Lealtime to Paradise

似たものばかり






 秩序の聖域でのある昼下がり――。
 カオス勢との闘いの小休止に、コスモスの戦士は思い思いに過ごしていた。





 尻尾の生えた小柄な少年が、無口で無愛想なガンブレードの使い手に果敢にしゃべりかけにゆく。
 そのたび彼はけんもほろろに扱われ、がっくりと肩を落としている。

 ――あの仕草、あいつに似ている。

 オニオンナイトの剣の相手をしていたクラウドは、ちらちらと尻尾の少年を盗み見ていた。

「クラウドっ、よそ見しすぎっ!」

 クラウドの隙を突き、ぼんっと爆音を発て、オニオンナイトの手から魔法が放たれる。
 寸でのところで真横に転がり、クラウドはファイガを避けた。

「なぁにしてんだよ、クラウド」
「そうだよクラウド、ぼくは真剣に勝負を申し込んだのに」

 派手な飛沫の音に駆け寄ってきたジタンと、真っ向勝負に水を掛けられ不満な面持ちのオニオンナイトが、座ったままのクラウドを見下ろす。
 ちらりとクラウドを見、目を細めてオニオンナイトは口を開いた。

「ず〜〜っとジタンばかり見てさ、ぼくと勝負してるのに。
 失礼だと思わない?」
「えぇっ?! オレを見てたって?!」

 大げさに仰け反るジタン。

 ――あぁ、こんなところもあいつと同じだ。
 大事な親友・ザックスと。

 またも見入っているクラウドに、オニオンナイトは呆れてため息を吐く。
 いゃぁ〜〜とにやついた声を洩らし、ジタンは尻尾をくねくね振った。

「やだなぁオレ、女の子だけでなく、男にもモテるんだもんなぁ〜〜」
「……いや、そういうつもりで見ていたわけじゃないが」

 やけに嬉しそうなジタンの様子に、クラウドは及び腰になる。
 静かに近寄ってきたスコールはクラウドの心情を察し、シニカルに肩を竦めた。

「あ〜〜っ、みんなこんなところで固まって楽しそうにして!
 何やってるんスか?」

 振り向くと、フリオニールとティーダが近づいてくるのが見える。

「……いや、なにも」
「そんな、照れるなって!
 スキスキ光線を目から出してオレを見てただろ!」

 調子に乗りすぎるジタンに、クラウドは変な方向に風向きが向いていると内心嘆いた。
 が、もうひとりお調子者が加わることにより、さらに収集つきにくくなる。

「えぇっ、クラウドが目からスキスキ光線を?!
 いっつも愛想ナシのクラウドからそんな目向けられるなんて、ジタンやるっスね!」
「だろっ?」

 ――ち、ちょっと待ってくれ、何でそうなるんだ。

 追い詰められつつあるクラウドは、どうにかして逃げ出そうと模索する。
 頼むから、変な誤解だけは勘弁してほしい。
 そんなクラウドの困窮を読んだのは、スコールだった。

「ジタン、言っておくがクラウドは色目でもっておまえを見てなかったぞ。
 おまえを見ているようで、遠い目をしていた」

 的確なスコールの指摘に、クラウドはよくやったと言いたくなった反面、まさかおまえ、ずっと俺を見ていたのか? と疑問符が湧いた。
 スコールのツッコミに、またもやジタンはがくっと肩を落とす。

「なぁ〜〜んだ、がっかりだよ。
 オレって魅力的〜〜って思ったのにぃ……」
「自惚れすぎだ」

 遠慮なく指摘され、ジタンの尻尾はだらりと下がり、力なく揺れた。

 ――いや、本当に、こういうところがザックスとよく似ているんだよな。

 クラウドは昔を懐かしみ、感傷的になるが、もう表情は変えまいとこころに誓う。

「ジタンは調子乗りすぎっス」
「おまえに言われたくないよ」

 にやにや笑うティーダに、膨れっ面でジタンは言う。
 似ているといえば、ティーダの明るさもザックスと似ている。
 そして、明るさではないが、夢を大切にするところは、フリオニールがそっくりだ。

 ――まわりを見れば、ザックスと似たタイプの人間が何人もいる。

 コスモスはザックスのような人間が戦士にふさわしいと思ったのか?


 そう考えると、無性に暗くなってくる。
 自分は場違いだ、とクラウドは思い、違う意味でふぬけた目をしてしまった。





 ――大切な親友を羨むなんて、俺はバカなんだろうな……。

 秩序の聖域にいる数人の戦士たちは、しゃがみこみずぶずぶと自己嫌悪に沈むクラウドに何の声もかけられない。

「なぁ、何でクラウドはあんなにへこんでるんだ?」

 訳が分からず、ジタンは隣にいるスコールに聞く。
 が、スコールから返事はない。
 ジタンはそれ以上問うのを止め、クラウドの様子を窺った。

 ――ジタンやティーダは、クラウドのコンプレックスを刺激する存在なんだろうな。

 スコールはクラウドから似たような空気を感じていたので、彼が何に気落ちしているのか予想できる。
 そんなとき、違う場所でやりたいことをしていた他の戦士たちが帰ってきた。

「……あれ? クラウド、どうしたの?」

 クラウドの側に寄り、柔和な面差しで聞いてくるセシル。その横にはティナとバッツがいた。

「あぁ……たいしたことない。気にするな」

 顔を上げ少しく微笑んだクラウドに、セシルは小首を傾げる。

「そう? ……ならいいけど」

 優しいセシルの笑みに、クラウドは目を緩ませる。
 セシルは何事も控えめで、気持ちを慮ってくれる。今回もわざと深追いせずにいてくれたのだろう。
 ティナも同じだ。オニオンナイトがカオスの者に捕われたとき共闘したが、彼女とは通じあうものを感じた。
 クラウドは頷き、立ち上がろうとする。
 が、いきなり腕を掴まれ、クラウドは引っ張られる。
 見ると、バッツがにこにこ笑っていた。

「クラウド! くしゃくしゃしたときは気晴らしするのが一番さ!
 ほら、クラウドが放つ乱れ斬りの技、真似したいから教えてくれよ!」

 言いながら、バッツは物真似でバスターソードを出す。

「あ、あぁ……」

 バッツの勢いに押され、クラウドは自らもバスターソードを構えた。

「あ〜〜ぁ、ぼくが先にクラウドと手合せしていたのに、バッツにいいところ持ってかれちゃったよ」

 少し拗ねた状態のオニオンナイトに、ティナは花のように笑う。

「そう言わないの。バッツの機転のおかげで、クラウドの気持ちは晴れそうだもの」

 ティナの言葉に、オニオンナイトは細く息を吐く。

「面倒くさいよね、クラウドは。
 ジタンやティーダを眩しそうに見て、自分と引き比べるなんて。
 ジタンはジタン、クラウドはクラウドなのに」
「人はそう単純じゃないこと、あなたは分かってるでしょ? 伝説のオニオンナイトさん」
「……まぁね」

 ふたりの目の前で、クラウドはバッツに対し「超究武神覇斬」を繰り出す。バッツはひとつひとつ見切り、動きを覚えながらガードした。
 オニオンナイトはにっと微笑む。

「ぼく、単純明快な人間より、複雑で面倒な人のほうが好きだよ。
 そのほうが、色々おもしろいしね」

 ティナは苦笑いを浮かべる。
 クラウドもそうだか、彼女も複雑な人種であるのは確かだ。
 セシルも兄・ゴルベーザの存在に救われているが、なかなか簡単な性格をしていない。

 ――クラウド、あなたが不安になることなんて、ないよ。

 ティナはこころのなかで、クラウドにエールを送った。
 そのとき、後ろから甲冑の軋む音が響いてくる。
 見ると、コスモス陣のリーダー、ウォーリア・オブ・ライトがいた。

「さすがに、EXモードのときの技を真似するのは難しいな」

 爽やかな口調で言い、バッツはバスターソードを消す。
 命に関わる技なのでクラウドは加減していたが、バッツは難なく受け流し、かなり近い形で必殺技を真似してみせた。クラウドはにやりと笑う。

「クラウド」

 ウォーリア・オブ・ライトの声に、クラウドは振り返る。

「オニオンナイトとティナから大体のことは聞いた」

 さすがに光の勇者だけあって、容赦なく真っすぐ切り込んでくる。
 クラウドは目を伏せた。

「何を迷う? 君はコスモスに選ばれた戦士。恥じることはあるまい。
 コスモスは他の誰でもなく、戦いに対する迷いも含め君を戦士に選んだんだ。
 君はもっと自分に自信を持てばいい。
 皆、君を認め、必要としているのだから」

 おぉっ、とコスモスの戦士たちからどよめきが漏れる。

 ――眩しいやつだけあって、本当にぶれないな。

 スコールは目を細める。
 光であるがゆえに、闇を見つめた者のこころを知りえているか分からないが、ウォーリア・オブ・ライトの理路整然とした正論には力があった。
 クラウドがまわりを見ると、みな頷いている。

「俺は、ここにいていいんだな」
「いまさらだ」

 口元に笑みを乗せ、ウォーリア・オブ・ライトは返す。

「クラウドっ」

 オニオンナイトに呼ばれて見ると、彼は息を弾ませ走ってきた。

「あのさぁ、クラウドは気にも止めてなかったかもしれないけれど、明るく元気な人よりも、物静かで落ち着いた人のほうが、大人っぽく魅力的に見えるんだよ」

 憂い顔も、悪くないものだよ? とおよそ子供らしくない言葉を吐かれ、思わずクラウドは吹き出した。




「まったく、オニオンナイトのヤツ、いいとこ持っていきやがったな。
 しかも、痛いとこ突くし」
「そうっスよね〜〜」

 ジタンとティーダはぞんざいな口振りで言うが、その表情は明るい。
 クラウドは自分やティーダの明朗快活さを羨むが、こっちだって喉から手が出そうなほどクラウドの大人の色気がほしい。

 ばっかだよなぁ、クラウドは――ジタンとティーダはそういって笑った。







end







*あとがき*


「スキスキ光線」とか、書いていて自分のギャグセンスに「寒っ」と思いました。

 いや、「CCFF7」をプレイして、ザックスの身振り手振りってジタンと似てるな、と思ったんです。

 だから、「CCFF7アルティマニア」にモデルがザックスとあったティーダと、クラウド自身が似ていると称したフリオニールを絡めて話を書こうと思いました。
(そのわりに、フリオ名前だけ……。汗)

 そしたら、なぜかクラウドうじうじ話になってしまって。

 ザックスはクラウドの「こうなりたい人物像」で、憧れであったのに、なんで似た特徴持った人物にコンプレックス抱くかなぁ、と頭を抱えました。


 にしても、この話、たまねぎの出番が多いです。狙ってるんかいな(爆)。


 短編にしては長い話でしたが、楽しんでいただけたら幸いです。




紫 蘭


 

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