Lealtime to Paradise
無限回廊 act.2
秩序の女神は苦悩していた。
――終わりなき死闘を楽しむ死神。
己が混沌の戦士にそう揶揄されていることを、女神は知っている。
混沌の神・カオスとの、終わることのない闘い。勝敗はどちらかの戦士が死に絶えたときに決まることになっている。大抵、秩序側が常に敗北している。
が、本当の意味で闘いが終わることはない。神竜の咆哮とともに戦士たちは蘇るのだから。
幾度も無駄に流される血。積み重なる戦士たちの屍。女神は居ながらにこころを痛めていた。
彼ら――秩序と混沌の戦士たちは、神々の闘争のために造られた駒なのだ。違う次元に存在する戦士とその宿敵から人形の型を造り、魂の一部を人形に吹き込む。そうやって戦士たちは誕生した。
女神は本体を別の次元に置き、閉ざされた世界で闘争に明け暮れる戦士たちを見るのが辛い。
――わたしは戦士たちの命が失われるのを望んではいない。
本当の意味で闘いを終わらせたい。
女神は“大いなる意思”から何も知らされていなかった。己がどういう存在なのか、何故無為な闘いが繰り返されているのか。
――またひとつ、秩序の戦士の命が絶えたのを、女神は感じ取る。
女神は溜め息を吐くと精神を集中させ、秘かに通じている混沌の魔人に思念を送り、秩序の聖域に呼び寄せた。
長きに渡り混沌の戦士として闘ってきた魔人なら、己の知らない事実に気付いているかもしれない、その思いから女神は魔人に問うた。
そして秩序の女神は決意する。本当の意味で闘いを終わらせ、戦士たちを解放すると。女神は、混沌の神の剣に貫かれながら、芽生えた決心を忘れぬと誓った。
復活した女神は、蘇ったあとも自らへの誓約を憶えていた。
それは戦士たちの魂に影響を与え、良くも悪くも流れを変転させた。
act.2
12度目の闘争の幕が開け、秩序の聖域に蘇った秩序の戦士が光を発して次々現われる。
戦士たちは聖域を見渡し、共に闘う仲間たちを見る。
それは復活するたび、いつも戦士たちがしていること。だが、今回は様子が違った。
「……あ……っ」
信じられないように兵士・クラウドは目を見開き、唇を戦慄かせた。
「クラウド?」
ウォーリア・オブ・ライトが目を瞠る。他の仲間たちも訝しんでクラウドを見ていた。
「俺、行かなきゃ……。リユニオンしなくちゃ……」
何かに操られるように頼りなく呟くと、クラウドはふらふらと歩きだす。ウォーリア・オブ・ライトは咄嗟にクラウドの腕を捕らえた。
「クラウド、どこへ行く!」
が、強い力でウォーリア・オブ・ライトの腕を振り払い、クラウドは秩序の聖域から出ていく。
「行かなきゃ……呼んでる……」
そう言い残して消えたクラウドに、秩序の戦士たちは立ち尽くした。
秩序の戦士が蘇った気配を肌で感じながら、堕ちた英雄・セフィロスは腕を組みライフストリームの流れを眺めていた。
求めている気配が近づいてくる、星の体内の空気が歪む――現われた宿敵に微笑し、セフィロスはゆっくり振り返る。
そして、瞠目する。
そこにいたのは、確かにクラウドだ。が、何かが違う。いつものような覇気を、まったく感じられない。
「セフィロス、やっと会えました……」
たどたどしい足付きでセフィロスの側に寄りながら、クラウドは涙を浮かべていた。
「俺、黒マテリア渡しました。だからリユニオンしてください」
クラウドの言葉に、セフィロスは今のクラウドの人格が何なのか悟る。
「おまえは、インコンプリート……?」
かつてセフィロスに擬似人格を破壊されてから現われたクラウド――セフィロス・コピー・インコンプリートがそこにいた。
涙を流しながら、クラウドはセフィロスのコートを掴む。
「俺、セフィロスとリユニオンしたかったのに、できなかった……だから、リユニオンしてください」
俯くクラウドの肩を支えると、セフィロスは彼の耳に囁いた。
「おまえとは、リユニオンできない。
おまえは、肉体を持っている」
セフィロスの言葉に、クラウドは目を見開き、大粒の涙を零す。
「そんな、俺……。
俺はあなたの一部なのに……。
俺はあなたに還らなくてはいけないのに……」
首を振ると、セフィロスから離れクラウドはバスターソードを背から引き抜いた。
大剣を自らに突き刺そうとしたクラウドに驚き、セフィロスは彼の手から得物を取り上げる。
掲げ上げられたバスターソードを取り返そうと、クラウドは背伸びして手を延ばした。
「返して……俺の身体、いらない……。
細胞に還って、セフィロスとリユニオンするんだから……」
バスターソードを遠くに放り投げると、セフィロスはクラウドを抱き締める。その存在感は、儚げに過ぎた。
「クラウド……リユニオンしなくていい。
おまえはその身を保ち、おまえのままであり続けるんだ」
ぴくり、とクラウドの身体が動く。
「リユニオンせずに、俺のままで……」
頷くと、セフィロスはクラウドに軽く接吻する。軽くついばみ、無防備な唇に舌を差し込む。
気配が迫ってくる……ふたつ。クラウドに深く口づけながら、セフィロスは正宗を出現させ左手に握り締めた。
「セフィロス、クラウドを放せッ!」
秩序の勇者と盗賊が、背後からセフィロスに斬り掛かってくる。セフィロスは正宗を振って剣筋を飛ばし、ウォーリア・オブ・ライトを弾き返す。
その隙に素早く前方に廻ったジタンが、セフィロスに攻撃してくる。が、セフィロスは身体を捻り短剣を正宗で受け止めた。
「いまだッ、ウォーリア!」
ジタンの叫びに、はっとセフィロスは後ろの勇者を見る。ウォーリア・オブ・ライトは剣を袈裟掛けに振った。
しかし、その刄を肉体に受けたのはセフィロスではなかった。――彼の腕のなかにいたクラウドが、身を乗り出しセフィロスを庇ったのだ。
「クラウドッ?!」
味方を斬り付けてしまったウォーリア・オブ・ライトと、それを見ているしかなかったジタンが叫ぶ。
セフィロスは崩折れたクラウドの身体を抱き留める。出血が酷い、セフィロスは秩序の戦士たちを無視し、クラウドにケアルガを何度も掛けた。
宿敵の怪我を治癒した混沌の戦士を、ウォーリア・オブ・ライトとジタンは信じられないように見る。
「……何をしている、さっさと失せろ」
地を這うようなセフィロスの声にびくりとし、ジタンはウォーリア・オブ・ライトのマントを引っ張った。
「ウォーリア、いったん引こうぜ。いまは俺たちが分が悪い」
固い面持ちで頷くと、ウォーリア・オブ・ライトはジタンを追うかたちで星の体内の足場に移動した。
――クラウドは何故己の宿敵を庇ったのだ?
どうしてセフィロスは、わざわざクラウドを回復したのだ。放っておけば、クラウドの命は絶えたものを……。
星の体内から脱出した光の勇者は、眉間に皺を寄せつつ考え込む。
ジタンは細く息を吐くと、ウォーリア・オブ・ライトの腕を肘で突いた。
「よかったな、ウォーリア。
セフィロスが回復しなければ、あんたがクラウドを殺したことになってたぞ。
味方殺しなんて、気分が良くないからな」
ジタンの言葉に、ウォーリア・オブ・ライトは目を伏せる。
「確かに……自分の仲間を殺したのでは、光の戦士の名が泣くな。
いったん秩序の聖域に戻ろう。作戦の建て直しだ。
……だが、なぜクラウドはセフィロスを庇ったのだ。今度のクラウドは、混沌の側なのか?」
走りながら洩らす光の勇者に、盗賊は足を止める。考え込むジタンに、先を行っていたウォーリア・オブ・ライトも立ち止まった。
「なんか、違うような気がするんだよなぁ……。
クラウドは自分でふらふらとセフィロスのところに行ったけど、邪悪なものは感じなかったよ。
何ていうか、病的っていうか……夢遊病のような感じ?
あれは本当のクラウドじゃないような気がするんだ」
片方の靴先で地面を軽く叩きながら、ジタンは唸る。ウォーリア・オブ・ライトは目を細めた。
――たしかに、先程のクラウドは自我がないような気がした。
だが、その状態でセフィロスのもとにいるのは、危険ではないのか?
星の体内の方向に目を向けるウォーリア・オブ・ライトに、ジタンは肩を竦め足を踏みだす。
「迷ってる暇はないぜ、リーダー。
とにかく、秩序の聖域で待ってるみなに報告したほうがいいんじゃないか?」
彼らしい軽口をたたくジタンに、光の勇者は溜め息を吐くと不安に思いながら待つ仲間のもとに向かった。
回復魔法でクラウドの傷を塞いだセフィロスは、黒皮の手袋を外すと、手刀で手首の血管を切る。
溢れ出てきた大量の血を横たわるクラウドの口に含ませ、セフィロスは息を吐いた。
己の血液に含まれるジェノバ細胞が、クラウドのなかのセフィロス因子を活性化させる。そうすれば、おのずとクラウドはケアルガの効果以上に回復するだろう。
セフィロスは着々と塞がっていく己の手首の傷口に自嘲する。動脈を切っても死なない身体に感謝したい気分だ。
本当はセフィロス自身が傷を負わなくてもクラウドを回復させる手があった。が、それはクラウドの意識がないときにするべきではない。――抱くのなら、クラウドが目覚めているときのほうがいい。
――だが、よりによって、なぜクラウドは最も意志薄弱な人格――セフィロス・コピー・インコンプリートとして蘇ってきたのだ?
セフィロスは僅かに困惑する。
いくら閉ざされた世界とはいえ、ここは命のやりとりをする場だ。精神が虚弱では、真っ先に殺られてしまう。たとえ己にクラウドを害する意志がなくても、他の混沌の戦士が容赦なくクラウドを殺すだろう。
セフィロスが思索のなかにいると、クラウドの瞼が動いた。もうすぐ目覚めると分かり、セフィロスはクラウドを抱き起こす。
睫毛があがり、蒼海の瞳がセフィロスを写した。
「セフィロス……」
真っすぐ見つめてくるセフィロスに、クラウドはボトムを握り締め俯く。
「俺、細胞に還れるかと思ったのに、この身を保ってしまったんですね……。
せっかくリユニオンできると思ったのに……」
弱々しく吐き出すクラウドの肩を、セフィロスは強く抱く。
「言っただろう、おまえはリユニオンできないと。
いや、わたしはおまえとのリユニオンを求めていない。クラウドのままでいるほうがいい」
クラウドはかぶりを振り、セフィロスの腕のなかで身じろぐ。
「……俺、クラウドじゃないです。クラウドはティファさんの幼なじみで、俺はクラウドを真似ていたんです。
俺はあなたのコピー、あなたの肉体の一部です」
顔を背けるクラウドの頤を取り、セフィロスはクラウドを覗き込む。
「何を言う、おまえはクラウド以外の何者でもない」
強いセフィロスの一言に、クラウドは泣きそうになる。
「……でも、セフィロスが俺はクラウドじゃないと言いました。
俺のなかのあなたの細胞が、ティファさんの記憶を読んでクラウドになりきったと。
俺は名前もナンバーもない、失敗作です」
必死で言い募るクラウドに、セフィロスは頭を抱えたくなった。
あのときクラウドをクラウドではないと偽言を弄したのは、クラウドを構成していた擬似人格を破壊するためだったのだ。セフィロスは相手をクラウドと承知で嘘を言っていた。その報いが、まさかここで現われるとは思いもしなかった。
額を押さえ嘆息を吐くセフィロスに、クラウドはびくりとする。怯えた眼差しを向けるクラウドの頭を、セフィロスは胸に引き寄せる。
「……いい、分かったからもう言うな、インコンプリート。
とにかく、細胞の主であるわたしがリユニオンを求めていないのだ。それをおまえは聞き分けられないのか?」
語尾を強めるセフィロスに、クラウドは慌てて首を振る。
セフィロス・コピーとしての人格は、あくまでセフィロスを至上としていた。
だから細胞の主として命令すれば、普段の人格より格段と聞き分けがいい。
こくんと頷いたクラウドに微笑むと、セフィロスはクラウドの唇に唇を重ねる。舌で口内の粘膜を摩擦され、クラウドはもじもじと身体を揺らす。
竜巻の迷宮のときも思ったが、インコンプリートは初めて会った十三歳の人格よりも幼く見える。あのときインコンプリートと接触したのは一瞬だったが、いまこうして近くにいると、まざまざとそう感じさせる。
人格は幼いが、肉体は成人男性のそれだ。美貌と言動のアンバランスぶりがたまらない。
セフィロスはいたいけな少年を優しく愛でるようにクラウドを抱いた。が、身体は成熟しきっているので、セフィロスを昂ぶらせるように淫らに蠢く。
何度かクラウドのなかに情熱を吐き出し、セフィロスは満足気な笑みを洩らした。
が、クラウド――インコンプリートはそうではない。どこか切なそうにセフィロスを見る。
セフィロスがどうした、と尋ねると、クラウドは哀しげに言った。
「セフィロスの細胞が俺のなかに入ると、リユニオンしたい欲求が高まるんです。
なんだか、セフィロスのなかに戻りたくて、餓えていくみたいです……」
我儘を言ったかのように悄気るクラウドに、セフィロスは暫し考え込む。
セフィロス因子――ジェノバ細胞は、取り入れた者の体内で蓄積されていく。セフィロス因子に命じられるままリユニオンを願うクラウドからすれば、セフィロス因子が増えるのは苦しみの種なのだ。
――ならば、違うアプローチで愛し合えばいい。
セフィロスはにっと笑うと、クラウドから身体を離し、己のボトムを脱ぎ捨て片手でクラウド自身を高めながら、指を自身の菊花に埋め込み、解しはじめた。
「んッ……クラ、ウド……。リユニオンではないが……、おまえの、望みを…叶えてやる……ッ。
わたしと、結合…させてやろう……」
十分に後腔を緩めたセフィロスは、クラウドのうえに跨り、繋がるに足る体積になったそれを自身のなかに突き立てた。
細胞の主たるセフィロスの過分な行いに、クラウドは驚愕した。
「そ、そんな……アッ!」
抗議しようとするクラウドに構わず激しく動きだすセフィロスに、クラウドは惑った。
熱く包み込みクラウド自身を抜き差ししながら、クラウドの情熱を体内に招き入れようと絡み付いてくるセフィロスの肉体。その誘惑にクラウドの腰が勝手に弾む。
いつもは抱く側にまわるセフィロスだが、それとは違う愉悦と充足感がある。皇帝との交わりの比ではない。もっと、もっとクラウドの熱が欲しい、クラウドを捕食したい――長い銀糸を揺らしながら、セフィロスはクラウドのうえであられもなく乱れる。
貪欲になるセフィロスの身体に引き摺られるように、クラウドは初めてセフィロスのなかに悦楽を解放する。が、それだけでは満足しないセフィロスに、再び快楽を引き出される。
ふたりは夢中で貪り合った。互いに疲れて意識が飛ぶまで、濃い情交は続いた。
「……あの、セフィロスは、どうして失敗作の俺にやさしくしてくれるんですか?」
互いの身体を清めたあと、疲労のあまり横たわるクラウドが、不思議そうにセフィロスに聞く。
クラウドの頬に掛かる蜂蜜色の髪を指で耳側に撫で付け接吻しながら、セフィロスは笑う。
「……おまえは特別なのだ、インコンプリート。
だから、わたしはおまえを抱きたく思い、抱かれるのを望む」
情熱的な囁きに、クラウドは首を傾げる。
「俺は失敗作なのに、あなたの特別なのですか……?」
困ったような顔をするクラウドに口づけながら、セフィロスは思い出していた。
それはニブルへイムで狂気に取りつかれるまえ、一神羅兵だったクラウドとささやかに幸せな生活を送っていたときだった。
インコンプリートよりも生意気な調子の少年クラウドが、ベッドのなかで戯れているとき遠慮がちに言ったのだ。
『あの、さ。セフィロス。
俺も、一回抱く側を経験してみたいな……』
どうしてだ? と面白がって聞くセフィロスに、クラウドはばつの悪い顔をした。
『そ、その……抱かれてると、抱く側ってどんな感じかな、って思うんだ。
あ、神羅の英雄相手に大それたこと言ってるよな、俺……』
しょんぼりと枕を抱えるクラウドが愛しくなり、セフィロスは構わない、いまから抱いてみろと誘った。が、途端にクラウドは当惑して拒否しだしたのだ。
『や、やっぱりできないっ!
俺みたいなお子さまに、あんたは早すぎるよ!
あんたって、色々刺激強すぎるっ!』
恥ずかしそうにがばっと寝具を引き被ったクラウドがたまらなく可愛くなり、セフィロスはクラウドを愛撫しながら、彼の耳に囁いた。
『そうだな……もう少し大人になってから、改めてオレに挑んでこい。
その時まで、楽しみに待っている』
結局その日が来ることはなかったが、ひょんなことから叶ってしまった。残念なことに、それを望んだクラウドの本来の人格が為したことではないが。
――七年前の約束を叶えることができたぞ、クラウド。本来のおまえでないのが残念だが……。
本来の人格のクラウドは、セフィロスが正気の部分を持っていることを知らない。――敵対するかぎり、教えられる日はこないかもしれない。
ならば、今回のことはある意味奇跡だったかもしれない。微かにセフィロスは微笑んだ。
セフィロスに従順なクラウドとの関係は、狂う前の愛し合っていた頃と錯覚させる。偽りだが、セフィロスは確かに幸福感に浸っていた。
が、秩序と混沌が争う世界で、敵対するもの同士の恋が叶うわけなかった。秩序の戦士たちはクラウドを取り返す作戦を練っていたのだから。
そして、女神の決意が世界を覆そうとしていたのだから。
そうとも知らず、セフィロスはクラウドを腕に抱いていた。
「今回の兵士の人格は、何とも幼気だな。闘う者とは思えぬ。
まさに、不確かな世界に相応しい存在だ」
星の体内に姿を現した皇帝が、セフィロスの胸にもたれ眠るクラウドを眺め、皮肉を含め告げる。
セフィロスは皇帝の目からクラウドを庇うように腕のなかに隠すと、遠慮のない男を睨む。
ふんと笑い、皇帝は傲岸にふたりを見下ろす。
「いまの兵士はまさしくおまえの人形。
先の少女は混沌側にあり、道化の破壊兵器だったが、今回の兵士は秩序の側にありながら、おまえの性愛を満足させる愛玩人形だ。
そんな兵士を、秩序の戦士たちはどう思っているだろうな」
皇帝の言葉を聞きながら、セフィロスは遠い目でライフストリームを眺める。
クラウドがここに現われた直後に、秩序の勇者と盗賊がクラウドを助けに来た。が、勇者がクラウドを負傷させてから、取り戻しに来る気配はない。
――秩序の戦士たちが仲間であるクラウドを見放すとは思えない。必ず助けに来るだろう。
セフィロスはクラウドの腕を強く掴む。腕のなかの存在を奪われたくない。セフィロスは眦を吊り上げる。
そんなセフィロスを呆れとともに見ながら、皇帝は目をすがめた。
「……いい加減、駒として闘わされるのもうんざりする。
そろそろ神々の箱庭から抜け出したいものだな。
そう思わんか? セフィロス」
ちらりと皇帝に目線を向けながら、セフィロスは溜め息を吐く。
支配者たる皇帝は、神とはいえカオスにへつらうのを嫌う。それが皇帝の性なのだから、仕方がないのだろう。だがセフィロスは違う。
「……皇帝、愚かな男の話をしてやろうか? つまらん話だがな」
何? と聞き返してくる皇帝に、セフィロスは微妙な笑みを浮かべる。
普段積極的に話さぬ男が、自ら何かを語ろうとしている。皇帝は訝しんだ。
「……余興になるものなら、聞いてやってもよい」
皇帝らしい催促に、セフィロスは目を細め、静かな寝息を起てているクラウドを見る。
「男は己の立場と強さに疑いを抱いていなかった。
まわりの者の己の扱いに苦痛や不満を抱くこともあったが、不自然なことをされている自覚はなかった。――男は己が孤独であることにも気付いていなかったのだ。
そんな男がある少年に出会い恋に落ちた。少年と想いを通じあわせ、はじめて幸せを実感することができた。
だが男は、ひとによって造られた存在だったのだ。モンスターとひととのキメラ、それが男の正体だった。
真実を知った男は狂い、人間を憎んだ。正気をなくした男は、愛した者の大切なものを壊すのも躊躇わなかった。
そして、男は愛する者の手に掛かって死んだのだ」
セフィロスの独白を、ライフストリームの碧を見ながら、皇帝は何も言わず聞いている。
「死してなお、男は愛する者への恋慕を諦めることができなかった。男は何とかして魂だけでも生き残る道を模索した。
それが、愛する者を自身の一部として己の魂を生者の世界に繋ぎ止めることだった。
そんな男だから、どんな形でも肉体を持って愛する者と同じ場所にいられるのなら、それで構わないと思ってしまうのだ。
……浅ましいだろう?」
秘かに込められた自嘲の響きに、皇帝は細く息を吐く。
「……永遠の甦りを繰り返す閉じられた世界で、愛する者を殺し続ける運命にあっても、男はそこにあるのを望むか?」
皇帝の問いに、セフィロスは目を伏せる。
「……あぁ、愛する者が蘇るのを信じ、男は愛する者を手に掛ける。
それしか、男には道がないのだ」
深々と嘆息すると、皇帝は大きく首を振った。
「まったく、愛とは難儀なものだな。
ただ肉体の快楽を追うだけなら楽なものを、こころを求めればいらぬ苦を背負うことになる。
わたしは愛などごめんだ。煩わしくてかなわん」
皇帝らしいスタンスに、セフィロスは唇を笑ませる。
「おまえらしい意見だな。数多の相手に仮初めの快楽を求めるのも、悪くはないだろう」
永きにわたる闘争のなか、クラウドを失い蘇りを待つあいだ、セフィロスは皇帝と肉体関係を持っていた。
クラウドを想い自ら慰めていたところ不意を突かれて襲われたのだが、皇帝の与える快楽がセフィロスの思考を飽和させ、クラウドのいない悲しみと寂しさを和らげた。
以来、セフィロスは熱情を処理しているときに皇帝が現われれば、彼の好きなように抱かせていた。
好色な皇帝は相手の身体しか求めない。セフィロスが生きていた頃肉体関係を結んだ相手たちに比べれば、セフィロスのこころに執着がない分、皇帝はいくらかましな相手だった。
この世界で皇帝はセフィロス以外にも肉体関係を持っている相手がいる。彼の宿敵である秩序の義士を手慰みものにし、時の魔女と濃い関係を結んでいる。好奇心旺盛なのか悪食なのか、煩い道化にも手を出したと噂されている。
そして皇帝は最近混沌の戦士となった美しい死神を愛人にし、専ら夜を過ごしている。
ある意味皇帝は閉じられた世界で、専制君主としてのハーレムを築いているといえた。
セフィロスはフッと笑い、クラウドを抱えなおす。
「だが、なぜ閉じられた世界で神々が闘い、他世界の存在の断片である我々が駒となっているのか、その理由が知りたい。
わたしたちは秩序の女神と戦士たちが死に、神竜が時を巻き戻すことで彼らが蘇るのを何度も見ている。
神竜が何を考えそうしているのか、他に誰かが絡んでいるのか、わたしは真実を探ってみたいと思う」
己とクラウドを闘いに巻き込んだ“意思”――それの企みの内容を知る権利が、駒にはあるのではないか。セフィロスはずっとそう考えていた。
皇帝はセフィロスの言葉を一笑にふす。
「瑣末なことだ。闘いを終わらせるのに比べればな」
何かと接する機会の多い皇帝だが、意見があうとは限らない。もとより皇帝を信用しているセフィロスではない。それは皇帝も同様だろうが。
そのとき、セフィロスと皇帝は新たな気配が星の体内に近づいてくるのを感知する。空間が揺れ中空に浮かんで現われたのは、皇帝の愛人である死神・クジャだった。
「マティウス、こんなところで暇潰しかい?
英雄と兵士の逢瀬を邪魔しちゃ、可哀相じゃないか」
高飛車な口調で皇帝の本名を呼んだクジャは、尊大にセフィロスたちを見下ろした。上半身はボレロに大きく胸部のはだけた白いローブ、下半身は大腿部を大胆に露出したうえに、臀部を被うローブとコッドピースだけを着用した奇妙な出で立ちである。
クジャの態度と服装は、自己顕示欲の現われといえた。ふわりと皇帝の傍らに舞い降りると、クジャはセフィロスに見せ付けるように皇帝の首に白い腕を巻き付けた。
目を細め、セフィロスはクジャの意図を悟る。
――大方、皇帝からオレとの仲を聞いたのだろう。オレよりも自分のほうが皇帝を独占していると誇示したいのか……くだらん。
何の色もない眼を向けるセフィロスに、クジャは首を捻る。
「あれ? 君はマティウスの愛人のひとりなんだろう。
僕を見て何も思わないの?」
期待外れなセフィロスの様子に、クジャは肩透かしを食らったように言う。
内心侮蔑を込め皇帝はクジャを見た。
「おまえの目は節穴か。あれには決まった相手がいるだろう。
わたしとの仲は身体だけの関係だ。湿った情など絡んでいない」
「ふぅん……」
皇帝に寄り添ったまま、クジャはセフィロスとクラウドをまじまじと見、興味を持ったのか皇帝から離れてふたりに近づいてきた。
「可愛い人形だねぇ。宿敵の腕のなかで無防備に眠るなんて、たいした度胸だ。
それとも、状況を理解できるほどの知性がないのかな?」
言いつつクラウドの頬に触れようとしたクジャの手を、セフィロスは打擲して素早く払う。
手を打たれたクジャは、冷徹な魔晄の眼で睨むセフィロスにふふんと笑う。
「ふぅん、この僕に無礼を働くんだ。君は僕を甘く見すぎなんじゃない?」
「……目障りだ、消えろ。劣等感の固まりめ」
セフィロスの容赦ない一言に、クジャは目を見開く。
「何だって?」
「聞こえなかったか、消えろと言っている。
ついでに皇帝も連れていけ。おまえたちのつまらん自己満足に付き合う義理はない」
そう言うと、セフィロスは見えない速さで正宗を振るい、クジャの首筋に刄を突き付けた。セフィロスの動きを見切れなかったクジャは、冷や汗が出るのを感じた。
皇帝は皮肉な笑みを浮かべクジャに告げる。
「勝負あったようだな。
新参者が、堕ちた英雄の実力を知らなんだか」
クジャは皇帝を振り返り、感情的に非難した。
「新参者? この僕の実力を認めてくれたのは君だろう!
新入りだからってなめてほしくないね!」
癇癪を起こすクジャに対し、皇帝は悠然としたままだ。口八丁手八丁の男のことだ、大方巧みな話術と性技でこころの弱い美々しい鳥を打ち落とし、性の捌け口として弄んでいるのだろう。セフィロスは騒々しさに溜め息を吐いた。
と、眠っていたクラウドが小さく呻く。場の喧騒に目が覚めかけているのだろう。昨日に散々クラウドと愛欲の限りを尽くしていたので、セフィロスは疲れているクラウドをもう少し眠らせてやりたかった。
再び正宗を振るおうとしたとき、クラウドがセフィロスの腕を掴んだ。
「……来る」
クラウドの呟きに、セフィロスは眉を寄せる。
が、迫ってくる混沌ではない気配に、セフィロスは身構えた。
「クラウドっ、迎えに来たぞ!」
現われたのは、秩序の義士・フリオニールと、盗賊の異名を持つジタンだった。
自分達の宿敵の登場に、皇帝とクジャは争うのをやめ、戦闘モードに入る。
「おやジタン、君が兵士を出迎えに来たのかい?
丁度いいよ、君を倒せば、僕のすごさを認めてもらえる」
芝居がかった物言いで自分に酔ったように振る舞うクジャに、ジタンは呆れながら短剣を構える。
「っとに、なんでそんなに自分の強さに拘るのかねぇ。
とにかく、邪魔だから退いてもらうぜ、クジャ!」
ジタンは素早い動きでクジャに短剣を振るい、蹴りを入れていく。
皇帝は金の杖を揺らし、反逆者フリオニールを傲然と見た。
「フリオニール、跪きわたしを崇めよ。
ならばおまえの所業を許してやる」
が、フリオニールは皇帝を無視してクラウドのもとに突っ込んでいった。
「クラウドっ、いま助けるからな!」
「なッ、このわたしを無視するか、下僕の分際でッ!」
フリオニールの視界の片隅にも入れてもらえなかった皇帝は、どんな建築物より高いプライドを容赦なく傷つけられた。
激怒しながら皇帝は走るフリオニールの足元に機雷を投げ、杖で地面に魔法陣を描く。トラップに躓いているフリオニールのもとに飛んだ魔法陣は彼を捕らえ、身動きできなくする。
「虫けらの分際でわたしに逆らうからこうなるのだ、フリオニールよ。
おまえは身体で立場を教えねば分からぬようだな……」
妖しい笑い声を発てタイツのうえからフリオニールの太股を撫でる皇帝に、ジタンとクジャは思わず動きを止めてしまう。
「うっわ〜〜…皇帝サン、マジ切れしてるよ。
ひとの目があるのに、フリオに公開セクハラかよ……」
洒落にもならない現状に、唖然と呟くジタン。クジャは身体をふるふる震わせている。ジタンはクジャの様子を見て目を丸くする。
「……なに、おまえ。皇帝が好きなわけ?」
とぼけたジタンの言い様に、クジャは涙目で魔法の弾をぶつけてきた。慌ててジタンは避ける。
「うわっ、とおっ!」
「うるさいッ、元はといえば君のせいなんだ、ジタンッ――!」
「ええっ!? 俺のせい!?」
クジャは己より最強の存在としてあとから誕生したジタンに嫉妬し、劣等感を抱いていた。なので、嘘でも誉め言葉に弱いのだ。
感情の高まりのあまり、上級魔法アルテマまで使ってくるクジャに、ジタンは防御や回避しながら逃げ惑っていた。
混乱した状況に紛れ、セフィロスはクラウドを抱え違う場所に移動しようとする。が、凄まじい速さで向かってくる光に、セフィロスは飛び上がって回避し、クラウドを足場に降ろして正宗で気配を弾く。
ステージに着地した瞬間、セフィロスは斬り掛かられる。ガードして相手を見れば、光の勇者――ウォーリア・オブ・ライトがいた。
「クラウドを返してもらうぞ、セフィロス!」
すぐさま、ウォーリア・オブ・ライトは盾でセフィロスを殴ろうとする。セフィロスが後方に退いた瞬間、光の勇者は剣に溜めていた光をセフィロスに向け放った。
「セフィロスッ!」
光がセフィロスに直撃したのを見たクラウドは、思わずセフィロスに駆け寄ろうとする。が、誰かに手首を捕まれ引き寄せられた。
振り向いた先にいたのは、白く輝く騎士――セシルだった。
「クラウド、逃げるよ!」
セシルはクラウドの腰を抱え星の体内から連れ去ろうとする。が、クラウドは暴れて拒んだ。
「放してくださいッ、セフィロスがッ!」
「君はコスモスの戦士だろうッ!? セフィロスは敵なんだ、甘んじて側にいちゃいけない!」
叫びながら、セシルは上段の足場に飛び移る。
クラウドの悲痛な叫びを聞いたセフィロスは、思わずクラウドの声がした方を見た。それが、油断だった。
ウォーリア・オブ・ライトが投げ付けた盾で強かに打ち付けられ、直後に剣で斬り刻まれる。容赦ない勇者の攻撃に、セフィロスはステージに叩きつけられた。
「セフィロスッ――!」
セシルによって運ばれていたクラウドが、必死の形相でセフィロスに手を延ばした。
――その時、空気に異様な振動が走り、コスモスの悲鳴が空に轟いた。
「コスモスッ?!」
秩序と混沌の戦士はぴたりと動きを止める。
ウォーリア・オブ・ライトはよろめき、膝を突いて何かを感じている。
否、彼は見ていた、脳裏に送られてきた不吉な情景を――。
ウォーリア・オブ・ライトの異常に、セシルはクラウドを抱えステージに降りてくる。フリオニールとジタンがセシルの両脇を固めた。
「コ、コスモスが、単身混沌の果てに乗り込み、カオスに闘いを挑んでいる……。
カオスが、コスモスの胸を自らの手で抉り、心臓を……。
あッ!」
コスモスの身に起こっていたことを震える声で説明したウォーリア・オブ・ライトは、そのまま倒れこんだ。
倒れたのはウォーリア・オブ・ライトだけではない。秩序の戦士たちが、苦悶の声をあげ次々昏倒してゆく。もちろん、クラウドも。
「どういうことだ……何が起きたのだ……?」
呆然と呟く皇帝に、意味が分からないクジャが聞いてくる。
「何? 何なの?」
クジャの問いに答えたのは、セフィロスだった。
「いつもは、秩序の戦士が死に絶えることによってコスモスの力が弱体化し、それによってコスモスはカオスに倒されていた。
だが、今回は秩序の戦士が死ぬより先に、コスモスが死んだ……。
こんなことは、今までなかった。初めての事態だ」
吶々と話すセフィロスに、皇帝が頷く。
混沌の戦士たちの視線の先にいた秩序の戦士たちの亡骸が、突如として消える。いつもは光を放ちながら空に掻き消えていたが、今回はそれも違う。
静まり返る星の体内が、不気味さを誘っている。
いつもなら、秩序の女神と戦士たちが死ねば、神竜の咆哮とともに時が巻き戻っていった。が、今回はそれもない。――まったくの異常ずくめだ。
「……過去のカオス神殿に行くか。みな異変に気付き集まっているかもしれない」
皇帝はそう言い歩きだすが、微動だにしないセフィロスに眉を顰める。
「……おまえは来ないか。好きにすればいい」
そう言い置いて消えた皇帝に続き、クジャも星の体内から去る。
セフィロスはクラウドが倒れた場所を凝視していた。
今までは、必ず復活すると知っていたから、安心してクラウドを殺せた。が、今回は異常事態だ。果たしてクラウドが復活するか――分からない。
神々の遊び場に閉じ込められることを許していたのは、クラウドがいたからだ。ここにいれば、クラウドに会える。クラウドを無理矢理抱くこともできる。だから、ここにいてもいいと思っていた。
だが、これからは? クラウドが居なくなるかもしれないここに居る意味は?
不意に神竜の咆哮が聞こえる。が、その声はいつもの高らかなそれとは違う。妙なうねりを含んだ音だ。
地鳴りが響き、ライフストリームが逆向きに渦巻く。――時の巻き戻しが始まっている。
――クラウドが蘇るかどうか、確かめねばならない。この世界の仕組みを見定めねばならない。
セフィロスは正宗を出現させると、首筋にひたと当てる。
誰かの叫びが聞こえる。が、構っている暇はない。時の巻き戻しの波に乗らねば――。
セフィロスは躊躇いなく頸動脈を掻き斬り、美しい銀の髪を血で染めながら星の体内に倒れ臥した。
暗闇のなか、セフィロスはまばゆく輝く神々しい一匹の竜を見ていた。
竜は咆哮を轟かせながら、透明になった秩序の女神と、女神の身体のなかにある複数の結晶体に光を注ぎ込んでいる。が、女神は像をうまく結ばず、光はすべて結晶体に吸い込まれてゆく。
女神は透明な身体のまま瞼を開け、結晶体に吸い込まれた光は人型を形づくりはじめた。
やがて人型が鮮明になってゆく。――秩序の戦士たちだ。そのなかには、クラウドもいる。
秩序の戦士たちは散り散りに飛んでいった。彼らは次なる生を歩むのだろう。
クラウドが蘇った――セフィロスは安堵の息を吐く。
『混沌の英雄・セフィロス……』
突然話し掛けられ、セフィロスは身構える。その声は、コスモスのものだった。
『兵士のあとを追って、あなたも死んでしまったのですね』
何もかも見透かした言葉と慈愛の波動に、セフィロスは居心地が悪くなる。
『あなたは闇とともに光も抱えている。
知っていました、あなたがいつも悔恨のなか兵士の命を断っていたと。
あなたの思いは、わたしに届いていました』
女神の語りは、セフィロスの心象に関わらず続く。
『あなたのこころがどれほどのものか、試練を出しましょう。
これから秩序の戦士たちは苦難に巻き込まれてゆきます。あなたはあなたの思うように兵士を導きなさい。
結果によっては、あなたに幸いを与えましょう。
さぁ、神竜があなたを蘇らせます、戻りなさい――』
女神の最後の言葉とともに、セフィロスは急流に押し戻されるのを感じた。
再び星の体内に降り立ったセフィロスの目の前にいたのは、傲慢不遜な顔をした皇帝だった。
「……わたしの顔に何か付いているか」
凝視してくる皇帝に、セフィロスは腕を組んで問う。
「……いや。過去のカオス神殿で会合を開く。
コスモスが不完全なまま蘇った。戦士たちはクリスタルを拠り所に立っている。
完全なる終焉への第一歩だ。わたしたちも油断できぬぞ」
「……分かった、あとから行く」
セフィロスの返答に、皇帝は星の体内から出る。
静謐に巡るライフストリームを見ながら、セフィロスは微笑んだ。
――セフィロスめ、自害して果てるとは……。
皇帝はセフィロスが死んで蘇るまで逐一見ていた。
一度過去のカオス神殿に向かいかけたが、一度目の闘いで兵士を殺したあと自殺しかけたセフィロスを思い出し、皇帝は急遽星の体内に引き返した。
皇帝はセフィロスが自ら命を断ち、光に包まれ消えるのを目撃した。そしてセフィロスが再度この地に降り立つのを待っていた。
――セフィロスは、自分が自害したことを知らぬようだ。或いは、蘇ったコスモスの戦士のように、記憶が不完全かもしれぬ。
セフィロスは閉じられた世界の仕組みを知りたいと言っていた。果たして、それは叶えられたのだろうか。
――何にしろ、セフィロスはこの世界の移り変りの鍵のひとつだ。奴の動きを見張らねば……。
策謀家の表情で頷き、皇帝は過去のカオス神殿に向かった。
秩序の女神は自身をクリスタルにして断片化し、自らの希望を戦士たちに託した。
戦士たちを閉じられた世界から解放すること――それが女神の願いだった。
そして戦士たちはクリスタルをすべて集め、女神は完全なる死を迎えた。
だが、秩序の女神を失った混沌の神の嘆きは深く、世界は滅亡の一歩を辿る。
――クラウドは自らに迷いながらも、確実に道を進んでいる。
奴には、その先を自ら作る強さと力がある。オレに出来ることは、迷うクラウドを後押しし、奴の強さを信じることだけ。
そしてクラウドがこの世界から抜け出れば、オレもライフストリームのなかで存在していられる。
だからクラウド、おまえは自分で突き進めばいい。
オレはそんなおまえを、いつも見つめている。
――愛している、クラウド。おまえだけを――。
end
*あとがき*
この話は、DDFFにおけるセフィロスとクラウドの設定を話として起こしたもの……つまり、DDFFセフィクラや他キャラ×クラ受話の前置話です。
ステージマップでの会話や、コスモス・カオス両レポートから話を起こしています。
勢いで書いた話ですが、ストーリーモードの裏側や、コスモス・カオスレポートの解釈って、難しいですね;;。
あれが正しい解釈なのか、自分でもよく分からないです。
前編のクラウドの人格はAC後、後編のクラウドの人格はセフィロス・コピー・インコンプリートです。前編後編と区別してみましたが、可愛いですねぇ、インコンプリート。
この子って、受けのテンプレ的性格してますが、あろうことか、この話ではリバっています(汗)。
っていっても、セフィロスが主導権を握り、インコンプリートはマグロでしたが。
その他にも、同じ話のなかで複数CP、それもセフィロスをリバキャラとして扱うか! みたいな(汗)。
いやぁ、わたしってチャレンジャーだと思います(悪い意味でだけど。汗)
そしてこの話の特徴は、カオス側の話だというところです。
まだ書いたことなかった皇帝やクジャなどを出してみました。……クジャは性格違うなぁ、とちと思いましたが(汗)。
なにげに、皇帝は書いていて楽しいキャラだと思いました。
皇帝による百人斬りとか、おもしろいかもしれません(笑)。
紫 蘭
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