Perfect Circle

愛燦――眠れぬ想い





 一緒に居ることの楽しさ。
 相手の気持ちが分からないときの不安。
 気持ちが少し擦れ違ったときに生まれる嫉妬。


 そのどれも、一緒に居られるから、ともにいきてゆけるから、相手が好きだから味わえるもの。


 閉じられた世界にいる自分たちは、星にいる本体の欠片で、いまの幸せはまがい物かもしれないけれど、その感情は、確かに本物なんだ。


 だから、いまあのひとといられることに、素直に感謝できる。






 ある朝、クラウドは三日ぶりにコスモス勢の陣地がある秩序の聖域に戻っていた。
 クラウドは現在セフィロスとともに、星の体内に渦巻くライフストリームのひずみに造られたルームスペースにほぼ居ついている。ふたりが気兼ねなく過ごせるよう、コスモスと彼女の夫であるルフェインのシド――もとは混沌と調和の闘いの官制を行っていた「大いなる意思」がひとの形をとった者――が、かつて彼らが住んでいたミッドガルの居住スペースと、あの頃の衣食住を再現したのだ。
 それだけではない。究極の混沌との決着をつけるため、コスモスとシドは、調和の戦士たちと混沌の戦士たちがゆっくり身体を休めることができるよう、秩序の聖域と過去のカオス神殿を整備し、戦士たち全員が居住できる館を造った。
 セフィロスやクラウドも、それぞれの館に自分の部屋を持っていたが、そこに帰ることなく、星の体内の部屋に住みついている。
 それでも、コスモスの戦士同士の連携を崩さないため、クラウドは一週間の半分を秩序の聖域の館で過ごすことにしていた。
 クラウドが白亜の洋館の扉を開けると、涼やかな金属音が鳴り響いた。来訪者を知らせるため、ドアにベルが備え付けられているのだ。

「クラウド、おっ帰り〜〜」

 出迎えに来たジタンとバッツに、クラウドはただいま、と返す。
 ジタンとバッツは、何かを期待するように目をきらきら輝かせる。吐息し、クラウドは隠し持っていたバッグを背後から出した。

「ほら、これみやげ。
 セフィロスが作ったローストビーフとサンドイッチだ」

 ジタンとバッツは、飛び付くようにバッグを奪い取る。保温容器と紙容器を開けて中身を確認し、ふたりはニシシと笑った。

「でも、あの英雄サンが達者な料理の腕を持ってるなんて、全然思わなかったぜ」

 バッグを抱え持って、早速キッチンに走っていったバッツを目で見送り、ジタンが笑う。クラウドも釣られて微笑んだ。

「あぁ、俺が少年だった頃、あいつは食い盛りの俺のために、色々手の込んだ料理を作ってくれたしな。
 それも、栄養バランスを考え、俺の嫌いなものを分からないように料理に仕込んだり……結構細かいことまでやるよ」

 クラウドの惚気ともとれる懐古に、ジタンは「愛されてるんだねぇ〜〜」と冷やかす。
 意地の悪い笑みを浮かべ、仕返しとばかりにクラウドは切り返す。

「そういうおまえは、クジャとどうなってるんだ?」

 途端に顔を引き攣らせ、廊下を歩きながらジタンはしどろもどろになる。

「あ、あのさぁ、そもそも俺とクジャは、おまえと英雄サンみたいにベッタベタな恋人同士じゃないの。
 元々兄弟みたいなもんだし……相手のいない男同士の、手近に性欲を解消しあう関係みたいなもん?」

 ジタンは言いにくそうに、自分とクジャの関係を分析する。
 クラウドは首を傾げる。

「おまえはそうでも、クジャはそんな感じじゃなさそうだがな。
 おまえとそうなってから、まったく皇帝と寝ていないらしいし」
「マジかよォ……」

 クラウドの内部リークに、ジタンはぐったりとうなだれた。
 カオス陣営におり、一時自分もそのなかに含まれていたセフィロスは、皇帝のハーレムの内情に詳しい。
 一時肉体関係にあったのもあるが、皇帝のように下心なしで自分を評価するセフィロスにクジャは信頼を寄せ、時折星の体内のルームスペースに押し掛けている。
 クジャとセフィロスの関係を聞いたクラウドは内心穏やかでなかったが、クラウドを愛するあまり、精神的にアンバランスになるセフィロスを心配していたというクジャに、クラウドも素直にクジャを認め、彼の来訪を受け入れるようになった。
 そんなクジャから、彼とジタンの悩ましい関係と、皇帝との関係の打ち止めを聞いたのである。

「それはクジャも同じようなものだろう。
 そもそも、恋愛すると気持ちの動きとかどんな感じになるのか、いまいちクジャは分かってないらしいし。
 だから俺たちのところに押し掛けてきて、恋愛するってどんな感じ? とか聞きにくるんだ」

 クラウドの言葉に、ジタンは首を捻る。

「でもあいつ、皇帝とデキてたんだろ?」

 クラウドはシニカルに笑う。

「それは、ただの依存だ。
 皇帝は綺麗な者なら、どんな者でも喰いたがる色好みだからな。
 クジャの『ジタンより劣っている』というコンプレックスにつけこみ、甘い言葉で足らしこんだのさ。
 その分、コンプレックスの対象であるおまえに、真正面から自分の価値を認められ、クジャは皇帝の下心が分かったんだろう」

 クジャの内面を代弁したクラウドに、ジタンは眉を寄せ口を尖らせる。

「でも、だからって好きになるとは限らないだろ? だいたい恋愛がどんなものか、分かってないんだし。
 恋愛がどういうものか分からないなら、俺が一から十までとっくり教えてやるよ」

 握りこぶしで言い切るジタンに、クラウドは苦笑いする。

 ――そうすることによって、却って墓穴を掘ることにならなければいいがな。

 ジタンはティナやカオス陣営の大人の女性達、はてはあの淑女までデートに誘うほど、根っからの女好きだ。元の世界には本気で好きになった女性がいるという。
 そんなジタンだから、男ばかりのむさ苦しい世界で発散する方法に困り、それを見兼ねたクジャに誘導されそうなっただけなのだろう――あくまで、建前は。
 クジャの言によれば、ふたりの仲は最後までいっていないらしい。ただし、クジャが言っている内容は非常に曖昧で、どこまで踏み込んだ前戯をしているかまでは分からない。
 が、性的なことをしようとするからには、クジャのなかに何かが芽生えているはずだ。たとえ無自覚でも。
 そんな状態で、ジタン自身が恋愛の何たるかを力説して、クジャが目覚めてしまったら……おそらく、ジタンは狼狽え、混乱するに違いない。ジタンは自分の世界に恋する女性がおり、その上ノンケだと思い込んでいるので、クジャを否定し、関係を止めかねない。

 ――そうなったら、とばっちりがこっちに来るかもなぁ……。

 それなりに交流があるので、セフィロスとともにクジャの八つ当りの対象になるだろう。クラウドは気が重かった。
 コスモスの戦士全員が寛げる広さのあるリビングに入ると、クラウドは首を振り、気持ちを切り替えてジタンに向き直る。

「クジャが皇帝の相手をしてないなら、いま皇帝のハーレムを構成しているのは、あの魔女とフリオニールか?」

 クラウドの問いに、ソファに座ったジタンが首を竦める。

「あー、あのナイスバディな魔女サンのところに、何夜もスコールがしけこんでる」
「スコールが?」

 驚くクラウドに、ジタンは頷く。
 顎に手を添え、クラウドは考え込む。

「……まさか、魔女の操りや誘惑の魔法に掛かって、スコールがおかしくなったんじゃ……」
「あー、それはないと思う。
 魔女サンの館から帰ってきたスコール、すごくすっきりした顔してるし、受け答えもまともだから。
 魔女サンのエッチな身体のことでからかったら、真っ赤な顔して照れるし、怒るんだぜ?」

 スコールと仲の良いジタンからの情報に、クラウドは唸ってしまう。

 ――あの無口で堅物な男が、成熟した女と……? 遊ばれてるのか?

 まぁ、男と女のことで、遊びもくそもない。否、男女に限らず、恋愛は一種の戦いだ。押しては引いてを繰り返していくうちに、深みに填まってしまう。
 結局、これはスコールの問題なので、クラウドが口を挟むのは野暮だ。
 が、それはそれで違う問題がある。

「じゃあ、いま皇帝の相手をしているのは、フリオニールだけなのか。
 あいつだけで納得する皇帝じゃないし……まずいな」

 クラウドが頭を抱えたとき、バッツが皿に盛られたローストビーフとサンドイッチを盆に乗せてダイニングに入ってきた。その後ろには、サラダボールとコーヒーサーバーを持ったティーダが付いてくる。

「ちょっと待ってて、すぐ人数分の食器とデザートを持ってくるっス。
 クラウド、英雄サンにありがとう、って言っといてくれよな」

 にこやかにそれだけ言うと、ティーダとバッツは足りないものを取りにキッチンに戻る。
 代わりに入ってきたのは、セシルだ。

「わぁ、セフィロスは今日も美味しそうなものを作ってくれたんだね」

 セフィロスが作った料理二品と、バッツとティーダが作ったシーザーサラダを覗き込み、セシルが微笑む。
 微笑み返すと、クラウドはセシルにも相談を持ちかけた。
 皇帝に関することは、セシルにとっても悩みの種のひとつだった。

「そうだよねぇ……昨晩、皇帝のところからフリオニールが帰ってきたんだけど、ふらふらで、いまも部屋で寝てる」

 困り顔のセシルに、クラウドやジタンも眉を顰めた。

「フリオニールも、そういう目に遭うと分かってるなら、皇帝のとこに行かなければいいのに、何で辞めないんだろうな。
 ウォーリアは、フリオニールに何も言わないのか?」

 深い嘆息とともにクラウドが告げたとき、ピリリとした声がダイニングに響く。

「わたしは何度もフリオニールを止めたぞ。
 だが、このままやられっぱなしでは悔しいと、フリオニールが言い張って聞かないのだ」

 振り向いた先にいたウォーリア・オブ・ライトに、クラウドたちは固まってしまう。
 三人の様子に溜め息を吐くと、ウォーリア・オブ・ライトは女子供に聞かせられない話が終わるまで、ティナとオニオンナイトを別室に留め置くと言い、ダイニングから出ていった。

「……確かに、性格的にウォーリアが止めないわけないよな」

 ばつが悪そうに呟くジタンに、クラウドとセシルが何度も頷く。

「でも、フリオニールひとりに皇帝を任せておくわけにはいかないし、かといって僕たちが皇帝に狙われるのもイヤだし……」

 柳眉を寄せるセシルに、クラウドは心底嫌そうに言葉を吐き出す。

「俺たちはいいさ。俺はセフィロスが加勢してくれるし、セシルやジタンは、ゴルベーザとクジャが護りに来るだろう? ウォーリアやオニオンナイト、バッツを除いて、みんなそうだ。
 でも、俺のところの場合、セフィロスも標的なんだ。どうもセフィロスの身体を皇帝が気に入ってるらしくてな」

 クラウドの吐き出しに、セシルとジタンがじっと彼を見る。

「……なんだ?」

 ふたりの凝視におののくクラウドに、ジタンが困惑したように言った。

「……いや、そんな状況で、悠長に寛いでていいのか?
 いまごろ、英雄サンのもとに皇帝が行ってるかもしれないだろ?」

 ジタンの不安そうな表情に、クラウドははっとして立ち上がる――確かに、自分がいない今が、皇帝にとって好機だ。
 慌ててダイニングを走り去ったクラウドに、セシルとジタンはやれやれと目を見合わせた。






 クラウドが星の体内に行くと、案の定皇帝が煩わしそうなセフィロスの背後にまとわりついていた。

 ――俺が居ない隙を狙って来るなんて!

 ブロックに隠れて、クラウドはイライラとセフィロスと皇帝のやり取りを見つめている。
 クラウドが居ないからか、皇帝は大胆な行動をとっている――大きく開いたロングコートの前身頃の合わせを横に引き、セフィロスの胸の頂きの実を指で摘んでいた。

 ――俺のセフィロスに、なんてことするんだ!
 俺だけが、俺だけが弄んでいい箇所なのに!

 セフィロスの肉体はクラウドのものだし、クラウドの肉体はセフィロスのものだ。それはお互いに認めあった約束である。
 クラウドの怒りに気付かず、皇帝はさらに妖しい行動に出だす。彼は皮のボトムの上から、セフィロスの股間をゆったりなぞっていた。
 クラウドは怒りの高まりから、ふたりの前に飛び出そうとする。が、皇帝の興の失せた声に、動きだしかけた足を止めた。

「……なんだ、やはり反応なしか。
 おまえは兵士のことを思わんと、まったく使い物にならんな」

 じろりと、セフィロスは後ろにいる皇帝を冷たい眼で睨む。

「何を当たり前のことを言っている。
 クラウドと引き離されていた以前ならともかく、ほとんど奴と生活をともにしているいま、おまえなどに快楽を覚えるわけなかろう」

 セフィロスと皇帝の問答を、クラウドは少しく意外な思いで聞いていた。
 確かに神羅時代から、セフィロスはクラウドを除き、誰かに肉体を愛撫されても、性感を感じにくい体質をしていた。
 が、クラウドの前では、わずかな刺激でも甘く官能的な声を漏らすセフィロスである。だから、クラウドは彼が不感症だと信じがたかったのだ。

 ――俺以外には不感症って……本当だったんだ。

 疑っていた事実が明らかになりかけ、クラウドはもう少し事態を確認しようと、ふたりの様子を観察することにした。

 セフィロスのつれない態度に諦めた素振りもなく、皇帝はコートの後ろから腕を潜らせ、ぴたりと身体に添う黒皮の布地に被われた双臀の狭間を指で抉った。

「なに、前の刺激では無理でも、なかにある良い場所を苛まれれば、不感症のおまえでも啼き狂うだろう」

 執拗な指先が布ごしに菊花を弄る。セフィロスは呆れたように嘆息を吐いた。

「おまえでは、役不足だ。
 おまえの持ち物は、奴のモノより貧弱だからな。
 性的な意味でも、わたしを狂わせることができるのは、クラウドだけらしい」

 さらっと相手を壊滅させることを言ってのけ、セフィロスはショックのあまり真っ白になっている皇帝を嘲笑う。
 しかし、セフィロスの一言は、クラウドにとっても大打撃だった。耳まで真っ赤になったクラウドはダッシュでセフィロスの前に飛び出し、彼の秀麗な顔面を拳で殴ろうとした。

「出てくるのが遅い」

 表情を変えずに言いつつ、顔すれすれのところで、セフィロスはクラウドの拳を掌で受け止める。

「オレの窮地を隠れて見ているなど、おまえいつからそんなに悪趣味になったんだ」

 しれっと宣う元英雄に、噛み付くようにクラウドは怒鳴った。

「な、な、何恥ずかしいこと言ってんだッ!
 あんた、男のナニを比べるなんて……下品すぎるぞ!」

 激昂しているクラウドは、セフィロスと同じくらい恥ずかしいことを言っている意識に欠けている。
 クスリと笑い、セフィロスは恥ずかしさと居たたまれなさに震えるクラウドを抱き締める。

「しばらく前からそこにいたのに、全然出てこようとしないからだ。
 ならば、おびき出さねば仕方がないだろう。
 ついでに、目障りな奴を潰すこともできるしな」

 暴れるクラウドをがっちり腕に閉じ込めながら、セフィロスは冷え冷えした目線で、膝を突いている皇帝を眺める――これで、皇帝もしばらく手出しはしてこないだろう。
 フッと笑うと、セフィロスはクラウドを小脇に抱え、皇帝を放置してライフストリームに隠れている家に帰った。






 寝室に入った途端、セフィロスはクラウドをキングサイズのベッドに放り投げた。
 スプリングに強かに身体を打ち付けたクラウドは、息を詰める。が、すぐさまセフィロスがのしかかり、クラウドのニットのジッパーを下ろし、下半身に巻き付けたエプロンを剥ぎに掛かった。

 ボトムごしに触れたセフィロスの下肢の変化に、クラウドはぎょっとし、セフィロスの顔を見た。

「……あんた、皇帝に触られても、興奮しないって言ってたよな。
 それなのに、こんなになってるじゃないか」

 レザーごしに不自然に盛り上がった箇所を撫で擦り、クラウドはセフィロスを睨み付ける。
 妖艶な笑みを浮かべ、セフィロスはクラウドの首筋に痕を残すキスをした。
 んッ……と艶を帯びた声を漏らすクラウドの耳元に、セフィロスは低く色めいた声で囁く。

「皇帝に反応して、こうなったのではない。
 ……隠れていたおまえの気配が、オレを敏感にしたんだ。
 皇帝がいる手前、理性で反応を返すのを押さえたがな」

 セフィロスの告白に、クラウドは閉じていた瞼を開ける。

「俺の気配で、感じたのか……?
 あんたの身体って、あんたに都合よくできてるんだな」

 組み敷かれながらも、小憎らしいことを言うクラウドに、セフィロスはさらなる愛撫を加えてゆく。

「幼い頃からの訓練の賜物だろう。
 実験と称して性的虐待をしてくる奴らには、絶対に感じない、屈伏しないと決心してから、性感を感じなくなった。
 それなのに、おまえが近くにいるというだけで、オレの理性は脆く崩れるのだからな」

 また、口の巧いことを……と喘ぎがちに呟きながら、クラウドはセフィロスの過酷な幼少時代を思う。
 ルーファウスの言によれば、科学部門の研究員たちが彼に性的虐待を行ったのは、十代に満たない年齢の頃かららしい。宝条が科学部門の統括になるため、セフィロスをプレジデントの稚児として貢ぎ物にしたときには、すでに性感を感じない身体になっていたという。

 ――痛ましいな……。幼いセフィロスは自分を護るために、自らの意思で性感を閉じたのか。

 そんな彼が、自分が相手なら閉じられていた性感を取り戻せるという。不謹慎だが、クラウドはじんわりと嬉しさを噛み締めていた。
 が、それを素直に顔に表すクラウドではない。

「皇帝が、居たにも関わらず、俺の気配を感じたから、あんたは興奮した……。
 釈然としない部分もあるけど、そういうことにしておいてやるよ」

 憎らしいことを言うクラウド。彼の知らないところで、皇帝と関係を持ったのは自分だ。クラウドはどう説明されようと信じにくいだろう。多少胸は痛むが、セフィロスはそれ以上口を開かなかった。
 そんなセフィロスに、クラウドは吐息する。

「まぁ……分からなくもないけど。あんたが誰かの身体を欲した気持ち。
 俺も、あんたを失ったから、喪失の悲しみや苦しみはよく理解できるし、誰かに縋りたくなるのも分かる」

 実際、クラウドも愛していないのにティファの身体を求め、こころに空いた大きな穴を埋めようとした。そうすることで、さらなる虚しさも味わった。
 自分が経験したことをぼかしながら、クラウドはセフィロスを理解し受け止めるよう呟く。
 クラウドを戯弄する手を止め、セフィロスは目を細めて彼を見つめる――クラウドが考えているほど、セフィロスは鈍くない。

「……そういえば、この世界に戻ってからおまえに抱かれたとき、いやに手慣れていると思ったが……おまえ、まさかオレがライフストリームにいる間に、誰かを抱いたのか?」

 ぎくりとし、クラウドは固まる――彼は嘘を吐けない性質だ。
 昔からクラウドの性格を見通していたセフィロスは、ここぞとばかりにクラウドの嘘を暴こうとする。
 慣れた手つきでクラウドのボトムを下着ごと脱がすと、セフィロスはいきなり彼の雄にかぶりついた。

「うッ…あ、はぁ……ッ」

 セフィロスの口淫に煽るだけ煽られ、クラウドは身悶える。
 すっかり雄々しく成り上がったクラウド自身を、セフィロスは満足そうに撫でる。

「おまえの雄は、オレが知るなかでは中々の逸品だ。
 おまえと張るくらいの持ち主は……ジェネシスくらいだな。
 そうはいっても、他の人間は、オレ自身薬で意識を飛ばされ、どんなモノだったか憶えていないが」

 今まで寝てきた男たちの持ち物を品定めするセフィロスに、言ってろ……ッ、とクラウドは呻きつつ吐き捨てる。
 手早く自身のボトムを脱ぐと、セフィロスは自身の指で後腔を解し、クラウドの腰のうえに跨る。

「ア、アアアッ……!」

 なまめく肉のなかに埋まってゆく感触に、クラウドはセフィロスとともに喘ぎを漏らした。

「これから、おまえと根比べだ。
 ――誰と寝たか、絶対に吐かせてやるからな」

 凄艶なセフィロスの微笑に、クラウドは快楽とは違う震えを味わう。
 それからしばらく、クラウドは嫌というほどセフィロスの窄まりによる責めと焦らしに苦しめられた。
 クラウドは意固地なので、頑として口を割ろうとしない。そんなクラウドに、セフィロスは至極楽しそうに責め苦を与える。
 結局、折れたのはクラウドだった。プレジデントへの長年の奉仕により、セフィロスは巧みすぎる寝技を身に付けていた。ゆえに、タチとしては初心者であるクラウドが、勝てるはずがない。

「あッ! ティファ、だよ!」

 その一言だけで、セフィロスは一瞬で理解する。

 ――あの乳女、うまく垂らしこんだな。

 クラウドのこころの隙間に、豊満な肉体を利用して付け入ったのだ、あの女は。
 セフィロスは凍れる微笑みを顔に張りつかせ、クラウドを見下ろした。

「ククク、バカな奴だ。
 誘惑に弱い雄には、仕置きと躾が必要だな。
 オレが真の快楽を教え込んでやる――覚悟しておけ」

 言いざま腰を弾ませたセフィロスに、怯え切っていたクラウドは悲鳴を上げた。
 昼から夜に渡る長い時間、クラウドはセフィロスに翻弄され続け、泣きが入ってやっと絶頂を許された。それでも終わらず、クラウドを俯せに返し、セフィロスは誰の持ち物より雄々しいモノを彼の秘肛に挿入してクラウドを攻め倒す。
 とめどなく続く快楽に、クラウドはか細い喘ぎと啜り泣きを零しながら、意識を手放した。






 ――はぁ、タチでもネコでもセフィロスに適わないなんて、悔しすぎる。
 俺も寝技を鍛えるかなぁ。

 後日、クラウドが心底悩んだのは、いうまでもない。







end










*あとがき*



 ここまでお読みいただいた皆様、お疲れさまでした。
 とくにクラウド攻め・セフィロス受け・リバーシブルが苦手な方は、読みにくかったと思いますry。



 この話は、究極の混沌を倒すため、デュエル・コロシアムで自分を鍛え続けるコスモス・カオスの戦士たちの日常を書いたお話です。
 途中、うちのサイトでのジタンとクジャのカップリング(未満)の様子や、スコールとアルティミシアの密かな仲などを匂わせてみました。
 彼らの話(とくにクジャ絡み)は、DDFF短編集の枠にでも書いてみようと思っています。



 で、セフィロスとクラウドですが……見事なバカップルで、書いていて砂を吐きそうでしたが、セフィロスがクラウドでなくては感じないことをお話に起こしておかないと、裏でやるセフィセフィクラ俺得話を書けないので、書いてみました。
 そしたら、受けに見えない、超絶俺様受けなセフィロスが降臨しました(爆)。クラウドはちょっとヒサンな役回りだったかも(;^_^A。


 あと、クラウドを失ったセフィロスが、喪失の痛手を埋めようと他人の肉体を求めた気持ちを、ちゃんとクラウドが理解していたと書いておきたかったんです。
 あと、クラウドはセフィロスに対し怒っていいようにしようとしたのに、自分も同じ状況でティファとよろしくやってたんだから、あんただけ欝憤をぶつけるのは割に合わんだろう、というのもあって、今回の展開になりました。
 FF7のほうでも同様の問題で話を書いたので、話を捻ってみましたが、どうでしたでしょうか。



 次にDDFFでセフィクラを書くなら、皇帝絡みでクラウドをやばい目に合わせようかなぁ、と企んでいます。
 その前に、裏で自分得話を書いてきます。





紫 蘭



 

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