a short story
刃金の神―はがねのかみ―
物には命が宿るという。
ウータイのある地方では、鏡や剣が神であると信じている。
そして、ウータイの一地方『出雲』では、鋼を神として崇めている。
クラウドがセフィロスと同棲して三年。
ふたり掛かりで剣の腕を鍛えてきたデンゼルも、かなりの使い手になってきた。
セフィロスと何度も剣を打ち合うデンゼルを眺めていたクラウドは、ふと思い付き、倉庫に向かう。
かつて、星に仇なす者となったセフィロスを倒すため、クラウドは多くの大剣を手に入れた。そのなかには、クラウドにとって曰く付きのものもあった。
クラウドはその武器を安置されていた場所から取出し、鞘から抜く。清やかな刀身に鋭い輝きを宿した剣は、使わなくなっても美しいままだ。
「クラウド、それは『草薙』か?」
後ろから問い掛けられ、クラウドは振り向く。いつのまにか、セフィロスとデンゼルが武器庫に入ってきていた。
「いや、もうこれは『草薙』じゃない。
宝条によって魔晄照射され、名も『天の叢雲』と改められた」
寂しげな様子で呟くクラウドに、そうか、とセフィロスが応える。
ひとり会話を把握できていないデンゼルが、興味深々に聞いてくる。
「どういうこと? この剣、ふたつ名前があるの?」
デンゼルの無邪気さに微笑み、クラウドは大剣を鞘に収めた。
「この剣は、セフィロスがわざわざウータイで造らせて、俺にくれたものなんだ。そのときは『草薙』という名だったんだ。
けれど、ニブルヘイム事件のあと、宝条がセフィロスの遺品整理をしにマンションを家宅捜索し、草薙を徴集したんだ。
宝条は一目で草薙が正宗の兄弟剣と見抜き、魔晄を浴びせて強化し、『天の叢雲』と銘々し直したんだ。
その後、色々ありつつも、性質を変えた『草薙』は俺の手元に戻った」
「ふぅん……」
神妙な顔つきで頷くデンゼルをよそに、セフィロスはクラウドの手から天の叢雲を取り上げ、刄を抜く。
「魔晄照射され正宗と似た資質を持ったかと思ったが、やはり違うな。
正宗は妖刀という言葉が似付かわしいが、天の叢雲は魔晄を浴びても聖なる光を失わない」
天の叢雲をクラウドに渡し、セフィロスは正宗を抜刀する。クラウドは正宗と天の叢雲を見比べ、セフィロスの言うとおりだと感じる。
正宗のぬらりとした輝きは、血の騒めきを呼び起こす。しかし、天の叢雲は迷いや汚れを祓う清烈な光を湛えている。
いや、セフィロスだけがそう言ったのではない。クラウドはある人物からも同じ内容の言葉を聞いた。
「……やはり、響き合うものがあるんだろうな。あんたとあのひと」
クラウドの呟きに、セフィロスが片眉を上げる。
「……どういうことだ?」
眼光鋭いセフィロスに、クラウドは肩を竦める。
「合体剣を造るための相談に、出雲のキスギ親子を訪ねたんだ」
「キスギ親子を……?」
にっと笑い、クラウドはセフィロスに向き直る。
「キスギ親子は、あんたのこと覚えてたよ」
瞬時目を見開いたセフィロスを、会話に追い付けないデンゼルは困惑した目で見つめていた。
そんなデンゼルに、クラウドはにやりと笑う。
「デンゼル、自分用の剣が欲しくないか?」
いきなり話を振られ、デンゼルはびっくりする。
クラウドはセフィロスに向き直り、口を開いた。
「俺、明日仕事休みだけど、あと数日休暇にする。
その間に、ウータイに行って、キスギ親子にデンゼルの剣を造ってもらう。
あんたも、付いてくるよな?」
クラウドの発言にしばし沈黙していたが、薄く微笑み、セフィロスは頷いた。
*
星が自らを救ったあと、ティファたちとの静穏な生活を送っていたクラウドは、自分用の大型バイクを入手した。
始めたばかりの配達業務を行う傍ら、クラウドはあることで悩んでいた。――星の脅威が去ったことでアルテマウェポンが消え、クラウドの攻撃力に見合う武器がなかなか見つからなかったのだ。
以前ほどではないにせよ、モンスターは世界にはびこっている。天の叢雲やラグナロクはおろか他の武器でも、クラウドの力を受けとめきれない。
何か他の武器を見つけに行くべきか――そう考えていたとき、クラウドは正宗を造ったウータイの刀工たちを思い出した。
――把握不可能なセフィロスに相応しい正宗を造ったのだ。自分の武器を造ることくらい、出雲の刀工たちには朝飯前だろう。
クラウドは携帯でユフィに連絡して道案内を頼み、フェンリルでウータイまで向かった。
「うっそぉ! あたしや親父でもお近付きになれない出雲のキスギ親子が、あんたなんかに剣を造ったなんて、ありえな〜い!」
出雲の地に案内する最中、ユフィはクラウドに愚痴を言い続けていた。
元々ユフィたちウータイの者と出雲の者は、争いあう仲だった。
同じウータイの地に根ざした人種であっても、ユフィたちウータイ人と出雲の人間は出自も信仰も異にしている。そして出雲は砂鉄などの鉱物資源が豊富だった。ユフィの祖先は出雲含め多くの部族と争い、ウータイをひとつに纏めたのである。
そういう過去があるからか、出雲の者たちはウータイに太刀や脇差、短刀などの刀剣を、なかなか輸出しようとしなかったのだ。
ぷりぷり怒るユフィに、クラウドは微笑む。
「……正確には、セフィロスがキスギ親子と知り合いだった、というべきかな。
何しろ、セフィロスの正宗を造ったのが、キスギ親子だったんだから」
セフィロスの名が出た途端、ユフィの目が険しくなる。
「嘘、だろ……!?
神羅はウータイを蹂躙したんだ! セフィロスはその先鋒なんだよ!
セフィロスに刀を造ったなんて……ウータイへの、裏切り行為だ!」
怒りに震えるユフィに、クラウドは嘆息する。
「でも、正宗が造られた当時、出雲は神羅の統制下にあった。
だから、キスギ親子は仕方なくセフィロスの刀を造ったんじゃないか?」
出雲の地はウータイのなかで先んじて神羅に制圧された。その目的もやはり出雲に眠る地下資源と、製鉄・刀工技術からだ。
それでも、ユフィは納得しない。
「どんな理由があっても、ウータイの人間は神羅のために武器を造るべきじゃない!
脅されてそうしたっていうなら、武器を造るより自害するべきだ!」
ユフィの激しい怒りに、クラウドは目を落とす。
彼女たちウータイ人にとって、神羅カンパニーは祖国を踏み躙った敵だ。その憎しみは計り知れない。
その上、セフィロスは星を破壊しようとしたのだ。クラウドたちの戦いに加わったユフィとしては、事実を知っているからこそ、余計許せないのかもしれない。
――それにしても、なぜキスギ親子は、憎むべきセフィロスに最強の刀を造ったのだろう。
ユフィが言うように、憎んでいるなら、刀を造れと命じられたとき断固拒否し、最悪自害するはずだ。出雲を制圧したのは、他ならぬセフィロスだ。
正宗も草薙も、間違いなく強さや美しさの点で見ても、最高の刀だ。そういう物を造るとき、大抵の職人は心血を注ぐ。
憎悪してしかるべきセフィロスに、キスギ親子はなぜ全身全霊を掛けて最高の刀を造ったのか――クラウドのなかで、引っ掛かり続けていた謎。
自分はその謎を解くために、出雲を目指しているのかもしれない――クラウドはそう思った。
ウータイより山を越えた海沿いの地域にある出雲は、山降ろしの風が厳しい、鄙びた漁村だった。
ユフィは鍛冶場より先に、クラウドを村長の家に案内した。ユフィの言うところによれば、村長の取り次ぎがなければ、キスギ親子に会えないらしい。
ウータイの風俗とは少し違う装束を着た村長は、漆喰と太い柱で造られた家屋の奥、囲炉裏がある部屋にクラウドたちを通した。
「で、あんた、出雲の刀剣が欲しいのか?」
胡乱な目で見てくる村長に、クラウドは持参していた『天の叢雲』を布包みから出す。
「俺が持っているこの大剣は、この村のキスギ親子が造ったものだ。
魔晄を浴びて様変わりしているかもしれないが、キスギ親子なら一目で分かるはずだ」
クラウドから手渡された天の叢雲を鞘から抜くと、村長は目を細め、控えていた使いの者に何かを言い付けた。
使いの者が家から出ていって程なく、ふたりの男がクラウドたちの前に現われた。
「おい、ナモジ。これはおまえが鍛えた剣か?」
ふたりのなかで中年の男か、大剣を見聞きする。その後ろから、老人が剣を覗き込み、はっとしたように目を見開いた。
「おぉ、そうじゃ。これはわしが造らせてもらった鋼じゃ」
「モノジ」
クラウドが真っすぐ老爺を見ると、彼もクラウドに鋭い眼光を当てた――彼とナモジという男が、キスギ親子なのだ。
「これは、鋼の男に頼まれ造ったものじゃ。それをなぜおまえさんが持っとる?」
「鋼の男……? よく分からないが、俺はこの剣をセフィロスから贈られた」
きつい目でユフィに睨まれながらも、クラウドは首を傾げつつ応える。
モノジは頷き、天の叢雲を眺める。
「おう、たしかセフィロスとか言われとったの、鋼の男は。
そうか、おまえさんのために造らされた剣だったのか。どうりで、あの刀と鋼の質が違うわけじゃ」
「あの刀とは、刀身が長い正宗のことか?」
「そうじゃ、正宗と名付けられたか。
あれは妖刀だったのぅ。自ら血を欲しがる刀だったわ」
「ちょっとぉ! あたしを置いてけぼりにするなぁ!」
クラウドとモノジが矢継ぎ早に話をするなか、ユフィの苛立ちは頂点に達した。
肩で息をしながら、ユフィはクラウドとキスギ親子をねめつける。
「あんたたち、ウータイの人間なのに、知っててセフィロスの刀を造ったの!?
敵に武器を貢ぐなんて……この、恥知らず!
クラウドも! あんたがセフィロスから剣をもらう仲だなんて、知らなかった!
あいつは、星を潰そうとしたんだよ!?
あんただって、故郷や母さんをセフィロスに殺されたんだろう!?」
激情に任せ叫ぶユフィに、クラウドは目を伏せる。
自分とセフィロスがどういう仲だったか、クラウドはユフィや仲間たちに話していない。だから、セフィロスから刀剣のような高価な物を贈られる仲だったクラウドを、ユフィはキスギ親子のように裏切り者と思ったのだろう。
が、村長が冷静な一言を放つ。
「少しは黙らんか、キサラギ家の娘さんよ。あまり騒ぐと、キサラギのゴドーに知らせるぞ。
出雲を蹂躙したというのは、あんたらキサラギ家率いるウータイの人間も同じだ」
うっ……と詰まるユフィに、今度はクラウドが不審な顔をする。
「でっ、でも! あんたら、ウータイには刀や手裏剣を卸してくれないじゃん!
セフィロスにはよくて、ウータイにはダメっての!?」
むくれるユフィに、今度はモノジが口を開く。
「我らの『鋼の神』は、おまえさんらキサラギの者が嫌いらしくての。
ウータイ用に刀を造ろうとしても、巧くいかんのじゃ」
「あーっ、もう、意味分かんないっ!
『鋼の神』が何だってんだよ! ただの言い訳だ!」
腕をぶんぶん振るユフィを、モノジが険しい目付きで見据える。
「バカモンが! わしらは『鋼の神』の御加護があるから、刀を造らせてもらっとるんじゃ!
どのような刀も、『鋼の神』の胸三寸、造りたくてもできんことなぞ、たくさんあるんじゃ!」
モノジの威圧に、ユフィはたじたじと引き下がる。ナモジは黙って頷いていた。
「……じゃあ、正宗や天の叢雲は、あんた達のいう『鋼の神』の意に適ったから、造り上げることができたのか?」
静かに疑問を口にするクラウドに、ナモジが目を移す。
「そう、としか思えんな。
あんたらに造らせてもらった二振りの刀剣は、それぞれあんたらに似合いの鋼から生まれたんだからな」
ナモジは天の叢雲の刀身を見つめる。
パチパチと、囲炉裏の火のはぜる音だけが響くなかで、中年の男は息を吐いた。
「俺とて、親父の言うことには賛成できんかった。
親父は神羅の死神を『鋼の神』と錯覚したが、俺は出雲を目茶苦茶にした神羅が憎かったからな。
だが、親父は神羅の死神の願いを叶え、弟子達と踏鞴場に籠もり、玉鋼を俺のもとに持ってきた。
――確かに造られた玉鋼は、神羅の死神のような得体の知れない妖しさを秘めていたさ。
だから俺も、すべて『鋼の神』の意志だと分かった」
ナモジは父・モノジとは違い、神羅を、セフィロスを憎んでいた。それなのに正宗を鍛えたのは、鋼に宿る『鋼の神』の意志を感じたからだ。
それほど、刀工たちにとって『鋼の神』は重要なのか――クラウドは炎の揺らめきを映す天の叢雲を眺める。
「今回ここに来たのは、いまの俺に扱える大剣が欲しいからだ。
……あんたたちの言う『鋼の神』は、俺に剣を与えてくれるだろうか」
キスギ親子を見つめ、クラウドは尋ねる。親子はクラウドと天の叢雲を見比べ、唸った。
「いまのおまえさんに相応しい剣は、なかなか難しいな。
この剣でさえ、かなりの強さを誇るのじゃ。それよりも強い剣とは……『鋼の神』の意志次第よのう」
モノジは顎髭をもみつつ、囲炉裏から立ち上がる。
「踏鞴場に案内する。付いてこい」
踏鞴場は女人禁制として、のけ者は嫌だと文句を垂れるユフィを村長の家に残し、クラウドはキスギ親子とともに山奥に分け入った。
道中、モノジはセフィロスとの出会いを語った。
「神羅は我らが見たこともない武器で出雲の者を殺し、数々の館に火を点け焼き尽くした。
わしと息子、そして踏鞴師と鍛冶師どもは踏鞴場の仮眠小屋に避難していたが、そこに現われたのだ――まだ少年だった鋼の男が」
モノジの語りに、クラウドは否応なく炎に巻かれたニブルヘイムを思い出し、眉を寄せてしまう。
が、どこか陶酔したように、モノジは喋り続けた。
「刀を手に帯び、銀の長髪をなびかせる少年に、わしは『鋼の神』を見たような気がした。
わしら刀匠に伝わる『鋼の神』の姿は、鋼のような銀の髪に、透けるような白い肌の女神と伝えられておる」
セフィロスに『鋼の神』を重ねるモノジに、クラウドは小さく吹き出す。
「……じいさん、セフィロスは男だぜ?
あんたが言う女神さまとは程遠いよ」
くすくす笑うクラウドに、ばつが悪いのかモノジはクラウドを睨んだ。
「そんなもん、初めて見たときから知っておるわ。
じゃが、わしは少年のための刀を造りたいと強く思うたんじゃ。
そしてそれは、数年後に叶うことになった。これも、『鋼の神』の思し召しなんじゃろうなぁ」
色々言い訳しているが、この老爺もセフィロスの――ジェノバの魅了の力に捕われたのだと、クラウドは感じた。ジェノバは相手が最も会いたい者の姿で現われる性質を持っている。
「わしは鋼の男に、『鋼の神』に通ずるあやしの力を感じたが、鍛えあがった刀は、まさしくあやしの刀じゃった。
数年後、その男が新しい武器が欲しいと、出雲に直筆の手紙を送ってきた。
鋼の男の願いならば、聞かねばならん。わしはそう思い弟子たちと踏鞴場に籠もった。
じゃが、造らされた鋼は、鋼の男の鋼とは違う性質を持っていた。鋼の男の鋼とは正反対の、邪気を祓う鋼じゃった。
わしは不思議に思ったが、今日おまえさんに会って分かった。やはり、『鋼の神』の意志、おまえさんのために造らされた鋼だったのじゃ」
そう言い置き、モノジは弟子たちを率いて作業場に入り、踏鞴のための炉を造り始めた。
クラウドは仮眠小屋で休息を取りながら、時折ごうごうと火が噴く踏鞴場の様子を見守っている。
モノジや弟子たちは絶妙な塩梅で炉に砂鉄と木炭を入れていた。みな、不眠不休である。
炉に火を入れてから三夜経ったあと、炉が壊され、燃えるように赤い鉄の固まりが現われた。鉄の固まりが完全に冷えたのち、固まりを壊して玉鋼を取り出した。
モノジとナモジは、鋼と睨み合い、唸り声をあげる。
「……どうなんだ?」
心配になり、クラウドはキスギ親子の様子を伺う。が、しばし黙り込んだまま、親子は動かなかった。
「……あんた、魔晄を浴びていない剣が欲しいと言っていたな。
性質に問題はないが、あんたの力には、まだ見合わんように感じられる」
ナモジに言われ、クラウドも黙り込んでしまう。
息子とクラウドの会話を聞いていたモノジは、作業場の奥にある祭壇の、小さな祠を開け、鮮やかに輝く金属を持ち出してきた。
父親が持ってきた鉱物に、ナモジは瞠目する。
「親父、それは……」
モノジはにやりと笑う。
「さよう、ヒヒイロカネじゃ。伝説の踏鞴師タケハヤが『鋼の神』とともに造ったといわれる鋼じゃ。
おまえさんの剣には、これが必要じゃろう」
自身に目を当て言うモノジに、クラウドは戸惑う。
「でも、この鋼は、踏鞴場で祀られていたものじゃ……」
「いいんじゃ、造らされた鋼と語らい、ヒヒイロカネを使えと『鋼の神』に教えられた。
鋼は神宿るもの、使われるに相応しき時を分かっておるのじゃ」
頷くモノジとナモジを見比べ、クラウドは頭を下げた。
それから数週間、ナモジは弟子と鍛冶場に詰め、熱した鋼に槌をふるい続けた。
鍛冶師たちの作業を見続けていたクラウドだが、出てきたナモジから渡された剣に、少しく息を飲んだ。
「……なんで、こんなに剣の本数が多いんだ?」
新しくできた大剣は、いびつな形をしたメインの剣に、複雑な造りの数本の剣が付属したものだった。
「さぁな、『鋼の神』の思し召しだ。
あんたなら、これだけの剣も使いこなせるだろうと、『鋼の神』は思われたのだろう」
クラウドが一本一本剣を手に取り確認しているとき、ナモジは遠くで見ていたユフィを手招きした。
近寄ってきたユフィに、ナモジは大きな手裏剣を手渡す。
「ほらよ、『鋼の神』の特別なお計らいだ。
玉鋼で造られた手裏剣だ、大事に使うがいい」
「えっ、いいの?」
目をぱちくりさせるユフィに、ナモジはにやりと笑う。
「おまえさん、ミッドガル病の村人の看病をしてくれたんだろう?
それに、ウータイを出て隔離されたミッドガル病患者の世話もしてるんだってな。
これは、俺からの……いや、『鋼の神』の心尽くしだ」
そう言って手を振り、ナモジは欠伸をしながら村に帰っていった。
こうして、クラウドは玉鋼とヒヒイロカネを鍛接させて造られた合体剣を手に入れた。
*
――『鋼の神』、か……。
夜、ベッドルームでセフィロスと身体を重ね合わせながら、クラウドは覆いかぶさる男の肩から垂れる鋼色の髪を一房取る。
この男が銀の髪を持っていなかったら、キスギ親子は正宗はおろか、合体剣も造らなかったかもしれない。それを運命の巡り合わせといわず、何というのだろう。
クラウドが物思いに耽っていると、不意にセフィロスの玉鋼に突き上げられ、クラウドは上ずった声をあげた。
「あ、あん、た……ッ!
明日から…一緒に、ウータイに行く…んだから、一回だけって、言っただろ!?」
先程一戦交えたばかりである。事後の安息に浸っているとばかり思っていたが、そうではなかったらしい。セフィロスは嫌がるクラウドをよそに、激しく腰を使いだす。
「アッ、ア、ア、ア……ッ!」
汗に濡れた肌をぶつけあい、熱く騒めく秘奥を、ぬめる焼け棒で掻き回し続けた。
再度絶頂を分け合ったあと、セフィロスはくたびれたクラウドの背を軽く叩いた。
「無理をさせたな。
オレが車を運転してやるから、おまえは車内で寝ていて構わない」
「っとに、あんたは……」
呆れつつも、クラウドは笑顔が浮かぶのを止められない。
かつてセフィロスが自分に草薙をくれたように、デンゼルにウータイの剣を渡してやれる。そうだ、マリンやティファにも土産を持って帰ろう。
何より、キスギ親子――とくにモノジは、再びセフィロスと会うことで、どう思うだろう。ひとならざる者になっていたとしても、モノジはセフィロスを受け入れてくれるだろう。それを思うと楽しみだ。
クラウドはセフィロスの腕に包まれながら、『鋼の神』の呼び声を聞いたような気がした。
end
*あとがき*
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
2011年のお正月記念に書いたお話で、FF7の世界を舞台に、日本の文化をフィーチャーしたお話です。
話的には、2010年クリスマス小説の関連作という位置付けになっています。
いつもとは違うファンタジックな話ですが、楽しんでいただけたなら、幸いです。
紫 蘭
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