a short story
corrosion
夢は異界の入り口。
此岸と彼岸の渡し場。
ライフストリームに残る思念の干渉を阻まぬ、自由な遊び場。
ゆえに、亡者の妄執は生者の夢にとり憑き、生者の精神を絡めとり続ける。
夜毎の儀式、永劫の契りの如く――。
「んっ…も、だめ……」
誰も居ない寝室で、クラウドは身体をくねらせ、喘ぎ続ける。
腰をもどかしげに揺らすその姿は、誰にも見せられぬ淫靡なもの。
汗に塗れた身体は小刻みに震え、弛緩の瞬間を待っていた。
『んぅっ、セフィ…ぃっ……』
絶え間なく響く湿った水音は、花芯の蜜を味わうセフィロスが発てているもの。
一糸纏わぬクラウドの身体に逞しい腕を絡め、逃さぬよう捉まえている。
覚醒しているときは禁欲的な潔癖さを示しているのに、夢のなかのクラウドは凄艶そのものだ。
眠りのなかでだけ、セフィロスは過去のごとくクラウドの情人であり続けた。
生きている間、愛という絆で結ばれあったこころと身体。死してなお消えぬ執心。ただいつまでも結ばれていたいという想い。
クラウドのなかにある自身の細胞を媒介にして、セフィロスはライフストリームからクラウドの夢のなかに忍び込む。
どんなに苦しく悲しいときでも、自分を愛し包み込もうとした少年に焦がれ、堕ちた英雄は自身を殺した愛しき者を求め続けた。
肉体も魂も、すべて欲した。
そして何度もクラウドの前に現われては倒され、それでも諦めきれず、セフィロスは再度の情交を夢に託した。
舌先に味わう想い人の肌は甘美で、セフィロスの情欲を煽った。
夢のなかのクラウドは彼を拒まない。むしろ積極的に愛撫を甘受し、諸共に溺れる。
胸の突起を吸えば可愛い呻きが返ってき、彷徨う指がセフィロスのしなやかな銀糸を絡めとる。
クラウドの甘露を欲し蘂を口に含めば、腰を震わせ花蜜を零し続ける。セフィロスが舌で弄ぶと、クラウドは堪えられず熱情を解き放った。
夢のなかのセフィロスは、狂気など微塵も感じさせず、生きていた頃の毅然とした凛々しさを湛えていた。
そして、生前の淋しい空気が消え、満ち足りた優しさを匂わせていた。
クラウドはそれに安堵し、英雄をひたすら恋い慕った。
筋肉質で色気のあるセフィロスの肉体に組み敷かれ、クラウドはその愛に酔った。
舌を絡めあい、唾液を交換しながら、セフィロスの熱が情人の花壺に入り込む。
悦楽に歪むクラウドの額や目尻に接吻しながら、ゆるりと身体を揺する。
素直に返ってくる反応に、セフィロスは満足気に微笑んだ。
暖かく絡み付く花弁はひたすら心地よく、抜き身を逸らせる。
セフィロスの長い銀髪が互いの汗に塗れたクラウドの身体に貼りつき、妖艶さを視覚に訴えてくる。――それがまた、たまらない。
暴走するのはこころか、身体か。流されるのを止められず、ふたりは情熱を解放した。
『もう、夢のときは終わりだ。オレはライフストリームに戻る』
軽くついばむような口づけを繰り返し、セフィロスは翡翠の瞳に哀切さを滲ませた。
クラウドはセフィロスの頬に触れ、微笑む。
『夢は夜毎見るんだ。だから、また逢える。
そうだよな? セフィロス』
今度はクラウドからセフィロスの唇に唇を寄せる。
徐々に消えてゆく感触に、情人がライフストリームに戻ったのだとクラウドは悟った。
――彼の夢も、すぐに明ける。
身体を汗でしとどに濡らし、クラウドは目を覚ます。
ベッドに潜り込んだときのままで、何の変化もない。
だが、身体は情事のあとの余韻を残し、心地よいけだるさを感じさせる。
――また、同じ夢を見た……。
長年同じ時を過ごし、恋い焦がれた人との、夢のなかでの逢瀬。
自身が願った正気の英雄のまま、生きていたときと同じように尽きせぬ愛を注がれるのが、切なくてたまらない。
その一瞬は儚く、留められないのが哀しい。
――きっと、俺の未練が見せる夢なんだ。あの頃のあんたと、再び愛し合いたいと。
真実の英雄は、狂ったままで、自分が何度も殺した。その事実は変わらない。
――浅ましいよな、あんたを勝手に夢に使って。
そう思わないか? セフィロス……。
親友と仲間を見殺しにした悔恨は拭われた。
が、自ら恋を潰した苦しみは、一生消えない。
――俺、夢じゃなく、狂ってない生きたあんたに逢いたい。
逢いたくて、たまらない……。
小さく開いた窓から、陽光が忍び込む。
クラウドの涙が、銀色に輝いた。
end
*あとがき*
幻想小説風・セフィクラ微裏でした。
これを載せる4月16 日はACC発売日で、記念日に乗っかっちゃえ、と書きました(内容がアレなんで、フリーにはしませんが。汗)。
今回も15禁相当のエロありですが、文学作品くさく美文調で誤魔化しちゃえ〜〜! ていう感じでぼかしてます(笑)。
記念日ものなんで、相思相愛っぽく書きましたが、読んでもらえたら幸いです。
紫 蘭
-Powered by HTML DWARF-