Lealtime to Paradise

納得できない!






「……皇帝……」
「…………なんだ」

 過去のカオス神殿にて、時の魔女・アルティミシアはいささか困惑し、皇帝に語り掛けた。

「これ……どうします?」

 アルティミシアが目で指し示すのは、血の海に倒れる長い銀髪の男。
 息をしていない男の傍らには、男の身長より丈長い刀が横たわっている。

「どう……といわれても、な……。
 ここにあっては邪魔でしかない、としかいいようがない」
「……ですね」

 しばらく目を合わせたあと、ふたりはため息を吐いた。






 幾度も繰り返される混沌と調和の神々の戦い。
 神々は駒を使い勝敗を争っていた。
 駒たちの戦いは、あらかた混沌側の勝利に終わり、戦いが済むと駒たちの記憶はリセットされる。
 そして、神々の戦いを重ねること数度――。
 新たなる戦いを前に、混沌の神・カオスの軍勢は過去のカオス神殿に勢揃いし、顔合わせを行った。

「…………」

 ここに、超絶不機嫌な男がひとり。黒皮の戦闘服に包まれた腕を組み、眉間に深い縦皺を刻んでいる。
 カオスの軍勢を鋭い眼光でひと睨みし、男は嘆息を吐いた。
 カオス勢は、何かしら嫌な予感を抱いていた。
 今までの戦いの記憶は、神々の戦いを裏で操る存在・神竜に消されているが、男――英雄・セフィロスに関しては、みな不穏な存在だと感じている。






 それもそのはず、英雄セフィロスは神々の戦いに不真面目な男だった。
 まず、調和の軍勢のなかに、大きな剣を持った金髪つんつん頭の男――兵士・クラウドがいなければ、戦いに参加しようとしない。
 無理に参加させようとすると、セフィロスは屁理屈(駄々ともいう)を捏ねて戦いをボイコットした。
 だまし討ちで戦いに巻き込めば、敵味方関係なく殺す気満々で攻撃してくる。
 兵士がいない場合、英雄が混沌勢に参加していてもいいことがない。空気? として扱っておくのが、無難といえた。
 とはいえ、空気にしては存在感がありすぎるので、どう頑張っても無視などできないのが、なんとも悲しいが……。
 といって、向こう側に兵士・クラウドが存在したとしても、混沌勢にとって英雄・セフィロスは役に立たない。
 セフィロスは平気で混沌と調和の戦いを放り出し、用事もないのにクラウドにちょっかいを出しに行く。それはもう、しつこいくらいに。
 英雄お気に入りの半裸姿でクラウドに絡みにいく後ろ姿は、あまりに変態じみていて、混沌の戦士にも引かれてしまっているくらいだ。
 やたらと攻撃力を持っているのに、それを無駄にしか使わない英雄・セフィロスに、混沌勢はほとほと参っていた。






 そして、今回――。
 セフィロスは座った眼で、一言

「気に入らん」

 と宣った。

「気に入らん、とはどういうことだ?」

 カオス軍のリーダー格で、過去のカオス神殿の主・猛者ガーランドが聞く。
 その勇ましい声に、ぴくり、と肩を揺らし、セフィロスは猛者を睨み付ける。
 ガーランドは困惑していた。前の戦いの記憶は消されており、セフィロスとて白紙状態であるのは変わらないはずだ。
 なのに、この男は何が気に入らない?

「神を目指したこのわたしが、何故その他大勢としてわけの分からぬ神とやらのために戦わねばならん?」

 ん? とカオス勢はみな目を見張る。
 おかしなことを言っているのはいつもどおりだが、言っている内容が妙だ。

「気に入らん、本当に気に入らん」

 まわりの当惑をよそに、セフィロスはぶつぶつ呟いていた。

 ――あ、あの〜〜…、いい加減、戻ってきません?

 と口にしたいが、誰もできない。
 そうだ、今回も兵士はコスモス陣にいるぞ、とガーランドが言う言葉を閃いたとき、セフィロスはバカ長い刀をゆらり、と振りかざす。
 うわっ、危ねぇ! こいつイッちまった! と皆が散り散りになるなか、ガーランドと皇帝、アルティミシアは我慢の子で成り行きを見守っていた。

「納得できん。
 誰かの足元で使われるなど、このわたしのプライドが許さん」

 そういって、セフィロスは白い首筋を愛刀・正宗に寄せる。
 ガーランドが慌てて止めるも間に合わず、セフィロスは自ら頸動脈を掻き斬りこと切れた。



 ――そして、冒頭に至る。






 皇帝とアルティミシアの言に庇う気にもなれず、ガーランドはセフィロスの死体をじっと見ていた。

 ――無駄なことを。
 死んだとて、輪廻の鎖は断ち切れぬ。

 思ったとおり、皇帝とアルティミシアが去ってから数刻後、セフィロスは血溜りのなかからむくり、と起きだした。

「――わたしは?」

 一度神竜のもとに行って記憶を抹消されたらしい。神竜もご苦労なことだ。

「あぁ、戻ってきたな。
 おぬしが中座している間にも、兵士は戦いに馳せ参じているぞ」

 呆れがちなガーランドの言葉に、セフィロスの翠の瞳が精彩を増す。

「……そうか、奴が……。
 奴を倒せるのはわたしだけだ、行ってみなに思い知らさねば……」

 クックックッと嬉しそうに笑い姿を消したセフィロスに、ガーランドは脱力した。



 英雄が去ったあとの過去のカオス神殿には、彼が流した赤い血潮が、虚しげに残されていた。







end







*あとがき*


 えぇと、英雄主体のアホ話です。

 「D.Oクラウド編」序盤に、セフィロスがガーランド(皇帝だっけ?)の目の前で自ら命を断ったというエピソードから書いた話です。

 が、「カオス・レポート7」にあるように、こんなアホな理由で死んではいないと思います(爆)。


 ちょっと変態くさい英雄を書けて、楽しかったです。




紫 蘭


 

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