婚遊事始


 夜中、暖をとるため焚かれた火の近くに、絡み合う男女がいる。諸肌脱ぎになった男の背は薄く、無駄な贅肉が付いていない。均整のとれた、白い素肌だ。
 男が豊かな黒髪の女に激しく接吻している。女の襦袢の衿をはだけさせ、たおやかな項に指を彷徨わせる。
 なにかに急かされるようにして、ふたりは交歓しようとしている。
 が、女が男を突き放す。愛らしい目元や花弁のような唇が、不満を形作っていた。
「羽依?」
 男は訝しみ、女――羽依の顔を覗き込む。男の美麗な面が、唖然と羽依を見つめる。
「ずっと、胸の内がもやもやしているのよ。
 わたくしは、あなたの情事の最中の表情を、すべて知っているわけではないと。
 そうでしょう? 玲琳。あなたは、楚鴎殿には乱れる姿をすべて見せているわ」
 拗ねて、可愛らしく朱唇を窄める羽依に、男――玲琳は複雑な笑みを浮かべる。
 義族から離れて二月、絶望した羽依が李允のもとに向かおうとしたこともあった。が、互いの存在がなければ生きられないと思い知り、羽依は玲琳の腕の中に戻った。ふたりの間には、睦まじい日々が繰り返されていたはずであるが――。
「羽依――」
 困惑する玲琳の眼差しにばつが悪くなり、羽依は顔を背ける。
 これは、ただの嫉妬だ。玲琳の愛が己の上にあることは解っている。が、義族から離れる前夜、楚鴎の陽根に後庭を抉られ、凄艶に乱れていた玲琳の有様が脳裏にこびり付いて、剥がれない。
 あの様な姿を、玲琳は己に見せたことはない。女を抱くのと男に抱かれるのでは、様子が違ってくるのは当然なのだが――。
 羽依は自分でも理不尽だと解る苛立ちを、腹の奥底に飲み下し、玲琳に向き直る。
 今言うことは、聞かなかったことにしてね、と前置きして、羽依は口を開く。
「解っているのよ、自分でも。
 あなたは自分の過去を嫌悪している。自分の浅ましい姿を人には見せたくないでしょう。
 でも、わたくしは馬鹿で愚かだから、楚鴎殿が知っていて、わたくしは知らないあなたの姿があることに、耐えられないの。
 わたくしの我儘だということは、解っているわ。だから、無視しておいて」
 ため息を吐いて、羽依は玲琳の胸に顔を埋める。
 暫しの間、羽依の柔らかな髪を撫でていた玲琳だが、不意に彼女を離す。呆気にとられている羽依を尻目に、彼は旅の荷の中をまさぐり、今まで開けたことのない袋を手にして戻ってきた。
 玲琳はそれを無言で羽依に手渡す。
「何なの、これ?」
 開けていいか聞かず、羽依は袋を縛る紐を解く。
「――――ッ!」
 衝撃に、羽依は固まる。
 袋の中身は、荒縄に、色とりどりの細く短い紐、数個の木製の留め具、男根を形どった張型、小袋に収められた粉末、蓋つきの容器に入った粘りのある軟膏だった。
「な、何でこんなものを持っているの?!」
 頭が真っ白の状態で、羽依は問い詰める。
 玲琳は苦笑する。
「これはわたしが後宮に入る前に、李允が手渡したものだ。
 実際、これらを使って、宦官や侍女を誘惑した。
 北宇を出てからは、どこかに捨てようと思っていたのだが……」
 羽依は頬を真っ赤に染め、眼を大きく開く。張型を手に取って観察しながら、玲琳とそれを見比べる。
 こんな物、女の羽依だって使ったことはない。玲琳は使ったことがあるというのか。
「こ、これをわたくしに手渡して、どうしろと?」
 玲琳が含みのある笑みを浮かべる。
 このような笑みを浮かべるとき、大抵彼はよからぬことを企んでいる。
「わ、わたくし、出来ないわッ!」
 必死で羽依は叫ぶ。
「楚鴎に負けたくないのだろう?
 ならば、あの夜以上にわたしを感じさせ、よがらせてみろ」
「や、やり方だって解らないのよ!」
 何とか羽依は逃れようとする。
「一から十まで、わたしが教える」
 そう言って、玲琳は羽依に軽く口づけた。
 何だか、巧く乗せられたような気がする。嫉妬して疾しいことを言い出したのは己なのに、玲琳はその言さえも情事の仕掛けにしている。まるで、遊ばれているようだ。
 羽依は硬直したまま、嘆息を吐いた。


 玲琳は自ら身につけている衣を脱ぎ落とした。
 炎の灯りに、滑らかで光沢のある肌が曝される。男にしては白いそれが朱に染まり、つんと尖った紅い乳首が、羽依を誘う。既に、彼の分身は昂ぶり、そそり立っていた。
 これほどじっくり見たことはないので、思わず羽依は目を逸らす。
「目を逸らすな。これが、今からおまえが犯す男の姿だ」
 甘い艶を含んだ玲琳の声が、羽依を打ち据える。
「だから、わたくしにはできないと……」
 往生際が悪く、羽依は尻込みする。
 無理矢理、玲琳は羽依の手に荒縄を握らせ、己の首に掛け、括り付けるように言う。
 覚悟を決め、羽依は彼の首、脇、股関節、膝の裏、腕の関節、手首を一本の縄で縛る。余りの部分を、高く尖った岩に括り付ける。玲琳は身動きが取れなくなった。
 大きく開脚した態勢なので、股間の強張りが一層屹立してみえる。敏感な菊門を、ざらりとした荒縄が擦り、震える陽根の先には早くも溢れるものがある。たまらなく、淫らな姿態だ。思わず、羽依はぬるりとした亀頭を撫でる。
 びくり、と玲琳の身体が跳ねる。アウッ! と甲高い声が唇から漏れる。ぞくり、と羽依の膣も震え、蜜がじわりと滲んでくる。
 羽依は衣服を脱ぎ捨て、玲琳に見せ付けるよう股を開いて膣口を指で割いてみせる。とろり、と粘りのある液が滴れてくる。玲琳はそれに食い付こうとするが、縄に引っ張られて元の場所に戻ってしまう。
「触りたい?」
 蠱惑的な笑みを浮かべ、羽依が尋ねる。玲琳は頷く。
 魔性の表情で、羽依は微笑む。その目に、残酷な光が浮かんでいた。
「いいわよ。あなたの悶え苦しむ姿を見せてくれたらね」
 言って、再度羽依は玲琳の先端を弄んだ。先走りにぬかるんで、滑りがよい。暫らく、彼女は亀頭を擦ったり引っ掻いたりし続ける。玲琳の目元が朱に染まったのを確認してから、口に含み、棹を扱く。
「ヒウッ、やめ――ッ!
 ア、ア、アアアァァァッ――!!」
 玲琳の腰がびくびくと揺れる。
 羽依は手の動きを早め、口内のモノを舐めしゃぶる。今にも弾けそうなくらいに、玲琳の分身は高まっていた。
 あぁ、イク――。玲琳が絶頂を感じたその時、根元に何かを結わえつけられた。
「――――ッ!」
 玲琳が髪を振り乱し見ると、堅くなった根元に、黄色の紐が結われている。
 肩を喘がせている玲琳に、羽依は薄い笑みを浮かべた。
「ごめんなさい。そう簡単にイカせてあげられないの」
 射精を封じられ、朦朧とした眼で、玲琳は妖しく美しい羽依を見る。
 明らかに、羽依は己の姿に酔っている。普段奸さが見えない羽依のなかにも、嗜虐性が存在したのかと、玲琳は驚いた。
 いたぶられた一物は赤紫に変色し、小刻みに震えている。ちゅうっ、と羽依はそれを軽く吸い、先走りを舐めとる。ンアッ! と玲琳は大きく呻いた。
「うふふ、ここはどうかしら?」
 羽依は指を滑らせ、玲琳の胸の頂きに触れる。男根を虐げられた刺激に、乳頭は鋭く尖っていた。羽依はそれを指で弾く。
「アァッ!」
 玲琳の身体がまたも跳ねる。びくり、と陽根も弾む。
 羽依は乳首の片方を口に含み、もう片方をつねる。空いた片手は、戒められたモノを扱く。
「や……め、ア、アァアアアアッ!!」
 どうすることもできず、玲琳は喘ぐしかない。
 洞穴内に、乳首をねぶる湿った水音と、白く泡だった粘液が、ぬちゃぬちゃと響く。びんびんに尖りきった乳首の刺激が、直接的に男根に伝わる。尖った爪先で先端を抉られ、逃げ場を失う。
「ア、ア……アアアアアァァァァ――ッ!!」
 玲琳の頭の片隅で光が瞬き、目蓋の裏が白で埋め尽くされる。
 彼の硬直がびくん! と大きく波打った。が、出口を奪われ、子胤は行き場をなくす。微量に、白い液体がちろちろと滲んだのみだった。
 肩で息をする玲琳を、羽依は艶やかな眼差しで眺める。
 汗ばむ額に乱れた髪が張りついた玲琳は、たまらなくなまめかしかった。白い肌が紅く火照り、虚ろに開いた瞳は濡れている。
 じくじくと、羽依の身体が疼く。枯れぬ泉に、また愛液が吹き出る。
 羽依は彼の半開きになった唇に口づける。
「あなたは、本当に罪作りだわ……。あなたの感じる姿を見ていたら、わたくしの身体までおかしくなってしまった……。見て」
 そう言うと、羽依はその場に座り込み、大きく股を割り開く。内股を手で支え、指を花園のなかに入れた。早い動きで、壺のなかを掻き回す。
「うっ、ん……アアアッ!」
 人差し指と中指で膣壁を擦り、親指で過敏な肉芽を揉む。粘る液が指に絡み付く。
 玲琳は痺れる頭で、羽依の濃艶な態を見る。羽依の空いた手が、柔らかな胸乳を掴む。撓む乳房の頂きを摘む。垣間見える媚肉が、彼の昂ぶりを求めて激しく蠢く。
 いつしか、玲琳も同じ速度で腰を振っていた。羽依のなかに胤を撒き散らしたい衝動に駆られていた。
 が、それは叶わない。同時にふたりは絶頂を迎えたが、玲琳の激情は戒めのため、不発に終った。
「羽依……ッ」
 玲琳が熱く潤む瞳で恋人を見る。眼に、哀願がひそめられている。
 羽依は剛直を一気に頬張り、戒めを解く。絶頂時の膣の動きを真似て、口腔を収縮させる。
「ふうあぁッ! アアァァァァァッ――!!」
 絶大な吸引力に、自由を奪われていた雄は耐えられない。玲琳は意識が飛びそうな快楽に襲われる。
 大量の精液が、彼女の口の中に溢れる。羽依はすべて飲み干し、残滓を舌で綺麗に清める。
 愛する人に口づけると、羽依は荒縄を解こうとする。
 が、玲琳は頭を振った。
「まだいける……ッ、大丈夫だ」
 でも、と羽依は言い淀む。これ以上の行為をすれば、身体が保たないのではないだろうか。
 が、玲琳は足りない、と言った。
「わたしの身体が、快楽を貪り足りないといっている。後花を貫かれたい、といっているのだ。
 まだまだ、序の口だぞ。怖気付いたのか? おまえも、まだまだだな」
 明らかに、挑発する口調。驚く羽依に、玲琳は艶な目線を送る。
 何だか、馬鹿にされているような気がする。楚鴎や李允に負けていると言われているような気がする。
 きっ、と睨んで、羽依は玲琳の両乳首をぎりぎりと引っ張った。
「わ、わたくしだって、あなたをよがらせることが、できるんだから……っ!」
 親指の腹で、強く乳首の先端を擦る。
 ハウッ! と玲琳は濡れた喘ぎを零す。むくり、と男根が鎌首を擡げた。今度は赤と黄、緑の紐できつく縛られる。
 それでも終らず、両乳頭を木製の留め具で挟まれてしまった。乳首が痛々しいほどに引っ張られ、玲琳の朱の滲む身体が震える。
 羽依は荷物のなかから、小さな箒を取り出した。不揃いな先を弄んだあと、緩く玲琳の大腿に這わせる。アアゥッ、と玲琳は喘ぐ。
「感じるの? ここはどうかしら」
 陽根すれすれの内股を、箒が行き来する。
 玲琳は喘ぎ続け、口を閉じられない。唾液が、頬を伝って顎に落ちる。羽依は涎を彼の乳輪に塗り籠める。爪の先で、乳首の根元を刺激する。びくり、と充血する陽物が動いた。
 箒は項を、脇腹を、腰を、男根を、玉袋をゆるゆると通り過ぎる。
 うふふ、と愉しそうに笑うと、羽依は玲琳を俯せに反す。柔らかな双丘を鷲掴みにして割り開く。食い込んでいる荒縄が熟れた菊花を擦り、玲琳は悶える。
「あら、ここが気持ちいいの?」
 羽依が臀部の結び目を引っ張る。縄がぴんと突っ張り、深く菊座を摩擦した。
「クアァッ!」
 玲琳の身体が反り返る。過敏な反応を確認して、羽依は何度も縄を窄まりに擦りつける。度に、玲琳は濡れた声を上げた。
「なんだか、気持ちいいだけじゃ、つまらないわよねぇ?」
 言った途端、羽依は箒の柄を振り上げる。
 バシッ! と双臀を叩かれ、玲琳は呻いた。
 白くたわわな肉朶に、赤い蚓腫れが走る。何度も叩かれ、幾筋も朱の線ができる。
 臀部を打つ刺激が、縛られた男根を刺す。どくどくと赤紫の肉棒が脈打つ。
 羽依は箒を持ち直し、柄の先端を顕になった窄まりに擦り付ける。ヒッ、と玲琳は息を飲む。後花を抉られただけで、鋭い愉悦が頭の先から爪先までを貫き通す。
「アッ、ア、アアアァッ――!」
 悦楽が爆発する。亀頭からまたも精が漏れる。身体を痙攣させ、玲琳は陥落した。
「あら、肛門に柄の先を捻込まれそうになって、イってしまったの?」
 秘奥が物欲しげに口を開ける。何かを締めつけようとする。
 覆いかぶさるようにして、羽依は直立した雄物を撫でる。明らかに、子胤は爆発したがっていた。細い指先が、ぐちょぐちょになった先を捏ねる。
「ああああぁぁ……」
 理性をなくして、玲琳は腰を振り続ける。
「可哀相だけれど、今度はあなたを労ってあげないわ。わたくしを、馬鹿にしたのだもの」
 哀れな雄から手を放すと、羽依は軟膏の蓋を開ける。大きく醜悪な象のものに、ぬらぬらとした軟液を塗り付ける。
 荒縄を僅かにずらすと、羽依はずぶり、と張型を後庭に突き入れた。
「ウァッ――――!!」
 玲琳の身体が、硬化する。
 解れていない内壁を、抉るように張型が突き進む。軟膏が侵入を助け、後肛が異物を飲み込む。直腸の奥にあるしこりを、剛直の先端が抉った。
「アハァッ――アッ、アッ、アッ――!」
 最奥まで挿入し終わると、羽依は淫肉の前に座る。正面から愉悦に酔い痴れる面を見る。
 玲琳の身体が、快楽に震える。腰を動かし、刺さったモノの感触を楽しもうとする。
「あふっ、ああ……ッ」
 絶え間なく喘ぎ続ける玲琳。それは正しく、楚鴎の前で見せていた淫乱な姿だった。
 羽依は手を伸ばすと、痛々しく震えるモノを撫で擦り、三本の戒めを解く。ついで、乳首挟んでいた留め具を外す。
 出口を得た白濁が、勢い良く羽依の脇腹を濡らす。ぬるりとしたそれを指で掬いとると、彼女はぺろり、と舐めた。
「ねぇ、まだ足りない? もっと貪りたい?」
 羽依は尋ねる。
 朦朧として、玲琳は何も応えない。彼の眼に淫蕩な揺らめきが過る。
 ゾクゾクッ、と羽依の背筋に痺れが走る。
 目の前にいるのは、美しく淫猥な獣。苛虐を与えるほど、乱れ狂う――。
 この美しい獣を、惑乱させてみたい――玲琳の凄艶な様が、彼女の本能の枷を外した。
「解ったわ、まだ、肉を抉られたいのでしょう?」
 そう言い、羽依は玲琳の背後に回る。僅かに出ていた張型の柄を掴むと、早い手つきで抜き差しし始めた。
 玲琳の身体が、海老反りになる。はち切れんばかりに割り裂かれた媚肉が、垂涎して美味しそうに張型を頬張る。陽根から白い液体が飛散する。何度も一番弱いしこりを突かれ、幾度となく玲琳は吐精する。岩肌に精液の飛沫が降り注ぐ。
 いつしか洞穴内に、精の凝った臭いが充満していた。
「アアアアァァァァ……ッ」
 玲琳はがくがくと脚を震わせ、上体を岩壁に預ける。痺れて身体を起こす力が出ない。目くるめく快楽に、身体は痙攣し続ける。下半身は淫水でべとべとになり、腿にまでそれが伝い落ちる。菊座の感覚が麻痺し、突かれる動きだけが生々しく響く。
 が、どうしようもなく空虚だった。こんなものが欲しいのではなかった。身体は胴欲に悦楽を貪る。が、強張りを包んでくれる、柔らく暖かな媚肉がない。ひんやりとした空気に自身を曝し、悦楽を吐き続けるが、片方で濡れた花園を恋しがっている。
 ――もう、無理だって言って。
 愛しい声が、耳に届いたような気がする。
 が、玲琳は応えられなかった。
 既に、意識は身体から飛んでしまっていた。


 頭が重い、身体が怠い――玲琳は眉を潜め、眼を開ける。
「玲琳、玲琳――ッ」
 目前に、羽依の泣き顔。頬を紅潮させ、目から透明な雫を零していた。襦袢を引き掛けただけの、しどけない姿だ。
 辺りを見渡すと、狂艶の名残がまざまざとあった。漂う臭いは、男の淫液のものだ。
 玲琳は先刻の淫行を思い出し、苦笑いする。性交の悦楽に慣れきっているのに、あまりの愉悦に、失神してしまったのだ。
 今は、荒縄を解かれ、厚手の毛布の上に寝かされている。羽依が支度をして、介抱したのだろう。彼女は懺悔と悔恨を面に浮かべている。
「羽依……」
 玲琳が身体を起こそうとする。が、腰の鈍痛と気怠さに、敷布に逆戻りする。まだ後花に何か挟まっているような気がする。
 羽依が彼の顔を覗き込む。玲琳は涙に濡れた頬に触れた。
「ごめんなさい……あなたの淫らな姿を見たら、自制が効かなくなったの。
 もうこんなことはしないわ。だから許して」
 白い腕を、玲琳の首に巻き付け、羽依は彼の胸で泣く。
「煽ったのはわたしだぞ。やめようと言ったおまえを、わざと挑発した」
「え?」
 きょとん、と羽依は目を見開く。まじまじと、玲琳の面に穴が開くほど見つめる。
「わたしをなぶるおまえの姿が、妖しすぎたせいだ。艶やかな瞳で、わたしの身体を舐め回すように見るのだからな。
 その上、興奮し、わたしに見せ付けるように自慰までして――。おまえが淫蕩に見えて、仕方がなかった」
 玲琳の言葉に、羽依は顔を真っ赤にして、空気を噛む。
 その様子が可笑しくて、玲琳は吹き出す。
 過剰に笑いだす彼に、羽依は抗議する。
「そ――それはあなたが、わたくしを馬鹿にしたからでしょう?! わたくしはやめるつもりだったのよ! 限界だったら、そう言ってくれればよかったじゃない!」
「おまえが自制をなくしたように、わたしも止まらなくなった。おまえに見られ、おまえを興奮させていると思うと、恥もなにもなくなった。だから、限度を超えて失神してしまった。
 だが――何か、物足りないな」
 言うと、玲琳は衣に覆われていない羽依の内股に手を伸ばす。
 びくり、と彼女の肢体が震える。
「ちょっ……やめ、て!」
 薄桃色の腿が蜜で濡れている。大量の愛液が、蜜壺を引っ繰り返したように溢れていた。
 滑りのよい粘液が、玲琳の指に絡み付く。彼はそれをすべて舐めとる。甘いな、と蕩けるような声音で言われ、羽依は耳まで赤くした。
「わたしの絶頂し続ける姿を見て、蜜を溢れさせていたのか」
 そう言いながら、玲琳は泉に指を三本差し込む。ヌプリ、と指が蜜溜めのなかに沈む。きゅっ、と秘肉が指を締め付ける。
 片方の手で、張りのある乳房を柔々と揉む。指の先で、尖りはじめた濃桃の乳首を絞るように摘む。
「い、ヤァウッ! やめ……ッ!」
 膣壁が細やかに蠢動し、餓えたように指を吸い取ろうとする。
「おまえも、物足りなかったのか?
 いつもここに収められる刄が、ひとりで暴れていたのだからな」
 ヌチャクチャと淫らな水音をさせ、指が出入りする。コリコリした乳首をつねられ、親指で花核を潰すように揉まれる。羽依の身体は波打つ。
「ンァッ、アアアァッ!」
「わたしも、自分の鞘がなくて物足りなかった。凶悪な刄は、専用の鞘で封じねばならぬだろう?」
 快楽に身体を支えられず、羽依は半ば玲琳の身体に倒れこむ。大腿に屹立した刄が触れるのを感じ、羽依は身震いした。
「だ、め、まだ、身体が、――――ッ!
 イヤッ、アアアアァァァッ――――!!」
 羽依の胎内で玲琳の指が暴れ放題に暴れ、内壁を強く擦られる。爪先で乳頭を掘られる。
 彼女の視界が白く弾ける。びくん、びくん、と肢体が魚のように弾む。洪水のように、淫らな液が流れ出た。
 下から羽依の腰を支え、玲琳は蜜壺に狙いを定める。膣口を亀頭で抉られ、羽依は焦る。
「だから、今夜は駄目だと、――――ッ!!」
 ずぶり、と刄が鞘に侵入する。鞘はぬかるみ、容易に刄を飲み込んだ。
 薄紅に染まる首に手を掛け、玲琳は胸元に引き寄せる。
 熱く火照る羽依の耳に、はぁ……っ、と悩ましい喘ぎが届く。
「やはり、このほうがいいな。わたしの刄も、所定の場所なので落ち着いている」
「馬鹿っ……! 何、を考えてるの!」
 艶やかな羽依の声が、悔しげに呟く。
「今宵は、わたしから動くことができないな。
 羽依、おまえが導いてくれ」
 え、と羽依は玲琳を凝視する。逃れたいが、腰をがっちりと捕まれている。
 導けというが、玲琳自身限界のはずである。今行為を行なうと、明日に響きはしないか。羽依は当惑する。
「だ、駄目よ……。明日も道行を進めなくてはいけないのだもの。
 長くここに留まってはいられないわ」
 上肢を少し起こした羽依を見て、そうか、と玲琳は嘆息して呟く。羽依はホッとする。
 が、ズンッ! と下から腰を深く打ち付けられ、羽依は跳ねた。
「ヒャウッ! ア、ア、ア――!」
 ガクガクと腰を揺さ振られ、羽依は喘ぐ。
 ううッ! と呻きつつも、玲琳は動きを止めようとはしない。
「ば、馬鹿ッ――! わ、解ったわよッ! わたくしの負けだわ!」
 泣くように叫び、羽依は自ら腰を振る。子宮の入り口に亀頭が充たる。子胤を求め、膣が収縮した。
 玲琳は無意識に突き上げていた。飢えた陽根が、生暖かい泥沼を穿つ。柔らかな襞が、細やかな蠢きで棹に絡み付く。彼はその感覚に酔っていた。腰の痛みはある。が、身体が愉悦を貪り、所有の泉に淫水を注ぐことを求めていた。
「アァンッ、アアアッ……」
 既に、羽依は悦楽に呑まれていた。玲琳の動きに合わせ、腰を振る。雌が貪婪に雄を食らう。
 加速する動きに、じゅぶじゅぶとふたりの体液が泡立つ。
 くうッ! と玲琳が唸る。目蓋の裏に霞がかかり、際まで流されていく。羽依も、同じ感覚を味わっていた。
「ハアァッ、アアアァァァ――――ッ!!」
 羽依の肢体が痙攣し、一際甲高い叫びがあがる。
 胤を一滴残らず搾り取ろうと、膣壁が絶大な吸引力で男根を締め付ける。
「――――――!」
 女陰の収縮に抗うようにして、玲琳は餓えを子宮に叩きつけた。


「馬鹿ッ! 本当に馬鹿ッ!
 あなたは救いようのない大馬鹿者よッ!」
 激情が鎮まってから、羽依は玲琳を大いに罵った。
 結局、彼は自ら求め、無我夢中で己の中を突いていた。まったく、後先考えていない。
 が、そんな羽依の心を考えず、玲琳は満ち足りた面持ちをしている。
「一日くらい、いいだろう。李允の刺客も義族も、近ごろ現われていないのだから。
 今宵は、新しい発見ができたうえに、面白かった。
 おまえは始め、無理して苛虐していたが、段々とその気になっていった。まったく嗜虐性がないわけではないのだな」
 敷布の上、彼の腕を枕にする羽依に、玲琳は過激な睦言を告げる。羽依はそっぽを向いて、聞かなかったふりをする。
 冗談ではない、嗜虐趣味など。確かに、いたぶられる玲琳はたまらなく凄艶で、背筋がぞくぞくと痺れたが。また、彼のあんな姿を見たいかといえば――…。
「し、知らない! わたくし、そんなもの知らないわ!」
 ざくりと切り捨てるように羽依は言う。が、その声は上ずっていて、言葉の内容に感情が伴われていないようだ。
 くすりと笑うと、玲琳は羽依の顎をとり、軽く口づける。
「色々試してみるのも、面白いな。
 わたしの姿は、すべて見せたぞ。
 次はおまえの番だな?」
 確認するように、玲琳が覗き込む。
 羽依の脳裏に、嫌な予感が走る。おまえの番とは――…まさか、玲琳と同じように、荒縄で縛られて、ぎりぎりまでよがらせられる、ということか?
 羽依の笑顔が歪む。
「い、嫌よッ! 絶対に嫌ッ!」
 混乱してあたふたと叫ぶ羽依に、またも玲琳は吹き出した。


――終――





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