screen behind the mirror

Game





 セフィロスが甦って、カームで仮住居していたころ、ティファから俺のもとに手紙が届いた。
 携帯メールがあるのだから、今更手紙はないだろうと思うが、ティファとしては形として残る方法で想いを伝えたかったんだろう。
 そして、配達の仕事で不在の俺に代わり、手紙を受け取りやすい人間に見せ付けるために――。






「クラウド、この手紙は何だ?」

 仕事から帰り、シャワーと食事を済ませた俺に、いつもは無口で無表情なセフィロスが厳しい顔で一通の封筒を渡してきた。
 翡翠の眼に宿る険しい光に、ごくりと唾を飲み込みながら俺は封書を受け取る。――すでに、封が切られたあとだった。
 セフィロスはもう中身を見たんだ。だからあんなに機嫌が悪いんだろうな……そう思いながら、俺は紙面に目を通す。

『クラウド、元気にしてる? わたしやマリン、デンゼルも、クラウドが出ていって寂しいけれど、普通に生活してるよ。
 クラウドがセブンスヘブンを出てから、色々考えたんだ。
 わたしたち、うまくやってたよね? ちゃんと恋人同士だったよね?
 クラウドが出ていく半年前くらいからベッドを共にしなくなったけど、わたしたち身体の相性抜群だったよね?
 なのに、どうして今更セフィロスのもとに行ってしまったのか、わたし分からない。
 クラウドがセフィロスとそういう仲だったことは、知ってる。けれど、クラウドは嫌がっていたよね?
 もしかして、また操られてるの? それなら、わたしがクラウドの目を覚まさせてあげる。
 だから――…』

 読むのが嫌になったのと、セフィロスの目線が突き刺さって痛いので、ティファには悪いが途中で読むのを止めた。
 マリンやデンゼルは、ティファに内緒でよくここに来てるから、元気にやってるのは知ってる。
 セフィロスもマリンやデンゼルが来るのに文句を言わないし、ふたりもセフィロスの存在に理解を示している。
 俺たちの仲を承知できないのは、ティファだけだ。……まぁ、その、

「……クラウド、乳女と寝たのか」

 ぐだぐだ考えてる最中に直球な言葉を投げられ、俺はまともにダメージを受けてしまう。
 ぎぎぎ、と首を軋ませながらセフィロスに顔を向けると、じとっとした眼で睨み付けられていた。

「……あ、その、なんだ。ジェノバ戦役が終わったから、俺も新しい自分の人生を始めようと模索した、というか……」
「寝たのか、寝てないのか、どっちだ?」

 しどろもどろな俺の言葉を遮り、セフィロスは容赦なく追い込んでくる。……誤魔化しは、効かないか。

「……あ…うん、ティファと関係を持った」

 俺の告白に、セフィロスの目と眉が最大限釣り上がる。……怖い、修羅場だ。

「…………ほぅ、おまえは乳女相手に童貞を捨てたのか。
 オレがライフストリームのなかでおまえ恋しさに身悶えているあいだ、おまえはあの女と乳繰りあっていたわけだな。いいご身分だ」

 無口なセフィロスが、冗舌になっている。――こういうときは、大抵怒ってるんだ。
 俺は身を縮こませる。

「……えーと、初めはティファに迫られ、流されるままティファ任せに関係した」
「クッ、さすが童貞、相手任せにセックスか。情けないな」

 嘲りを込めたセフィロスの言に、俺はムッとする。

「あぁ、確かに最初はそうだったよ!
 でも二度目からは、あんなものを見てしまったから、ティファの身体を頼らなきゃやっていけなかったんだ!」

 眉を寄せるセフィロスに構わず、俺は寝室の棚にある『ある物』を取りにゆく。引き出しからそれを持ち出すと、俺のあとを追ってきたセフィロスに押しつける。

「三枚とも宝条のコレクションだ。
 一枚は神羅科学部門に残っていたジェノバのデータ資料とともにリーブから渡され、あと二枚は変な薬とともに、ルーファウスから嫌がらせに贈られた。
 見たければ見れば? あとでどう思うか責任は持てないがな」

 一気にまくしたて、俺はそっぽを向く。
 このときの俺は、やけくそだった。だから、セフィロスに絶対見せてはいけないもの――彼を傷つけるかもしれないものを渡してしまった。
 データディスクのラベルにメモしてある日付と内容を見て、セフィロスは瞠目する。そして、少し狼狽して俺を振り返った。

「……見たのか?」
「見たから、ティファの身体を頼ったっていってるだろ」

 明後日を向いたまま俺は答える。
 深呼吸したあと、セフィロスはディスクを見比べ、二枚を選り分けて軽く掲げてみせる。

「日付からすれば……この二枚だろうな。
 おまえこれを見て、女を抱きたくなったのか?」

 俺もちらりとディスクを見、やけっぱちで口を開く。

「自分が抱かれているのを見て、女の身体を抱きたくなるわけないだろう」

 洗いざらいぶちまけさせられ、俺の機嫌は最悪だった。
 が、しばらく考え込んだあと、何を思ったのか、セフィロスはにやりと笑う。……その笑顔は、微妙に黒かった。
 寝室に置いてあるテレビのスイッチを入れると、セフィロスはプレイヤーに俺が抱かれていないほうのディスクを納め、再生する。――これには、俺がぎょっとした。

「なッ、何考えてんだ! あんた自分が抱かれてる映像を見たいのか?!」

 狼狽える俺に、セフィロスはこの上なく妖しい顔で笑う。

「違う。オレが見たいのは、これを見たおまえの反応だ」

 そういうと、セフィロスはベッドに座り、優雅に足を組んでみせる。
 彼に手招きされた俺は、蛇に睨まれた蛙状態だった。――怖い、ものすごく怖い。セフィロスが何を考えているか、分からない。
 恐る恐るセフィロスに近付いた俺は、なかば手を引っ張られる形で、彼の隣に座った。






 テレビの画面のうえでは、俺と出会ったばかりの頃のセフィロスが、プレジデント神羅に肌をまさぐられ喘いでいた。
 素裸のセフィロスが、白い玉肌に汗を浮かべ、桜色の胸の飾りを男に弄ばれている。
 ――何度か見た映像だ。セフィロスが俺を抱くビデオも胸が痛くなる。が、セフィロスが長年科学部門の玩具にされ、プレジデントに奉仕させられていた事実を思うと、余りの哀しさに泣きたくなる。
 そして、セフィロスはプレジデントに抱かれながら、擦れた切なげな声で、何度も俺の名を呼んでいた。

「この画像は、おまえがプレジデントのベッドに呼ばれたのを阻止し、代わりにオレが抱かれたときの物だな。
 プレジデントが悪趣味なのは知っていたが、まさかこんなものを録画していたとは」

 オレを横目で眺めながら、少しばかりセンチメンタルな顔で、わざわざセフィロスが解説してくれる。……言われなくとも、入社式の日のものだとは、分かっていたが。
 セフィロスが元プレジデントの愛人で、あの日俺の身代わりになってくれたことは、後日知った。
 俺はセフィロスに申し訳なく思ったが、まさかそのときの画像を、数年後に見ることになるとは予想だにしなかった。
 俺を呼ぶセフィロスの濡れた声に、胸が張り裂けそうになる。
 画面のセフィロスに釣られたような俺の表情に、セフィロスは微笑む。

「オレは、出会った日からおまえに恋していた。……一目惚れだったな。
 自分の身を犠牲にしてでも、オレはおまえがプレジデントに奪われるのを阻止したかったんだ。
 オレはプレジデントに抱かれながら、イメージのなかでおまえを抱いていたんだ。
 プレジデントがオレにするように、オレは自分のイメージ世界でおまえを愛撫し、思うがままに犯していた。
 そして、プレジデントの愛撫を、イメージのなかでおまえの愛撫にすり替えていた。
 だから、無意識におまえの名を呼んでいたんだ。
 おまえではない男に犯されているのに、おまえを想うだけでこんなに感じることができるなど、オレの想いもなかなか際どいな」

 うっ……さらっとすごい告白をされたぞ。ただでさえ恋い焦がれた美しいひとの凄艶な姿を見て、色々大変だというのに、煽るようなことを言うなよ。

 ――あぁ、まずい。悲しいビデオを見ているはずなのに、俺って非常識だ。身体が、勝手に反応し始めてる。

 風呂に入ったあとは、Tシャツと薄手の短パン一枚で大抵過ごしている。セフィロスとは一年以上一緒に住んでいるから、ラフすぎる格好をしても全然平気になっていた。
 ――が、今は下着も履かず、薄いパンツだけの状態でいることに、問題を感じる。
 進退極まり、思わず汗をだらだらかきそうになっている俺の身体に、伸びてくる手が。無防備な下肢をまさぐられ、俺は飛び上がりそうになる。

「おやおや……これでは、誰かの穴を性処理に使いたくなる気持ちも、分からんではないな」

 くすりと色っぽい眼で笑うセフィロス。その手は、まだ反応している俺を弄り続けている。それに、今ティファに対して、何気に酷いこと言ったな。

 ――って、それどころじゃないッ! まずい、このままじゃまずいって! セフィロス、触るなよッ!

 俺の虚しいこころの叫びは届かず、セフィロスは俺のパンツを脱がしてしまう。直に俺を触りながら、セフィロスは俺に流し目を送ってきた。

「このディスクが贈られたとき、オレはまだライフストリームにいて、誰かを抱かなければおまえは欲望を晴らせなかった。
 ――だが、今は違う。テレビのなかの実物が、ここにいるぞ?
 それに、おまえが少年だった頃、オレを抱きたいと言いつつ尻込みしたことがあったな。そのとき、オレは大人になったら改めてオレに挑んでこいと言ったはずだ。
 ――今が、その時じゃないか?」

 そう言うと、セフィロスは棚から夜の営みご用達のボトルを取り出してサイドテーブルに置き、手早く自分の服を全部脱ぎ捨て、ベッドに寝そべった。

「プレジデントや科学部門の研究員のように、オレをなぶってみせろ。
 たまにはおまえが抱く側にまわるのも、悪くないだろう?
 さぁ……オレに挑んでこい。昔の約束を果たさせてやる」

 艶然とセフィロスは微笑み、大きく足を開いて俺を誘ってみせる。わざと自分で花蘂や蕾を愛撫し、彼は喉を震わせる。
 俺はテレビの映像とベッドのうえの実物を見比べ、セフィロスの誘惑に墜ちた。






「そうだ……っく、うまい、ぞ……」

 いつも俺を抱く相手の美蕾に、はじめて指を入れ、俺はたどたどしく中をまさぐる。セフィロスは身体を小刻みに震わせ、とめどなく喘いでいた。
 もうテレビの画像など目に入らない。あるのは、目前の妖艶な肢体だけ。俺は雫で濡れるセフィロスを口に含んだ。頭に優しく添えられる手の感触に、俺はより興奮する。
 セフィロスの身体を愛撫したことは、以前にもあった。でもそれは愛するひとを喜ばせる一心の行いで、抱くのはいつも彼だった。
 でも、ビデオのなかのセフィロスの媚態は、物凄く凄艶で強烈だった。忘れようと何度も思ったが、頭にこびりついて離れなかった。
 が、様々な成り行きで、今、俺がセフィロスを抱こうとしている。
 ビデオのなかのセフィロスがされているのは、紛れもない凌辱だが、目の前の彼は俺より積極的だ。

「……もぅ、いい…っ。はや…く、なかに……」

 身悶えながら誘導するセフィロスに従い、俺はセフィロスのなかに自分を挿れた。
 そのあとは、壮絶だったという他ない。慣れない俺を奮い立たせようとしたのか、セフィロスは自ら腰を使って俺を追い詰めた。
 セフィロスの淫らに喘ぎ乱れる姿と、自身に与えられる快楽に追い立てられ、どれだけ自分で動いたか分からないまま、俺はセフィロスのなかで果ててしまった。






 シャワーを浴びて身体を綺麗にしたあと、俺とセフィロスは身体を絡めあい横たわっていた。

「……なんか、俺がタチだったのに、攻められたような気がする……」

 釈然としないまま、セフィロスの胸に顔をつける俺に、彼は軽く声を発てて笑った。

「だが、なかなかよかったぞ。癖になりそうなほど、気持ち良かった。
 他の男とでは駄目だったが、やはりおまえ相手だと、オレも感じることが出来るんだな」
「え、そうなのか?」

 少し身を起こした俺に、セフィロスは頷く。

「ルーファウスがディスクと一緒に送ってきた薬があっただろう?
 あれは強力な媚薬で、オレはプレジデントや研究員とセックスするとき、いつもあれを使われていた」
「そうなのか……」

 やっぱり、狂う前のセフィロスの人生は、過酷なだけだったんだ。俺は、彼の幸せそうな顔しか知らなかったから、そこまで想像出来なかった。……だから、真実を知ったとき、豹変したんだろうな。
 しゅんとしてしまった俺の額に口づけ、セフィロスは俺を抱き締めてくる。
 が、何を思ったのか、彼は枕元に置いてあるリモコンを手に取り、ビデオを再生させる。

「……もういいよ、あんたも辛いだろうから、見ないほうが……」

 言いつつテレビを見た俺は、絶句した。
 ――画面のうえで、正気だった頃のセフィロスと少年兵の俺が、激しく身体を貪りあっていた。

「……あんた、いつの間にディスクを入れ替えたんだ」

 唖然とする俺に微妙な顔で微笑み、セフィロスは言った。

「風呂場から出たあとだ。
 ……あの頃のおまえは、本当に可愛かったな。
 もちもちした肌がぷるりとして、思わず吸い付きたくなった」

 実際そうしたがな、と呟き遠い目をするセフィロスに、なにオヤジみたいなことを言ってるんだと、俺は呆れる。
 それでも、この映像にはある種の感慨がある。
 この映像はセフィロスと俺が結ばれる前のものだ。だから実際に俺と交わっている記録ではない。だから、俺自身の身体の特徴と違う部分もある。
 それでも、映像のセフィロスは、貪るように、激しく俺を愛していた。切羽詰まりながら、イメージの俺を突き上げていた。――こんなにも、俺はセフィロスに求められていたんだ。
 ジェノバ戦役が終わって暫らくのち、初めてこれを渡され見た日は、セフィロス恋しさに号泣したっけ。
 セフィロスと愛し合い肌を重ね合っていた日々が懐かしく、悲しくて堪らなかった。イメージの俺とセフィロスが、かつての自分たちの姿と重なって仕方がなかった。
 そのひとの肌の温もりを直接感じられる今が幸せだと、本気で思える。

 ――というか、今、俺の背中や尻をいやらしく触っている手は、いったい何だ?

 目を上げて睨み付けると、したり顔のセフィロスが、いやらしい目付きで俺に囁いてきた。

「おまえではないが……愛する者の乱れる姿を見ると、妖しい気持ちになってくるな。
 それに、少年の頃の可愛いおまえもいいが、美貌の際立つ現在のおまえのほうに、今のオレは欲望する」

 え……何? 何だって!?

「あんた、まだヤル気なのか!?」
「先程はオレが抱かれただろう。今度はオレが抱く番だ」

 言って、セフィロスは俺を下敷きにし、執拗に肌をまさぐってきた。

 ――さっきのだって、充分激しかっただろう。なのに、まだ足りないのか、コイツは!

 が、慣れた手つきに火を点けられ、俺も後戻りできなくなる。
 喘ぐ俺の耳に、甘ったるい声でセフィロスは囁いた。



「女の穴より、男の窄まりのほうがよかっただろう?
 女の身体になど見向きできない程、これからたっぷりオレを抱かせてやるさ」



 ある意味ドスの効いた言葉を聞き、ぞくぅっと快楽ではない震えを、俺は感じた。







end







*あとがき*


 えーと、何ていうか……、


 ティファ、本当にごめん!


 乳女とか穴とか、大概酷い書きようだと、わたしも思います(同じ女として、穴とかエグいんじゃないかと、自分でも思った。汗)。


 あれですね、なんというか、本編後に新しい人生を模索している間、クラウドとティファに肉体関係が生じてもおかしくないと思うんです。
 セフィロスが好きだったとしても、もう死んでしまっていないわけだから、クラウドも皆の手前、揺れながらも前向きに生きようとすると思うんです。
 公式小説でも、あれ、もしかしてこれ、デキてる? ふたりで一緒に寝てる? と思われるシーンがありましたし。
(まー何というか、クラウド童貞卒業のシチュエーションは、ティファに流されてマグロです。爆)


 で、AC後・セフィロスが甦るまえに、ルーファウスの嫌がらせ兼アプローチで、セフィロスが抱かれているビデオを渡され見てからは、本能的に……という感じです。
 セフィロスが無理矢理犯されているのは、ビデオを見れば分かる。そんな彼の乱れる姿を見て反応した自分、その捌け口をティファに求める……クラウドは苦悩したと思うんです。
 苦悩しながらも、脳裏のセフィロスの凄艶な姿に身体は反応する。で、ティファを身代わりにし、ふたりに悪いとずるずる……こんな感じです。ダメな男だ、クラウド(爆)。


 うーん、説明が言い訳じみている(汗)。


 で、未練タラタラなティファの攻撃に対し、結局攻めくさい受けなセフィロスの作戦勝ちで終わりました。


 この話のあとは、セフィクラセフィという感じで、ふたりのノリでリバーシブルしていくんだろうな、と思います(多分、圧倒的にセフィクラが多いだろうけど)


 ……というわけで、クラセフィはこれからも書いてゆきます。
 ジェネセフィと兼ね合いで書いていったら、充分セフィ受けサイトとして機能するかな(爆)。

 

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