「指だけでイッた?」




 最近、サウルはある視線に悩まされている。

 彼はバアル神殿の巫長・ヨシュアに呼ばれて頻繁に神殿に行くが、その度に熱い視線を注がれている。誰なのだろう? と思い辺りを見るのだが、見廻してもそれらしき人物は誰もいない。

「巫長。俺、最近ここでやばいことしましたか?」

 視線が余りにも執拗なので、寝台に腰掛けたサウルはガラスのデカンタから葡萄酒を酌むヨシュアに尋ねる。
 卓に酒器を置き、ヨシュアはサウルを見た。

「これといって、何もないぞ。
 ――いや、何もないことはないか」

 面白そうに言うヨシュアに、サウルは血相を変え立ち上がる。

「え、えっ?! やっぱり俺、何か顰蹙を買うようなことを……!」

 焦るサウルの唇に、ヨシュアの唇が重なる。絡まってくる舌に、吐息を弄られサウルは切なげに眉を潜めた。
 濃密な口づけのあと、ヨシュアはサウルの耳元に囁く。

「……こうやって、昼最中から何度もわたしと身体を重ねている」

 ヨシュアの妖艶な声音に、サウルの心臓が強く跳ねた。
 頬を真っ赤に染めるサウルを余所に、ヨシュアは耳朶を軽く食みながら小麦色の項を撫で上げる。
 サウルの口から、喘ぎが漏れた。

 ――まぁ、確かに初中終(しょっちゅう)巫長と身体を交わしてる俺は、他人から見れば異様なんだろうな。

 衣を乱されながら、サウルはヨシュアとの経緯を思う。
 イスラエル一の石工の弟子として、巫長・ヨシュアから特別にバアルの成人儀礼を受けたのが、彼らの始まりだった。
 それからサウルは、バアルの対神である女神・アシェラ神殿に詣でるようになり、巫女・エーシャと睦まじくも神聖な聖娼儀礼を行っていた。
 ある日、サウルはヨシュアから呼ばれて、女神神殿での儀礼の進度を報告しに行ったのだが、丁度そこにイスラエル王妃イゼベルと、彼女が故国フェニキアから連れて来た取り巻きの男巫達がやって来た。イゼベルと男巫達の、ヨシュアをもてあそぶ遊びに巻き込まれたサウルは淫蕩なヨシュアの姿に欲情してしまい、終にはヨシュアの男根によって初蕾を摘まれ、彼自身の欲情をヨシュアの中に放った。
 それ以来、ヨシュアとサウルの関係は昼夜問わず続いている。ヨシュアの時間が取れない日は夜に神殿に忍び込み、昼間が空いている時はヨシュアに堂々と来いと言われた。
 夜は皆眠り込んでいるから誰にも気付かれぬ。が、昼間は人目がある。ヨシュアの行いは大胆といえた。ヨシュアはサウルに性感を与えて喘がせ、己がサウルに貫かれて悶える。人の耳目に届かぬはずがない。
 最近、そのことがイゼベルの耳に入り、彼女が催すサウルとヨシュア、そして男巫との目合い(まぐあい)のなかで餌になった。

「そなた達はほんに仲が良いな。ほれ、そなた等の濃厚な交わりに、この者等も加わらせてやっておくれ」

 深まったヨシュアとの仲を盾に取られ、否応無く激しい乱交に発展してしまう。
 サウルはイゼベルの配下である男巫との交わりを嫌がっていた。が、ヨシュアとの関係を知られ、拒むことが出来なくなった。
 ゆえに、今は男巫が望めばサウルも男巫の陽根を尻の窄まりに受けている。
 近頃は、巫長・ヨシュアの慈愛を受けることを望む男巫の気持ちが、サウルにも痛いほど理解できる。彼らはイゼベルから嗾けられたことが理由ではなく、ヨシュアの慈しみを受けることを欲していたのだ。
 同情心と肌を重ね続けて馴染んだからか、彼等との交わりに慣れつつあるのが、サウルには恐ろしい。
 ヨシュアにもそれを指摘され、からかわれた。

「本当におまえは、誰かれなく慈愛を注げるのだから、この神殿の男巫以上に巫らしいな。市井の者にしておくのが勿体無いくらいだ」

 そう言われて、サウルは溜息を吐きそうになった。
 神殿のなかにどっぷり浸かりこみ、巫というものの実態を知っているサウルは、巫になると今以上に不自由になることを理解していた。
 平気そうにしているが、ヨシュアにとって巫長という職務は過酷なものに他ならない。嫌悪する者にもその身を許さねばならず、市井の男のように惚れた女を妻に求めることが出来ない。
 サウルはヨシュアの愛している女が誰か、知っていた。
 彼も、ヨシュアの想い人に憧れていたからだ。思うままにならず、自身を犠牲にせねばならぬヨシュアのためなら、サウルは己の身をいとわぬ、と思った。だから、ヨシュアの希望を聞き届け、サウルは自ら仕事の合間を縫ってバアル神殿に詣でていた。
 肉体を繋げていたが、サウルのヨシュアに向ける想いは、大人の男性に対する憧憬であって、恋ではなかった。恋ではないが、ヨシュアと一体になるとえもいわれぬ陶酔と多幸さを感じられた。
 それは、女神神殿の巫女・エーシャに対しても同じである。男女の情熱的な感情を持っていなかった。が、己を抱くエーシャは女神そのもので、彼女が齎す情けに酔っていた。
 サウルは、神の代理である巫から注がれるものは、熱情ではなく神の恩寵だと思っていた。神は、慈愛でもって人を繋ぐものだと感じていた。

 イスラエル王国はイスラエルの神を祀っているが、今でもイスラエルがカナンと呼ばれていた頃の神々を祀っていた。バアル神とアシェラ女神は夫婦でありカナンの主神である。
 男神と女神は豊饒の神であり、男女の結びの神でもある。
 それぞれの神殿には、神聖なる巫がいた。彼らは神聖娼婦といわれ、神々の依坐となり信徒達と性愛を交わし愛と陶酔を与えていた。
 聖なる愛の秘術により、巫達は成人していない者に愛の行為の嗜み方を教えた。
 彼等は子の無い夫婦のため、不妊である者に代わって男巫は妻に胤を授け巫女は夫の子を孕む。
 男であって女のこころを持つ者は女神の侍者となり、女であって男のこころを持つ者は男神の召使になった。肉体と魂の食い違いに悩む者は、生来あるこころと定められた運命に従い神殿に生活した。
 巫と人が愛を繋ぎ、愛が輪となって人々を結ぶ――古来から、カナンの神々は「和」の招来者でもあった。
 巫長であるヨシュアとサウルの交わりも、その一端である。彼との交合は聖娼との儀礼であり、魂を聖別する行いである。
 ヨシュアは只人にしておくのは勿体ないと言ったが、サウルからすれば仁慈なる態度はヨシュアやエーシャから引き出されたものだと思っている。

 裸の身体を接し内股をまさぐられ、サウルは腰をもぞもぞと揺らし続ける。ヨシュアに尖った乳首を舌先で突かれ、彼は跳ねた。

「巫…長……っ」

 勃ちあがった男根から雫が漏れる。ヨシュアはそれに気付きながらも触れず、双玉付近を指先で軽くなぞった。
 意地悪な相手に、サウルはつい腰を突き出してしまう。が、ヨシュアはすっと身体を離し寝台から降りてしまった。

「……喉が乾いた」

 唇を噛み締めサウルが身体を起こすと、ヨシュアはガラスの杯を手に取っていた。彼は一気に中身を飲み干すと、サウルの杯を手に寝台に戻ってくる。
 サウルの肩を抱くと、ヨシュアは葡萄酒を口に含み、サウルに口移しで飲ませる。重くて豊潤な香が、サウルの喉を滑り落ちていった。ヨシュアはもう一度同じようにしてサウルに酒を飲ませる。
 酒杯を手にしたまま、じっとヨシュアはサウルの股の中心を見る。たらたらと透明な液を垂らし続けているそれに、ヨシュアはふっと微笑みサウルの前にしゃがみこんだ。

「……股が汚れているな、洗おう」

 何を言うのかと顔を上げたサウルは、陽物に注がれた冷たい刺激に息を飲んだ。
 男根に赤紫の液体が塗されている。ひくり、と弾み雄は更に膨らみ角度を付けた。

「特に、ここがひどく汚れているな」

 ヨシュアは陽根の先端に直に葡萄酒を注ぎ、小さな穴を揉む。

「あぁあんっ! はあぁぁ……」

 洗ったはずなのに、次から次へと湧き出てくるもの。ヨシュアはにっと笑いながらぐちゅぐちゅと音をさせ先端を抉り続ける。
 サウルは悦楽に支配されて察知していなかったが、ヨシュアは気配に気付いていた。――扉の陰から、誰かが伺っている。
 ヨシュアは仕方ないというようにため息を吐き、サウルの上肢を軽く倒し、足を広げ彼の股間がよく見えるようにした。反らされた上体の下部に屹立する猛々しい男根や小さな尻の窄まりに、熱い視線が注がれる。
 見せ付けるように、ヨシュアは先走りを塗り付けながら棹を扱き上げる。サウルの首筋からへそに掛けて葡萄酒を垂らし、特に両の乳首に酒を塗り込めた。指先で乳首を軽く摘むと、サウルを喘ぎを漏らした。
 肌から葡萄酒を吸い込んだのか、サウルの身体が朱に染まっている。滲むような紅色が注した皮膚から、玉の汗が滲んでくる。
 時折親指で傘を揉み、下から上に向けて肉柱を擦り上げる。サウルの身体がびくびくとひくついた。

「あっあっ、で、でるっ――!」

 サウルが叫ぶなり、張り詰めた雄蕊から勢い良く白濁液が噴き出した。何度も脈打ち、間隔を空けずに彼は射精した。
 ヨシュアは掌に付着した粘液を全て舐めとる。
 シーツの上に零れた精液を指で掬いとり、サウルの後孔の襞に塗り込める。精のぬめりに助けられ、窮屈な穴が軟らかく解されてゆく。

「ああぁ……はあぁっ」

 引き締まった太股を小刻みに震わせ、サウルは喘ぎ続ける。
 菊花が弛まったところで、ヨシュアは葡萄酒の杯を再度取り上げ、二本の指で押し拡げられた媚腔に注ぎ込んだ。

「ひ、ひゃっ……! な、何を……っ」

 体内に直接入れられた冷たい酒に、サウルはびくんっ! と身体を弾ませた。
 悪戯っぽくヨシュアが笑う。

「まだ、飲み足りないだろう? 素早く酔いを受け取れるよう、わたしが馴染ませてやろう」

 ヨシュアは指で葡萄酒を内壁に万遍無く塗り付けてゆく。水気が無くなると、再び酒を尻穴に注いだ。

「い、やぁっ……!」

 ぐじゅぐじゅと、小さな穴のなかで掻き混ぜられる葡萄酒。納まり切らなかったものは穴からあふれ出てくる。

「あふっ、ああぁ……」

 捏ねくりまわされる媚肉が、酔いに麻痺して悦楽をより増させる。時折前立腺をまさぐられ、サウルは嬌声を上げた。
 またも勢いを取り戻すサウルの男根。びくんびくんと脈打ち、だらだらと体液を流し続ける。

「……また感じてきたか? サウルも、すっかり後腔で感じられるようになったな」

 ヨシュアに耳元で恥ずかしいことを言われるが、すっかり酔ってしまったサウルは耳に止められていない。
 期が来たことを悟り、ヨシュアは扉の向こうに目で合図する。
 おずおずと扉の外から姿を現したのは、蜂蜜色の柔らかな髪を持つ、大きな翠瞳の小柄な少年だった。押さえきれないのか、少年は荒い息を吐きながら自身の陽根を扱いていた。
 ヨシュアは少年の耳に、サウルに聞こえぬよう囁く。

「今度(こたび)だけだぞ、次からは自分でサウルに挑むのだ、よいな」

 少年は頷き、衣を脱ぎ捨てると、目元を赤く染めてサウルの片膝に触れた。
 ぴくり、とサウルの身体が動く。酒と愛撫に蕩けた彼の身体は、少しの感触だけで快楽を敏感に捉えるようになっていた。
 サウルの反応に少年は驚き、ぱっと手を離してしまう。
 まだまだ初々しい少年の仕草に苦笑いし、ヨシュアはサウルの秘腔に三本指を差し入れ蠢かした。指は容赦なく中のしこりを突き、爪先で擽(くすぐ)る。

「はあぁぁっ……!」

 サウルが悩ましげに喘ぐ。腰をのた打たせ、己を犯し続ける指から逃れようとする。膨張してゆく陽物の先から、蜜が湧き出でる。
 艶めかしいサウルの姿に、少年は堪らなくなり勃起した己のモノを忙しなく扱く。サウルの陽根の律動に合わせ、少年は腰を小刻みに突き出した。
 サウルを追い詰めるヨシュアの指の動きが激しくなる。前立腺を何度もいたぶられ、サウルは際に追い上げられていった。
 少年も、手の動きを早める。

「んくぅっ……!」

 悦楽に翻弄されたサウルは、またも精を吐き出してしまう。
 同時に、少年も吐精する。
 はぁはぁと肩で息をするサウル。二度目の絶頂に、脱力しきっている。

「……指だけで逝ったな。本当に、おまえは淫らだ」

 甘く耳打ち、ふるふると首を振るサウルに微笑むと、ヨシュアは少年を手招きした。

「さぁ、遠慮するな。この淫らな果実を、口にするがいい。熟した秘所を確かめてみるがいい」

 小声でヨシュアに語り掛けられ、少年は震える唇を萎えたサウルの男根にもっていった。白い粘液に塗れた雄を、少年は舌で清める。
 ヨシュアは少年の手を取ると、彼の指をサウルの穴に持っていった。

「テルツ、欲していたものに、触れるがいい。
 おまえは男巫の修業が上の空になる程、サウルに焦がれていた。
 今、サウルへの想いを遂げるがいい」

 ヨシュアの手に導かれ、ずぶり、と少年――テルツの指が穴に潜り込む。
 一気に奥まで抉り込んできた何本もの指に、サウルは弛緩していた身体を強ばらせる。体液を舐め取っていた舌が、膨らみだした彼の男根に絡められる。咥内の絶妙な吸引力に、サウルは足を震わせた。

「ひうんっ! あぁっ」

 尻穴を刺激された上に男根をもしゃぶられ、サウルは身体をくねらせる。
 不意に、彼の口に唇が重なり、両の乳首を捏ねられた。サウルは目を開ける。
 ――男根を銜え込まれているのに、接吻されるのはおかしい。
 目に入ったのは、ヨシュアの鵄色の瞳と長い睫毛だった。
 サウルは混乱状態に陥る。
 ――今、己のモノを舐めているのは誰だ?!
 サウルは身体を起こし、己の下肢を犯す者を確かめることを欲する。
 が、ヨシュアは執拗に口吸いと乳首の刺激を止めようとしない。
 そうしているうちに、ちろちろと男根の先端を抉る舌先や、棹を扱き上げる手、穴のなかを暴れ回る指に、サウルは縛り付けられてしまう。
 何度も逝き続けた身体は、緩みきって放咨な乱れを示し始める。嫌がっていたはずなのに、サウルは大腿を大きく開き恥部を曝け出していた。

「んむっ……ふむうっ……!」

 ヨシュアに口付けされたまま、サウルは呻きテルツの口のなかに射精してしまう。
 びくびくと痙攣するサウルに、ヨシュアは彼を接吻から解放する。
 せわしなく息を吸い込み、サウルは胸を上下させる。疲れと酔いから、身体の力が抜けいうことをきかない。
 それでも身体を無理矢理起こし、サウルは己の吐き出した精を喉に流し込もうとしている人物を見る。
 それは、見覚えのある少年だった。

「……テ、ルツ……」

 彼はつい最近バアル神殿に、男巫見習いとして信徒に顔見せした少年だった。
 テルツはヨシュアに付き従って、男巫としての儀礼や作法を学んでおり、サウルとは何度も顔を合わせていた。
 一歳年上のサウルに親近感を抱いたのか、テルツはよくサウルに話し掛け人懐こい笑顔を見せてきた。
 が、何故か最近、テルツはサウルの顔を余り見なくなった。たまに見かけたときでも、テルツは慌てて目を反らした。
 それなのに、どうしてテルツは己を犯そうとしているのだろう。
 そして、巫長は何故このように仕向けたのだろう。

「……どういう…ことだよ……」

 サウルの猜疑の眼差しに、テルツはびくり、と竦む。

「巫長も、なんで……」

 ヨシュアは玉虫色の笑みを刷き、テルツをちらり、と見る。
 サウルに責められ、テルツの面が憂いに曇る。唇を噛み締め、緑の眼に涙を溢れさせる。

 ――えっ?!

 少年の薔薇色の頬に涙が伝い、サウルは瞠目し戸惑った。

「……サウル、すまぬがテルツに抱かれてやってはくれぬか?」

 頭上から浴びせられた言葉に、サウルは顔を上げる。
 困ったように、ヨシュアが微笑んでいた。

「な、何でですか……」

 己の意など介しない一方的なヨシュアの願いに、サウルは反発する。

「わたしが多くのことを言う資格はないが……。
 近ごろおまえを悩ませていた視線がテルツのものだといえば、理解できるか?」

 えっ、とサウルは悲壮さを醸し出しているテルツを見る。テルツは顔を背け、サウルの視線を受けるのを避けた。

 ――テルツが俺に拒まれ、泣いている?
 それに……ずっと俺を見つめ続けていたのが、テルツだって?

 テルツはサウルに会うのを避けていたふしがある。なのに、陰からこっそりサウルを見続け、抱きたがっている。
 恋などの情念に触れたことのないサウルは、ヨシュアの言葉を理解出来なかった。
 サウルが当惑しているのを見て取り、ヨシュアは派手に嘆息してテルツを呼んだ。

「テルツ! 構わぬ、今すぐサウルを抱け!
 わたしが責任を取る!」

 言った途端、ヨシュアは呆気に取られるサウルを俯せにし、彼の尻を抱え上げる。
 無理矢理組み伏せられ、サウルは抗おうとする。が、身体に酔いが回り、思うように動かせない。頭も朦朧としている。

「み、巫長ッ!」

 サウルの抗議に聞く耳を持たず、テルツの手を引っ張り寄せると、ヨシュアは男巫の陽物を扱き上げる。
 テルツの男根に挿入可能なくらい角度を付けさせ、ヨシュアは雄をサウルの秘腔に擦り付けた。

「あぅっ……!」

 テルツから声が漏れる。
 ヨシュアは何度もテルツの亀頭で、サウルの敏感な窄まりを責めさせる。
 幾度も絶頂を迎えた身体は、少しの刺激にも過剰に反応する。サウルは悩ましさに眉を潜めた。
 テルツも、それは同様だった。

「……サウルさんっ、ごめんなさいっ――!」

 言うなり、テルツはサウルを自身の昂ぶりで貫いた。

「……ああぁぁっ!」

 サウルは快楽の悲鳴を上げる。
 欲望を孕んだ男根に激しく突き込まれる媚肉が、彼の意に反して異物を掴み取ろうと締め付ける。それがまた、サウルには堪らない。

「ああぁん、はあぁっ……」

 相手の腰の動きに合わせて、サウルは尻を振る。出し抜きされる肉棒を、淫肉が追い掛ける。

「サウルさんっ……サウルさんっ……!」

 背中から聞こえる、テルツの切ない呻きと呼び声。サウルにはその声が、愛する者を、番いを求める悲痛な叫び声に聞こえた。
 ちくり、とサウルの胸が切なく痛む。
 サウルは沸き上がる憐憫のような情を感じていると、不意に頤を上げられ、口内に逞しい陽根を差し込まれた。
 見上げると、腰を蠢かせるヨシュアが、慈愛に目を細め彼を見下ろしている。
 サウルは慈しむように、楔を懸命に舌で愛撫する。顔を動かし、口を窄めて男根を摩擦する。
 寝台のうえで繰り広げられる、男三人の交合。それぞれが蠢き合い、相手を責める。
 サウルは後からテルツに秘処を突かれ、男根を扱かれながら乳首を摘まれる。
 陽物に淫らに絡み付く襞と、突かれる前立腺が、直接的な刺激をサウルのモノに伝える。蕩けた彼の亀頭を、テルツの親指が揉み続ける。
 悦楽に頭を飽和させながらも、サウルはヨシュアの雄を丁寧にしゃぶった。ヨシュアの双の尻肉を掴み、珠まで舌を這わせた。
 ふたりの巫への情念が、サウルのなかで絡まり合い膨らんでゆく。
 サウルは与えられた刺激と濃い情愛に、結晶した情念を男根から噴出させた。
 時を同じくしてテルツがサウルのなかに射精し、最後にヨシュアがサウルの口外に精を吐いた。


 それから間を置き、今度はヨシュアがサウルのなかに自身を挿入した。
 くたくたに疲れた彼を見兼ねたのか、テルツは何もせずにサウルの頭を胸に抱き込んだ。
 未だヨシュアの動きを体内に感じられたが、テルツの腕の余りの暖かさに、サウルは眠りのなかに墜ちてしまった――。









「……おかしいと思ったんですよ。
 無茶なことをしない巫長が、俺の尻穴に葡萄酒を注いで強制的に酔わせるなんて」

 夜、昏睡から目覚めたサウルは、寝台の上で傍らで見守っていたヨシュアに愚痴を言う。
 彼が起きたときには、既にテルツの姿はなかった。酔いが覚めたサウルは、己を犯すだけ犯して逃げたテルツに、憤りを抱いていた。

「そう怒るな。
 近ごろのテルツの有り様が、余りにも苦しげだったのでな」

 ヨシュアは執り成し、冷たい清水を杯に汲んで差し出す。
 毛織りの上掛けに包まったまま、サウルはちびちびと水を飲む。

「抱きたいならこそこそ覗いてないで、直接俺に言ってこればよかったんだ」

 膨れたサウルの顔に、ヨシュアは苦笑いし告げる。

「テルツは内向的な質なのだな。
 確かに、わたしが見込むほど巫としての優しさと資質を持っている。が、どうしようもない程はにかみ屋だ。
 テルツはおまえに会ってから、そわそわと落ち着きがなくなった。元が恥ずかしがりやだから、おまえに話し掛けるのも勇気がいったようだ。
 ある日、テルツはおまえがわたしを抱く姿を見てしまったらしい。
 それからテルツの態度がおかしくなり、自身の部屋に引きこもりがちになった。
 わたしはテルツに男巫の秘術などを教えているので、直ぐ様それに気付き問い詰めたのだ。
 以来、わたしはテルツの胸の苦しい想いを聞いている。
 が、おまえを想うあまり、修行に身が入らないようだ。
 テルツは何事もなく修行を終えれば、優秀な巫になるだろう。このまま恋煩いに時を費やすのは勿体ないと思ったのだ」

 ヨシュアの独白を、サウルは黙って聞き入る。
 水を飲みきると、彼は寝台から降り、衣服を身につけだした。
 帯を絞め、サウルはヨシュアに向き直る。

「……巫長のおかげで、テルツの気持ちは解りました。
 だからといって、あんな形で抱くなんて、卑怯だと思います。
 でも……テルツのことを聞かされたばかりで、まだ頭の中がまとまってないから、もうちょっと考えさせて下さい」

 そう言い置き、サウルはヨシュアに背を向け部屋から出ていった。
 酒器や水差しを盆の上に纏め、ヨシュアは苦笑する。

 ――わたしも嫌われてしまったかもしれぬな。

 何しろだまし討ちのように、テルツがサウルを犯すのに手を貸したのだから。彼は聞き分けのよい性分だが、今度の一件はサウルにとってはひどいことだろう。

 ――サウル、おまえは一時の怒りに身を囚われぬ男だと信じている。
 テルツを……助けてやってくれ。

 ヨシュアは星のちりばめられた窓の外を見た。







 明くる日、サウルは堅い面持ちで神殿の階を踏みしめた。
 いつもなら神殿に詣でた次の日は行かないが、ヨシュアのもとを去ってから、テルツのことを寝ることも出来ず考え込んでいたのだ。
 憤ってテルツを退けるのは容易い。気弱な性質の彼は、サウルの怒りに触れれば直ぐ様諦めることを選ぶだろう。
 テルツにサウルを抱かせるよう仕向けたのは、ヨシュアだ。彼が仕組んでことを運ばねば、きっとテルツはサウルに手を出さなかったに違いない。テルツには、大それたことを出来る度胸がない。
 が、サウルの怒りを目にしたときのテルツの顔貌、涙を含んだ眼差しは、捨て置いてはならないものだと、サウルは思った。
 テルツは巫として大成する器を持っているとヨシュアは言っていた。それは、サウルも感じていた。テルツからは他の巫にはない透明感と煌めきを感じ取れた。
 だから、サウルもこのままテルツが潰えてしまうのは勿体ないと思っている。



 大理石の円柱の狭間を通り、円形に屋根が刳り貫かれた広間に辿り着くと、信徒が来訪するのを待つ男巫や、太陽光を受けるバアル神の像に祈る者が珍しそうに顔を上げた。

「サウル、連続で巫長としっぽりか?」

 からかいを含んだ声に、サウルは煩わしそう茶褐色の短髪を振る。
 頻繁に神殿に顔を出す彼は、男巫達の好奇の的になっている。

「違うよ、今日はテルツに用があるんだ」

 唇を尖らせたサウルに、深沈とした年長の男巫が微笑む。

「そうか、暗闇に沈んだテルツを引き上げてくれるのか。
 あれはまた自室に閉じこもり泣き続けている」

 男巫の言葉に、サウルは眉を潜める。昨日の、悲壮さを湛え思い詰めたテルツの顔が眼裏に浮かんだ。

「まったくしょうがないな。
 次長、がつんと一撃食らわしてもいいでしょう?」

 ふん、と子供らしくサウルは顔を上げる。
 くすり、と笑い男巫――バアル神殿の第二位の等級にある男巫・セツはサウルの肩に手を置く。

「思うとおりやればよい。
 おまえは巫長が見込んだだけあって、光を引き寄せる力に長け、判断能力に優れている。
 だから、おまえを巻き込んででも、テルツに対して巫長は荒療治に出たのだ。
 神殿のいざこざに巻き込んですまぬな」

 次長の地位にあるだけあって、セツはヨシュアに次ぐ霊力の持ち主である。ゆえに、彼はサウルが内に秘めている霊気が如何程のものか、正確に把握している。
 サウルは複雑に笑った。

「今回は俺も咬んでますから、何も関係ないわけじゃないんです。
 それに、俺もテルツのこと気になっていたんです。
 昨日あんなことしておきながらうじうじしてるなら、俺ぶん殴ってやりますよ」
「……程々にな」

 拳を握り振り上げ廊下に向かったサウルに、セツは手を振って見送る。
 ため息を吐き、彼は信徒の控え室に隠れていた人物に語り掛ける。

「……彼は巧くやるでしょうか。巫長」

 衣擦れの音だけをさせて出てきたヨシュアは、腕組みしてサウルが消えた暗い廊下を見据える。

「サウルなら大丈夫だろう。あれなら何でも受け止めてくれる。
 問題はテルツだ。あれのこころのひ弱さが今度のことで改善されねば、巫としての資格を失効せねばならなくなる。
 ……サウルが何とかしてくれると信じているが」

 細く吐息し、セツはヨシュアを見た。

「巫長は、本当に彼を見込んでいますね。
 それなのに、彼を巫にしようとはなさらない。
 わたしには、そのお気持ちが解りますが」

 ヨシュアは寂しげに微笑む。

「サウルは、今ならば実地で巫としての術を為す実力を持っているだろう。
 が、サウルにはわたしのような想いをさせたくないのだ」

 愛する女をみすみす奪われる苦痛。
 想いもしない人間との、拷問ともいえる性交。
 不妊の女に子を授けるため、一方的に搾り取られる胤。
 聖なるものでありながら、堕としめられる地獄の日々。
 これが巫という存在の使命ならば、ならぬほうがよい――ヨシュアはそう思う。
 彼の願いとは裏腹に、セツは現実を突き付ける。

「巫長の願いは痛い程解ります。
 が、力のある巫は既にサウルの霊力と、巫長が彼を呼ぶ理由に気付いています。
 ――そのうち、神殿が彼を放っておかなくなりますよ」

 至極全うな意見に、ヨシュアは唇を噛む。

「……それが、バアル神の定めた運命なのか」
「――きっと、そうです」

 悲哀を滲ませた巫長の瞳に、次長は労りの眼差しを送った。







 テルツの住まう部屋は二人同居制になっていた。
 生成りの帳で二間に仕切られた片方から、啜り泣く声が聞こえる。蝋燭ひとつ点けられていないのか、陰気そのものである。
 もう片方の空間で寝起きしている男巫が、大広間に出る支度をしながら、サウルを部屋の外に連れ出した。

「サウル、なんとかしてくれよ。
 テルツの奴、昼夜関係なく、めそめそ泣きながらずっとおまえを呼んでるんだ。
 耳障りで眠れないよ」

 苦虫を噛み潰した顔の男巫に、サウルは同情的な顔で頷く。

「解ってるよ、出来るだけのことやってみるから」

 頼むな、と言って明るい方向に向かう男巫を見送り、改めてサウルは室内に入る。

「……サウルさん?」

 麻布を隔てて聞こえるテルツの声。憔悴しながらも、僅かに喜びを含んでいる。
 遠慮の欠けらもなく、サウルは帳を全て引き開けた。
 慌てて寝台の上にいるテルツが、上掛けで顔を隠す。

「……昨日俺を犯しておきながら、落ち込んでるのか? 普通、強姦した奴は開き直ってるものなのに。
 犯された俺が自らやってきたのに、弁解のひとつもないわけ?」

 サウルは挑発するようにテルツを揶揄する。
 びくり、と彼の肩が弾む。恐る恐る、目だけを上掛けから覗かせる。

「なんだよ、俺を犯したくせに、おどおどしちゃって」

 言いつつ目を細めてテルツを見据えるサウル。
 がばっ、と寝台から起き上がり、震えながらテルツは土下座する。

「……ご、ごめんなさいっ……!
 ただ見ていられるだけでよかったのに、巫長に誘われて、つい……!」

 しゃくりあげ、テルツは涙声で詫びる。
 暫らくの、間。誰の身動きもなく、静かな時が流れる。
 小動物のように震えるテルツの横で、どさり、と寝台が軋んだ。
 テルツが顔を上げると、隣に座ったサウルが、そっぽを向いたまま口を開いた。

「言い訳くらい聞かせろよ。このままじゃ、俺も納得出来ないから」

 腕を組んで自身を見ようとしないサウルに、テルツは俯いて話し始めた。

「……初めてサウルさんを見たとき、なんて綺麗な人だろう、って思ったんです」

 サウルは目を剥き、目元を赤く染めるテルツを振り返る。

「え、えっ?! 嘘だろ?!
 綺麗っていったら、おまえの顔のほうが余程……!」

 テルツは首を振り、やっとサウルを直視する。
 サウルは透き通った翠の瞳が露を含んで煌めくのを見、どきりとする。
 どう見ても、イスラエルの民の血を引いているとは思えないテルツの薔薇色の肌と黄金の髪。彼の特徴は海を越えた西方の人々を思い浮べさせる。
 対してサウルはイスラエルの民の特徴がよく出た濃い褐色の髪を持ち、肌の色も浅黒い。大きな黒瞳が人を惹き付けはするが、特別整った顔立ちをしているわけではなかった。

「姿形のことを言っている訳ではないんです。
 サウルさんの霊波は黄金と青銀が交ざった高貴なもので、黄金色の巫長の霊波と、ちょっと似ています。
 その上、水色の光の粒子がいつも舞い上がっていて、触れた途端とても癒されます。
 だから、サウルさんを見ると嬉しくて、以前は付き纏ったりしていました。
 けれど……サウルさんが巫長を抱いている姿をある日覗いてしまって、猛烈に嫉妬してしまい……僕はなんて薄汚れているんだ、と思いました」

 テルツの目尻に溜まった涙が、零れ落ちる。
 その様が余りに弱々しくはかなげで、サウルは胸に痛みを感じた。

「こ、こんなに綺麗なサウルさんなら、み、巫長が望むのは、あ…当たり前だと思って……。
 そして僕は、巫長に比べたら、あ、余りにもちっぽけで……。
 そ、それでも、僕はサウルさんが好きだって……あの時、気付いたんです。
 好きで好きで、堪らないのに……巫長が相手であるサウルさんでは、きっと僕なんて、振り向いてもらえないって……。
 あ、諦めようとしたのに、そ、それでも自然とサウルさんを隠れて見てしまって……僕……ぼく……っ」

 嗚咽し、涙を腕で拭いながら、テルツは必死で話す。
 その姿が、サウルには痛々しくて仕方がない。

「ぼ、僕っ、自分の想いを、必死で隠そうとしたんです。
 な、なのに、巫長には見抜かれてしまって……。
 み、巫長は、サウルさんとは、愛し合っていないって、ずっと言い続けるけど……僕の目には、こころから、愛を交わしあっているようにしか、み、見えませんっ……!
 み、巫長は、僕の誤解を解こうと、僕をサウルさんとの睦み合いに加わらせて、くれました。
 で、でも、それでサウルさんを怒らせてしまったから……!」
「……怒ってないよ」

 涙でぐしゃぐしゃのテルツの顎を上げ、サウルは彼の顔を覗き込む。
 サウルの顔を直視できず、テルツは目を背ける。

「で、でもっ……!」
「だから、怒ってないって」

 言いつつ、サウルはテルツの顔に自身の顔を寄せる。わななく桜色の唇に、サウルの唇が重なる。
 テルツは目を見開き、サウルの口づけを受けてしまう。暖かく湿った温もりが、彼の口内で優しく蠢いた。
 唇を離し、照れながら上の空を見、サウルは呟く。

「……確か、巫は愛する者かこころを許す者にだけ、接吻するんだよな?
 俺も今、ちょっと真似てみたんだけれど」

 何が起こったか受け止められぬまま、テルツは頷く。

「それに、巫長が愛しているのは、アシェラ神殿の巫女長・アタリヤさまさ」
「えっ……アシェラ神殿の巫女長?」

 頷いたサウルに、青銀色の霊波と水色の光の粒子を放つ、白百合のようにたおやかで清楚な巫女長・アタリヤをテルツは思い浮べる。
 彼が男巫見習いになったばかりの頃、ヨシュアに伴われて女神の神殿に顔見せしに行き、巫女長・アタリヤと彼を指導する女神の巫女に会った。
 その後テルツは女との対し方を学ぶため巫女の部屋に入り、ヨシュアはアタリヤの居室に引き込んだ。
 行法の伝授が終わり、彼が女神神殿を辞そうとしたとき、ヨシュアは未だアタリヤのもとに居続けていた。
 それからも、テルツはヨシュアとアタリヤの、巫としての弁えを超えた愛の関係の噂を、何度か耳にしていた。

「断言していいけど、巫長は本当に愛した者ならば、自ら他の者に抱かせたりしないはずだよ。
 以前、バアル神殿の男巫が、巫長の知らない隙を突いて巫女長を身籠らせてしまったらしいんだ。
 その時、普段温和で泰然とした巫長がありえない程激怒してしまい、この神殿の空気が凍てついて殺気ばったって話だよ。
 俺も、最近その話を次長から聞いて、物凄くびっくりしたよ」

 そこまで話し、サウルはテルツをじっと見る。
 混乱しているのか、テルツは何度も小刻みに首を振る。

「で、でも、サウルさんは……っ」

 サウルはきょとんと、己の顔を指差す。

「俺? 確かに巫長のこと好きだけど、恋とか愛じゃないよ。
 俺の中では、巫長とエーシャ、そしてテルツは、そんなに重さの差はないよ。
 巫女長には憧れてるけど……高嶺の花って感じさ。純粋に、巫女長には巫長がお似合いだし、ふたりに幸せになって欲しい。
 俺もいつか恋するひとと出会うかもしれないけれど、今は見当もつかないよ」
「サウルさん……」

 サウルの告白は、受け入れたとも牽制したともとれるものだ。テルツは肩を落とした。
 軽く肩を叩かれ、テルツはサウルを見る。
 柔和な彼の笑顔が、そこにあった。

「あのさ……俺は只人で巫長やテルツは、人と神の中継ぎをしてくれる者だろ?
 恋じゃないけど、間違いなく愛は存在してるんだ……巫を通じて神からもたらされる慈愛が。
 俺は、神聖な愛を注いでくれる巫長達に、とても感謝してるんだ。
 俺はテルツにも、立派な巫になって、人に崇高な愛を注いで欲しい。
 だから……こんなところに泣いて閉じ篭ってないで、もっと表に出て欲しいんだ。
 テルツは、俺と同じように他の人間も好きになれないかな?」

 優しく諭すサウルに、テルツは戸惑う。

「ぼ、僕は……今はサウルさんのことが、大好きです。
 でも……他の人とは、サウルさんや巫長程関わったことはないから、解りません」
「じゃあ、関わってみなければ、解らないよな?」

 くしゃくしゃと髪を掻き回す手を掴み、テルツは真剣な面持ちでサウルに向き直る。

「サウルさんっ、僕っ、他の人と関わりあいたくないよ!
 サウルさんの側にいたいんだ!」

 面食らい、サウルはたじろぐ。

「な、何も側に居ちゃいけないなんて言ってないよ!
 俺は側に居るから、他の人間にも目を向けて欲しいってだけで……!」

 そこまで言い、サウルは唇を引き結ぶ。

「……逆に、テルツが巫として他の人間を見ようとしないなら、俺はテルツを見限るよ。
 俺は、立派な巫になったテルツなら、側に居てもいいと思うから」
「じ、じゃあ、サウルさんは、僕が巫じゃなかったら、側に居ちゃいけないっていうの?」

 再び涙ぐみ、テルツはサウルの腕を放した。
 サウルは溜息を吐き、頬杖を突いて泣きじゃくるテルツを眺める。

「あのさぁ、俺がなんでここに来てるか解ってる?
 俺は、バアル神の信徒として、巫の恩恵を受けに来ているの。
 巫長のことだって、重圧に苦しむ巫長を助けたいから、関係を結んでるだけなんだ。
 テルツが巫として成長したいなら、俺はいくらでも協力するよ? テルツが引き篭もらないで、巫としての修行を頑張るなら、いくらでも抱かれても構わないと思ってる。
 テルツは、なんで内に籠もるの?
 テルツは、人が恐いわけ?」

 涙で歪む目で少し躊躇った後、テルツは小さく頷いた。

「ひ、人は……欲深くて、どす黒い霊波を放ってるから、怖いんです……。
 笑っていても……本当は笑っていない人を、よく見ます……」

 ううぅっ、と泣き声を洩らし、テルツは上掛けを手繰り寄せ、頭から被る。
 横目でその様子を見ながら、サウルは記憶を手繰り寄せる。

 ――そういえば、巫は自身の波動でもって、人の邪まな霊波を浄化するって巫長が言ってたよな……。

 人の霊波を看破するテルツに、破邪や浄化は出来ないのだろうか。霊視する力があるからこそ、彼は今ここにいるのだ。
 ヨシュアがサウルと関係を結ぶのは、人を浄化して負った疲労を癒すためらしい。
 う〜〜んと唸り、サウルはテルツが被った麻の布を剥がした。

「――多分、巫として大成したら、人の嫌な霊波を浄化できるはずだよ。
 巫長が俺と関係を重ねるのは、王族や貴族と交わって負った未浄化なものを浄化する手助けに、俺の波動を借りるためらしい。
 テルツは人の霊波が見えるから、場合によってはそのどす黒いものをまっさらに出来るかもしれない」

 ぴくり、と耳を動かし、テルツは顔を上げる。

「ぼ、僕にも出来ますか……?」
「そりゃ、やってみなきゃ解らないよ。でも、その手段を手に入れるために、テルツはここにいるんだろ?」
「そ……そういうことになりますか?」

 些か鈍いテルツの答えに、サウルは脱力しそうになる。
 彼は、神殿がどういうところか解っているのだろうか?

「あのさぁ……聞くけど、どうしてテルツは男巫見習いとして神殿に入ったんだ?
 ちょっとは、周りから霊感があると認められていたんだろう?」

 サウルの質問に、テルツは目をぱちくりさせる。

「あ、あの、僕はガリアで人買いに攫われて、奴隷市場に売られていました。そこを通りかかった巫長に助けられて、神殿に入りました。
 だから、霊感があるかどうかは、よく解りませんし、人からも言われたことがありません……」
「そ、そうなんだ……」

 テルツは人から薦められたり、自ら志願して神殿に入ったわけではないのだ。奴隷市場に売られ、誰かに買われる前にヨシュアが見出したのだ。
 つまり、テルツがここに居るのは、ヨシュアの眼力によるものである。ヨシュアに見込まれているのなら、彼は素晴らしい巫になる可能性があるということである。
 サウルは自分の考えに頷き、テルツを抱き起こした。
 目を丸くし、テルツはサウルを凝視する。

「決めた! 俺おまえが望めば、いつでも応えてやるよ。
 その代わり、巫長から伝授される巫としての浄化の行法を、きっちり覚えこむこと。
 そうしたら、おまえも他の人間なんて怖くなくなるから。
 おまえが巫として大成したら、おまえが嫌がったって人が寄ってくるよ。そうしたら、おまえも人が怖くなくなり、自然に応えられるようになるって!」
「そ、そうかなぁ……」

 自信なさげに、テルツは手を揉む。

「大丈夫! 俺が保障する!」

 握り締めたテルツの手の上に掌を重ね、サウルはにっと微笑む。
 サウルの頑強な説得に、仕方がないようにテルツは笑った。

「そうと決まったらさ、早速俺がおまえに応えてやれることを証明しようか?」
「えっ?」

 突然のサウルの言葉に、テルツは呆気に取られる。

「ほら、おまえが男巫として修業するために、俺はいつでも応えてやる、っていっただろ?
 だから、今からおまえの願望を叶えてやるよ。
 俺が巫長を抱いているところを見て、嫉妬したんだから……俺に、抱かれたい?」
「サ、サウルさん……?」

 テルツの声が上ずる。
 サウルは、今、彼の望むようにしていいと言っているのだ。
 テルツは真っ赤になって、俯く。
 まさか、サウルがこんなに自分によくしてくれるなど、思わなかった。自分のために身体を開くことを許してくれるなど……思わなかった。

「ぼ、僕…………」
「それとも、昨日みたいに俺を抱きたい?」

 おずおずと、テルツは露を含んだ眼を上げ、焦がれて止まないひとを見る。
 ずっと憧れていたひとが、自身の師を貫いているのを見たあの日、彼に貫かれているのが自分なら……と、強く思った。
 陽に焼けた筋肉質な腕に息が詰まるほど抱き竦められ、厚い唇で肌を浄められたいと切望した。
 テルツは頭をサウルの胸に当て、彼の麻の衣を握り締めると、弱々しく呟いた。

「抱いて……下さい」

 ぎゅっと目を瞑ったテルツを抱き、サウルは「解ったよ」、と小さく耳打つ。

 あとは、無言だけしかなかった。サウルが寝台の上に倒したテルツの腰帯を解き、前合わせの衣を脱がせると、絹のような光沢のある肌が露になった。
 血管が透けて見えそうな、彼の青みを帯びた白い素肌を、サウルの口唇が青紫の鬱血痕を残してゆく。白い肌膚に不釣り合いな赤い胸の果実を指先で軽く押すと、それは弾力で押し返しながら、ふくりと尖りだした。

「……敏感なんだな。ここ、巫長によく可愛がってもらってる?」

 静かだったサウルから出た、からかいの入った言葉に、テルツは身体を朱に染める。

「み、巫長は…っ、身体の弱いところを、余すところなく見つけてしまいます……。だから……は、恥ずかしくてイヤなのに、巫長はそういうところばかり執拗に責められます……」

 くすっ、と笑い、サウルはしこった乳首を、強弱つけながら指先で揉み続ける。テルツの胸の突起は更に大きくなり、痛々しく突き出されている。

「ふぅん?……俺と同じだな……。巫長は手加減を知らないところがあるからなぁ……。
 じゃあ、テルツの身体は、ほとんど巫長に仕込まれてるわけだ。俺だけの秘密の場所は、もうないかな。
 ……探してみようかな」

 テルツはふるふると首を振る。
 ヨシュアの手が加わっていない場所など、あるわけない。きっと、サウルはそれを知っていて言っている。彼はわざと探るといって、ヨシュアそっくりの手つきで、テルツを翻弄するつもりなのだ。
 テルツは唇を噛み、サウルを恨めしげに睨む。

「サウルさんの意地悪なところ……巫長にそっくりです……。愛撫の仕方だけでなく、そんなところまで似なくていいのに……」

 にっ、と笑い、サウルはテルツの薄紅色の内股を擦り、たわわな双玉を手のひらで包み込む。
 あっ……! とテルツから声が漏れる。

「俺、巫長仕込みだからなぁ。最近、エーシャに女の扱いが巧くなってムカつかれてるよ」

 言いながら、サウルは片手で角度を付けている彼の男根を、ゆっくりとなぞり上げる。
 耳たぶを咬みしゃぶり上げながら、時々息を吹き込む。それだけで、テルツの牡はより主張し始めた。
 サウルが顎の辺りから首筋を、ざらついた舌で舐めると、テルツの身体は海老反りになった。
 彼の陽根を扱くサウルの手の甲に、透明な体液が流れ落ちる。

「サウルさんっ……サウルさん……! ああぁぅ」

 テルツの手がサウルの肩を強く掴む。その力の強さが、彼の身体に走る悦びの証だった。
 親指で亀頭の割れ目を抉られ、揉みしだかれて先走りを搾り取られる。
 喉仏を舐め上げながら、サウルは乳首を摘み続ける。乳輪を擦り突起を軽く捻る。
 テルツの身体が、小刻みに震える。

「サ、サウルさんっ、んあぁっ、もうっ……だ…ァ……ッ!」

 涙の交じる高く擦れた声を合図に、サウルはテルツの勃起を素早く扱き続ける。
 大きく開いた大腿が、ぶるぶると振動する。

「あぁぁあん!…………」

 泣き声のごとき声を挙げ、テルツは射精した。
 サウルは腕に掛かった精液を、肩で息をするテルツの後ろの窄まりに塗り込める。シーツの上に零れた白濁も、残さず後孔の襞が揺るまるまで擦り込んでいく。
 脱力したテルツを腹ばいにしたあと、サウルは身に付けていたものを脱ぎ捨てる。テルツに腰を突き出すような体勢をさせ、蕾のなかに指を挿し入れた。

「んっ……」

 サウルはテルツの柔らかな尻肉に片手を当てて、やわやわと揉みながら、秘孔のなかの芽を手探りで探る。こりり、とした感触を探し当て、指の腹で擦った。

「ひぃっ……!」

 びくり、とテルツの身体が強張る。シーツを強く握り締め、彼はもぞもぞと腰を揺らし始めた。

「……見ぃつけた。テルツの隠し処」

 意地の悪いサウルの声が、すぐ背後から聞こえる。
 前立腺を弄ばれまたも勃ち上がったものを、再度扱かれる。緩急織り交ぜなぶられて、テルツの男根は爆発しそうになる。が、根元を指で戒められ、吐精を叶えられない。
 前と後ろから責められ、テルツの雄は熟れていく一方だった。

「サ、ウル…さんっ、も……イかせて……ッ!」

 ついには泣き言を漏らし、テルツは腰を振り続ける。
 すると、テルツの背に硬い皮膚が密着し、熱く擦れた声が耳の至近に響いた。

「……わかったよ、俺も、限界だし」

 そういって、サウルはテルツの脇に快楽を希求する自己を擦り付ける。
 テルツは赤い顔を更に赤くし、頷いた。
 尻穴に入っていた指を抜き、テルツの戒めを解くと、サウルはテルツの双臀に手を添え、亀頭を蕾にあてがう。

「……最高のイかせかた、させてやるよ」

 サウルはにやりと笑ってそう言い、狙いを定めてテルツを刺し貫いた。

「あぁああぁぁッ――!」

 サウルの先端がテルツの前立腺を直撃する。瞬時に、テルツは精をシーツに撒き散らした。

「あン、あ、あ、あ、あ、あ……ッ」

 サウルは尚もテルツの秘部を狙い続ける。
 テルツはサウルの容赦ない突きにイき続け、腰を振り続けた。

「サ、ウルさん……ッ、あぁあ……」

 身体を震わせながらも、テルツは振り向き、目を切なげに細め訴える。

「何……?」

 サウルは顔を近付け、テルツの訴えを聞こうとする。

「あ、いして……ま…す……ッ」

 高く擦れた声で呟き、上肢を起こしてテルツはサウルに接吻する。
 ほんの重ねるだけの口づけ。が、そこから哀しいほどの慕情が伝わる。
 巫は愛する者か、こころを許した者にしか接吻してはならない――いにしえからの不文律が、真実を、情熱を語っている。
 サウルは一度テルツから陽物を引き抜くと、当惑し悲哀を滲ませるテルツを仰向けに反した。

「サウルさん……」

 想いが勝ったから接吻してしまった。だから、サウルは身体を離してしまったのだろうか。テルツは口づけしたことを後悔し、俯いてしまう。
 が、サウルに頤を上げられ唇を口に押しつけられ、テルツは目を見開く。
 僅かの間顔を離し、サウルはテルツをじっと見る。

「――こういう時って、目、閉じるもんだろ?
 じっと見られたら、気恥ずかしいよ」

 照れの交じったサウルの面に、テルツは頬を染め、瞑目する。
 被さってくる口唇。舌で軽く唇を突かれ、テルツは唇を開く。すぐさま舌が口内の粘膜をなぞり、テルツの舌を絡めた。激しい口接に唾液が漏れ、顎を伝う。
 サウルはテルツの膝裏を抱えると、一気に自身を押し進める。

「ムゥッ……ううぅッ……」

 接吻したまま、喘ぎを零すテルツ。
 サウルは足を抱えた手を離し、テルツの背に廻す。自身もサウルの身体を抱き締め、テルツは身体を開いた。
 口づけが終わると身体を起こし、サウルはテルツの手を握って腰を激しく打ち付けだす。

「あああぁぁぁ……!」

 激しい腰付きに、テルツは絶頂に引き上げられてゆく。同じように腰を使い、サウルを締め付けようとする。

「ふっ、ぅ……ッ」

 サウルは呻き、汗を滴らせる。際が、近い――。
 一層早まってゆく蠢きに悲鳴をあげ、テルツは中にあるものを吸引しながら、今一度射精する。
 テルツの締め付けに耐えきれず、サウルはテルツのなかに胤を吐き出した。
 肩を上下させ射精の名残が抜けるのを待って、サウルはテルツの傍らに横たわる。
 絶頂の余韻が緩やかに引いたあと、テルツは寝返りを打ち、皺になったシーツに顔を伏せる。
 けだるい一時をやり過ごし、サウルはテルツを見、細い肩を震わせている姿にぎょっとする。

「テ、テルツ?」

 おろおろするサウルに、テルツは少しだけ顔を露にし、涙ながらに微笑んだ。

「嬉しかったんです……。僕、サウルさんにぎゅっと抱き締められたかったから……。願いが叶って、幸せすぎて涙が出てきました」
「テルツ……」

 サウルはテルツの身体に手を伸ばし、やんわりと抱き締める。

「こんなことでよかったら……いつでも抱いてやるよ」

 こくん、とテルツは頷く。

「僕……どこまで出来るか解りませんが、男巫として頑張ってみます。
 サウルさんだけでなく、他のひとも愛せるように、なりたいです」

 テルツはひたむきな眼で、サウルを見上げる。
 サウルは首肯し、テルツの白い額に口づけた。

「……期待してるから」

 サウルの言葉に、テルツは華やかに笑んだ。







 サウルはテルツと逢った三日後、ヨシュアに呼ばれてバアル神殿に詣でた。
 ヨシュアの私室に通され、葡萄酒を勧められてサウルは金のグラスを手に取る。

「サウル、色々すまなかったな。
 おまえのお陰で、テルツは怯むことなく民の相手をするようになった」

 デカンタを大理石の卓に置き、ヨシュアはサウルに向き直る。
 サウルは口に含んでいた葡萄酒を喉に流し込み、巫長を見た。

「……ほんとですか?」
「あぁ、おまえが自分にしてくれたように、自分も他人を包み込む、とテルツが言っていた」
「そうですか……」

 サウルは安堵し、酒杯に口を付ける。

「これからも、テルツの相手をしてやってくれ、頼む」
「解りました」

 晴れ晴れとした面持ちで、サウルは頷く。

「俺……テルツはきっと、いい巫になると思います。
 出来るだけ、テルツに協力したいです」
「頼んだぞ」

 ヨシュアは力強い眼差しで微笑む。
 が、サウルの物言いたげなじっとりした目を見、ヨシュアは片眉を寄せる。

「どうしたのだ?」

 サウルはむっつりした顔で腕組みし、ずい、とヨシュアににじり寄った。

「巫長……あの日のこと、俺、忘れてませんよ」

 ぎくりとし、ヨシュアは笑顔を引きつらせる。

「……何のことだ?」
「とぼけたって、だめですよ。
 あの日、巫長俺の身体に葡萄酒を掛けて、尻穴にまで葡萄酒を注いだじゃないですか」
「あ、あぁ、そのことか」

 いつもはサウルより一段上の立場にいるヨシュアだが、今回ばかりは劣勢である。サウルに圧され、ヨシュアはたじろいだ笑いを浮かべた。

「そりゃ、ああでもしないと、俺を組み伏せて思うように扱うことなんて出来なかったですよ。
 でも、少なからず、俺のプライドは傷ついたんですから、俺の自負心を取り戻すため、巫長にもそれ相応の負担を負っていただかなくてはいけませんよね?」

 にぃやりと笑い、サウルはヨシュアに顔を寄せる。
 寝台の際まで追い込まれたヨシュアは、ごくり、と唾を飲み、サウルの膝で押されて寝台に座り込んだ。

「……わかった、やりたいようにすればよい。
 それで、丸く納まるのだろう?」
「さすが、物分かりいいですね。巫長♪」

 満面の笑顔に、観念したようにヨシュアは吐息した。





 サウルはヨシュアの衣を脱がせたあと、彼の両手首を帯で縛り上げ頭上に固定する。

「こうやって身動きを取れなくされると、巫長も抵抗できないでしょう?」

 言いつつ、サウルは自身も衣を脱ぎ落とす。
 仰臥した状態で大きく股を開かされたヨシュアは、勝ち誇ったサウルに語り掛けた。

「ずいぶんと、楽しそうだな」

 言われて顔を上げたサウルは、ヨシュアの余裕のある笑顔にむぅっ、と膨れる。

「……そういう巫長こそ、何だか楽しそうですね」
「それは、な。
 どういった趣向でおまえがわたしを攻めるのか、実に興味深くてな、楽しくて仕方がない」

 ぶすっと拗ねた顔で、サウルは葡萄酒の入った金のデカンタを寝台の傍の小机に置く。
 サウルの意図を察し、ヨシュアはにやりと笑む。

「何だ、わたしの真似をするつもりか?」
「いけませんか? あれが、どれだけ恥ずかしかったか、巫長にも味あわせたいんだ」

 クッ、と声を出して笑いだすヨシュアに、サウルは怒りと羞恥に顔を赤らめる。

「な、何が可笑しいんですか!」
「いや、むきになるところが可愛いな、と思ってな。
 おまえは知らぬかもしれぬが、肌一面に葡萄酒を注がれたおまえは、色っぽかったぞ」

 クックッと笑いつつ、ヨシュアはしれっと言ってのける。
 サウルの顔がぼっ、と更に赤くなり、彼は口をへの示に曲げる。

「ど〜〜せ、何やったって巫長には適いはしない、って言いたいんでしょう?
 そんなの、やってみなきゃ解りませんよ。
 弱いところは……男なら、同じでしょう?」

 勝ち気な光を目に浮かべ、サウルはヨシュアの男根をやんわり掴む。

「…………ぅっ……」

 僅かに喉を鳴らし、ヨシュアは呻く。
 ヨシュアの弱味を扱きながら、サウルは彼の小豆色の胸の突端を狙って、たらたらと葡萄酒を零す。
 乳輪に紫の玉が浮かび、サウルは舌先でそれを拭う。彼はそのまま、硬い尖りを舐めまわした。

「あぁ……んんッ……」

 喘ぎを漏らすヨシュア。
 勃ち上がった彼の陽根の竿を扱きつつ、サウルは先端からふつふつと沸き上がる透明な液を、ヨシュアの雄全体に塗りつける。
 眼を瞑ったヨシュアの額に葡萄酒を注ぎ、サウルは通った鼻筋に流れる酒を舌で追い掛ける。閉じられた目蓋の間に溜まった紫の液体を余さず吸い取る。
 項を伝って鎖骨に留まった葡萄酒を、サウルは啜る。
 指で乳首を揉み込み、ぐちゃぐちゃと男根の先を抉ると、ヨシュアは切なげな荒い息を吐いた。

「……巫長、先が汚れちゃってますね」

 どこかで聞いたような台詞に、ヨシュアは眉を寄せる。
 デカンタを取り上げると、サウルはヨシュアの亀頭目がけて葡萄酒を落とした。

「はあぁっ!……」

 よく冷えた葡萄酒の直撃に、陽根の先の穴が窄まる。が、直ぐ様サウルによって葡萄酒を擦り込まれ、ヨシュアは腰を浮かせた。

「あぁ、はあぁっ……」

 頭をぶるぶると振りながら、ヨシュアは差し掛かった絶頂をやり過ごそうとする。
 が、それに気付いたサウルに一気に男根を扱かれ、ヨシュアは絶叫しながら白濁をびゅくっ、びゅくぅっ、と吐いた。

「仕方がないなぁ、折角洗ったのに、またよごしちゃったよ」

 嬉しそうに言いながら、サウルは精液で塗れたヨシュアの股間にむしゃぶりつく。舌を絡めてぬめりを拭い、双の宝玉を舌で転がした。

「はぁっ……サウルッ……」

 集中的な刺激に再び勃起しつつあるモノを、サウルは口を窄めて吸入する。
 ヨシュアは腰を蠢かしながら、サウルの口の動きに応える。

「サ、サウルッ……イクっ…アァッ…!」

 苦しげなヨシュアの喘ぎに、サウルは彼の先端を強く吸引した。

「ああぁぁぁ!」

 身体を弾ませ、ヨシュアは達してしまう。
 口のなかに吐き出された精液を溜めたまま、サウルはヨシュアの口に接吻し、ヨシュア自身の体液を半分流し込んだ。残りは、サウルが嚥下する。

「ふふん、今日は巫長に嫌がらせするためにこうしてるんです。だから、どんなことでもやってやりますよ」

 してやったりと、サウルは朗らかに言う。
 が、ヨシュアは平気な顔をして、喉を鳴らして粘液を飲み下した。呆気にとられるサウル。

「……今日も、体調は悪くないようだな。
 自分の体液が、一番身体の不調を発見できる」

 何気ないように言い、微笑んで見やってくるヨシュアに、サウルは悔しさのあまり身体を震わせた。

「そ、そんなことくらいで、負けたりしませんよ!」

 憤慨した面持ちでヨシュアの身体を俯せにし、腰を高く上げさせて股を最大限に開かせる。

「こ、こら、乱暴にするな」

 まだ笑みが含まれているヨシュアの嗜めに、サウルは目を吊り上げてヨシュアの尻穴をこじ開ける。
 サウルはグラスに残っていた葡萄酒を、残さずヨシュアの直腸に注ぎ入れ、乱暴な手つきで、ぐちゃぐちゃとなかをかき回す。
 なかにあるしこり――前立腺を指の腹で執拗に擦りあげ、ヨシュアの大腿が痙攣しているのを見てサウルはほくそ笑む。
 が、それがヨシュアを痛め付けているわけではなく、絶大な悦楽を与えているだけだと、サウルは知らない。

「あ、あっ……いいッ……! も、もっと……!」

 苦しげな呼吸でさらなる愉悦をねだるヨシュアに、サウルの怒りは頂点に達した。
 彼はヨシュアから指を抜き去ると、強引に自身の牡をねじ込み、がむしゃらに繰り動かした。

「あああぁあッ!」

 ヨシュアは貪欲に腰を振りながら、俯せのまま何度も吐精する。サウルからは見えないが、その顔には快楽だけしかない。
 それを知らないサウルは負けまいと腰を激しく動かし続ける。気の高ぶりに捕われて、彼は自身の限界が見えない。
 逸る激情は、潰えるのも早かった。
 粘り責めることもできずに、サウルの男根はヨシュアのなかで暴発する。

「あぁ……っ」

 ヨシュアは不完全燃焼のまま、熱を貯えた陽根を勃ち上がらせていた。
 脱力して自身の背にもたれかかるサウルに、ヨシュアは不服を言う。

「……馬鹿者、相手を置き去りにして、先にイッてどうする」

 自分から挑んでおきながら不様な態を晒し、サウルは目を伏せ、肩を竦める。
 身体を離してヨシュアの手首の拘束を解いたあと、自身の手で欲望の処理をする彼を横目にサウルは情けなさを噛み締め俯く。
 手に吐き出した精を布で拭ったあと、ヨシュアは軽くため息を吐いてサウルの頭を撫でる。

「……馬鹿だな。男巫として長年生きてきたわたしに、適うわけがないではないか。
 身体を拘束され酒を撒かれるのも、自身の精を飲まされるのも、何度となく経験していることだ。
 だから、始めから勝負は目に見えていたのだ」

 僅かに顔を上げたサウルに、ヨシュアは微笑みかける。

「そんなに落ち込むことはない。
 すべて、わたしが自身に都合がよいよう誘導したのだ。
 おまえを挑発し、手のひらの上に乗せた。許してくれ」

 はあぁ……と嘆息し、サウルは下に落ちていた衣で身体を覆う。

「何だか、情けないなぁ……巫長はどこまでいっても、俺より上手なんだ。
 テルツのことだって、手のひらの上で転がされていただけだったし」
「サウル……」

 ふと遠い目をし、サウルはふっと微笑んだ。
 ヨシュアは訝しみ、サウルの顔を覗き込む。

「……いや、やっぱりこれでよかったのかもしれません。
 俺ごときに負ける巫長なんて、見たくはないし、巫長の威厳は崩したくない」

 しっかりと顔を上げて見つめてくるサウルに、ヨシュアは細く息を吐いて彼を抱き締める。

「……おまえは、物分かりがよい弟子だな」
「弟子? 俺、男巫じゃないのに」

 笑って問い返すサウルに軽く口づけ、ヨシュアは彼の頬に手を添える。

「男として、人間として、おまえほど出来た弟子はいない」

 言いつつ再び深く接吻され、彼は目を閉じる。



 寝台に横たえられながら、巫長の近くに居られて、本当に幸せだ、とサウルは思った。








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