「触って欲しいなら足開け。」
「アッ……ンンンッ」
ジジ……と蜜蝋が焦げる音しかしない天幕に、くぐもった喘ぎが小さく漏れる。
芯を短く切ってあるので、ごく僅かしか明かりがない。が、楚鴎の目にはひとつの陰りもなく、薄紅に染まった肌を見ることができる。
朱色の敷物の上に散らばるのは、赤色の単衣や浅葱色の下裙、桃色の襦袢。すべて、女性が身に纏う代物である。
が、彼が下敷きにしているのは、どこか幼い顔貌の男子だ。比較的筋肉が少ない。か細い体付きと繊細で柔和な容貌は、女子と錯覚させる。
一糸纏わぬ姿で、汗を滲ませる身体に、楚鴎は指先だけで愛撫を加えていく。脇腹に触れるか触れないかの間隔で指を滑らせると、少年は艶やかな声で囀った。
「そ、楚鴎……は、やく……終わらせて……ッ」
少年は楚鴎に請い願う。
楚鴎はにべもなく、彼の願いを一蹴した。
「まだだ、佳羅。
おまえに徹底的に快楽を仕込んでいくのは、今の耐久力ではその身を復讐の具に使えぬからだ。我慢しろ」
佳羅と呼ばれた少年は、幼い瞳に似つかわぬ淫猥な揺らぎを湛えて、楚鴎を睨む。
厳しい眼差しに薄らと笑み、楚鴎は食い付くように接吻する。舌で佳羅の口内を舐め回し、歯列の裏をなぞる。
それだけで、彼は佳羅の身体が敏感に反応するのを知っていた。幾度となく激しく抱き、精通を迎えていなかった高貴な肉体を淫靡なものに変えたのは、彼なのだから。
燐佳羅という名は、楚鴎が名付けたものだ。
もとの名を、暉玲琳という。暉は南遼という国の王族の姓――彼は、王子だった。
本来なら、王族として尊貴な血筋の姫を許婚にし、兄王子を助け南遼をもり立てていくはずだった。
が、彼が婚約していた北宇の姫・昭羽依が絶世の美少女であったため、北宇の皇帝がこれを見初め、邪魔者である羽依の婚約者・暉玲琳を彼の国共々抹殺しようとした。
辛うじて玲琳だけ生き残り、楚鴎が身柄を拾って今に至る。
暉玲琳は北宇の皇帝・牽櫂と許婚であった昭羽依に復讐するため、楚鴎に助力を願った。
その彼に、楚鴎は美貌を生かして女に擬態すること、舞姫としての術を身に付け、疑われずして北宇の後宮に潜り込め、と助言した。
ところが、楚鴎が玲琳に与えた提言は、それだけではなかった。
――妖艶さを身に付け、その肉体で他の人間を篭落せよ、と。
誇り高い王子・玲琳は不快さを示し、絶対に楚鴎の案を飲もうとしなかった。
そんな彼を楚鴎は強引に犯し、徹底的に肉体の愉悦を叩き込み、滅茶苦茶に狂わせた。
身体と誇りを引き裂かれ、何もなくなった玲琳は復讐だけに縋り、舞姫・燐佳羅としての生き様を受け入れた。
「ンアッ!……ハアァッ……アァンッ……」
舌を延ばし尖らせて臍の辺りを舐めると、佳羅は湿った声を零す。舌先で擽られ、彼は腰を弾ませる。
が、大腿は閉じ合わせたまま、堅く奥への侵入を拒んでいる。
華奢な身体を俯せに反すと、楚鴎は背筋から腰、双臀の分け目に舌を這わせる。両手は乳首をつねり、引っ張る。そのまま腹筋を通り臍の窪みを抉って、恥骨を彷徨う。
楚鴎は臀部の割れ目に唾液を滴らせながら、小刻みに震える佳羅に問い掛けた。
「……逝かせてほしいか?」
佳羅は何度も激しく首を振る。
切羽詰まった彼の様子に、楚鴎は唇だけで笑った。
「……なら、自分で足を開け。触ってほしいなら、な」
ビクッ、と佳羅は大きく身体を弾ませ、恐る恐る己の背に覆いかぶさる男を見る。
否、と首を横に振るが、猛禽のような楚鴎の目の輝きが弛むことはない。
頑強に従わない佳羅に、楚鴎は愛撫を更に加える。
尖り切った胸の突起を指の腹で擦り続け、ぷくりと膨らんだ実をくりくりと揉む。片手の指を尻の狭間に無理矢理突っ込み、小さな窄まりをくるくるとなぶる。時折、穴のなかに指の先端を差し入れる。
「アアッ……ンアァッ……イヤァ……ッ」
もはや啜り泣きに近い声が佳羅から漏れる。
「……さぁ。触って欲しいなら、足を開け」
ぞくり、と佳羅の背が震える。
少し楚鴎が身体を離すと、佳羅は肉体を反転し、恐々と、ゆっくり大腿を開いてゆく。
羞恥に涙を流す美麗な顔と、はっきりと屹立し涎を漏らす一物を、楚鴎は期待を籠めた目線で眺める。
だが……まだ足りない。もっともっと曝け出したい。
「まだだ。足を開き、俺を淫らに誘ってみろ」
信じられないように佳羅は男を見る。が、ぎらぎらと欲望を漲らせる眼に勝てないと悟り、佳羅はぎりぎりまで股を開き、自ら男根に手を添えて懇願した。
「触って……わたしを、メチャクチャに、して……。早く……」
汗に濡れる紅潮した頬、擦れた声、見せ付けるように僅かに上下させモノを擦る手に、楚鴎の忍耐も切れ、佳羅の淫らな手に掌を重ねる。
「アハァンッ! アアアァァッ――!」
素早く扱く楚鴎の手と、同時に蕾に潜り込んだ何本かの指に翻弄され、佳羅はびくんびくん、と身体を弾ませる。
ふたつの玉を柔々と揉まれ、亀頭を親指で捏ねられる。佳羅は追い上げられ射精した。
が、楚鴎の責めは終わらない。
一度逝った陽物を口に頬張り、舌を絡めてしゃぶる。顔を上下させ剛直を抜き差しし、強く吸引する。扱かれ、むしゃぶられる雄蘂は休む事無く上り詰め、楚鴎の口のなかに体液を何度も注ぐ。
尻穴に指を刺されたまま再度身体を裏返され、佳羅は呻く。
指を抜き去ると、楚鴎は尖らせた舌を花にねじ込んだ。突きながら粘膜を舐め擦る。
果てたばかりの逸物にまた手が延び、いやらしく触わられる。乳首も空いた手でなぶられ、佳羅は気が狂いそうだった。
幾度となく逝かされ、隠すことを許されず、隅々まで貪られる。穴からは楚鴎の唾液と佳羅自身の分泌液が股を伝って落ち、白濁液と交じって染みをつくる。
いつ終わるのか、いつまでこんな恥辱を受けねばならぬのか、淫蕩に変化していく身体を、甘んじて受けとめねばならぬのか――…。
いくら絶望しても、絶望に終わりはない。どれだけずたずたに傷つけられても、誇りを忘れられない。
こんなこころは、もういらない。狂ってしまえばいい。いっそ、どこまでも淫乱になってしまえ!
佳羅のなかの「玲琳」が自棄を起こして叫んでいる。
女に驕持は必要ない。女は組み敷かれ、悶えても痛むこころがない――。
何につけても、中途半端な己。いっそのこと、悦楽にすべてを任せてしまえたら――。
ばらばらになったこころで、佳羅は己が悶え乱れる姿を見る。尻を振り、陽根を細やかに突き出し、男の手を助長している浅ましい身体。
そうだ、快楽に、男に酔ってしまえばいい――…。
「アァアンッ、ハァッ、ハアッ……もぅ、ゆる…し、て……アッアッ……」
佳羅は貪欲に快楽をむしり取りながら、涙を流し口ではいやいや、と許しを請う。
それでも、なお続く悦楽の宴――。
赤紫に変色した男根は未だ楚鴎の手にあり、だらだらと蜜を垂らしている。秘奥は楚鴎の指を美味しそうに食み、蠕動している。胸の突起はぎりぎりと引っ張られ、痛々しく腫れている。
はぁはぁ、と荒く息をしていた楚鴎が唐突に身体を離す。
「もうッ……限界だッ」
いうなりずぶり、と奥を魁偉な象徴で刺し貫き、激しく前立腺を突いた。
「ハアァッ――――!!」
強い刺激に、既に色の付かなくなった体液が佳羅の勃起から飛び出す。
過激に奥のしこりを突かれ、佳羅は何度も吐精する。淫液が吹き上げる肉柱を、男の武骨な手に弄ばれる。楚鴎の動きに翻弄され、佳羅は男の下で淫らに踊る。
瞳はとろりと濁り、半開きの口からは唾液がこぼれ、顎を伝う。既に、意識は混濁している。
楚鴎はがむしゃらに佳羅を突き立て、何度も揺さ振る。
いつのまにか意識を失った佳羅に気付かずに、楚鴎は何度も彼の中に劣情を吐き出した。
気を失ったまま寝入っている佳羅に毛布を被せ、楚鴎は彼の前髪を撫で上げる。
疲れ切って憔悴した顔。そこにはまだ涙の跡が残っており、どれほど己が彼を意の儘に犯したのか思い知らされる。
初めのとき、泣き叫んで拒む玲琳にかまわず、無理矢理彼の陰柱にしゃぶりついた。初めての射精に彼は戸惑い、恥じらった。混乱し身を捩る彼のものをそれでも終わらず吸引し、扱いて何度も逝かせた。
自己嫌悪と恥辱に震える佳羅の後花を、後日強引にこじ開け、指で暫らく慣らし続けた。いい具合に綻んだと解ったとき、男根の味を花に教え、馴染ませた。
信頼する義賊の者とふたりで佳羅の身体を弄んだ。上と下から絶え間なく責められ身悶えする佳羅を、ふたりして無理な体勢で貫いた。
餓えた男のなかに佳羅を放り込み、精神が崩壊する直前になるまで男たちに犯させたこともあった。
それも、彼が復讐に身体を使うことを覚えさせるため、というのは――半分は嘘だ。
本当は、気高く美しい少年を犯したかっただけだ。否、その身体が、こころが欲しかっただけだ。
愛しくて、愛しくて堪らない――玲琳。
身体だけでなく、こころまで奪えたら……。
「おまえにとっては……俺は無理矢理肉欲の味を覚えさせた者という認識しかないだろうな
それでも、俺は……おまえを愛しているんだ……。
本当は、誰にもおまえを抱かせたくない。他の者の腕のなかで乱れるおまえの姿など、見たくはない。
ましてや、おまえが誰かと愛し合うところなど……死んでも見たくない。
誰も、愛さないでくれ……おまえが誰も見さえしなければ、俺は正気を保っていられる」
こころのうちを、悲しみが吹き荒ぶ。
強い欲求に従い、楚鴎は佳羅に口づけた――。