あらすじ(1)

このページは、佳人炎舞の梗概を掲載しています。
なるべくなら、以下の文を読まずに本編を読まれることをお勧めします。
長編なので、どうしても読むのが面倒だという方は、このままお読み下さい。


*第一章*奔流の星々

 南遼は突如、北宇によって襲撃され陥落する。
 北宇の皇帝・沈牽櫂が従妹である齢十才の美麗な姫・昭羽依に恋慕し、彼女の婚約者である南遼の王子・暉玲琳共々滅ぼそうと欲したのが所以である。
 祖国を滅ぼされた王子・暉玲琳は彼を救助した義族・殷楚鴎の力を借り、皇帝・沈牽櫂と許婚・昭羽依に復讐することを決意する。

 一方、北宇では、同時に昭羽依の両親を皇帝・牽櫂が虐殺、昭羽依は乳母・楊樹と供に皇帝の後宮に拉致されてしまう。
 あまりの衝撃に心を閉ざしてしまった昭羽依だが、皇帝の皇后・旺玉蓉の慰撫に、徐々に心を開きはじめる。
 が、旺皇后が羽依に近付いのは、皇帝の要求のためであった。
 三年後、旺皇后に懐いていた羽依は皇后に欺かれ、皇帝・牽櫂に犯されてしまう。
 有頂天となった皇帝・牽櫂は羽依を妃とし、専ら己の端近に置くようになる
 羽依は心を病み、荒廃していく。そしてついに、羽依は自殺を測るが、楊樹に寸でのところで止められ、果たせなかった。
 それでも牽櫂は羽依を手放さず、彼女を虐げ続け、死ぬこともままならぬ羽依は、心をなくした人形のように変化していった。


*第二章*炎煌の舞姫

 十七才になった昭羽依は、心を殺したまま日々を生きていた。
 彼女の状態を憂いていた皇帝・牽櫂は無聊を慰めるために後宮の内で宴を開く。旺皇后を始め、嬪・陶硝珠や夫人・慧仙葉、皇帝の気に入りの佞臣・李允も同席していた。
 李允は宴の余興として、己の舞姫・燐佳羅を伴ってきていた。
 燐佳羅は舞の手練で、宴席の人々に華麗な舞を披露していく。
 そのとき、平生、無表情な羽依の面に顔色が現れる。艶麗で鮮やかな舞に惹き付けられたうえに、舞姫・燐佳羅と目が合い、心を搦め取られてしまったためだ。
 牽櫂は、羽依の表情を変えた燐佳羅を、羽依の侍女として側に置くこととする。戸惑いながらも、羽依はそれを受け入れた。

 皇帝の命により羽依の側に居るようになった燐佳羅は、普段は怜悧で泰然とし、冷ややかな雰囲気が容貌の美麗さと相まって、中性的な趣をかもしていた。ために、侍女達や宦官達にも人気があった。
 佳羅は悉く羽依を挑発し、羽依は心を乱される。無視しようとしてもできない己に、羽依は焦燥するようになる。
 同時に、佳羅は陶嬪・硝珠にも接近していた。
 陶嬪は佳羅に心を奪われ、同性ということも構わず佳羅に想いを打ち明ける。そんな陶嬪に、佳羅は己の秘密を耳打ちし、一線を越えてしまう。
 燐佳羅の美しさは、皇帝・牽櫂の目にもとまっていた。
 牽櫂は、佳羅を己の枕席に侍らせようとするが、それに気付いた羽依は、佳羅に「絶対に皇帝の魔の手から佳羅を守ってみせる」と約していたために、牽櫂に身を投げ出してしまう。
 約束はしていたものの、本当に羽依が自分を庇って皇帝に抱かれてしまうとは思ってもみなかった。暗澹としながらも、佳羅は憔悴した羽依を慰める。
 意外な佳羅の優しさに、羽依は佳羅に頑さを解きはじめる。
 羽依は佳羅と友となることを望み、佳羅もそれに応える。

 燐佳羅が抱える、重大な秘密も知らずに。


*第三章*破砕の楽舞

 急速に親密になった佳羅と陶嬪に、羽依は奇異を感じる。控えめだった陶嬪が、まるで恋人と接するような態度を佳羅に見せる。
 そんなふたりに異様な心象を抱く羽依に、陶嬪は佳羅を己に譲るように懇願する。が、佳羅は拒絶し、ふたりの間の温度差に羽依は驚き、哀しむ。
 羽依にとって、ふたりは大切な友だった。陶嬪を傷付けた佳羅を羽依は厳しく責める。が、佳羅は怒りでもって返し、羽依と佳羅は決裂する。

 佳羅と仲違いしてしまったことを悔いる羽依は寝付けず、深夜に庭苑を逍遙する。
 楓の幹に凭れ息を吐く羽依の耳に、苑池から水音が差し込んでくる。ふと見た羽依の目に、苑池に身を浸す男の影が入ってくる。動揺する羽依。
 そんな羽依の様子は男のもとにも届いた。男は岸に置かれていた短剣を手に、羽依のもとに近寄って来る。羽依は男を凝視し、さらに驚く。
 男は、舞姫・燐佳羅だった。
 佳羅が吃驚したのは束の間。すぐさま余裕の笑みを浮かべると、羽依の項に抜き身の刃を突き付ける。逃げられないと悟った羽依は、覚悟し目を閉じる。
 来る死を待つ羽依。が、焦れてきた彼女を襲ったのは、佳羅の唇だった。接吻し身体を愛撫する佳羅の手に凌辱の意思を感じ取り、羽依は抗う。が、適わない。
 羽依は組み敷かれ、佳羅と交媾してしまう。果てた後、佳羅は羽依に不貞を擦り付け、もし皇帝に事を話せば、姦通の事実も明るみになると脅す。佳羅を置いて逃げ出した羽依は、佳羅を信じられず寝所で秘かに涙する。
 羽依は佳羅との情事を忘れようとする。が、佳羅の仕種や腕の強さが頭から離れない。羽依はずっと佳羅を意識してしまう。佳羅はそんな彼女の戸惑いを察知していた。
 夜、侍女達が寝所から下がるとき、佳羅は羽依の耳許に「亭で待っている」と誘いを掛ける。当惑した羽依は寝所に籠ったまま、佳羅のもとに行くのを避ける。
 が、佳羅は自ら閨房にやって来、狼狽し拒絶する羽依を抱く。絶望した羽依は佳羅に悲憤する。「所詮あなたも陛下と同じ」と号泣する羽依に、佳羅の心奧は否定する。弄んだわけではなく、心から慈しみたかったと想いを口にする。
 想い乱れる佳羅の様に、羽依のこころは大いに揺れ動く。羽依は佳羅の行為を許し、秘密の情事を告げ口しない証として、佳羅の求めに応じることを誓う。

 それから毎夜、佳羅と羽依は情交を重ねる。身体を重ねるごとにふたりの間は深まり、解りあえないのはこころだけになっていた。
 ふたりの情事に気付いた揚樹が仲立ちし、密会を続ける。佳羅の内心の焦燥をよそに。
 佳羅には本懐があった。本懐のため女装の舞姫として後宮に潜入した。すべて、計画通りに進めていた。が、こころならずも羽依に引き寄せられ、身体を結んでしまった――予想外の成り行きに、佳羅は怖れを抱いていた。

 羽依もまた、佳羅との情事に疑惑を持っていた。どうして、被害者である己が約と称して佳羅と関係を持たなくていはいけないのか。皇帝・牽櫂との情交とは違い、何故佳羅の愛撫に身が馴染んでしまったのか。佳羅を眺める度に沸き起こってくる甘い陶酔は、一体なんなのか――。羽依にはまったく理解できない。
 当然のように寄り添いあい、睦みあう佳羅と羽依。甘やかな空気に浸っていたふたりのもとに、半狂乱の陶嬪がやってくる。陶嬪は錯雑とした面持ちで、己と佳羅との艶事を羽依に暴露する。打撃を受けた羽依は思考を止めてしまう。佳羅は陶嬪に「わたしと羽依の繋がりは当人同志で了解済の戯れだ。恋などとは、馬鹿馬鹿しい」と告げ、傷んだ羽依のこころに追い打ちを掛ける。が、陶嬪は佳羅の眼に潜む恋の炎を佳羅に突き付ける。衝撃に言葉をなくす佳羅。追い掛けてきた陶嬪の侍女が主人を引き戻す。佳羅と羽依は打撃から容易に立ち直れない。
 身悶える羽依は佳羅との情交の終わりを決意する。納得しない佳羅。無理強いに羽依を留めようとするが、羽依の決意は堅い。頑なな羽依の様子に、佳羅のこころは垣を破って零れようとする。
 が、佳羅の告白は途中で止められる。身動きがとれないふたりのもとに、陶嬪自害の訃報が届く。意識を失い倒れる羽依。目覚めたとき、彼女の目の前には牽櫂がいた。羽依は思わず取り縋り、牽櫂に抱いてくれと懇願する。情事にもつれ込もうとする牽櫂と羽依を目の当たりにして、佳羅の脳裏は擾乱する。
 延々と牽櫂に抱かれる羽依。佳羅の面影を、暖かさを、愛撫の手順を忘れるために牽櫂に身を任せたというのに、羽依の中から佳羅の姿が消えない。羽依はどれほど佳羅を愛していたのか思い知らされる。
 そんな羽依を、佳羅と楊樹は見ていられない。楊樹は羽依を救うように佳羅を説得する。佳羅は羽依を救えないと告げ、「必ず、変化はある」と言い置き楊樹の前から退いた。


*第四章*佳人炎舞

 政務を放擲して羽依に溺れていた牽櫂は、廷臣の要請により羽依のもとを去る。
 牽櫂に抱かれたあといつも佳羅を求める羽依だが、今回は佳羅を無視し楊樹だけを寝所に入れる。佳羅は羽依の変化に苛立つ。そんな己にも怒りを覚える。
 羽依は情事のときずっと佳羅を意識していたことを楊樹に告げ、この絶望的な恋をどうすればよいのか涙ながらに掻き口説く。楊樹は恋情を抱くのは自由だと前置きしながらも、佳羅に逢うなと釘を刺す。
 以来、羽依は佳羅を避け続ける。佳羅の焦慮も限界に達している。彼の眼差しを受ける度に、羽依は彼に縋りたい欲求に駆られる。が、そうしてしまえば、後戻りできなくなってしまう。陶嬪を殺した己が、佳羅と結ばれるなど罪深いことだ――。羽依は沮喪し、死を願うようになる。
 死を思い立った羽依は、どうしても気に掛かる旺皇后に会いに行く。羽依が牽櫂のものになったのち、皇后は「女の幸せは男に愛されること」と言った。皇后の現況からして、明らかに欺瞞がある。羽依は皇后の真意を確かめたいと思っていた。
 楊樹と佳羅を伴って現れた羽依を、旺皇后は快く迎え入れた。様々にもてなす皇后に、羽依は問いかける。皇后は己の言を「愛されない者の理想論」と説き、「本当の幸せは、愛すること」と認める。牽櫂を愛し、羽依を想った皇后の錯綜したこころに触れ、羽依は己と同じものを感じ、愛とは哀しいものと気づく。
 羽依はこの世の愛は美しいものと胸に刻み、死を覚悟する。最期に佳羅と愛し合いたいと、夜、楊樹の目を盗み佳羅と逢う。羽依は佳羅に己の想いと死の覚悟を告げる。佳羅は憤り羽依を責める。が、その憤りの本質と本懐の乖離に葛藤し、惑乱した佳羅はそのまま羽依を抱いてしまう。前後の境がなくなるほど惑溺し眠り込む佳羅に、羽依は末期の接吻をする。
 朝、覚醒した佳羅は己を叱咤し、楊樹に羽依の内心を話す。楊樹は羽依の落命を止めるため、決死の意志を決める。
 佳羅と楊樹は羽依を説得するため、羽依の閑暇を見極めようとする。が、時悪く、牽櫂が羽依のもとを訪ねてきた。これは羽依の意向で、懐妊した恵夫人の祝い言を述べるために牽櫂を招いたのだった。羽依の言祝ぎに牽櫂は不快な面をし、羽依に子を生めと諭す。
 牽櫂の言にただ微笑む羽依の姿に、席を外した佳羅は愛憎し、焦慮する。その時、陶器の割れる音が、佳羅は牽櫂に殴られ筵に倒れ臥す羽依を認める。
 牽櫂の子を生めば、両親の恨みを買う。もとより両親を殺された謀反人の娘が愛を返すなど、この世においてできない――と羽依は牽櫂に掻き口説く。「死ねばおまえは俺のものになるのか?」という牽櫂の問いに、羽依は頷く。それこそ、羽依の思惑であった。
 牽櫂は己の得物を抜き、羽依の頭上に構える。羽依は安らいだこころで死を待つ。が、羽依の頬に血が降り注ぎ、羽依は瞠目する。楊樹が羽依を庇って斬られたのだ。絶叫する羽依。なおも羽依に斬り掛かろうとする牽櫂目掛け、佳羅は器を投げ付ける。我に帰った牽櫂は、佳羅に怒りを見せながらもその場を去る。羽依と佳羅に思いを言い残し、楊樹は息を引き取る。
 楊樹を亡くした羽依の魂は引き裂かれ、床に臥してしまう。昏睡した羽依を看護し、彼女が目覚めるよう佳羅は様々に働きかける。が、羽依は現世に絶望し、目覚めない。佳羅は無力を噛み締める。
 そんな中、旺皇后が羽依の臥所に見舞に訪れる。付ききりで羽依を見守る佳羅の様子に、皇后は佳羅と羽依の割りない仲に気付く。愛しているのなら羽依を救え、と旺皇后に切り出され、佳羅は暗澹とする。
 長きの間、羽依は眠り続ける。沈みがちになる己のこころに、佳羅は苛立つ。
 そんな彼らのもとに、懐妊して勝ち誇っている恵夫人がこれ見よがしにやってくる。恵夫人は、牽櫂が佳羅と羽依の親密さに憤りを抱いていると告げ、己の舞姫と佳羅を争わせ、もし敗れれば佳羅と羽依を引き離すと言い渡す。
 八方塞がりになり、夜、佳羅は眠る羽依に深い哀しみを込め「わたしがおまえを殺してやろうか?」と問いかける。すると、羽依はゆっくりと目を開け、涙を流す。数度瞼をしばたかせると、羽依はまたも眠りにつく。羽依が己の手による死を望んでいると感じ、佳羅は覚悟を決めた。

 佳羅と恵夫人の舞姫が競う宴に、目覚めた羽依がいた。佳羅の問い掛け以来、緩やかに羽依は覚醒に向かっていった。皇帝・牽櫂と旺皇后、恵夫人、牽櫂の子供達、妃嬪等、そして羽依が席に着く。
 恵夫人の舞姫の腕前は、佳羅にはまったく及ばない。気まずい空気のなか、鋭い音とともに双剣を揮う佳羅が跳躍する。
 髪を総髪に下し、深衣に袴を纏う。意識して男の身形をする佳羅は激しい剣舞を舞っていた。佳羅の舞の素晴らしさに、羽依のこころは次第に生彩を取り戻していく。
 が、突然けたたましく音が止み、楽士や妃嬪たちが突っ伏する。牽櫂と旺皇后、恵夫人と羽依は目覚めたまま、異様な成り行きに驚惑する。伶俐な様の佳羅が牽櫂に向けて刃を振り下ろす。
 済んでのところで避けた牽櫂に、佳羅は己が南遼の第二王子・暉玲琳だと告げる。玲琳王子は南遼滅亡の折りに牽櫂が自ら首を刎ねていた。信じられないでいる牽櫂に佳羅――玲琳は平らかな胸を露にし、南遼の紋入りの鉄の札を突き付ける。南遼の紋入りの札は、確かに死んだ玲琳王子の胸に飾られていた。それが、目の前の男の手にある。正しく、燐佳羅は暉玲琳王子だったのだ。
 羽依は事実を知り、佳羅――玲琳の意図を知る。許婚だった玲琳王子は、南遼を滅ぼす元兇となった羽依を弄び、ずたずたにすることによって、復讐したのだ――。
 玲琳は牽櫂の子と恵夫人は手早く斬る。羽依は玲琳を止めるため、絶叫する。羽依のただならない面に、牽櫂は羽依を問い詰める。羽依は玲琳を愛し、彼を忘れるために牽櫂に抱かれ利用したと告げる。
 牽櫂は怒りにうち震える。哀感を込めて見つめる羽依に、玲琳は言い淀む。そんな玲琳のなかに情を感じ、牽櫂は羽依を片腕に抱え込むと、玲琳に向けて剣を突き出した。
 済んでのところで玲琳は躱す。驚く羽依を後目に、牽櫂は玲琳に向け「羽依に惚れているおまえは、羽依を道連れに俺に殺すことはできぬ!」と叫ぶ。
 無念そうに唸る玲琳。羽依は「躊躇っては駄目! はやくわたくしを殺して!」と決死の絶叫をする。
 羽依の意思を感じ、玲琳は頭上に剣を構える。羽依は至福の想いで目を閉じる。
 が、かたかたと刃が鳴る音がするだけで、剣が振り下ろされる気配はない。羽依は薄く目を開け、凝結する。
 玲琳は刃を構えたまま、涙を流していた。
「おまえを殺すことはできぬ」と剣を下ろす玲琳に、羽依の血が一気に引く。このままでは玲琳が死んでしまう。わたくしがなんとかしなければ――と羽依の心は凍っていく。
 それは、羽依自身信じられないことだった。羽依は自らのかんざしを抜くと、牽櫂の心臓目掛けて突き刺す。牽櫂の身体から大量の血が吹き出、死骸が羽依にのしかかる。我に返った羽依は意識を失う。
 牽櫂の下敷きになった羽依を助け出した玲琳は、帷や簾に火を付ける皇后を見る。安らいだ面持ちで、皇后は玲琳に逃げよ、と諭す。頭を下げると、玲琳は羽依を抱え後宮を脱出した。

 羽依が目覚めたのは、後宮が焼失して数日後だった。玲琳に助けられ、郊外にある農村に身を潜めていた。
 玲琳から旺皇后達の死を聞き、羽依は涙を流す。旺皇后がこれほどまでに牽櫂を愛していたと知り、胸を打たれる。そして、図らずも皇后を殺してしまったことに悲しむ。
 皇帝・牽櫂を殺した今、玲琳が復讐する相手は羽依ただひとり――。羽依は首を伸べて、玲琳に己を殺せと言う。
 が、玲琳は羽依を抱き締め、愛を告げる。羽依を殺す至福よりも、共に生きて煉獄に堕ちると掻き口説く。羽依は歓喜し、愛の波に呑まれる。
 その夜、玲琳と羽依は心身ともに結ばれた。
 寝物語に、玲琳は己の過去を羽依に告白する。どれだけ憎悪しても、愛することを止められなかったと羽依を抱き締める。幸福に浸る羽依の脳裏に、「婚姻する時期を違えれば、結ばれたふたりは互いに滅ぼしあう」という不吉な託宣が過る。不安に、羽依は玲琳に取りすがる。羽依の尋常でない怯えを軽減しようと、玲琳は己の性体験を告白する。復讐のために舞姫となり、男女の境なく身体を交わしたこと、複数人入り乱れて乱交したこと、後宮に入った後も宦官や侍女を篭絡したこと、その延長線上で陶嬪に手を出し、結果陶嬪を死なせてしまったこと――慚愧の念で、玲琳は口にする。瞠目する羽依。思った以上に、玲琳は己の過去に傷付いていた。羽依は「わたくしがあなたをすべて受け止める。地獄に堕ちるなら、ともに」と玲琳のすべてを受け入れる。
 羽依のこころに感じ入った玲琳は、ふたりでともに生きようと硬く決意する。



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