Perfect Circle
愛憎――眠れぬ想い。
ひとには、墓穴に持っていくまで胸に秘めておきたい秘密がある。
そういうものは、隠しておきたい相手に知られてしまえば、人間関係の決定的な崩壊の原因になったりする。
だから、ひとは必死で秘密を隠し通そうとする。
そして、信じる相手にそういう秘密を持たれている場合、ひとは口々に知らないほうが幸せだという。
が、相手に秘密が明かされたとき、関係が壊滅的に壊れるとも限らない。
新たな関係性を生む場合もある。
――俺とセフィロス、そして皇帝との関係は、まさにそういうものだった。
調和の女神・コスモスの復活後、クラウドが星の体内でセフィロスと共に過ごすのは、常なることになっている。
どれだけ時間が経っても熱烈な抱擁を交わすふたりに遠慮してか、コスモス・カオスの戦士の誰もが、星の体内を通るのを避ける。
セフィロスとクラウドは他者の遠慮を都合よく解釈し、飽きるまで性愛を繰り返していた。
が、束の間身体を放すと、クラウドは考え込んでしまう。
――そういえば、セフィロスは俺がイニシアチブをとるのに、割と寛容なほうだな。
他の者に抱かれたことがないので知らないが、抱かれる側が積極的になりすぎると、抱く側が不機嫌になることがあるらしい。
クラウドは他人の噂を聞いただけで、そういう事情には疎い。だから、稀にその気になったとき、自分から一方的にセフィロスの肉体を責める。彼を興奮させてから自ら彼の巨峯に跨って自身の窄まりに埋め込み、自儘に動いて果てたりする。
そういうとき、セフィロスは気持ちよさそうにしており、きちんと溜まりきった快楽をクラウドのなかに解放しているので、クラウドは問題ないと思っている。
が、抱かれる側が自分勝手に振る舞うのを嫌がる者も少なくないらしいので、セフィロスはある意味寛大かもしれない。
――セフィロスってプライド高いから、俺にいいようにされるの嫌がるかと思ったけどなぁ……。
交わっている最中、セフィロスに「気持ちいい?」と聞いて頷かれる場合もあるし、彼自ら快楽の声をあげるときもある。
そこまで考え、クラウドは思い出す。
――そういえば……セフィロスは男に抱かれたことがあるんだ。
神羅の英雄と呼ばれていた頃、セフィロスはプレジデント神羅の愛人だった。また、同じ1stソルジャーであるジェネシスにも抱かれていた。
クラウドからすれば、あまり思い出したくないセフィロスの過去である。思い出すと、セフィロスの身体を通り過ぎた男たちに嫉妬しそうになる。
――ああぁ、思い出さなくていいことを思い出して、俺ってバカだな。
苦虫を噛み潰したような顔をし、セフィロスから背を向けようとしたクラウドの身体に、逞しい腕が延びてくる。
「なんだ……不機嫌そうだな」
再びセフィロスの肉体の下敷きにされ、クラウドは口を尖らせ言った。
「……別に、大したことじゃない。嫌なこと思い出しただけだ」
セフィロスは一瞬目を細めたが、そのままクラウドの項に接吻した。セフィロスの背筋を指先でゆるりと辿りながら、クラウドはセフィロスの腰から尻のなだらかで引き締まったラインを撫でる。
――よく考えたら……この世界での過去の記憶のなかに、気になる部分があるんだ。
それは、コスモスが不自然な死に方をし、クラウドたちコスモスの戦士が後を追うよう息絶えた闘いのときだ。
そのときのクラウドは、元の世界でセフィロスに黒マテリアを渡したセフィロス・コピーとしての人格を持っていた。死んで時を巻き戻すたびに、クラウドはセフィロス再臨後や、元ソルジャーに擬態していたときなどの人格に変わっていった。思えば奇妙である――現在の人格は、星にいるクラウドと同じであるが。
名実ともにセフィロスの愛玩人形だったとき、クラウドはセフィロスの体液を体内に入れること――セフィロスのジェノバ因子を受けるのを嫌がった。あくまでこのときのクラウドは、ジェノバ細胞に還り、セフィロスとリユニオンしたいクラウドだったのだ。
そんなクラウドに、セフィロスは信じられないことをした。
――セフィロスが……自ら俺に抱かれたんだ。
はじめは、セフィロスがクラウドに跨り、彼の昂ぶりを体内に納め貪った。それから後は、ひとつひとつ教えるように、セフィロスがクラウドに窄まりの奥の愛撫の仕方や、挿入のやり方、様々な繋がり方を伝授したのだ。
――しっかり、全部、記憶に残ってる……。
あのときの俺は、意志薄弱な人形だったけど、確かにセフィロスを何度も抱いていたんだ。
だから、記憶を取り戻したいま、セフィロスとのセックスに複雑な思いがある。
お互いの肉の楔を唇と舌で愛しながら、クラウドはセフィロスの双臀を揉みしだき、谷間に指を延ばす。
――俺だって、その気になったら……セフィロスを抱くことが、できるんだ……。
ただ、人形だったときとは違い、迂闊に手を出せないような気はする。
クラウドが臀部に遊ばせている手をぎこちなく止めると、セフィロスは顔を上げ、自身の股間の下にあるクラウドの表情を窺った。
フッと笑ってセフィロスは更に開脚し、クラウドに奥のすべてが見えるようにする。
「どうだ? 中に指を入れたければ、入れていいぞ」
挑発するようなセフィロスの笑みに、クラウドは慌てて首を振る。
「い、いいよ。俺はいまのままでいいから」
そう言って、クラウドは再度セフィロス自身を撫で擦る。細く息を吐くと、セフィロスもクラウドを銜え込んだ。
クラウドがセフィロスを抱いたことがあったと意識するようになってから、何度かセフィロスにタチになることを誘われたが、クラウドは怖気付き、意を引っ込めた。
――何ていうか……怖いんだよ、あんたを抱くのって。
地獄の釜の蓋を開けるのと同じっていうか……先がどう転ぶか分からないから、迂闊に手を出せないんだ。
タチになることを誘うセフィロスの笑みには、質のよくない企みが潜んでいる。――だから、余計に怖い。
セフィロスに貫かれながら、クラウドは困惑と迷いに悩まされていた。
もちろん、セフィロスに抱かれているが、クラウドも男としてのアイデンティティを失ったわけではない。
自身の身体に星痕症候群が表れる前から、クラウドはティファと関係を持っていた。どちらかというと、クラウドとの性関係に熱心なのはティファだったが、それなりに身体を重ねていた。
――ティファと付き合ってたことをセフィロスに知られたら、間違いなく殺されるな。
セフィロスはかなり嫉妬深い。ティファとの関係がばれれば、とんでもない事態を引き起こすだろう。
が、クラウドの男としてのパッションを一番刺激したのは、データディスクに記録映像として残されていた、セフィロスがプレジデントや科学部門の研究員に犯される動画だった。それがなければ、何度もティファと肉体関係を結ばなかっただろう。
――結局、俺もセフィロスをオトコとして見ている部分があるんだよな。
オトコとしてのクラウドが、いつまでもセフィロスに抱かれるだけでよしとするか……わからない。オトコとしてのクラウドは、セフィロスを性衝動を喚起させるもの、オスとしての野蛮な劣情をぶつける対象として捉えているのだ。
コスモスの戦士が集まる秩序の聖域に戻る道すがら、クラウドは自身のもつれる思考に苦笑いしていた。いつまでも、セフィロスと一緒にいてばかりいられない。
ずっとセフィロスのもとに居続けて戻ってくるのだから、セシルやバッツ、ジタンやティーダにからかわれるだろうが、一応コスモスの戦士の一員なのだから、皆に合わせて行動しないと示しがつかない。
次元城を走りながら、クラウドは自身のセクシャリティに纏わる思考を放棄しようとした。
――そのとき、遠くから魔術が迫ってくる気配を感じ、クラウドは飛びすさった。
二・三歩離れた地面に、白い魔法陣が描かれている。――この魔法陣は、同じような魔術を使うアルティミシアのものではない。
クラウドは次元城の上層部を見る。
「皇帝……?!」
華奢な金の鎧を着込み、金の杖を振るう皇帝が、傲然とクラウドを見下ろしていた。
「久しいな。――虫けらよ」
相変わらずひとを見下し、嫌味ばかり言う奴だ。大して関わったこともないというのに、この男は一体何の用があるのだ?
クラウドはファースト剣を腰に備え付けた黒皮のソード入れから引き抜き、構える。
「……虫けらに何のようだ。
まさか、また人材勧誘しているのか?
虫けら相手に暇人だな」
冷たい皮肉を込めるクラウドに、皇帝は艶然と笑う。
「何、伽の者は多いほうがいい。
セフィロスばかりでは、単調で飽きるのではないか?
たまには、極上の快楽を味わってみるのも悪くはないのではないか?」
自己陶酔の入った皇帝の語り掛けに、クラウドは呆れたように眉を顰める。
何のことはない、皇帝は自分をハーレムのなかに囲いたかったのだ。
クラウドも、皇帝が混沌陣営のなかでハーレムを作っているのは知っていた。混沌の戦士のなかで美形な者は、ほぼ皇帝のものになっているが、この男は欲張りで、秩序の戦士たちにも粉を掛けてくる。
が、秩序の戦士をハーレムに入れることには、皇帝はことごとく失敗している。秩序の戦士は粒揃いだが、彼らに手を出すのは容易ではなかった。――何故か秩序の戦士のライバルである混沌の戦士が、皇帝の目論みを阻んできたのだ。
セシルに関しては、心配性の兄・ゴルベーザが黙っていない。ティーダにしても、父親のジェクトの鉄壁のガードが堅かった。
ティナにはケフカが執着しており、皇帝が彼女に触れるのは、真っ平ごめんという様相である。
ただ、皇帝がスコールを手に入れようとするのを、アルティミシアがさりげなく邪魔するのは理解できない。
アルティミシアは皇帝の愛人のひとりだ。皇帝に執着するクジャが、ジタンを皇帝に近づかせないするのと同じ理由かもしれない。
当然というべきか、クラウドも皇帝に何度か目を付けられている。そのたびセフィロスがリミットブレイクし、スーパーノヴァを繰り出して皇帝を完膚無きまでに叩きのめしている。
唯一、フリオニールだけが皇帝の毒牙に掛かっている。フリオニールは何につけても皇帝に反抗的で、気に食わない皇帝が支配する意味でフリオニールを凌辱していた。
――混沌勢のなかにあるハーレムやフリオニールだけでは我慢できないのか、この男は。
どこまでリビドーが盛んなんだと蔑みながら、クラウドは嫌々口を開いた。
「生憎、セフィロスはテクニシャンだからな。飽きるってことはないさ。
セフィロスが絶品で満足してるのに、あんたまでいるか」
――大口叩く奴ほど、短小のヘタクソだっていうしな。
クラウドは内心皇帝が憤死しそうなことを毒づく。
が、皇帝はフンと笑い、遠い目をした。
「――確かに、アレは絶品だろうな。
肉体全体的に感度がよく、尻の締め付け具合も絶妙だ。
そして、わたしから精を絞り尽くそうという貪欲さ……アレは癖になる」
皇帝の陶酔したような言葉に、クラウドはびくりと肩を震わせる。
――アレ、って、まさか……。
自分達が話した前後の内容からすれば、アレに該当する人物はひとりしかいない。
何より、過去にクラウドも、そういう男を抱いたことがある。自分に男を抱くことを教えた人物が、そうだった。
声を震わせ、クラウドは怒りを滲ませる。
「……あんた、まさか……」
皇帝はニヤリと笑い、勝ち誇ったように身を仰け反らせた。
「そう、そのまさかだ。
おまえが幾度かの闘いで死んでいるあいだ、セフィロスはわたしの愛人だったのだ」
カッ、とクラウドは目を剥く。
「嘘だッ! 男に抱かれるのを嫌がっていたセフィロスが、あんたに抱かれる訳がないッ!」
それでも、皇帝は悠然と構えている。
金の杖を横に凪ぐと、皇帝は魔法陣を出現させ、クラウドの足元に投げる。円陣のなかには映像が映っており、小さな音声が聞こえてきた。
クラウドは魔法陣を覗き込み、絶句する。
――中には、皇帝に組み敷かれるセフィロスがいた。
『ハアッ…皇帝、急かす…な……。
身体が、保たな……アアアアァッ!』
無茶な体位で交わらされたセフィロスが、皇帝に甘く擦れた声で抗議している。が、すぐさま皇帝は荒々しく腰を弾ませ、セフィロスは精を吐き出しながら悲鳴をあげた。
その様は、ひどく悩ましく、凄艶だった。長くうねる銀の髪を汗に濡れる胸板に張りつかせ、セフィロスは何も敷いていない床に爪を立てている。白い肌が紅に染まり、だらしなく開いた口から唾液が零れている。
かつて人形だったクラウドも、このようなセフィロスを見ていた。どこか乾いたこの映像より、過去クラウドが抱いたセフィロスのほうがよほど色っぽく、蠱惑的だったが。
――それでも……これは、証拠映像になるんだよな……。
顔を上げると、クラウドは無理矢理気を立たせ、皇帝を睨み付けた。
「……これは、本当にあったことなのか?
あんたが造り出した偽の映像じゃないのか?」
クラウドの問いに、皇帝は彼を見下すように笑った。
「まさか、おまえのほうが、セフィロスが乱れるときの本当の姿を知っているだろう」
皇帝の言葉に、クラウドはグッと詰まる。
何も言えない彼を、皇帝は煽り立てる。
「おまえを抱く男は、男に抱かれて歓ぶ男なのだ。――軽蔑しただろう?
こんな男より、わたしのほうがいいと思わんか?」
不快げに眉を顰め、クラウドは一言に一刀両断する。
「……興味ないね」
皇帝は少しばかり驚いたようだ。
「ほぅ? この映像を見ても、まだあの男がいいわけか。
男を尻穴に銜え込むほうが似合いのこの男が、まだいいのか」
クラウドは肩を竦め、横目で皇帝を見る。
「あんた、俺が簡単に男を乗り換える尻軽に見えるわけか。
甚だしい見当違いだし、最大の侮辱だな。
……あんたのような品性下劣で最低男の相手をするほど、俺は安くないんだ」
クラウドの冷淡な反応に、皇帝は逆に面白がる。
「大きく出たものだな。
だからこそ、跪かせ甲斐がある」
皇帝は杖を大きく振り、クラウドにトラップを仕掛ける。が、その前に大きく跳躍し、クラウドは柱状の足場に飛び乗り違う足場にダッシュした。
一目散に次元城を脱出したクラウドだが、こころは重くなってゆく一方だった。
皇帝の姿が完全に見えなくなったのを確認してから、クラウドは走る足を緩める。
――あんたには俺がいるのに、なんだってあんな奴に……!
あんた、男に抱かれるのが嫌だったんじゃないのか?
いつからセフィロスは簡単に男を銜え込む人間になったのだ。この世界に来てからか?
幼い頃から男に犯され、こころのどこかが壊れてしまったセフィロス。ニブルヘイムで出生の秘密を知り狂ってしまったのも、それが大きな一因だと思っていた。
――それなのに、皇帝などに易々と身体を許し、恥も外聞もなく乱れるようになってしまった。
俺の知らないあいだに、何があったんだよ……。
俺だけじゃ……物足りないのか?
胸が黒い靄で詰まってしまう。頭を掻き毟りたいほど、狂暴な気持ちになってしまう。
そのとき、頭上でばさり、と羽音が響く。見上げると、セフィロスが右肩に片翼を出現させはためかせていた。
黒翼を出しているということは、現在EXモード……リミットブレイク寸前にあるということだ。
否、目の前に降り立ったセフィロスは穏やかな顔をしている。すぐさま翼は消えたが、左手に血糊のついた正宗を握っている。
「おまえが帰ったあと、おまえと皇帝の接触する気配を感じてな。すぐ追い掛けたのだ。
おまえはすでに逃げおおせていたが、皇帝はあわよくばおまえを手に入れようとしていたので、痛め付けておいた」
「……そう」
クラウドは顔を反らす。
彼の様子に不審を感じ、セフィロスはクラウドの顔を覗き込んだ。
「……クラウド?」
顎を掴んで正面を向かせようとするセフィロスの手を払い、クラウドは歪んだ笑みを張りつかせる。
「……あんた…いつから、誰のモノでもいいような尻軽になったんだ。
俺がいないなら……何してもいいと思ってんの?
何も知らない俺のこと……馬鹿だと見下してたんだろ?」
クラウドの小さな呟きに、セフィロスは瞠目する。
「クラウド……知ったのか?」
セフィロスらしくなく、動揺のあまり言葉を選べていないようだ。
クラウドは不自然に強ばった笑みを浮かべたまま、セフィロスを真っすぐ見る。
「いつからだよ、普通に男に抱かれることが出来るようになったの。
……前の戦いで、人形状態の俺に抱かれる前から?」
言う言葉も見つからず、顔を硬直させたままセフィロスは黙り込んでしまう。
そんなセフィロスに、クラウドの怒りは頂点に達した。
「なんとか言えよッ!
俺がいない間に、なんで他の人間とセックスするんだよ!
俺との関係って、そんないい加減なものだったのかよ!
……俺の気持ちは、どうでもいいのか!?」
絶叫するクラウドに、セフィロスは苦しげに眉を寄せ俯く。
「あぁ、そうだよ。
ガキの頃あんたが他のヤツと寝ても、俺は力がなかったから何も言えず、黙って我慢するしかなかった。
どんなヤツに抱かれても、こころはおまえだけっていう言葉を無理矢理信じて、嫉妬を押し込めるしかなかった」
震える声で話すクラウドに、セフィロスは詰め寄る。
「クラウド、オレの気持ちは変わっていない。
あの頃言ったのと同じ、誰に抱かれることがあっても、愛しているのはおまえだけ……」
が、クラウドは最後まで言わせなかった。
「でも、この世界は元の世界とは違うし、俺も子供じゃない。
――いまの俺は、ただ黙ってなきゃいけなかったあの頃とは違うんだ。
少なくとも、この世界じゃ、あんたや他の奴らと互角の強さを持っている。
だから、涙を飲んで黙認なんて、出来ない」
――あんたの裏切りを、許すことはできない。
クラウドの強い拒絶を感じ、セフィロスは唇を噛み締める。
ゆっくりとセフィロスから背を向けると、クラウドは走りだした。――追い掛けてくる足音はなかった。
クラウドはこの世界に正気のセフィロスと戻ってきて、もう誰にも患わされることなく、ふたりだけの幸せを追い求めることができると思った。
が、こんなに呆気なく関係が崩れてしまうとは。
――こんな別れ方、本当に最悪だな……。
命を掛けて追い求め合う関係だと思っていた。ふたりの間に挟まる執着心は、他者が見れば醜いほどではないかと思っていた。
が、別れる原因が、世間によくある痴情のもつれだとは。
走りながら、クラウドは笑いとも嘆きともとれるような声を漏らしていた。
星の体内に戻ったセフィロスは、バトルステージにあるブロックのひとつに座ると、両手で顔を覆った。
すべては、自分の手でクラウドを殺したあと、彼の不在からくる胸の空洞を埋めるためだった。
セフィロスから誘ったわけではない。こころのうちと脳裏にあるクラウドを追い求め自らを慰めているとき、隙を突いて皇帝に襲われたのだ。
が、だからといって、セフィロスに非がないわけではない。結果的に、クラウドがいない淋しさと悲しさを紛らわすため、皇帝を利用したのだ。
滅びに向かう戦いの折りに、再びクラウドと想いを通わせることができたが、過去に皇帝と寝ていた事実は消えない。あとからセフィロスは本気で後悔した。
「クラウド、オレは……」
いまも、誰よりもおまえを愛している。欲しいのはおまえだけ。
どれだけそう言いたくても、目の前にクラウドはいない。――もう、一緒に時を過ごすことはないかもしれない。
――それでも……諦められない。
幾度も絶え掛けた命を無理矢理繋いだのは、再びクラウドを抱くためだ。クラウドへの想いだけで、彼以外の記憶を投げ捨ててしまうほど、浅ましいくらい生命に執着した。
――それを無に返すなど、今更できない。クラウドへの情念も狂おしいほど胸に渦巻いている。
セフィロスが絶望を味わっているとき、空間に歪みが生じ、誰かが星の体内に入ってきた。
いま、最も殺したい男の気配だ――右肩から黒翼を拡げ、セフィロスは血走った眼を上げる。立ち上がり、正宗を出現させるセフィロスに、皇帝は微笑を浮かべた。
先程何度も八刀一閃を食らい、仕上げとばかりにスーパーノヴァを叩きつけられた皇帝だが、回復魔法を使ったのかぴんぴんしていた。
殺る気まんまんなセフィロスを、皇帝は鼻で笑う。
「自分のことを棚に上げて、何を怒っている。
かつておまえがわたしに抱かれたのも、すべておまえの自由意思だ。
わたしだけが悪いわけではあるまい?」
皇帝の巧みな弁舌に、セフィロスの冷たい怒りは変わらない。
「煩い、一々忌々しい奴だ。
目障りだ、この世界から永久に消えろ」
直ぐ様EXバーストできるほど、セフィロスの闘気は高まっている。正宗を上段に構え、セフィロスは間合いを詰める。
が、違う気配が現れ、セフィロスに魔法の気球を投げ付けた。
気球を正宗で弾いたセフィロスの目の前に、太股を露に晒した人物が、ふわりと舞い降りる。
「もうちょっと冷静になりなよ。
皇帝を殺すより、もっと生産性のあることを考えたほうがいいよ」
皇帝と自分の間に割り込んだクジャを、セフィロスは睨む。
肩を竦め、クジャは大げさに溜め息を吐いた。
「ああぁ、ほんっとうに君はバカだよ、マティウス。
例え美形だろうと、身体が美味だろうと、彼はひとつのものに目暗ましされている愚か者だろう?
それなのに再び従えようと欲を出し、あまつの果てにチョコボ君にまで手を出そうとするんだから。
知ってる? 二兎を追う者は一兎も獲ず、って諺。マティウス、欲を出しすぎだよ」
自分というものがいるのに――。
眼差しに非難を込め、クジャは皇帝に嫌味を言う。
そしてセフィロスに向き直り、クジャは腕を組んだ。
「なぁにしみったれた顔をしてるんだよ。
ストーカー根性でチョコボ君に迫っていたのに、こんなことで諦めるんだ。
もっとストーカーとしての意地を見せなよ」
そう言うと、クジャは皇帝の腕を掴み、暴れる皇帝を無理矢理引きずって次元の彼方に消えた。
セフィロスは憮然とした顔をしている。
「オレはストーカーか……」
異論は沢山あるが、やっていたことは実際ストーカー的行動だし、他人の目で見れば余計そう映っただろう。
――だが、それくらいの気持ちにならなければ、クラウドを取り戻せないかもしれない。
正宗と翼を消すと、セフィロスはライフストリームを見上げた。
秩序の聖域にいたコスモスの戦士たちは、クラウドの表情を見て顔を引きつらせた。
いつもは無表情で、挙動も冷静だ。それなのに、今日のクラウドは触ったら斬れそうなくらい、尖り切っている。
無口なクラウドに構わず声を掛けてくるバッツやジタン、ティーダなど、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりにクラウドから距離を置いている。
そんな状態でも、平気でクラウドに近づくのは、セシルとフリオニールだった。
「どうしたんだ? 不機嫌そうだな」
怖いもの知らずなのか、危機管理能力がないのか、笑顔を浮かべてフリオニールが尋ねる。
クラウドは眉を顰めたまま、コスモスの白亜の玉座に座り込む。椅子の縁に片足を掛ける姿は、とても行儀が悪かった。
「……別に」
まったく取りつく島のないクラウドの態度に、セシルが苦笑いする。
「あははは――…、本当に機嫌が悪いんだね。
原因はセフィロス? それしか考えられないけど」
クラウドの金の髪に隠れた耳がぴくり! と動く。
ぎぎぎ、と軋む音がしそうなほど不自然な動きで、クラウドはセシルに顔を向けた。
鋭いブルーアイに睨み付けられているが、セシルは怯まず笑顔を絶やさない。
クラウドから何かを吐かせよう、という強固な意思をセシルから感じ、クラウドは目を反らして嘆息した。
「……幾度かの戦いのとき、俺が死んでいるあいだ、セフィロスは皇帝とデキていたらしい」
クラウドの告白に、セシルとフリオニールは「あ……っ」と声を漏らした。
聞き逃さず、クラウドはふたりに詰め寄る。――ふたりは何か知っている、と思った。
「何だよ、おまえたち、何か知ってるのか!?」
セシルは目線をうろうろさせ、フリオニールは慌てている。
「言えよ! セフィロスと皇帝のこと、何か知ってるんだろ!?」
あまりの気迫に、逃げ腰だったセシルとフリオニールは目を合わせ、再び嘆息した。
「……僕自身が見たわけじゃないんだ。
セフィロスが君を想って自分を慰めていると兄さんから聞いたとき、兄さんがついでのように漏らしてしまったんだ。
そういうとき、たまに皇帝が姿を現わし、セフィロスに手を出しているって……。
兄さん、そのことにも悩んでいたからさ」
言ったあと、セシルはそのままフリオニールに目を遣る。
「俺は……直接皇帝から聞かされたんだ。
皇帝が抱いている人間の品評というか……。俺は興味なかったけど、皇帝に好き勝手ヤラれて悔しいやら、腰が痛いやらで何も言えなくてさ。
皇帝が品定めしてるのは、ほとんど下関係だから、聞くのも嫌だし恥ずかしかったよ。
なかでも、セフィロスは口淫のテクニックや下の具合も抜群だって、皇帝は絶賛してたな」
困りながらフリオニールはぺらぺらと話していたが、クラウドの目が据わっているのに気付いたセシルが、フリオニールの脇腹に肘鉄砲を入れる。
「なんだよ……知らなかったの、俺だけか」
あいたたた……と脇腹を押さえるフリオニールを余所目に立ち上がり、クラウドは苛々と秩序の聖域を歩きだす。
――みんな、皇帝とセフィロスがデキていたのを知っていたんだ。
ふたりの関係を知らないで、セフィロスと深く愛し合っていると思い込んでいた俺は、さぞかし呑気に見えただろうな。
唇を噛み締め、クラウドは拳を握る。
現在のクラウドが危ういのは明らかなので、先程近づいたセシルやフリオニールもそそくさと後退した。が、ウォーリア・オブ・ライトだけはブレなかった。
「クラウド」
荒み切っているクラウドなど意に介せず、ウォーリア・オブ・ライトはクラウドの前に立ちはだかる。
クラウドはウォーリア・オブ・ライトを見上げた。
――あぁ、くそッ、どこ見ても何しても苛々する!
どれもこれも、セフィロスが悪いんだ。自分の知らないところで、皇帝なんぞとセックスしやがるんだから。
クラウドは狂暴な気持ちで一杯だった。
男らしい強い笑みで、クラウドはウォーリア・オブ・ライトに切り出す。
「なぁ、ウォーリア。あんた、俺のこと好きだって言ったよな?」
衆目の面前でクラウドが言ったことに、みながどよめく。
仲間たちの視線が自分に集まっても、ウォーリア・オブ・ライトは揺るがなかった。
「いいよ、あんたのものになっても。
そのかわり、なんでも付き合ってくれるよな?」
――俺が欝憤を晴らすまで、あんたが抱かれる側でも構わないよな?
クラウドの言葉が、ウォーリア・オブ・ライトにはそう聞こえた。それほど、今のクラウドは男くささを醸していた。
眉間に皺を寄せ目を瞑ったあと、ウォーリア・オブ・ライトはクラウドをひたと見た。
「クラウド……ここを出て、頭を冷やしてこい」
やはり、どんなことがあっても揺るがない男だ。
――言われなくても、そうするよ。
苛立ちが高まっているので、いまのクラウドは誰彼構わず絡んでいきかねない。そんなことをすれば、静穏な秩序の聖域の空気を崩してしまうだろう。クラウドは自分でも秩序の聖域に長居してはいけないと思っていた。
クラウドはウォーリア・オブ・ライトの言うことを素直に聞き、秩序の聖域を出た。
――自分は、どうしたいのだろう。
秩序の聖域から出たものの、これからどうすればいいのか、クラウドは分からなかった。
セフィロスに対し、激怒している。怒りがいつ納まるのか、分からない。荒んだ気持ちが鎮まらない限り、秩序の聖域に戻ることもできない。
――セフィロスが、皇帝に抱かれた。
それに対し、俺は男として怒っている。
神羅時代に、セフィロスとジェネシスが同衾しているのを目撃したことがあった。あのときも嫉妬し、セフィロスに別れを切り出したが、腸が煮え繰り返るような怒りより、自分の無力さへの悲しみが強かった。
――いまは、他人に抱かたこともそうだが、乱れる姿を見せたセフィロスに怒っている。
セフィロスが他人を抱いたというのなら、湧き出た感情もまた違ったかもしれない。同じ裏切りに違いないが、セフィロスが抱いた相手に、性的魅力にしても人間的魅力にしても負けたことになるのだ。もっと深い痛手を受けていただろう。
が、セフィロスが抱かれたことに関しては、男として許しがたいという気持ちが強かった。
それは、自分のなかに、セフィロスを抱きたいという願望が根付いているからだ。科学部門のデータディスクを見た日から、確かに育まれていた「男としての」クラウドの自我だった。
――最も、男としての自我は、神羅にいた少年時代からあった。
その頃セフィロスと一緒に居た自分は幼かったし、それなりにセフィロスに抱いてみるかと誘われたが、今以上にセフィロスを抱くのが怖かった。
あの頃の俺には、セフィロスを抱くのは荷が重すぎたんだ。
男とも女ともつかぬ妖艶な美貌を持ちながら、それでも男としての強さと存在感を全身に醸していたセフィロス。共に暮らしていたクラウドは、セフィロスがふとした瞬間に凄絶な色艶を放つのを見ていた。
だから、少年だったクラウドはセフィロスを抱いてしまうと、底無し沼に足を取られたように抜け出せなくなりそうで、セフィロスの誘いに乗れなかった。――その怖さは、今でもなくなっていない。
――それでも、自分の知らない姿を他人に見せたセフィロスに、腹が立って仕方がない。
だからといって、セフィロスと離れて生きてゆけるのか、それも自信がない。どっちつかず、ただ立腹しているクラウドだ。いくらか冷静になれば、新たな生き方も考え付くかもしれないが、いまはまだ無理だった。
溜め息を吐くと、クラウドは次元城の上段から青空を見上げる。
――と、くるくる回りながら、ふわりと舞い降りてくる人物が。
相手の奇抜なファッションに、クラウドは眉を寄せる。
「……あんた、ほんと変わってるよな、クジャ。
大きなお世話かもしれないが、隠したほうがいい場所は、自覚しておいたほうがいいぞ」
ボレロと一体型になったローブに、パンツのような鎧に付属したベルトと、巻き布だけという格好は、クラウドの理解の範囲外だ。――ほぼ、身体に布地を纏っておらず、生足を晒しているのである。
つっけんどんなクラウドの言葉に、クジャは大げさに肩を竦める。
「ほんっとに、大きなお世話だよ。
この衣服が、僕の美しさを際立たせるんだ」
癖のある銀髪を掻き上げるクジャを、クラウドは奇妙なものを見るような眼で眺めた。
「……で、あんた、俺に何の用だ?
ジタンなら、秩序の聖域にいるぞ」
皇帝同様、クジャとは余り関わりを持っていない。ゆえに、クラウドはジタンの話を振った。
コスモスが死んだ戦いのとき、どういうやり取りがあったのか、ジタンとクジャは最後の戦いのあと和解した。とはいえ、この世界に帰っても、そう接触しないふたりである。
クラウドの態度に、クジャは再び大げさに首を振った。
「ジタンに用があるなら、秩序の聖域に行ってるよ。
いま用があるのは君だよ、チョコボ君」
途端に、クラウドはムッとする。某黄色の巨大な鳥と髪色と髪型が似ているクラウドは、たびたび某鳥と引っ掛けてからかわれた。
もっとひどいのは、この世界に来てから、バッツに彼の相棒である某鳥と間違われ、飛び付かれることだ。それがセフィロスに見つかったとき、バッツは八刀一閃と天照のうえ、スーパーノヴァを食らっている。
そういった様々なことから、クラウドにとって某鳥呼ばわりされることは、トラウマになっている。だから、一言突っ込まずにはいられなかった。
「……俺の名前はクラウドだ」
が、クジャは意に介さない。クラウドの地を這う声にも、非常にマイペースだ。
「はいはい、チョコボ君」
分かって言っているので、質が悪い。
訂正するのは無駄だと判断し、憮然としながらもクラウドは尋ねる。
「あんたが俺に用がある? そんなもの、あってたまるか。
寝言は寝てから言え」
――電波や変態の相手をするのは、ジェノバのフリをしたセフィロスだけで手いっぱいだ。第二の電波まで手に負えるか。
クラウドからすれば、心底の願いである。が、クジャは機嫌を損ねたように腰に手を当てた。
「あぁ、そうかい!
哀れなチョコボ君に、折角似合わないお節介をしにきたのに、そういう態度かい!
いーよいーよ、マティウスがセフィロスを手に入れるのを、指をくわえて見ていればいいんだ!」
聞く耳もたずなクラウドだが、皇帝とセフィロスの名に、クラウドの耳がぴくり、と動く。
「皇帝と、セフィロスだと……?」
向き直ったクラウドに、クジャはフン、と鼻を鳴らす。
「やっと聞く気になったかい。
君がぼやぼやしてるのを、マティウスが黙って見ているわけないだろう?
君がいないセフィロスは、君欠乏症の脱け殻同然だからね。
君の名を囁かれるだけで、セフィロスはマティウスに堕ちてしまうんだ。――もう既に遅いかもね」
煽りに煽るクジャの言葉に、クラウドは顔を背ける。
「あんた、何か勘違いしてないか?
セフィロスは穴を満たされれば誰のモノでも構わない淫乱なんだ。
実際、皇帝の名を呼びながらセフィロスは抱かれてたさ」
自嘲ぎみなクラウドの告白に、クジャは眉を寄せる。
「は? 何言ってんだい。
あのセフィロスが、セックスの最中にマティウスの名を呼ぶわけないだろう。
寝呆けてるのは、君じゃないか」
訳が分からないとでも言いたげなクジャの言質に、クラウドは激して向き直る。
「実際見たんだ! セフィロスが皇帝の名を呼びながら抱かれているのを!
ご丁寧にも、皇帝がわざわざ見せに来たんだ。嘘なわけないだろう!?」
興奮するクラウドに、クジャはぽかんとする。が、クラウドが語った内容に合点がいったのか、深い溜め息を吐いた後、自身のまわりを旋回するホーリースターのひとつを取り上げ、大きく膨らませた。
「マティウスが見せたものを信じるとは、案外君も単純だね。
まぁ、これを見てみなよ」
膨張したホーリースターに、映像が浮かぶ。
――それは、皇帝に見せられた、セフィロスと皇帝の情事の光景だった。
が、前に見せられた映像と違うのは、セフィロスが皇帝の名を呼ばず、切なげにクラウドの名を連呼していたことだ。
クラウドは信じられない、というように呟く。
「嘘だろ……?
何で俺の名前を呼びながら、セフィロスは皇帝に抱かれてるんだ?」
震える声で言うクラウドに、呆れた調子でクジャが言い放つ。
「君、思った以上に鈍感だねぇ。
……君が居ないからに決まってるだろ?」
首を傾げ、クラウドはクジャを見る。
「俺がいないから皇帝に抱かれる?
そんなの、おかしいじゃないか。俺がいないからって、俺を裏切って皇帝に抱かれるっていうのは、筋が通らない」
むきになるクラウドに、クジャは軽く肩を動かす。
「彼も、色々ありそうだけど、一応人間なんでしょ?
どうしようもなく淋しくなったり、悲しくなったら、誰でもいいからこころの隙間を埋めてほしくなったりするんじゃない?
だからといって、その相手を好きかどうかは別だろうけど。
そういう意味では、マティウスはセフィロスの身体と性技にしか興味ないから、セフィロスとしても楽なんじゃないかな」
クジャの話を聞きながら、クラウドは魔法の球体のなかに映る淫靡なセフィロスを眺める。
皇帝に挿し貫かれながら、遠くを見つめ、クラウドの名を哀切に呼び続けているセフィロス――その姿は淫らだが、どこか哀しかった。
――淋しくて哀しくて堪らないから、か……。
クラウド自身、身に覚えのある感覚。ジェノバ戦役のあと、クラウドはセフィロスの不在に、哀しみと切なさ、空虚さで胸を掻き毟りたくなった。
そんなクラウドのこころの隙に入り込んだのが、ティファだった。クラウドはティファに特別な感情を持っていないにも関わらず、側にいるという理由だけで彼女を抱いてしまった。
――同じだ……。
セフィロスが皇帝の肉体で、こころの空洞を埋めようとしたように、俺も慰めを欲してティファを抱いてしまった。
俺は、一方的にセフィロスを責められないかもしれない。
悄然として俯いてしまったクラウドに、クジャは嘆息する。
「怒っていたかと思ったら、すぐに落ち込んでる。君って忙しいねぇ。
セフィロスも、戦士が死んでも神竜の力ですぐ蘇るこの世界の理を知っていたはずなのに、ちょっとの間も我慢できないなんて、弱いね。
マティウスも、いくら綺麗だからって、脱け殻みたいなセフィロスに手を出すようなバカな真似をするんだから」
ぶつぶつとボヤくクジャに、クラウドは顔を上げる。
「あんた、皇帝のことが好きなのか?」
途端に、目を剥き顔を真っ赤にさせ、クジャは振り向く。
「あんな最低男、大ッ嫌いだよ!
美しいこの僕を、数多いる愛人のひとりに止めておくんだから!
僕がいるのに、なんでくっついているセフィロスと君を引き裂こうとするんだよ!
そんなに、セフィロスがいいわけ?!」
ヒステリックに叫ぶクジャに、クラウドは思わず後ずさってしまう。
が、クジャの言葉に疑問を抱き、クラウドは首を捻った。
「……その割りには、皇帝は直接セフィロスのもとに行くわけでなく、俺のところに来たよな……。
あれは何なんだ?」
クラウドの問いに、クジャは不機嫌に鼻を鳴らす。
「知らなかったの? 君もマティウスの獲物のひとりだよ。
セフィロスが君を自分のものにしているあいだ、マティウスはよく君たちの様子を覗きに来ていたんだ。
そのときから、君を自分のものにしたいんだってさ。セフィロスの下でよがる姿にそそられた、とかなんとかいってね」
クジャの話から、クラウドはこの世界での、幾度にもわたる戦いの記憶を辿る。
クラウドは皇帝にあられもない姿を見られていたのを、朧気ながらに知っていた。が、そのときのクラウドは、セフィロスの熱い楔により何度も絶頂に飛ばされ、それどころではなかった。
セフィロスはクラウドの姿を見せないよう、自身の肉体でクラウドの裸身を隠していた。が、それでもセフィロスを飲み込みながら愉悦に痙攣するクラウドを、皇帝は視姦するように眺めていた。
となれば、いまクラウドの前で悋気盛んなこの男は、皇帝の企みを邪魔しに来たに違いない。
「皇帝は一挙両得を狙ったわけか。
それで、あんたはそれが気に入らないと?」
クラウドの問い掛けに、クジャは勝ち気な笑みを浮かべる。
「まぁ、そういうところだね。
僕としては、セフィロスと君がよりを戻してくれれば、万万歳なのさ」
クジャの笑みに、クラウドは首を振る。
「……俺はセフィロスが皇帝に抱かれたことを、腹に据えかねてるんだ。
そう簡単に仲を修復できない」
断言するクラウドに、クジャは腕を組む。
「中々頑固だね。
セフィロスはマティウスを好きじゃない。だから、元に戻ってもいいじゃないか」
呑気な言葉を吐きながらふわふわ浮かぶクジャを、クラウドは睨む。
「問題は、そこじゃない!
俺が知らない姿を……他の誰かの肉に貫かれ、乱れた姿を見せたのが、一番許せないんだ!」
クラウドの怒りの顔付きに、クジャは目を見開く。
が、にやりと微笑むと、クジャはクラウドの隣にふわりと降り立った。
「あれ? 君、ネコじゃなかったの?
隠れタチ志望?」
首根っ子を捉えたように痛いところを突くクジャに、クラウドはたじろぐ。
「い…いいだろ、別に。あんたには関係ない」
クラウドのまわりを漂いながら、クジャは娯しそうに笑う。
「へぇ、面白そうだなぁ。
君がどこまで攻められるか、僕、試してみようかな」
クジャは戸惑うクラウドの頬に手を添え、彼の顔に顔を近付ける。
――が、ふたりの間を裂くように、幾筋もの剣圧が飛んできた。
寸でのところで回避したクラウドは、剣筋が飛んできた方角を見る。――黒翼を生やしたセフィロスが、怒りも露な形相で正宗を構えていた。
「うわぁ、魔王登場、といった有様だねぇ」
浮気現場を押さえられたような状況なのに、この期に及んでまだ気の抜けたことを言うクジャを、クラウドは睨む。
クラウドはダッシュで逃げようと、目線で退路を探る。
が、それより早く飛んできたセフィロスに腰を攫われ、クラウドはセフィロスとともに次元城の上空に飛び上がった。
「放せよッ、俺はまだあんたを許してないんだからなッ!」
そう言うクラウドを無視し、セフィロスはクラウドを担いだまま、片翼をはばたかせて空間を抜け出した。
クジャはふたりが去った空を見上げ、溜め息を吐いた。
「ほんっとに、ややこしい性格してるよ、君たち。
仲立ちしてやった僕の気持ちも察してほしいね」
腕を延ばして伸びをすると、クジャは次元城から消えた。
セフィロスにより星の体内に連れてこられたクラウドは、バトルステージに放り投げられ態勢を崩したまま、仁王立ちするセフィロスを見上げていた。
右肩には、まだリミットブレイク寸前の証である翼がある。左手の正宗が、ライフストリームの碧色を刀身に映していた。
クラウドは立ち上がろうと、上体を動かす。が、素早い動きでセフィロスがのしかかり、クラウドの喉元に得物を突き付けた。
ちらりとセフィロスの険しい顔に目を遣り、クラウドは溜め息を吐く。
「いつものように、俺を痛め付けてからレイプするのか?
芸がないっていうか……今回は、そんなことされても、言うことは聞かない。
俺だって淫乱尻軽なあんたに怒ってるんだからな」
刄を首に当てられながらも、真っすぐ鋭い視線を寄越すクラウドに、セフィロスは眉を寄せ、目を細める。
明らかに、いつもと言動が違う――翼を仕舞い、正宗を消失させると、セフィロスはクラウドの手を引き、立ち上がらせた。
片袖やエプロンに付いた埃を払うと、クラウドはセフィロスに真っすぐ向き直る。
「俺が死んで蘇る僅かの間の不在に堪えられず、誰かに抱かれ悦楽に逃げるなんて、あんたそんなに弱かったのか?」
いきなり核心を突いてくるクラウドに、セフィロスは思わず目を反らしてしまう。
クラウドは腕を組み、息を吐いた。
「図星、か。
俺はあんたに殺されるとき、辛そうに顔を歪ませるあんたを置いていくのが、哀しくて堪らなかった。
だから、死ぬ間際に、早くあんたのところに戻りたいって念じてたのに、あんたは皇帝にケツの穴掘られてよがり狂ってたんだよな」
いつものクラウドらしくない荒んだ言葉に、セフィロスは顔を上げる。
「……皇帝に見せられたんだよ。あんたが皇帝に突っ込まれてヒィヒィ鳴いている映像を。
よくもまぁ、恋人である俺の知らない姿や顔を、あんな奴に晒したよな」
セフィロスは慌てて弁解する。
「違うッ!
皇帝に抱かれたのは事実だが、どんなときでも、抱かれているときでも、求めていたのはおまえだけだ!」
切羽詰まるセフィロスに、クラウドは歪んだ笑みを浮かべる。
セフィロスのコートの胸元を掴むと、強引に引っ張りセフィロスの胸を大きく肌蹴させた。
「……そんな証拠、どこにあるんだよ。
あんたは俺みたいなヒヨッ子にコマされても、ケツ振って喜ぶんだろ?」
言いつつ、クラウドはセフィロスの胸板に一粒浮かぶ小さな実を指で摘み、擦る。
ビクリ、とセフィロスの身体が震える。
自分が彼にするように、胸の頂きを愛撫するクラウドを、セフィロスは静かな眼差しで見つめていた。
クラウドらしくない言葉や、自分を嬲ろうとする態度も、すべて嫉妬からくるものなのだ。
そして、いまクラウドのなかには、「抱く側」としての意識が強まっている。――セフィロスが待ち望み、そこはかとなく引き出そうとした、クラウドの「男としての性」が現われつつある。
セフィロスは静かに息を吐き、クラウドを見下ろした。
「……オレを抱けば、おまえは気が済むのか?」
弾かれたように、クラウドはセフィロスから手を放す。
「皇帝がしたように、オレを犯せば、おまえの怒りは納まるのか?
おまえが知らないオレの姿をおまえにすべて晒せば、おまえは納得するのか?」
あまりに静かなセフィロスの問いに、クラウドは目を見開く。血が沸き立つのを、クラウドは感じた。
クラウドは無意識に、セフィロスの頬を張っていた。セフィロスは黙って平手打ちを受け止め、それでも静かな態度を変えなかった。
「な、んだよ、バカにしてるのかよッ!
裏切ったのはあんただろうッ?!
なに居直ってるんだよ!」
クラウドの絶叫に、セフィロスは哀しげに瞼を伏せる。
肉体的には、裏切った。が、こころは裏切っていない。しかし、それは理屈にならない。――己の弱さが、いまの状況を呼んだのだ。
クラウドは歯軋りし、セフィロスを突き飛ばして、バトルステージ上に倒れこませた。
「あんたをどうするかは、俺が決める。
――少なくとも、あんたが決めることじゃない」
自身のコートの止め金を外すクラウドに、セフィロスは頷いた。
「この世界で俺に見せたように、俺の目の前で自慰しろよ」
クラウドにそう命令され、一糸纏わぬ姿になったセフィロスは、バトルステージの中央で引き締まった大腿を大きく開脚している。
物欲しそうに勃ち上がり、淫らな涙を流す自身を、クラウドが目の前で凝視している。それだけで、セフィロスの興奮は余計高まる。
「見られてるだけで、パンパンにさせるなんて、あんた変態だな」
先程から、容赦ないセリフがクラウドから飛んでくる。――それだけで、どうにかなりそうだ。
セフィロスにとって、クラウドのすべてが淫心を起こさせるものだった。鋭く透明な瞳や、怒りを含んだハスキーな声に、堪らなくなる。
クラウドに見せ付けるように、ソレに絡ませた掌や指を動かす。クラウドの視線が、ソコに集まっている――それだけで、セフィロスの口から艶やかで切ない喘ぎが漏れた。
不意に、先端に触れる自分のものではない指の感触を感じ、セフィロスは目を開ける。
「一度、逝ってしまえよ」
耳元に囁かれたクラウドの甘い声に、セフィロスは手の動きを早めた。灼熱が、先端に集中してゆく。
「ク、クラ、クラァ――!」
破裂して吐き出されたぬめりが、セフィロスとクラウドの手を汚す。
荒い息を吐くセフィロスを見下ろしながら、クラウドは指に絡まるミルクを弄んだ。そのまま右の内股を大きく開くと、クラウドはセフィロスの綺麗な色の蕾を濡れた指でなぞった。
くる――セフィロスはそう感じ、身体の力を抜く。ずぶり、と一本異物が入ったとき、セフィロスは微かに息を吐いた。
セフィロスの体液で濡れているとはいえ、二本・三本と余裕で入ったセフィロスの壺に、クラウドは眉を顰める。
「……三本とも、軽がる入ったな。
あんた、俺の知らない間に使い込んだのか?」
クラウドの冷たい揶揄に、セフィロスは愁眉を寄せた。
無遠慮に動かされ、自身の感じる場所を探す指に、セフィロスは内心驚いていた。――クラウドの指使いが、巧みだったからだ。
否、クラウドの指の動きは、セフィロスの模倣だった。クラウドを抱くとき、セフィロスはいつもこうやってクラウドのなかを探っていた。
無意識に、オレの性技がクラウドに伝わっていたのだな――セフィロスがそう思ったとき、びりり、と激しい快楽がセフィロスを襲った。
「……見つけた、セフィロスのいいところ」
快楽のスイッチを、クラウドが見つけたのだ。自分仕込みのクラウドなら、造作もないと、快楽に呻きながらセフィロスは感じた。
その間にも、クラウドの指や舌が、セフィロスの敏感な場所を這う。セフィロスは狂ったように、肉体で快楽を訴えた。愉悦の迸りは絶えず、身体は汗でしとどに濡れている。床で蛇行する銀の髪さえ、どこか凄艶だった。
なかを犯していた指が引き抜かれ、セフィロスの窄まりが、指欲しさに切なげに口をぱくぱくさせる。
「うわぁ、あんたのケツマン、棒が欲しくて仕方ないっていってる。
……お望みどおり、いま、入れてやるよ」
卑しい言葉を吐きながら、クラウドはエプロンを外し、ボトムのジッパーを下ろす。――クラウドのモノは、鎌首をもたげていた。
尻を掲げられ、膝が胸に付くくらい屈せられながら、セフィロスは菊花に暴力的な熱を持つモノを突き付けられるのを感じる。
ぐっ、と先端が挿入されたと思った瞬間、一気に根元まで突き入れられる。
「アアアアアアァァッ!」
セフィロスは強引な侵入に、悲鳴のような喘ぎをあげた。
が、痛みはなく、なかを満たされる悦楽しかない。セフィロスは無意識にクラウドを淫猥に包み込む。
「き、きつい、なか……。
もうちょっと、力、緩めろよ……」
クラウドの訴えに、セフィロスは首を振る。
「ムリ…だ。クラ…ウド、もっと……」
セフィロスは律動を促す。
クラウドは必死で腰を動かすが、自分の下で狂ったように乱れるセフィロスに胸が締め付けられ、こころが萎えそうになった。
――こういう姿を、セフィロスは俺以外にも見せた。
俺だけじゃ、ないんだ――…。
こころが虚ろになっていくのを、クラウドは止められない。
クラウドのモノが力をなくしていくのを感じ、セフィロスは訝りながら蕾に力を入れ、襞で刺激してクラウドを煽ろうとする。
が、ぽたり、と顔に透明な雫が落ちたのに気付き、セフィロスはクラウドの顔を見た。
「クラウド……」
尻の力を抜きクラウドを排出すると、セフィロスは泣くクラウドの手を引き、自身の胸に倒れこませた。
「駄目だ、俺……あんたを抱けば、気が済むと思ったのに……。
あんたが、乱れる姿を俺以外の奴に見せたと思うと、気持ちが萎んでしまう……」
泣きじゃくるクラウドの背中を撫でながら、セフィロスは本当に罪作りなことをしてしまったのだと、深く慚愧した。
細く息を吐き、セフィロスはクラウドの頬を撫でる。
「おまえは先程、おまえに秘密で誰かに抱かれ、尻の穴を使い込んでいたのかと言ったが、誰かに抱かれ馴らしていたわけではない。
……いつかおまえに抱かれる日がくるだろうと信じ、いつその日がきてもおまえを迎え入れられるよう、自分の指で馴らしていた」
「えっ……?」
セフィロスの信じられない告白に、クラウドは瞠目する。
クラウドを片手に抱きながらライフストリームに手を翳すと、セフィロスは自身と皇帝との情事の記憶を、映像として浮かび上がらせた。
皇帝の下で乱れ悶えながら、クラウドの名だけを呼び続けるセフィロス。見たことのない映像や、クジャに見せられたものもある。
「おまえが居ない間、皇帝に抱かれたが……オレのなかで、皇帝はおまえの代用品くらいの意味しか持たなかった。
オレは、オレのイメージのなかにいるおまえに抱かれていたんだ。
それでも、皇帝に抱かれていたのは事実だ。裏切ったと言われても、言い訳できない。
――本当に、すまなかった」
切々と訴えるセフィロスに、クラウドは思わず目を反らしてしまう。
詭弁だ、と罵りたかった。が、セフィロスの言うことが本当だとしたら――…。
「あんたが乱れていたのは……イメージのなかの俺に見せ付けるため?
なんで、男としての俺を欲しがるんだ?」
クラウドは湧いてきた疑問を、素直に口に出す。
セフィロスはクラウドに軽く口づけ、彼を強く抱き締める。
「欲張りなんだろうな、オレは。
オレはおまえに関わるものなら、すべて欲しいんだ。
オレに抱かれるおまえも欲しいし、オレを抱くおまえも欲しい」
本当は、おまえの童貞も欲しかったんだとまで言うセフィロスに、クラウドは思わず微笑んでしまう。
クラウドのニットとボトムを脱がせ、クラウド自身を手で愛撫しながら、セフィロスは話を続ける。
「おまえがオレを抱こうとした切っ掛けは悲しく切なかったが、オレはやっとここまできたと喜んでいたんだ。
何度もオレを抱くよう誘ったのに、おまえは乗らなかったからな」
言いつつ、セフィロスは自身の後腔に指を入れ解し始める。
止められた性交を続けようとするセフィロスの意志に、クラウドは困ったように笑った。
「……ほんっと、あんたって我儘だよな。
それに……欲しがりだよ」
喘ぎながら、クラウドはセフィロスを抱き締め、背中向いて、と彼の耳に囁いた。
セフィロスの指を引き抜き、かわりに自分の指を入れると、クラウドは先程とは打って変わって愛しむようにセフィロスのなかをまさぐった。セフィロスも後ろ手を廻し、クラウド自身を愛撫し続ける。
「セフィ……。もう、限界。
入れたい……」
クラウドの甘い囁きに、セフィロスは頷く。
「んんっ…クラァ……。
欲し、い……ッ」
クラウドは指を引き抜くと、セフィロスの腰を掴んで、高く突き出させた。
濡れた音をさせて入ってくる熱い塊に、セフィロスは眉を寄せ、凝った吐息を吐いた。
「クラ、ウド……遠慮なく、抉れ……。
もっと、オレを突け……!」
セフィロスの挑発に、クラウドは深い一突きを繰り出す。そのまま、ゆっくり掻き混ぜ、セフィロスの好い場所を先端で刺激した。
「アアッ……イイィ……!」
セフィロス自身も腰を振り、細やかな襞の動きと、意図した締め付けでクラウドを責め立てる。
「セフィッ……!
あんたが、煽る、なよ……!」
クラウドの異議申し立てに、セフィロスは顔だけクラウドに向け、にやりと妖艶に笑った。
「イヤ、だ。
おまえの、精を……すべて、搾り…取って、やる……」
さらなる責め立てをしてくるセフィロスに、煽られたクラウドの腰の動きが速くなる。
「バ、バカァッ……!
どっちが、攻めてるんだか、分からないだろうッ……!
ヤメッ……アアアアッ!」
ついにはクラウドも攻めながら喘いでしまい、様々にぐちゃぐちゃになる。
「クラ、クラッ……もっと、欲し…い……。
ハァ、アアアッ……!」
言いながらも、セフィロスはクラウドを引きずり込むよう、尻を小刻みに震わせている。
それに負けぬよう、クラウドはセフィロスの前と後ろを同時に責める。
「アアアアッ、セフィぃ――ッ!」
「クラッ、クラァッ――!」
背に垂れ掛かる汗に塗れた銀糸に口づけながら、クラウドはセフィロスに導かれ、彼のなかに情熱を迸らせた。
「俺……あんたを一旦抱いたら、抜け出せなくなりそうで怖かったんだ」
その後、クラウドはセフィロスに互いの蜜を使って壺を解され、自身のモノより大きな固塊で犯された。
散々鳴かされ逝かされて、声も枯れた状態でクラウドは呟いている。
「案の定、予想は当たってたっていうか……俺は、あんたの底無しの性欲が恨めしいよ」
潤んだままの瞳で恨みがましく睨んでくるクラウドに愛しげに接吻し、セフィロスはクラウドのなかに埋め込んだままのモノを再び動かした。
咄嗟にセフィロスの腕にしがみつき、クラウドは身体を仰け反らせる。
甘い喘ぎを漏らし続ける愛しい者を、セフィロスは夜が明けるまで、情熱のまま突き続けた。
クラウドがセフィロスを抱いた日から、ふたりは翠の光が渦巻く愛の巣で、挿しつ挿されつする夜を送っていた。
ある晩、クラウドはセフィロスの下肢を愛撫しながら眉間に皺を刻んでいた。
快楽に酔いかけたセフィロスだが、クラウドの様子に気付き問い掛ける。
「どうしたんだ? 機嫌が悪そうだな」
クラウドは愛撫の手を止め、顔を上げる。
「……やっぱり、奴に一泡吹かせないと、気が済まない」
唐突なクラウドの一言に、セフィロスは上肢を起こす。
「なんだ? 誰のことを言ってるんだ?」
首を傾げるセフィロスの腕を掴み、クラウドは叫んだ。
「皇帝だよ、あいつわざわざ俺たちの仲を引き裂こうとしたじゃないか!」
あぁ、あいつか……と気の抜けた返事をし、セフィロスはクラウドの腕を引き、バトルステージの床に倒れこんだ。
「あいつは度が過ぎた色ボケだ。放っておけ」
裸の身体を擦り合わせてくるセフィロスを、クラウドは押し返す。
「あんたはそれで許せても、俺は許せない!
あいつが最も嫌がる方法で仕返ししてやる!」
あまりにもむきになるクラウドに、セフィロスも眉を寄せ考え込んだ。――確かに、今回の皇帝は度しがたい。
「あいつは、抱く側――男らしさに拘っていたな。
奴の尻を犯してやれば、あるいはいい復讐になるかもしれないが……」
セフィロスが言い終わるまえに、クラウドが立ち上がろうとする。
クラウドの腰を捕らえ引き戻すと、セフィロスは甘いが底冷えするような声で囁いた。
「なぜおまえが立ち上がる?
まさか、自分がタチ役で仕返ししようなどと考えた訳ではないよな?」
背筋を這い上がる甘さと冷たさに、クラウドは竦み上がり、ぶんぶんと首を振る。
自分の考えを言い当てたのは、流石というべきか。クラウドは震える声で言い訳した。
「あんたっていう恋人がいる俺が、皇帝相手にそんなことするわけないだろう。
フリオニールあたりにヤラせたら、皇帝をギャフンといわせられるかな、と思ったんだ」
しどろもどろに言うクラウドに、セフィロスはふむ、と頷く。
「確かに、支配するべき義士に犯されたら、皇帝も立ち上がれなくなるだろう。
とりあえず、おまえがその気にならないでよかった。
だが、おまえのコレは、オレのものだからな。
忘れるなよ?」
セフィロスはクラウド自身を擦りながら、彼の耳に冷たい笑み含みに囁く。クラウドは何度も頷いた。
その夜、クラウドはひとつも手出しさせてもらえない状態でセフィロスを抱いた。
一方的に指や唇を使ってクラウドを煽り、自ら馬乗りになってクラウドの昂ぶりを秘蕾のなかに納めるセフィロスの乱れ姿は、妖しく美しかった。
――自分も同じようなことをセフィロスにしたことがあったが、セフィロスも同じように煽られていたのかもしれない。
極上の快楽を味わい、またセフィロスの剛物に至上の愉悦を与えられながら、クラウドは満足気に笑った。
――愛しあう形は様々。味わい方も複数ある。
それなら全部味わってみるのも、また一興――。
end
*あとがき*
長いお話を最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。
セフィ受けやリバが苦手でも読んでくださった方には、感謝感激雨霰です(´;ω;`)。
今回の話は、「無限回廊」で皇帝とセフィロスがデキていたことへの決着話なんですが……ブチ切れたクラウドが、受けとは思えない言葉を吐いたり、立派な攻めキャラ化していたりして、受けなクラウドが好きな方には、逆鱗ものだったかもしれません(汗)。
この話のテーマのひとつは、「男としての性を持つ、成人男性としてのクラウド」でした。
だから、受けキャラに偏らせたくなかったんです。
セフィロスも、あまり受けっぽくない受けにしたつもりですが、どうでしょうか(汗)。
受けでも攻めでも「攻め」というのが、うちのセフィロスのキャラクターです。
受けが攻めをアンアンいわせるのも、普通と違っておもしろいと、個人的に思います。
まぁ、管理人的には、書きたいように思う存分書けたので、楽しかったです(笑)。
紫 蘭
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