Lealtime to Paradise

infinite loop






 碧の光が螺旋を描いて踊る星の体内。
 時を操る魔女は眉間を寄せて腕を組み、渦を作る光塵を眺めている。

 ――気に食わぬ……。終わり無く漂う光など、時を圧縮して潰してしまいたい。

 魔女・アルティミシアの目的は、己の持つ力・時間圧縮――過去・現在・未来をひとつに圧縮し、時を消滅させ己以外を存在しないようにさせることだ。
 魔女は人々に恐れられ、迫害を受けてきた。アルティミシアも例外ではなく、魔女を殺す者・SeeDの攻撃を受けては撃退してきた。
 疎ましきもの――人間。己の目的を阻む存在。彼らの存在自体を始めから無くしてしまおうとアルティミシアは企んだ。
 それなのに、いつの間にか、混沌の神と秩序の女神が闘争を繰り返す「閉じられた世界」にいる。
 己は混沌の神・カオスの駒として秩序の女神の戦士・獅子スコールと戦い続けている。
 が、獅子を見ていると、不意に胸が疼くことがあった。理由は分からないが、それは奇妙な切なさを伴った。
 アルティミシアは自嘲の笑みを洩らす。

 ――埒もない。ただの気のせいだ。

 彼女はかぶりを振り、気紛れに光の渦に手を伸ばす。

「――ッ?!」

 すると、突然何かの映像が浮かび上がった。






『ねぇ、何読んでるの?』

 膨大な蔵書を収めた棚が並ぶ部屋の窓際で、水色のつなぎの服を纏った黒髪の娘が、戦士スコールの開いている本を覗き込む。

『……「偉大なるバスカリューンの記」と「ハインの行方」?』

 スコールは顔をあげ、微かに笑う。

『あぁ、ガーデンを出る前に、魔女に関するものをできるだけ読んでおこうと思ったんだ』
『……スコール……。ごめんね、わたしのせいだね』

 憂いを帯びる少女の頭に、スコールは手を置く。

『気にするな、あんたが魔女になったのは、あんたのせいじゃない。
 それに、あんたには「魔女の騎士」がいる。だから、不安になるな』

 スコールの言葉に、娘の頬が紅くなる。

『で、どんな内容なの?』

 娘の問いに、淡々とスコールは答える。

『簡単にいうと、こうだな……。
 「偉大なるバスカリューンの記」の概要は、人間を創造した「ハイン」は、増えすぎた人間を減らそうと人間の子供を大勢殺した。
 だが子供を殺された人間は黙っていなかった。
 人間はハインを攻撃し、ハインは敗れることが多くなった。
 そこでハインは人間と取引し、ふたつに分かれた。
 ひとつは「抜け殻のハイン」、もうひとつは「魔法のハイン」。
 ハインは「抜け殻のハイン」を人間に差し出したが、人間は姿を消した「魔法のハイン」も欲しがった。
 が、人間は「魔法のハイン」を見つけだすことができなかった、だそうだ。
 「魔法のハイン」がどこに行ったのか、その仮説のひとつが、「ハインの行方」に載っている「魔法のハインは人間の女の肉体に憑依した」というものなんだ』
『……憑依?』

 首を傾げる娘を見ながら、スコールはふたつの本を閉じる。

『多分、ジャンクションのようなものじゃないか?
 ……あるいは、「魔女の力の継承」』
『……あ』

 娘は手で口を覆う。

『魔女は戦う力が尽きたときに、違う女に魔女の力を受け渡す。
 俺はママ先生が戦闘不能に陥ったときと、アデルとアルティミシアが死ぬときに継承が行われたのを見た』
『戦えなくなったときと、死ぬときに……。
 ねぇ、スコール。わたしも戦えなくなったり、死ぬときに誰かに魔女の力を受け渡すのかな』
『……さぁな』

 意味ありげに首を傾けるスコールに、娘は手を結んだり開いたりしながら言い淀む。

『わたし……他の誰かに力を受け渡したら、その誰かを不幸にすると思うんだ。
 ……そんなの、やだな』
『……リノア』

 娘は強い光を瞳に宿し、スコールに言い切る。

『魔女ってだけで、皆に怖がられるんだよ。
 一緒に戦った皆や、ママ先生と学園長はわたしのこと理解してくれるけど、他のガーデンの子たちはわたしを気味悪がってる。
 わたしはスコールや仲間たちがいてくれるからいいけど、わたしの次の魔女に辛い思いや孤独を味あわせたくないんだ』

 断言したあと、肩を落とした娘。スコールは娘の手を引くと娘を腕のなかに閉じ込めた。

『そんなこと、いまはどうでもいい。
 まだ時間はいっぱいあるんだ。あとからでも考えよう。あんたには、俺がいるんだ。あんたはひとりじゃない。
 いまは、ふたりで幸せになることを考えよう』
『そうだね……。
 ガーデンを出たら、どこに行くの?
 パパがスコールをガルバディア軍に迎えるって言ってたけど』

 顔をあげる娘に、スコールは少し考え込み、言った。

『エスタの大統領も自分のもとに来いと言ってたが、正直気が進まない』
『もう、スコールってば意地っ張りだね。ラグナさんはスコールのパパなのに。
 エルオーネさんも会いたがってるんでしょ?』

 途端にむっつりとするスコールに、娘はくすくす笑いだす。

『わたしは、エスタでもいいと思うよ。
 エスタにはスコールの大事なひと達もいるし、魔女に関する資料も残ってるから』

 娘の言葉に、スコールは眉を寄せる。

『……まさか、また自分を封印しようと考えてるんじゃないだろうな』

 案じ顔のスコールに、娘はぽかんとする。が、やがて笑いだした。

『やだな、スコールと一緒にいるのに、そんなこと考えないよ。
 ガーデンを出たら結婚しようって、スコール言ったよね?』
『……あぁ』

 顔を紅潮させるスコールの頬を、娘はつつく。

『わたし、スコールと一緒にいるよ。これからも、死ぬまでずっと』
『そうだな。アンジェロも一緒に、そのうち家族もたくさん増えて、リノアが魔女であることを忘れるくらい幸せになろう』

 互いの額を触れ合わせ、ふたりは幸福に満ち溢れた表情をする。

『そうだね。わたしたち、おじいちゃんとおばあちゃんになって、子供や孫に囲まれ暮らすんだ。
 ……幸せになろうね、スコール』






 幸せに浸る獅子たちの画像が消えたあと、アルティミシアは憮然として呟く。

「……馬鹿らしい。あなたの世界は、こんな下らないものを見せるのですか、セフィロス」

 気配を消し隠れている男に、魔女は問い掛ける。
 光を纏い現われた長い銀髪の男は、肩を竦め皮肉な面をしていた。

「さぁな。おまえの世界とわたしの世界は別のはずだが、ライフストリームは時折いたずらをし、閉じられた世界にいる者の記憶を見せる」

 セフィロスの言に、アルティミシアは微笑を浮かべる。

「……いま見たものは、スコールの記憶ですか。
 あれらしい生温さだこと」
「さて、どうなのだろうな。
 ライフストリームは人々の記憶を蓄積する精神エネルギー。
 閉じられた世界にもこれがあるのだから、誰の記憶でもおかしくはない」

 含みを持たせたセフィロスの言葉に、アルティミシアは片眉をあげる。

「冷酷非情なあなたでも、戯言を言うことがあるのですね。中々、興味深い。
 ですが、わたしには興醒めなこと、長居は無用です」

 アルティミシアは再度霊妙な翠の光を見ると、姿を消した。

「……ふん。魔女といえど、弱い人間か」

 セフィロスはアルティミシアがしたようにライフストリームに触れる。
 現われ出でたのは、先程の映像の続き。だが、幸せなものとは打って変わって、愁嘆場だった。






『スコールッ! やだ、やだよッ!!』

 長い黒髪の女が、ベッドに横たわる土気色の顔をした秩序の戦士・スコールに縋り付き泣き崩れる。
 女の肩を支えているのは、首の後ろで髪を束ね、白いシャツ・カーキのジーンズというラフな格好をした中年の男。
 男は涙ぐみながらも、女を慰める。

『すまない、リノア……。
 魔女を恨む者を取り締まれていないのに、君たちをエスタに呼んでしまって……。
 まさか、スコールが君を庇って銃に撃たれるなど、思っていなかった』

 首を振り号泣する女に何も言えなくなり、男は女から離れる。肩で髪を切り揃え、緑のストールを纏った違う女が、顔を覆い泣く男に寄り添った。
 ばたばたと騒がしい足音が陰欝な部屋に駆け付けて来、七人の男女が入ってきた。

『スコールッ!!』

 皆がスコールの亡骸に群がる。泣き叫ぶもの、静かに嗚咽するもの様々だ。
 そのなかで、腰まで伸ばした黒髪に鈍色のロングドレスを着た女が、女の肩に手を置き話し掛ける。

『リノア……可哀相なリノア。魔女の騎士を失っても、どうか悲しみに沈まないで。
 あなたにはわたし達がいるのだから』
『ママ先生……ッ!』

 女は鈍色の女に抱きつき大声で泣いた。






 セフィロスは感情のない表情で、死んだ獅子と嘆き悲しむ者達をじっと眺めている。

「似ているな……あの女」

 目鼻立ちや口元が、うりふたつである。
 その女が、秩序の獅子と……。
 セフィロスは顎に手を当て、映像の続きを見る。






『あの子はこれから、どうするのかしら……騎士がいない魔女は、こころを闇に染め、悪しき魔女になってしまうというのに……。
 せめて、あの子たちの間に子がいれば、あの子の淋しさは紛らわされるのに、子供も授からなかった。
 だから、わたしたちが支えてあげなくては』

 鈍色の女と眼鏡を掛けた小太りの男が、スコールの遺体が安置された部屋から出て話し合っている。
 が、スコールの女はふたりの会話を聞いていた。
 場面が変わると、女は髪を縛った男に哀願していた。

『お義父さん、どうかわたしを魔女記念館に封じてください。
 わたしが悪い魔女になるまえに、どうかわたしを封印してください』

 驚いた男と彼の副官ふたりは、女の決意を覆そうと説得する。

『リノア、早まっちゃだめだ! 君はひとりじゃないんだ、自棄になっちゃいけない!』

 男たちの必死の説得に、女は思い止まる他なかった。
 後日、スコールが埋葬されたのを他の者と見届けた女は、黙って皆から離れ、石の組まれた朽ちた家に入る。そこから女は色とりどりの花が咲き乱れる場所に行った。

『ねぇ…スコール、ここで会うって約束したよね?
 どうして来ないの?』

 女は胸元からペンダントトップにした指輪を取り出す。指輪には獣の意匠――例えるなら獅子――が掘られている。

『わたし、まだ…グリーヴァの指輪…返せてないよ……ッ。
 いつか、渡そうと…思ってたのに……!』

 指輪を握り締め、女は花畑にしゃがみこんだ。

『淋しいよ、スコール……スコール!』

 花々のなかに顔を突っ伏させ、女は泣き叫んだ。


 ――サミシイカ、ワガウツワヨ。
 キシヲコロシタニンゲンガニクイカ。


 脳裏に響く声に、女はびくり、とする。
 耳を塞ぎ、身体を震わせる女のなかに、声が染み込んでゆく。


 ――ニンゲンヲニクメ。ニンゲンヲコロセ。
 ニンゲンヲセンメツセヨ! ハインノウツワヨ――!!


 顔を上げた女の黒い瞳が金色に輝き、琥珀色に変わっていく。
 同時に、射干玉の髪が銀髪に染まっていく。背には、漆黒の翼が。

『憎い、憎い、人間……憎い……!!』

 すっくと立ち上がった女の眼には、憎悪と怨嗟があった。




 女は深紅のドレスを身に纏い、顔に禍々しき異形の化粧を施した。
 その姿は、時を操る魔女・アルティミシアに他ならなかった。
 悲しみにこころを喰われ、徒に流れる年月が魔女を徐々に虚ろにしてゆく。大切なひと達――最も失くしてはならない、愛するひとの記憶も喪失した。
 魔女はひとを殺し続けた。手を数多の血で汚し、狂気に走り続ける。
 その姿は、悲しくもあった。






「……あの魔女も、普通の女だったか」

 映像が消えたのを見届け、セフィロスは軽く息を吐く。
 愛に縛られ、悲しみのなかに沈み、他者に肉体を乗っ取られ、虚ろになった哀れな女。
 相手が自分の愛した男だと知らず、閉じられた世界で獅子と闘う悲劇の女。

「因縁とは、得てしてこんなもの。大したことはない」

 ひとが狂い悪に堕ちるなど、簡単なことなのだ――己も、例に漏れない。
 だが、獅子は己の女が哀れな末路を辿るのを知らぬのではないだろうか。

「まぁ、どうでもいい。わたしには関係のないことだ」

 己には己の因縁がある、己の魂を絡めとった蜂蜜色の髪の青年。彼にしか興味が無い。――獅子のことなど、どうでもいい。
 セフィロスはライフストリームから背を向け、星の体内を立ち去ろうとする。
 ――そのとき。


『まだ……消えるわけには……いかぬ』


 聞き覚えのある声に、セフィロスは振り返る。

「……まだ何か見せようというのか?」

 新たに映りはじめた石の家の映像に、セフィロスは眉を顰める。
 ただの傍観者に、いつまで他人事を見せるつもりだ? と唇を引き結びながら、セフィロスは仕方なく映像を見る。






 血を流しよろめく瀕死の魔女が、スコールと鈍色のドレスの女、そして幼子のもとに近づいている。
 剣を出し魔女に攻撃を仕掛けようとしているスコールを止め、女は魔女のもとに歩み寄る。
 魔女から紅い光が立ち上がり、女の身体に吸い込まれる。そして、魔女は崩れるように倒れると、身体から何かを落とし、完全に消え去った。

『さぁ、帰ってちょうだい。
 ここはあなたの場所じゃない』

 帰る場所を分かっているか案じる女に頷き、スコールは歩きだす。
 女に縋りついていた幼子は、魔女が消えた場所に落ちていた指輪を見付け、拾い上げる。

『まませんせい、これなぁに?』

 女は指輪を拾い上げ、じっと見据える。

『これは、先程の青年が身につけていたネックレスと同じ意匠の指輪……。
 あの魔女は……』

 掌のうえの指輪を弄ぶ女のドレスの裾を、幼子が引っ張る。

『まませんせい、その動物、かっこいいね。
 僕、それ欲しい』

 女は指輪と幼子を見比べ、しゃがみこむと幼子と目線を合わせる。

『いいわ、大事にしなさいね、スコール。
 その動物のように、雄々しくなりなさい』

 ありがとう、とはにかみ走り去る幼子を見送り、女は呟いた。

『あの青年は、未来のスコール。あの子はSeeDだといっていた。
 わたしがガーデンとSeeDを作り、SeeDは魔女を倒すとも……。
 そして、同じ意匠を持つ指輪とネックレスを身につける、魔女とSeeD……。
 スコールは、どんな宿命を抱えているのだろう。あの子は、幸せになれるの……?』

 暫し黙り込んだあと、女は首を振り、屋内に戻っていった。

 獅子と魔女、鈍色の女と幼子を見ていた英雄は、腕組みしながら思考のなかに入り込む。

「先程の獅子は、我らの見知っている奴だった。
 が、死んだときの獅子は、大体三十代くらいか……どうなっているんだ?
 そして、獅子の女だった魔女を、獅子は倒したと言っていた……」

 符号の合わぬところが多々ある。これはどういうことだ?
 眉を寄せ翡翠色の光を眺める英雄の目に、新たな映像が映る。
 ――獅子・スコールは荒涼とした大地を彷徨っていた。




『リノア、どこだ……?』
『俺は、ひとりなのか……?』

 荒野を歩き続けたスコールの頭上に白い羽が落ちてくる。白い羽は、少女が魔女としての力を使うときに生じる白い翼を連想させる。
 白い羽を頼りにスコールは足を進め、色とりどりの花が咲く花畑にたたずむ水色のニットを着た黒髪の少女を見つける。
 安堵したスコールは、少女の肩を掴もうとした。
 が、同時に振り向いた少女の顔は、パーツが分からないほどぼやけていた。まるでモアレが掛かったように。
 場面がダンスパーティに変わり、皆が楽しそうに踊る。しかし、少女の目や鼻梁はぼやけたままだ。
 否、時折一瞬だけ重なる、魔女アルティミシアの顔が……。
 場面が忙しなく変わるなか、少女の顔面は不鮮明であり続ける。
 凱旋門のような場所に移っても、少女は曖昧なままだ。瞬時アルティミシアの面を過らせる。
 そして、暗く不気味な城に場面が変化する……スコールは警戒のなか、目の前の少女を見る。
 ふと、魔女の顔にはっきりと少女の顔が重なる。――その目鼻立ちは、同一人物といってもいいほどに、瓜二つだった。

『リノア?!』

 魔女の表情は哀しげで、どこか泣いているようであり、それでいて笑っているようにも見えた。
 再び荒野にひとり放り出されたスコールは、恐ろしい予感に鞭打たれる。


『わたしがアルティミシアに操られて暴れたら……、SeeDは、わたしを倒しに来るでしょ?
 SeeDのリーダーはスコール……。そして、スコールの剣がわたしの胸を……。
 でも、スコールにならいいかな。スコール以外はやだな。
 ね、スコール、そうなったときは……』


 宇宙空間に放流する少女の防護ヘルメットが割れ、顔が顕になる。
 ――その顔は、スコールと死に別れたときと同じ女だった。
 スコールは瞠目する。


 ――わたしを殺してくれて、ありがとう。


 スコールは、ある予感に狂乱する。
 今見たものは、未来に生きた愛するひとの、失われた記憶。
 「魔法のハイン」にジャンクションされ続け、自分がかつて誰だったか忘れてしまい、愛する者の姿をも見失った意識の欠片。
 ――そして、漂う最期の意志。

『リノアが、未来のアルティミシア……?
 俺が、リノアを、殺した……?』

 その時、スコールの魂は潰え、肉体は虚無となった。
 空っぽの身体は仰向けに倒れこむ。――眼から、涙が零れ落ちた。


『スコール……約束を果たしてくれて、ありがとう。わたし、解放されたよ。
 ううん、もしかすると、わたしたちは永遠に殺し合うのかもしれない。
 でも、幾度悪い魔女になっても、スコールになら何度殺されてもいい。
 スコールに会えて、スコールを愛せて、本当によかった。
 スコールがいた世界に戻してあげる。スコールの世界のわたしを、ここに連れてくるから。
 それから、預かってたグリーヴァの指輪、過去のスコールに返したから、受け取ってね』


 哀しき魔女の最期の言葉は、スコールの耳に届かなかった。
 やがて少女は渇いた大地に倒れているスコールを見付けだす。少女が意識のないスコールを抱き締めると、光の柱が立ち広がり、大地を潤わせ花々を咲かせた。
 少女にこころを吹き込まれ、意識を取り戻したスコールは、パーティ会場で恋人に微笑む。そこには、決意がありありと見えていた。




 ――そして、画面は悲劇を見せ付ける。

『アデルと同じ魔女め、殺してやる――!!』

 魔女アデルに苦痛を強いられた一エスタ国民が、成長した少女に向け銃を撃った。
 女は硬直する。が、傍らで見ていたスコールが女を庇い、左胸を貫通された。

『いやぁぁッ! スコールッ!!』

 女は魔女の力を暴発させようとする。
 それを止めたのは、息絶え絶えなスコールだった。

『だめ、だ……ッ。魔女、に対す…る、誤解を、生む……』

 そう言い残し、スコールは意識を途絶えさせた。


 ――あぁ、俺は死ぬのか、運命を変えられないまま。
 いや、俺が――魔女の騎士が死んだから、リノアはアルティミシアになったのか。
 すまない、リノア。おまえに辛い運命を背負わせて。
 だが、過去の俺が、約束どおりおまえを殺しにゆく。
 だから、それまで待っててくれ――。


 消えゆく命の炎を感じながら、スコールはこころのなかで女に別れを告げた。






 すべて見せ終わったのか、ライフストリームに映っていた映像は途切れた。
 細く息を吐くと、セフィロスは行きつ戻りつする緑の光に語り掛ける。

「かつて愛し合った者たちが殺し合うか――因果なものだな。
 いい余興になった」

 そう言うと、セフィロスは今度こそ星の体内から消えた。

 愛する男に殺されるのを待つ魔女と、自分の愛する女だと知らずに魔女を殺す獅子。彼らの戦いは閉じられた世界でまだ続いている。
 だが、愛する男に望んで殺される女と、愛する女を殺す宿命を自ら課す男――ある意味それは、至極の愛ともいえる。

「愛に縛られ、愛に命尽きる――それもまたいいものだと思わないか? なぁ、クラウド」

 セフィロスは目の前に居ぬ愛するものに向け、誰ともなく呟いた。
 愛は苦しみと表裏一体。己も愛する者――クラウドと見るために、剣を交える宿命にある。
 愛するがこそ、因果が生まれる。だが、それでも求めずにいられないのが愛だ。――だからこそ、止められない。
 獅子と魔女に横たわる愛と苦しみは、潔くさえある。それを垣間見たのは、ある意味運がよかったのかもしれない。
 秘かに、セフィロスは微笑んだ。







end








*あとがき*


 えーと、取り敢えず……。


 スコールファンの方々、作中で未来のスコールを殺しちゃって、ごめんなさいっっ!!



 この話は、FF8の巷説で最も有名かと思われる

「リノア=アルティミシア説」

 に基づいて書いています。
(聞いたことがない方は、「アルティミシアの正体」でググって下さい。汗)


 ちなみに、この説は賛否両論で、某巨大掲示板でこの話を出すと、スレが荒れるみたいですね。
 なので、この説が嫌いな方、本当にすいませんです(ちなみに、わたしはバッドエンドだけど、この説が好きだったり汗)。


 勿論BL専の方も、今回の話はNLだったので、読みにくかったと思われます(汗)。


 今回の話を書くにあたり、「リノ=アル説」のキーポイントになる部分を出来る限りストーリーに入れ込みました。
 わたし的には、怖くてちびりそうなんでリフレインしたくないんですが、エンディングのホラーな部分(リノアの顔がモアレってるところや、リノアの顔にアルティミシアの顔が被るところ、スコールの顔面が空洞顔無しになったところ)も、不完全かもしれませんが再現しました。


 今回スコリノ前提スコ←アル(?)を書きましたが、うちのディシディア話のアルティミシアの設定としてこの話を書きました。
 ディシディアの魔女の専用武器が、FF8のリノアの専用武器だったり、ストーリーモードに「リノ=アル説」を匂わせてあったりするので、いいよね〜〜ってことで。
 ……だからといって、公式さんが「リノ=アル説」を認めた訳ではなく、お祭りゲーのなかに話題性として有名な巷説を盛り込んだだけだと思いますが。
(でも、それって□エニさんあざといよなぁ。汗)


 なので、スコクラ話に魔女を絡めてみるのも、面白いかな、と思っています。

 あと、個人的にはスコリノ前提スコアル(orアルスコ)が萌えです。このふたりのCP話を、ディシディアのなかで書いてみたいです。
 ていうか、書きます(断言したぞ〜〜!)。




紫 蘭



 

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