったジェネシスはそれに気付かず、セフィロスと休憩所に入った。
ジェネシスはセフィロスに乞われるまま、苛虐的に彼の身体を責め、身体を繋げた。
が、それはジェネシスの望む形ではなかった。彼は純粋にセフィロスを愛しており、慈しみあうセックスを求めていた。
ジェネシスは傷つき、違うかたちの性愛をセフィロスに与えようと、一計を案じた。
セフィロスが望むように責め苛むかわりに、後日思うように彼を抱かせてほしい――ジェネシスはセフィロスに条件を突き付け、自分の希望どおり彼を抱いた。
ジェネシスのひたすら優しい愛撫と、自分の身体を気遣う交接に、ひとに触れられることを拒んでいたセフィロスは惑溺し、混乱した。
――セフィロスはジェネシスを使って自ら苛むのを止めた。
かわりに始まったのが、今の奇妙な関係である。
「んんっ……まだまだ、もっと奉仕しろ」
ベッドの上、セフィロスは大きく足を開いて仰臥するジェネシスの顔のうえに跨り、恍惚とした表情を浮かべる。
プライドの高い男に対し、抱かせる条件として不浄の門に口づけさせる。汗を散らし長い銀の髪を乱しながら、セフィロスはサディスティックに笑った。
自慢の顔に汚らわしい部位を擦り付けられ、ジェネシスは屈辱に震えているに違いない。……そう思うと、彼をとても可愛く思えてくる。いじめがいがあるから、ジェネシスとの関係は止められない。
こころと身体に与えられる愉悦にセフィロスが酔っていると、突然ジェネシスの手がセフィロスの足の付け根を弄んだ。
突然の刺激に、セフィロスの身体がひくりと蠢く。
「おバカさんだな、セフィロス。オレに奉仕させることで悦にいってただろう。
まったくガードなしの無防備状態だったぞ。
あんたはオレを侮辱しているつもりかもしれんが、オレはあんたの蕾に奉仕することが、喜ばしくて仕方がないのさ」
くすくす笑うジェネシスに苛立たしげに眉を上げ、セフィロスは男の顔に無理矢理尻を押しつけると、手を伸ばしジェネシスの弱みを握り締める。
前後を責めてくるジェネシスに負けまいと、セフィロスも彼をいたぶった。
ふたりの関係が変わってから数か月。
日を置かず肉体関係を持っているので、セフィロスのこころもこちらに寄せられるのではないかと、ジェネシスは期待した。
が、セフィロスの思いが見えない。彼とセックスをするのは、いつもジェネシスの部屋で、彼は自分の家を密会の場に使おうとしない。――まるで、プライバシーに踏み込ませまいとするように。
ジェネシスを快楽を追求する同志としてだけ見ているのではないかと思えてくる。――それ程に、セフィロスから湿った情を感じられなかった。
「ほら、もっとだ……クッ!」
セフィロスは緩急をコントロールし、自分のなかにいるジェネシスを翻弄する。時には急き立て、すぐさま突き放す。
嘲笑するセフィロスに負けまいと、ジェネシスはもてるテクニックを駆使してセフィロスを追い立てた。
眉を寄せ呻きを堪えるセフィロスの面を、ジェネシスは上から見下ろし微笑む。
――まぁ、いいさ。あんたがオレを求める限り、望みが叶う可能性はあるのだから。
ただ求めるのは、愛。愛し合うこと。今のようではなく、自分の腕で憩うセフィロスを見たい――ジェネシスの願いは、それだけだ。
「くッ…はッ……!」
セフィロスの身体が小刻みに震え始めている。白磁の肌が紅く染まり、汗が滲んできている。――我慢の限界も、もうすぐらしい。
瞼を開け翡翠の瞳を覗かせると、セフィロスは腰を動かし攻撃に転じた。ジェネシスも声を漏らし、激しく動きながら苦しげに喘ぐ。
「ハッ…アアッ!」
「クッ……!」
ベッドのうえの勝負は、今回もドローらしい。
弛緩のときが過ぎたあと、セフィロスの悔しげな顔に少し笑い、覆いかぶさりざまジェネシスは口づける。
少し躊躇いながらも、返されてきた接吻に、ジェネシスは喜びを噛み締めた。
――セフィロス、オレはあんたとの恋の勝負も仕掛けてるんだが、あんたは気付かないな。
まぁいいさ、いまは遠くても、いつかあんたを必ず手に入れてやるよ。
オレの淫らな女王サマ――。
end
*あとがき*
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この話は、裏で連載した「理性崩壊音」の派生作品です。
クラウドを絡めない、完全なジェネセフィ話です。
いまセフィロスは恋愛モードになっていませんが、これからどう転ぶか分からないという感じで書いています。
今後もこの話の続きを単発で書いていくつもりです。
……が、アダルティーなふたりなので、表では難しいですね(今回のも、結構きわどいような気が。爆)。
表で書ける範囲で工夫して、またジェネセフィを書いていきたいと思います。
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