Perfect Circle

愛慕――眠れぬ想い





 あんたが伝えようとして、伝えられなかった想い。
 あんな形で知ることになるなんて思わなかった。

 でも、似た者同士だよな、俺とあんた。

 ――俺も、あんたに自分の想いを伝えてない。

 あの夜、怒りのあまりあんたを詰ってしまったけど、本当は胸が痺れたんだ。

 ――今でも、まだ間に合うよな?






 ゴルベーザはセフィロスの醸す空気が荒んでいるのを、遠目に感じていた。
 飄々と達観した立ち居振る舞いが、一変して触れれば斬れそうな鋭さになっている。――まるで、彼の得物である正宗のように。

 ――あの者が変化するとすれば、間違いなく兵士絡みだな。

 ゴルベーザはセフィロスの秘事を、弟・セシルに漏らしてしまった。

 ――まさかセシルの奴、なにかしたのではないだろうな。

 様々な困難を乗り越え、人間として成長した弟は、生きることに余裕を持てるようになった。
 調和の戦士たちは、セシルの親友と性質の異なる者がほとんどだ。戦士たちが新たなセシルの一面を切り開いても、おかしくない。

 ――セシルのこと、何か考えがあってやったのだろうが、それが好転したのか、裏目に出たのか……。

 少なくとも、英雄と兵士は単純ではない。なかなかに複雑怪奇な内面を持っている。甘く見ては痛い目にあうと、ゴルベーザは危惧していた。






 セフィロスを罵った次の早朝、クラウドは痛む腰を無理矢理引きずり、眠っている皆に見つからないよう、コスモス陣営に帰ってきた。
 彼はさっそくセシルを叩き起こし、問い詰める。

「セシル、おまえ知っていてわざと俺をあそこに連れていったな?」

 言うクラウドの姿は、さんざん犯され尽くし、疲労困憊の有様だった。
 このままではまずいと思い、セシルはクラウドにケアルラを掛ける。
 痛みと怠さが引いていく。が、クラウドの機嫌は治らない。
 あはは、とセシルは可愛らしく笑う。

「……うん、知っていて、連れていったよ」

 セシルの言葉に、クラウドは眉を顰める。

「何が、あはは、だ。
 かまととぶっても誤魔化されないぞ。
 俺はあのあと、酷い目に遭ったんだ」
「酷い目……? ちゃんと想いを確かめあったんじゃないの?」

 きょとんとした顔のセシルを、クラウドは睨む。

「……そう簡単に納得しあえるほど、俺とセフィロスの関係は単純じゃないんだ」
「えっ、クラウドはセフィロスのことを愛してるんでしょ?
 そして、あの様子じゃ、セフィロスも……」

 顎に手を当てて考えるセシルに、クラウドは頭痛がしそうになる。

 ――おまえ、俺の想いを知っていたのか……。
 それに、その様子じゃ、昨日帰ると見せ掛けて、あの場でセフィロスの様子を見ていたんじゃないか。

 クラウドは顔を曇らせ、溜息を吐く。

「……あいつは、俺の大事な人たちを殺し、俺自身を傀儡にしようとしたんだ。
 そして今も、あいつの呪縛は俺のなかに残っている」

 ジェノバ細胞が体内にある限り、俺はまた操られるかもしれない――クラウドのなかにその恐怖は色濃く根付いている。
 第一、神羅時代は恋心から結ばれたにしろ、現在の身体がセフィロスと繋がれたがるのは、リユニオン衝動が働いているかもしれないのだ。
 そして、それはセフィロスも同じではないか?
 この想いが昔の恋心ではなく、ジェノバ細胞によるものなら、俺はジェノバに負けてしまうことになるのか。
 それならば、悔しい――クラウドは唇を噛む。
 セシルはクラウドの暗い面持ちを眺め、嘆息した。

「君の想いは、セフィロスの呪縛によるものなの?
 君がセフィロスを拒めなかったのは、セフィロスが秘かに君の身体に指令を掛けていて、流されたから?」

 セシルの問い掛けに暫し考え、クラウドは力なく首を振る。

「……違う、ジェノバ細胞を入れられる前から、俺はあいつに恋してた。
 あいつの人形になる前にも抱かれたことがあったけど、俺は嫌じゃなかったんだ」

 ――だから、昨晩犯されながらも、セフィロスのすべてを受けとめたいと思った。
 それは、あの頃の――神羅時代の想いの続きなんだ。

 伏せていた顔をあげたクラウドに、セシルは頷く。

「クラウド、クリスタルはこころの命じる声に従うことによって輝くって、兄さんが言っていたんだ。
 今のままだと、君のクリスタルは曇って消えてしまいそうだね」

 言われ、クラウドは手からクリスタルを出現させる。
 翠色に輝くクリスタル――まるで、亡き人が所有していたマテリアのようなクリスタルを、クラウドは見入る。

 ――俺がクリスタルを手に入れたのは、セフィロスの導きではなく、自分自身のこころの命ずるままに動いたからだ。

 セシルは翠の球形のクリスタルを見つつ、呟く。

「――多分ね、セフィロスはどういう仕組みでクリスタルが現われるか、知ってたんだ。
 兄さんの話では、彼は僕たちが死にかけたとき、一度自殺して甦ったらしいから。
 死んで甦るまでの間に、何かを知ったんじゃないかな」

 セフィロスが一度自殺した――? クラウドは目を見開く。
 いつも冷静で動じないセフィロスが、自ら命を断つとは。

 ――いや、あいつのことだ。何か考えがあって自殺したんだろう。

 感情に流されるような男でないことは、自分が一番よく知っている。
 眼の光をしっかりさせていくクラウドに、セシルは微笑む。

「……で、クラウドは自分の想いを伝えたの?」

 セシルの問いに一瞬詰まりつつも、クラウドは首を振った。

「いや、あいつの醜悪さを罵っただけで、俺の気持ちは伝えなかった」
「なにそれ、一番見られたくないことや、知られたくないことを知られた挙げ句、好きな相手に罵倒されるなんて、セフィロス可哀相だね」

 くすくす笑うセシルに、クラウドは困惑する。

「……セフィロスに対して可哀相と言うのは、おまえくらいだぞ」

 ああ見えてセフィロスはプライドが高い。可哀相と笑われたと知ったら、憤死しかねない。
 さんざん笑ったあと、セシルは強い目で言う。

「……クラウド、今度は君の番だと思うよ」

 セシルの励ましに、クラウドは首肯した。






 翠の光塵が降る星の体内。
 セフィロスは神秘の輝きを見ながら、こころの深淵に沈んでいた。

 ――クラウド、おまえはどこまでも愚かな奴だ。
 人形風情が、このオレに恥をかかせるとは。

 畢竟、自分も人間の甘さを捨て切れていなかったということだ。
 ひとであった頃のふたりの愛と絆は、壊れてしまっているのだ。クラウドは何をしても、何を言っても信じないだろう。
 ならば最初からクラウドのこころを欲さず、意の儘になる愛玩人形として扱えばよかったのだ。
 愛が戻らないならば、個体そのものを壊してやろうとも考えた。が、この閉じられた世界では、死は記憶をなくさせるだけで、意味をなさない。

 ――ならば、完全なる人形にしてやるまでだ。

 細胞を操る核となる母――ジェノバはここにはいない。
 くっ、とセフィロスは笑う。

 ――そうだな、おまえに死ぬほどの痛みを与え、とろけるような悦楽の淵に堕とし、這い上がれないようにしてやろう。

 そして、永遠なる枷をつけ、オレという檻のなかに閉じ込めてやる――セフィロスはうっそりと笑う。
 そんな彼のもとに、歩み寄る影が。

「――ゴルベーザか」

 気配だけでその存在を読み取るセフィロスの五感の鋭さに、ゴルベーザはふん、と笑う。

「おまえのなかの暗闇は、一体どれほどの深さなのだろうな」

 ゴルベーザの語り掛けに、セフィロスは見向きもしない。

「いや――おまえの絶望の大きさは、無尽蔵なのだろう。
 今更ひとつ増えたとて、大して変わらぬか」

 辛辣なゴルベーザの言質に、セフィロスは研ぎ澄まされた眼光ひとつだけを投げてよこす。
 ゴルベーザはびくともしない。
 セフィロスはふっと笑い、口を開く。

「――生憎、わたしは混沌の者でも見境がないのでな。
 誰に剣を振るおうが、やぶさかではない」

 静かな低音に凄味を効かせ、セフィロスは正宗の柄をゴルベーザにちらつかせる。
 ゴルベーザは腕組みしたまま、動かない。

「――わたしに、こけ脅しは通用せん」

 魔人の一言を切っ掛けに、セフィロスは太刀を繰り出す。
 目にも見えぬ剣筋をひらりと躱し、ゴルベーザはセフィロスに突き付けた。

「――自分の殻に閉じこもるか。兵士も哀れだな」

 セフィロスは振るいかけた正宗をぴたりと止め、眉を潜める。

「クラウドのことは口にするな」

 一瞬怒りを孕ませる英雄に、ゴルベーザは嘲う。

「英雄といえど、ただの愚か者か。
 兵士のこころを知ろうともせんとはな」

 暫しの、無言。
 やがて鼻で嗤うと、セフィロスはゴルベーザに突き付けていた刃先を下ろした。

「クラウドのこころ……?
 戯言を、人形にこころなど必要ない」

 頑ななまでに閉ざされたこころに、ゴルベーザは秘かに嘆息する。

「……何事も理解を放棄するか。
 それならば、せいぜい狂い続けるがいい」

 そう言い、英雄をその場に残して魔人は消えた。






「……そうか」

 わざわざセフィロスが狂気に堕ちたことを知らせに来てくれたゴルベーザに、クラウドは目を伏せた。

「ごめん、クラウド。
 僕が余計なことをしたから、こじれさせてしまったね」

 詫びてくるセシルに、クラウドは首を振る。

「……いいんだ。俺も覚悟を決めるだけだから」

 ゴルベーザはおや、と眉を釣り上げる。
 諦観とともに上げられたクラウドの顔が、不思議なほど晴れ晴れとしていた。

「どうせいつかは決着をつけなくてはいけなかったんだ。
 中途半端なままずるずる関係を続けるのも、よくないことだった」

 そう言って、クラウドは歩きだした。――星の体内に向かって。

「あの者、一皮剥けたな」

 クラウドの背を見ていたセシルは、ゴルベーザの声に顔を上げる。

「迷いが払拭されたか」

 セシルは頷く。

「クラウドの求めていた夢と未来が、見つかったんだろうね」

 目を細めるセシルに、ゴルベーザは微笑んだ。






 星の体内に辿り着くと、広い足場でクラウドは大剣の柄に手を掛ける。
 ――確かに、いる。気配を感じる。否、細胞が、セフィロスと共鳴しざわめく。

 ――やはり、俺の肉体はセフィロスとリユニオンしたがっているのかもしれない。
 でも、気持ちは昔からあったもの。――リユニオンなど、関係ないんだ。

 クラウドは目を瞑り、気配を探る。が、空気の動きさえない。――セフィロスは本気なのだ。
 その時、軽やかに風を斬る音がし、幾筋もの斬撃が襲い掛かってくる。
 目を開くと、クラウドは素早い動きで居合いをガードした。

「そうでなくては、おもしろくない」

 バスターソードを構えると、左手に長い刀を持った銀髪の剣鬼が現われる。
 翡翠の瞳は狂気に彩られており、口元には禍々しい笑みが刻まれていた。

「さあ、わたしを楽しませろ。そして、痛みに跪くがいい」

 はっと気付いたときには、黒い気砲が四方を取り囲んでいる。
 クラウドが跳躍して避けると、目の前に黒の戦闘服が迫っていた。
 正宗の一振りで出される幾つもの剣筋が、クラウドの身体を刻む。
 防御が間に合わず、まともに攻撃を食らって、クラウドは吹っ飛ばされた。
 それでも迫ってくる歴戦の英雄に、クラウドは戦慄する。

 ――これが英雄の本気の力か。

 クラウドも攻撃を避け、大剣の乱斬りをセフィロスに仕掛ける。
 が、セフィロスに正宗で刄を止められると、返す刀で全身を刻むように斬られ、クラウドは地面に引き倒された。

「――カハッ!」

 血を吐き仰臥したクラウドの喉元に正宗が突き付けられる。

「――つまらんな、もっと粘るのかと思っていたが……。
 まぁ、いい。真の楽しみはこれからだ」

 クラウドの喉仏のうえに正宗の刀身を真横に備えると、セフィロスは悠然とのしかかり、指で血が滲む肌をなぞった。

「……ッ」

 痛みとともにぞわり、と背筋をはい上がる鈍い痺れ。
 指で傷口を愛撫し、息を呑んだクラウドを観察すると、セフィロスは深紅の血潮に口をつけた。

「あっ、やめ……っ!」

 血を何度も舐め上げられ、痛みと快感にクラウドは悶える。
 ふっと笑うと、セフィロスは組み敷いた白い肌に幾筋も残る切り傷に爪先を入れ、抉るように肉を開いた。

 痛みに唇を噛み締め、クラウドは四肢をもじもじと揺らし悶えた。
 斬りつけた傷にむしゃぶりつきながら、セフィロスはセーター越しに胸の突起を探り、きゅっと捻りあげる。緩急つけて揉みしだくと、クラウドは濡れた喘ぎを上げはじめた。

「……あっ、セフィ…ロス……」

 痛みさえ甘美となり、弄られ続ける胸の頂きがじんじんと麻痺してくる。
 クラウドは腕を上げると、逞しい背に縋りつく。セフィロスは片眉を上げた。

「……何の真似だ」

 神羅時代はいざ知らず、今までの情事のなかで、クラウド自ら抱きついてきたことなどなかった。
 上げられたセフィロスの顔を見、クラウドはくすり、と笑う。

「……あんた、口元すごいことになってるな。
 まるで吸血鬼みたいだ」

 ずっとクラウドの血を啜り続けていたので、セフィロスの口廻りは赤に塗れている。
 少し上肢を起こすと、血迷ったのかと言いたげなセフィロスの顔にクラウドは口づける。舌で男の唇を舐めると、鉄の味がした。
 セフィロスは怪訝そうな面持ちをしている。

「……おまえ、自分がなにをされているのか分かっているのか?」
「分かってるよ。レイプされかかってるんだろ?」

 軽い口調で返され、セフィロスは眉間を寄せる。――クラウドの考えていることが見えない。

「いや、別に俺はそう思ってないから、和姦ってことになるのかな」
「おまえ……?」

 強姦されると、思ってないだと……? なめているのか、こいつは。
 セフィロスの目つきが険しくなり、クラウドの股上をズボンのうえから加減なく玩弄する。クラウドは息を詰めた。

「これでも、襲われていると思わないのか?」

 荒くなる息遣いに堪えながら、クラウドは口を開く。

「……あん…た、馬鹿…だよな」
「何……!?」

 セフィロスは思わず手を止めてしまう。

 ――この期に及んで、まだ愚弄するつもりか。

 翠の眼光が新たな怒りを孕むのを見、クラウドはため息を吐く。

「あんた……なんで自己完結しようとするんだよ。
 昨夜だって、今だって……俺の気持ちを知ろうとしないだろう?
 なんで、はっきり自分の想いを言ってくれないんだよ。
 夢寐(むび)の言葉に紛らせて、伝わると思ってるのか?」

 セフィロスは瞠目する。
 思いがけず突き付けられた、真剣な想い。
 クラウドの眼差しは、真摯そのものだ。昨夜罵倒したときの蔑みは含まれていない。
 ――クラウドは昨夜自分が見せてしまった想いに、向き合おうとしている。
 狂気のなかに潜んでいた理性が、セフィロスの脳内をクリアにしてゆく。
 クラウドは自嘲の笑みを浮かべる。

「……でも、俺はあんたを罵る資格がないんだ。
 今の状況は、抱き続けてきた想いを見ないできた報いなんだろうな。
 ずっと肌を接してきて、あんたの想いを薄々知っていたのに、嘘だと決め付けて……。
 俺が過去に拘らなければ、あんたも苦しまずにすんだのに」
「クラウド……?」

 何が言いたいのか、何を言おうとしているのか。
 セフィロスはクラウドの感情を読み取ろうと、蒼い眼を凝視する。

「俺……神羅時代から変わらず、あんたを愛している。
 ジェノバ戦役のときや、この世界に来てからも……、ずっとあんたを想い続けていた。
 だから……あんたと戦い、倒さなければならない宿命が、悲しくて堪らなかった。
 ジェノバ戦役や今でも……ただ弄ばれているのが、辛くて仕方がなかった。
 昔のように、あんたをこころから求めることができないのが、悔しかった。
 何度もあんたを殺したのは、星のためじゃない……あんたを殺すのは、自分だけだと思ったからだ」

 真っすぐな眼で想いを告げるクラウドに、セフィロスは目を瞠る。

「昨日あんたを罵倒したのは、あんたを軽蔑したからじゃない。
 あんな風に俺を呼びながら、ひとりで慰めてたことに我慢ならなかったんだ。
 ……なんで、手を伸ばせばすぐそこにあるのに、素直に言ってくれなかったんだよ。
 あんたが自分の言葉で想いを言ってくれたら、俺はあんたを拒まなかったのに。
 そういうところ……あんた神羅時代と変わらない。折角同棲しても、俺が欲しくて堪らないのに、俺に遠慮しひとりで欲望を処理して……。あのときも、俺が一歩を踏み出さなければ、あんたは何もしそうになかったじゃないか。
 あんたが俺を欲しがったように……俺もあんたを欲しいんだよ。
 だから、昨日のあんたを見て、寂しくなった。正直、傷ついた。
 俺もあんたと同じなのに……想いを共有することはできないのかよ」

 今あんたに傷つけられた身体より、あんたに求められないこころの傷のほうが痛い――そう言い、クラウドは顔を背ける。
 自分の想いはすべて打ち明けた。あとは、どうなってもいい。人形として粗末に扱われても、構わない。自分をすべてセフィロスに捧げるだけだから。
 けれど、自分がこころを開いても、セフィロスに受け入れてもらえないなら、生きる価値さえないのではないか――クラウドはそう思った。
 涙ぐむ眼を隠すように瞼を閉じたとき、突然セフィロスがクラウドの肩当てを外し、セーターを脱がせはじめた。

「な、なにを……!?」

 次々と着衣を脱がされ、全裸にされてしまい、クラウドは戸惑う。

「これから和姦するのだろう?
 その前に、その傷を何とかしなくてはな」

 そう言ってにやりと笑い、セフィロスは懐から緑のマテリアを取り出す。
 クラウドはあるはずのないものを手にしたセフィロスに、驚愕する。

「マテリア!? あんた、なんでそんなもの」
「この世界にはない、と言いたいのだろう?
 だが、ここはライフストリームの溢れる場所。天然のマテリアなどいくらでも転がっている。
 そのマテリアに、オレが方向づけしただけだ」

 そして、セフィロスはマテリアを掲げる。

「――フルケア!」

 唱えられた魔法に、またもクラウドは驚く。
 全身が緑の光に包まれたあと、クラウドの傷は七年前とこの世界にくる前につけられた傷跡だけ残しすべて消えた。

「フルケアって……希少なマテリアじゃないか。
 あんた、そんなのも作ったのか?」
「オレに出来ないものがあると思うか?」

 自信ありげなセフィロスの言に、クラウドは当惑する。
 いや、ライフストリームに留まっている間に、星に貯えられた知識をすべて手に入れたと言っていたから、あるいは可能なのかもしれないが……。

 …………ん?

 クラウドは破顔しているセフィロスをまじまじと見る。

「……あんた、オレ、って……」

 昔の、正気だった頃の呼び方。
 それを、狂気であるはずのセフィロスが言っている……。

「……あんた、いま、まともなのか?」

 あえて答えを濁し、セフィロスは逆に問い掛ける。

「おまえの眼には、どう見える?」

 言われ、クラウドはセフィロスを食い入るように見る。
 先程戦う前にあった狂気は、微塵もない。ジェノバに侵される前の、穏やかで柔らかな瞳……。
 ――クラウドの愛した男が、そこにいた。
 思わず、クラウドはセフィロスに抱きつき、ぼろぼろと泣きじゃくりだす。
 裸の背に廻された腕は、優しく暖かかった。

「クラウド……おまえを、愛している。
 狂ってからもずっと変わらず、おまえだけを……。
 狂気のなかにあっても、ジェノバの息子としての使命以上に、おまえを欲していた。
 無理矢理おまえを犯したが、本当はおまえが愛しくて、おまえが堪らなく欲しくて、おまえを抱いていた」
「セフィ…ロス……」

 クラウドの涙を唇で吸い取りながら、セフィロスは想い人の身体をまさぐる。敏感に反応してくるクラウドに、セフィロスは柔和な笑みを浮かべた。

「幻想のなかでおまえを抱きながら、ずっと自分を慰めていた。
 だが……本当は、虚しかった。イメージのなかでオレを受け入れ、昔愛し合っていた頃のように放恣に乱れるおまえを抱いても、現実に帰るとおまえはそこはいない。それが辛かった」

 苦悩を言葉に託すセフィロスに、クラウドは口づける。深い接吻を交わしたあと、クラウドは美しい微笑みを見せた。

「あんたのイメージの俺よりも、本当の俺のほうが貪欲だよ。あんたも、知ってるだろ?
 ……あんたを好きで好きで堪らないから、俺はいくらでも大胆になれるんだ」

 そういいながら、クラウドはセフィロスの黒革のコートの止め金を外し、胸元をはだけさせた。

「そうだな……幻想のおまえよりも、オレを満足させてくれるんだろうな?
 期待しているぞ」

 セフィロスの色気満々な挑発に、クラウドは艶やかに笑った。






 夜、英雄が星の体内でひとり悶え苦しむ姿はなくなった。
 かわりに、とめどなく互いを求め合う恋人たちの、幸せで切ない喘ぎが聞こえるようになった。



「ひとり辛そうにされるよりましだが、今度は馬に蹴られそうで通りにくい……」

 複雑な表情を見せるゴルベーザに、セシルは

「いいんじゃない? ふたりが幸せならそれで」

 と呑気に笑った。








end







*連載あとがき*


 この話は、はじめ読み切りにしていたものを、連載したものです。


 なんつーか、英雄ヘタレ! んで痛い!
 クラウドは……その……大胆で、誘い慣れているように見えて仕方ない、というか……(悪女か魔性の女くさい。汗)。


 本当は、パラレルであるディシディアより、7本編やコンピの続きという形でふたりの幸せ話を書いたほうがいいんだろうなぁ、と思うんですが(汗)。
(ディシディアでは、デュエルコロシアムや、トットさまと負け犬編、究極の幻想があるにしろ、ストーリーモードからしたら厳密なハッピーエンドとはいえないし……。←次話で解決済み。)


 いつか、7本編絡みで、うちの何かと可哀相な、不本意受けキャラ英雄を幸せにするぞ! 計画を発動したいと思います(笑)。

 

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