Lealtime to Paradise

孤悲――花の行方






 フリオニールの夢。

 ――のばらの咲く世界を創ること。

 夢を失ったクラウドは、ティナとともにフリオニールののばらの夢を共に見よう、と誓った。
 クラウドとティナが夢に賛同したとき、フリオニールはとても喜んだ。
 が、クラウドはフリオニールののばらを見るたび、自分が違う花も見たいと思っていることに気付いた。






 次元城でフリオニールとふたりきりになったとき、クラウドは呟いた。

「なあ、フリオニール。
 俺、のばらだけじゃなく、白と黄色の百合も見たい」
「白と黄色の百合?」

 頷き、クラウドは遠い目をする。
 白と黄色の百合――花の咲かない場所に、ひっそりと開いた花。
 優しく、それでいて強かった彼女の象徴である花。
 彼女が命を落としたあとも、咲き続けた花。
 彼女の祈りの花。

「おまえがのばらの咲く平和な世界を祈ったように、俺の世界の白と黄色の百合も、光の当たらない場所が光に満たされるようにという祈りから咲いたんだ」
「そうなのか」

 クラウドの告白を、フリオニールは聞き入る。
 彼の世界に咲いていた花……見てみたい、とフリオニールは思う。
 花の夢を語りながらも、クラウドの顔は悲哀に彩られている。

「俺さ、おまえを見て思ったんだ。
 花を愛する人間は、優しく強いんだってな」

 フリオニールは、小さく微笑む。
 クラウドは自分のことを言いながらも、違う人物のことを語っている。
 そこに含まれる哀愁から、クラウドはその人物を何らかの形で失ったのだと感じた。
 何となくそれを分かりつつも、自分を見ながら他人のことを話されるのは、少し淋しい。
 自身の気持ちをおくびにも出さず、フリオニールは同調する。

「祈りってことは、誰かがその花を咲かせたんだろう?」
「あぁ、大事なひとが咲かせた」

 大事なひと――その形容に引っ掛かる。
 普通誰かを大事だという場合、それはそのひとにとって特別な相手だ。
 つまりは、そういうことか?
 フリオニールはじわりと汗が出そうになるのを隠した。

「その白と黄色の百合は、おまえの大事なひとの『願い』なんだな」
「あぁ、彼女の命懸けの『願い』だ」
「そうか……」

 ――彼女……やはり、クラウドの好きなひとだったんだ。
 命懸けってことは、そのひとはこの世にいないのか。

 フリオニールは目を伏せる。
 クラウドも二十歳を越えた男である。愛するものがいたとしても、何らおかしくない。それを思いつきもせず呑気に想っていた自分が馬鹿なのだろう。
 フリオニールは自嘲する。

「彼女は俺の大事な仲間だった。
 星を救うために使命を果たし、そのため殺されたんだ……セフィロスに」

 セフィロス……クラウドの宿敵。ふたりの因縁は、クラウドの大事なひとを殺したことも含まれているのかもしれない。
 クラウドのセフィロスを見る眼には、戦意や闘志、憎悪だけではないものも含まれていた。
 暗い面持ちになっているフリオニールに、クラウドは微笑む。

「でも、いま彼女は先に逝った愛する男と一緒にいるから、幸せかもしれない。
 なんとなく、そう感じるんだ」
「……先に逝った男?」

 ぽかんとしたフリオニールに、クラウドは首肯する。

「俺の親友だった男。
 説明すると長いが、俺はそいつを真似ていたときがあって、彼女は俺を通してそいつを見ていたんだ」
「……そ、そうか……」

 分かるような分からないような話に、フリオニールは混乱する。
 その女性がクラウドを通して他の男を見ていたのは分かった。――でも、クラウドは? クラウド自身の想いは?
 なんだか、もどかしい。聞きたいことは山ほどあるのに、うまく口にできない。
 暫らく、フリオニールは口をもごもごさせていた。

「……おまえは、その女(ひと)のことを、どう思ってたんだ?」

 彼がようやく導きだした言葉は、ひどく陳腐だった。フリオニールは自分の言った内容に固まってしまう。

 ――あああ、失敗した!

 もっといい聞き方や相手を思いやった言葉があっただろう。なのに、なんで直球な聞き方しているんだ。
 不器用な自分が嫌すぎる。

「ご、ごめん、デリカシーゼロだな、俺」

 慌てて謝るフリオニールに、クラウドはクッ、と笑う。
 そのまま声を発てて笑うクラウドに、フリオニールは恥じ入り真っ赤になった。

「……クラウド、そんなに笑うなよ」
「ごめん、ついつい。
 おまえって、面白いな」

 ――面白いって……それはいいのか悪いのか、どっちだろう。

 未だ発笑し続けるクラウドに、フリオニールは困ったように眉を顰める。
 これ以上笑うのは可哀相だと思い、クラウドは目を細めフリオニールに向き直った。

「彼女は俺たちに未来をくれた仲間。だから大事だけど、恋とかそういう思いじゃなかった。
 彼女は親友といるのが相応しい、本当にそう思っている」

 そう言ったクラウドの表情は、晴れ晴れとしていた。

 ――クラウドは、いまは誰も好きじゃないのか。

 自分にもまだ希望があるかもしれない。
 フリオニールは目を輝かせる。

「おまえの思いと彼女の思いは同じ。
 だから、おまえののばらと一緒に、彼女の百合も見たい。
 ふたりの花が咲く世界を創るのが、今の俺の夢だ」
「……そうだな!」

 朗らかに返し歩きだしたフリオニールの肩を、クラウドは軽く叩いた。
 首を傾げるフリオニール。

「俺の世界の仲間も大事だったけれど、こちらの世界の仲間も、俺には大切なんだ。
 だから、俺はおまえと同じ夢を見られるのが嬉しい」

 そして、クラウドは滲むような微笑みを浮かべた。

「クラウド……俺も、おまえの見たい花を咲かせられるよう、頑張るよ!」

 ――そして、その花のような笑みを捕まえたい。

 いつか、きっと――フリオニールは硬く決心し、クラウドと前を向き進みだした。







end







*あとがき*


 恋愛初心者・童貞フリオニールという感じで書いてみました。


 クラウドが語っている白と黄色の百合ですが、伍番街スラムの教会に咲いているエアリスの花のことです。
 「AC」見てると、あの花の形が百合に見えて仕方ないです。


 で、今回もフリオとザックスを絡めませんでした。むしろエアリスと重ねたりして(爆)。


 しかし、ディシディアは軽いノリの小説を、といっていたのに、全然軽くない出来……(;-_-+。
 ま、いいか(笑)。



 

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