screen behind the mirror

Clumsy Love ―side Sephiroth―






 ある晩、七番街プレートにある、密会用に借りたマンションで、オレを押し倒しながらクラウドが尋ねた。

「それにしてもさぁ、あんたなんで初めの時、策略めいたことをして俺と寝たんだ?」

 まさに事に及ぼうとするなかで聞かれ、内心戸惑いつつオレは記憶を辿る。
 質問した側のクラウドは、考え込むオレに構わず、オレのバスローブのサッシュを解き、前を大きくはだけさせ項を強く吸う。
 口づけられた箇所に微かな痛みを感じ、オレは眉を顰めつつ口を開いた。

「……明らかにセックスに慣れていなさそうだったのと、同性愛に興味がなさそうだと思ったからだ」

 十六歳になったばかりのいまでも、見掛けは不慣れそうに見えるが、オレが訓練場で見初めた当時のクラウドは、神羅軍に入隊して半年程の若輩ぶりだった。伸びきっていない身長や、年の割に細い身体つきが、年齢よりさらに幼く見せた。
 一年も一緒にいる仲なので、オレが何を考えているのか、クラウドには分かるらしい。途端に不機嫌な顔をし、クラウドは文句を足れる。

「子供だと見くびるなよ。
 あんたは勝手に童貞認定してくれたけど、あの頃の俺は経験済みだ!
 それに、男に興味がないって、見ただけで判断するなよ!」

 オレから身を離し、ベッドに胡坐をかくクラウドの姿に、思わず笑みが漏れる。
 確かにその頃からオレが好きだったと、関係が出来てしばらくのちにクラウドが告白してくれた。
 しかし、オレが初めて見たとき既に童貞を捨てていたとは。最初はオレが思うがまま動いたので、クラウドはマグロだった。
 が、それから何度か逢瀬を重ねるうちに、クラウドは自発的にオレを抱くようになった――クラウドの愛撫する手つきは的確で、手慣れていた。
 笑顔が消えたのが、自分でも分かる。上半身を起こし、オレはクラウドの上着の胸倉を掴む。

「ほぅ……おまえ、誰かと寝たことがあるのか。
 相手は誰だ。もしや、オレの知っている女か?」

 オレの怒りが伝わったのか、クラウドは激しく首を振る。

「ち、違うっ! 好きだったのは、あんただけだって!
 童貞じゃなかったのは、お節介なザックスが、極楽を味わせてやるって、何度かオレを娼館に連れていったんだよ!」

 相当焦っているのか、クラウドの顔色は真っ青だ。――少し脅しただけだが、そんなに怖かったのだろうか。
 それにしても、クラウドの童貞を奪ったのが、場末の娼婦だとは――…。オレより先に商売女にクラウドの童貞を奪われたのは癪だが、そういう相手ならクラウドも本気にならなかっただろう。
 安堵したのが伝わったのか、クラウドが恐る恐るオレの顔を覗き込んでくる。フッと笑い、クラウドの手を引いてベッドに倒れこんだ。

「さぁ、続きをしよう。
 たっぷり極楽を味わせてやる」

 クラウドの顎にリップ音が残るキスをしたとき、彼はなおも食い付いてきた。

「まだ話は終わってないって!
 あんたのメチャクチャで無謀な計画に、よくザックスが乗ったなって……」

 クラウドがまくしたてるのを遮るため、彼の唇を人差し指で押さえ、大人しくなった唇を舌でゆっくりとなぞった。




 話の続きを聞きたいのか、性急な愛撫でオレの蕾を緩め、慌ただしく身体を繋げてくるクラウドに不満は残るが、いつもより荒々しく的確な動きに、オレも流され派手に乱れた。
 なかにクラウドの飛沫を注がれ脱力し、少し肉体を休めてからシャワーを浴びにゆこうと思い横たわっていた。が、解放されたあとさっさと寝てしまうクラウドが、今夜は冴え冴えと起きている。

「話を聞かせてくれるんだろ?」

 目を爛々と輝かせるクラウドに、少しく苛としてしまうが、約束したのだから仕方がない。

 ――寝乱れて髪がもつれているうえ、なかに出されたモノが今にも零れ出てきそうなのに、こいつは……。

 言いたい本音を胸に押し込め、オレはザックスとの謀を打ち明けだした。









「あんた、正気か?」

 執務室でオレの副官として書類整理をするザックスが、クラウドに関する計略を聞き目を丸くした。

 ザックスが書いた書類にざっと目を通し、不備を見付け突き返す。書類を受け取るザックスの胡散臭いと言いたげな視線に、オレは眉を寄せ目を細めた。
 オレがこういう顔をすると、みな引き攣る。ソルジャーとしての人並み外れた闘いぶりから、近くにいる人間でもオレを恐怖の目で見る。オレの人間性に対する大きな誤解が生じている気もするが、その風評が時として便利に作用することもあるので、そのままにしてある。
 ザックスはさほどにオレを恐れてはいないが、機嫌を損ねたオレから多分に実害を食らっているので、および腰になったりすることがある。が、根があっけらかんとしており、オレの怒りの擬態もさらりと受け流せる。――だから、オレの副官が勤まるのだ。

「オレは至って正気だが? おまえの親友は黙ってオレを恋人として受け入れると思うか?」

 ザックスの問いに、至極冷静に答える。
 ばりばりとハリネズミのような頭を掻き、ザックスは困ったという顔で唸った。

「いや、クラウドがあんたを受け入れるか受け入れないかはともかく、なんでオトモダチから始めず、一足飛びに恋人同士になりたいんだ?」

 ザックスにしては的確な言葉だ。否、外見によらずひとを見る目のあるザックスゆえか。こころのなかで感心しながら、オレは深く嘆息する。

「……もう、限界なんだ。
 クラウドに触れられたい。
 クラウドに抱かれたくて……堪らない」

 今度こそ、ザックスはぽかんと口を開け、言葉を告げられなくなった。
 無理もないだろう、遠くから見つめるだけで、一度も会話したことのない相手に抱かれたいなど、正気の沙汰ではない。
 が、オレはギリギリのところまで追い詰められていた。夜、クラウドに抱かれる自分を夢想し、ひとり慰める日々。異物をクラウド自身と空想し、それを自身のなかに満たす姿はさぞかし浅ましいだろう。
 オレの真摯に悩む表情にやっと思考が追い付いたのか、ザックスは重い溜め息を吐いた。

「……そりゃ、色々大変だな。あんたは悶々しっ放しだし、あんたに目を付けてるやつも悶々だわな。
 仕方ない、面倒な事態が起こる前に、俺が一肌脱いでやるよ!」

 壁に掛かったカレンダーに目をやり、悪巧みする眼でザックスは頷いた。






 一般兵の忘年会がある夕方、ザックスの言うとおりホテルの部屋を押さえ、奴がクラウドを連れてくるのを待つことになった。なんでも、ザックスは一般兵の忘年会に顔パスで入れるらしく、酒の力を借りてクラウドを抜け出させるらしい。
 ザックスの計画を聞いたとき、オレはいやな予感に駆られた。

 ――酒か……。悪くはない手だが、場合によっては計画が潰れるかもしれん。

 セックスするときの酒は、男にとって少量ならいいスパイスになるが、泥酔するほど飲むと再起不能になる。
 クラウドが抱かれる側なら問題ない。既成事実を捏造するのに都合がよい。が、オレの意図するところでは、最悪な結果になる。
 果たして、ザックスがホテルにクラウドを連れてきたとき、悪い予感は見事に的中した。
 くたりとするクラウドを抱き締め睨むオレに、ザックスは必死で言い訳する。

「いや、大丈夫だって!
 あんたが頑張ればなんとかなるだろ!」

 焦って言いながら、ザックスはクラウドをベッドに寝かせたオレに、マテリアの填まったバングルと紙袋を手渡す。
 じりじり後退するザックスをねめつけつつ、紙袋の中身を確認する。

「あんたのことだから大丈夫だと思うけど、一応色々用意しておいたからっ!
 ではっ、健闘を祈りまっす!」

 言い捨てるように飛び出したザックスにフンと笑い、ナイトテーブルのうえに紙袋の中身を置く。

 ――できれば、これらには頼りたくはないな。

 ある瓶を目線まで持ち上げ、オレは息を吐き出した。






「……それでも、泥酔している俺を、あんたは犯したよな。一部ちゃんと記憶に残ってたし……」

 ふたりでバスタブの湯に浸かりながら、オレと向き合い話を聞いていたクラウドが疑問を呟く。
 曖昧に微笑み、オレはあの夜の成り行きを説明する。

「まぁ、色々試みたがな」

 自身のなかを慣らしつつ、オレはクラウド自身を長い時間刺激し続けた。それが功を奏したのか、身体を繋げるに足るほどクラウド自身が成長し、嬉々としてオレはクラウドに跨った。が、途中で元気をなくしたり、出るものも出ないで散々だった。

 ――仕方がない、これには頼るまいと思ったが……。

 マテリアバングルを装備し、エスナでクラウドの酒気を抜きケアルガで回復すると、ベッドサイドに置いてある瓶――興奮剤を手に取りフタを開け、クラウドに口移しで少量飲ませた。

「うわッ……あ!」

 オレのなかで起こった変化に、クラウドとオレはふたりして声を上げる。
 あとは、思うがままだ。途中クラウドが薄目を開けどきりとしたが、睡魔に勝てないのか彼はそのまま寝てしまった。
 そして、次の朝、覚醒したクラウドと改めて対面したのである。
 すべてを聞き終わったクラウドは、呆れ切っていた。

「ほんっとに、ザックスとふたりで、俺をオモチャにして……。
 どうしようもない色魔は……こうしてやるっ!」

 バスルームにクラウドの声が響いたかと思うと、いきなり彼の手にオレ自身を握り込まれる。
 当惑しながらも絶妙な刺激を与えられ、オレは再びクラウドに身体を委ねた。




 湯だけではない濡れた淫縻な水音がするバスルームで、オレはクラウドに貫かれ、自分でも思ってもみない艶やかに擦れた声を零し続けた。
 荒い息を吐きながらオレの首筋に口づけ、指に髪を絡め遊ぶクラウドが、たまらなく愛しい。



 ――こんな時間が、一生続けばいい。








end











*あとがき*



 この話は、「Clumsy Love」のセフィロスサイドの話です。
 先に載せた話はクラウド目線の話で、セフィロスの心情がぼんやりとしか分からず、さらに彼らが肉体関係を持った最初の夜の全容をぼかして書いたので、セフィロス目線で突っ込んだ話を書いてみました。



 そしたらまぁ、超絶俺様な受けセフィになっちゃって。態度だけ見てたら、攻めにしか見えないわなorz。



 あと、BLに現実的な話を持ち込むのはアレなんですが、泥酔した攻めが事に及ぶのって、普通は無理でしょ、っていうのを、昨日書いたとき頭からスコーンとすっ飛ばしていて、書いてから「やばっ;;」という状態になりました。
 が、うちの受けセフィは羞恥もへったくれもない、超アクティブな俺様仕様なので、受けセフィに孤軍奮闘してもらいました。
 小説ではあの程度しか書いてませんが、実際フ○ラしたり手○キしたり、色んなテクを使って長々とクラウドのムスコサンと向き合ってたんでしょう(笑)。
 そう考えると、俺様だけど、英雄さんはとってもいじらしいかもしれません。



 ……いや、にしても、うちとこの英雄さんって、妄想力がたくましいなぁ。遠くから見ているだけで、会話もしてない相手を思いながら、日夜悶々としていたんだから。
 まぁ、妄想力たくましいのは、「prayer」絡みの英雄さんもそうなんですが(汗)。
 なんだかんだいって、うちのところの英雄さんは、可愛いひとかもしれません。



 いつもとは違う設定の、別軸話のクラセフィが書けて、楽しかったです。




紫 蘭




 

-Powered by HTML DWARF-