screen behind the mirror

Clumsy Love ―side Cloud―





 ――シャワールームから、滝のように水の落ちる音が聞こえる。

 八番街プレートにあるファッションホテルの一室で、眠くなりそうな自分を堪え、俺は皺くちゃなベッドのうえに横たわっていた。
 俺はいまだに釈然としない。シャワールームで事後の始末をしている雲のうえの人物――英雄セフィロスと、なぜこの関係が始まったのか。






 きっかけは、昨年の忘年会だ。一般兵だけ集まる飲み会でも気軽に顔を出すザックスに勧められるまま何杯も酎ハイを飲み、潰れた俺はなぜか翌朝セフィロスとひとつのベッドで眠っていた。
 俺は何が起こっているのかよく分からなかった。ただ、俺の腰のうえで、セフィロスの白い身体が踊っていたのを微かに脳裏に止めていた。
 大変な事態に、動転しつつ俺はセフィロスに何度も謝った。そんな俺に、彼は意味深な笑みを浮かべ、口づけをしたのだ。巧みなキスをしながら、俺自身を刺激し、セフィロスは俺のうえに跨った。
 自身のなかに俺を納め、放恣に動き乱れるセフィロスに、混乱しながらも彼のなまめかしさに興奮し、俺は自ら動き始める。
 セフィロスのなかに欲望を放ったあと、俺はやっと悟った。――俺はセフィロスとザックスのワナにはまったのかもしれない。
 ザックスが俺を酔い潰してセフィロスに引き渡し、俺が前後不覚なのをいいことに、セフィロスが俺を逆レイプした――そう考えたほうが辻褄があう。
 が、俺はザックスやセフィロスを責めることが出来なかった。俺は神羅カンパニーに入社したときから、セフィロスが好きだった。
 ニブルヘイムにいた頃からメディアを通じて憧れていたけど、神羅ビル内で偶然遠くから見かけたセフィロスの強靱な空気のなかにそこはかとなく現われる儚さに、妙に心惹かれた。


 ――恋心をあたため続けた対象に無体な行いをされても、俺は喜びを感じるだけで何も言えなかった。






 初めの情事から、俺はセフィロスに誘われるままホテルで密会を重ねた。
 最初はセフィロスに委ねるだけだった俺も、自発的に彼の肉体を貪っている。
 肌を愛撫され、奥処を激しく貫かれる彼の身悶える姿は、妖艶で美しすぎる。そんな彼に、俺の理性は呆気なく崩れ、快楽を求めるセフィロスに奉仕し続けた。

 それでも、なんのつもりでセフィロスが俺との性愛を繰り返そうとするのか、分からなかった。
 ザックスと私的につるむ事が多い俺をどこかで知り、セフィロスは興味本位で俺と一時遊ぶつもりなのかもしれない。
 が、セフィロスは知らないだろう。俺が彼を好きだったことを。彼と関係を持ち、彼に対する俺の好意が、生半可なものではなくなったことも。

 ――いつかこの関係は、セフィロスの手で終わらされるかもしれない。

 セフィロスを抱きながら、俺は「終わりの日」が来ることを恐怖していた。






「最近、訓練に身が入っていないようだな」

 いつのまにバスルームから出たのか、バスローブをしどけなく纏ったセフィロスが、部屋備え付けの冷蔵庫からジンジャーエールの缶をふたつ取り出している。
 セフィロスに問い掛けられ、俺はベッドから上半身を起こした。

「自動小銃の訓練では、十射中半分以下しか的に当てられず、トンファーの訓練では組んだ相手に殴られてばかり。
 ……どうしたんだ? 前はそうではなかったのに」

 缶を手渡すセフィロスを、俺は睨み付ける。
 セフィロスの言うとおり、近ごろの俺はミスが多い。前はしないようなことで、ケアレスミスすることが多発していた。
 が、それはセフィロスとの関係を常に悩んでのことだ。俺にとってセフィロスは、なくてはならない存在になっていた。
 ――本音が、零れ出そうになる。

「……あんたの、せいだ」
「オレの?」

 合点がいかないのか、セフィロスは苦笑し、首を傾げる。
 さらに彼をねめつけ、震える声で俺は思いの丈を口にした。

「あ、あんた、なんで俺と寝たがるんだよ。ワケ分かんないよ。
 俺、遊ばれるの、嫌いなんだ。
 そういう、つもりなら……もう、誘わないでほしい」

 最後には俯いてしまった俺に溜め息を吐くと、セフィロスはベッドのうえに座った。

「……遊びのつもりでおまえと寝ていると、オレはいつ言った?
 遊びのつもりなら、わざわざザックスに頼んで逢引きのセッティングをしてもらう必要などないだろう。おまえを犯すことなど、オレならいくらでも可能なのだからな。
 ……最初から、本気だった。訓練に励むおまえの姿を偶然見たときから、おまえから目を離せなくなった」

 セフィロスの独白に、俺は目を見開く。
 確かにセフィロスなら、ザックスに頼まずとも、無理矢理どこかに引き込んでことに及ぶことも出来るはずだ。
 それよりも、最初から、俺のことを好きだって――…?

「セ、フィロス……?」

 信じられないように聞き返した俺に、セフィロスは綺麗に微笑み、俺を抱き締める。

「あぁ、オレはおまえが好きだ。
 はじめは見ているだけでよかったのに、欲張りなオレはおまえの肉体を知りたい、おまえに貫かれたいと思うようになってしまった。
 だからザックスに頼み、おまえを酔わせてホテルに運ばせたのだ。
 たった一度でいいから、おまえと交わりたかった。
 おまえを犯したことで、おまえに嫌われても構わないから、おまえの肉体の熱さを身体のなかで知りたかった。
 それなのに、おまえはオレを嫌がりもせず、誘えば必ず付き合ってくれた。
 ……嬉しくて、おまえの気持ちを慮ることもできなかった」

 許してくれ、と耳元で囁くセフィロスに、眼裏が熱くなってくる――知らずのうちに、涙が零れてきた。
 なんて不器用なひとなんだ。急いで肉体関係を結ばず、会話したり食事したりするところから始めたら、拗れたりしなかったのに。

「あんた、バカ、だよ……。
 どうしてはじめに自分の気持ちを打ち明け、俺の気持ちを確かめようとしないんだよ……。
 ……俺も、あんたのこと、好きだったのに……」

 宥めるよう俺の背を撫でていたセフィロスの手が止まる。彼はしばらく硬直していたが、ほぅと息を吐き、俺の顔を見つめた。

「確かに、オレはバカだな。おまえを手に入れたくて、先走りすぎた。
 ……これからも、ずっとオレと付き合ってくれるか?」

 優しく情熱溢れるセフィロスの声に、俺は頷いた。



 大好きだった憧れのひとと結ばれたなんて、まるで夢のようだ。
 始まりは不器用で、ある意味最悪なのかもしれないけど、結果よければすべてOK。

 ――大好きだよ、セフィロス。

 そう囁いて、俺は愛しいひとの唇にキスをした。







end











*あとがき*



 この小説は、某所の「クラセフィ祭」企画に参加するため書いたものです。



 サイトで書くとき、いつも色んな意味でセフィロスが主導権を握っている影響からか、別軸で受けていても、セフィロスが攻めくさいですね(;^_^A。
 今回の話は、連作長編とはまったくの別設定なので、セフィロスさんは純然たる受けキャラなんですが……(汗)。
 まぁ、受けキャラも男っぽく、というのがわたしのポリシーなので、仕方ないですかね。



 この話のセフィロスは上記のような俺様仕様なので、しょっぱなからエロありです。ふんわりカップルデートや、いちゃいちゃ会話では「クラセフィ? セフィクラの間違いじゃないの?」という状態になりかねないから(爆)。
 受けてるか攻めてるかでしかキャラ属性を区別できない、ってのが困ったもんです(汗)。



 今回の話は、いつも書いてる15禁小説より、性描写はぬるいです。サイトでは自由気ままにし放題ですか、コミュニティサイトへの投稿小説なので、仕方ないですね(;^_^A。



 このあと、クラウドと初めて関係したときのセフィロス大暴れ小説に続きますが、いつもと違うセフィロスとクラウドを楽しんでいただけたら、幸いです。




紫 蘭



 

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