Perfect Circle

愛惜――眠れぬ想い






 ――どうしたものか……。

 調和と混沌のあわいに存在する戦士・ゴルベーザは月の渓谷にたたずみ、真剣に悩んでいた。

 ――堕ちた英雄が、あのような様を晒しているなど……。

 端的にいえば、ゴルベーザは見てはならぬものを見てしまったのである。
 カオスの戦士は、群れるのを好まない。戦いに向かず、調和の戦士と遭遇しない夜は、ほぼみな自分の宿地にて過ごしている。
 が、特異な立場にいるゴルベーザは、時折似た境遇にいるジェクトと話をするため、夢のなごりに足を運ぶことがあった。
 ある晩、通過点である星の体内を通っているとき、たまたま彼は英雄・セフィロスの秘密を目撃してしまったのである。

 ――英雄とはいえ、ただの男。別に不思議なことではないが……。

 問題は、目にしたものに、冷酷な英雄らしからぬ苦しみを伴っていたことだ。
 寂寞を帯び、哀感に満ちた表情で、男は自らを慰めていた。

 ――冷酷でサディスティックには見えぬセフィロス……。

 その姿は奇妙、の一言に尽きるが、もとより謎の多い男である。混沌勢の思惑に加わらず、ただひとり孤高に存在している。
 そんな彼が唯一表情を変えるのは、調和の側にいる兵士・クラウドに相対しているときである。
 兵士と刄を交えるセフィロスは、ひたすら冷徹で無慈悲に相手を責め苛む。兵士を切り刻む英雄の面は、どこか楽しげにも見えた。

 ――だというのに、あの男、兵士の名を……。

 英雄の口から切なげに、哀しげに漏れる兵士の名。
 あの男がカオス軍に身を置くのは、ひとえにコスモス軍にクラウドがいるからなのだ。それしか、理由が見つからない。

 ――そして、兵士も失いし者。他の調和の戦士に比べ、覇気がない。

 戦う意味も、夢見るべき未来も見失った男。
 先の戦いでカオスに敗れたコスモスは、自らの命を掛け、己の欠片であるクリスタルを生み出した。
 クリスタルは調和の戦士に各々託され、戦士たちは蘇生することができたのだ。
 戦士たちは残り少ない命を長らえさせるため、クリスタルを見つけださねばならなかった。
 コスモスはあらかじめ、調和と混沌の要素をもつゴルベーザに、クリスタルが出現する条件を教えていた。
 そして、戦士たちが無事クリスタルを見つけるよう導く役目を与えていた。
 ゴルベーザは他の戦士にしたのと同じく、明らかに迷い続けるクラウドにも助言を与えようと動いていた。
 そこを、セフィロスに阻止されたのだ。
 クラウドはセフィロスの行った小細工により自らの意志で戦う決意をし、セフィロスの計算どおり彼を打ち負かし、クリスタルを手に入れた。

 ――光が懐かしいか。
 ――光に近づきすぎるあまり、その身を焼かれぬことだ。

 あの日、ゴルベーザを牽制するべく口にしたセフィロスの言葉。

 ――光に自ら近づき、その身を焼かれているのは、どこのどいつだ?

 纏う闇を薄れさせ、宿敵である兵士を想う堕ちた英雄。
 ゴルベーザの目には、彼こそ兵士のなかにある光を欲しているようにしか見えない。

 ――あの男の行動原理は、混沌勢に理解されていない。
 否、英雄自身、如何ともしがたい不条理を抱えているのかもしれぬが。

 秩序の女神とその戦士たちが死にかけた先の戦いの直後、混沌の戦士たちの前でセフィロスは自ら命を断った。
 秩序と混沌の連戦で、つねに混沌が勝利している。戦いに敗れ死ぬたび、調和の戦士は蘇ってきた。
 それは秩序の女神が健在であり、秩序と混沌の均衡が保たれていたからだ。
 が、秩序の女神の命が望めぬ今、調和の戦士の復活も期待できない。一方が滅ぶことにより、危ういバランスで成り立っていた世界に綻びが生じることになる。
 混沌勢は不審がっていたが、セフィロスは兵士の永遠なる死に絶望し、自殺したのかもしれない。

 ――それならば……英雄も哀れな男なのかもしれぬ。

 秩序の女神は戦士たちを閉じられた世界から解放するため、自らの生を放棄した。
 ゴルベーザは女神の企みに加担し、すべてのクリスタルが現出するため暗躍している。
 その先に待つのが、何かは分からない。
 そして、何も知らない弟たちにさらなる苦しみをもたらす事に、こころが痛まぬ訳ではない。
 セフィロスは一度死んでから、纏う空気が変わった。死したことにより、世界の仕組みの一端を知ったのかもしれない。
 その上での、兵士への執心と苦しみ。何ともやるせない。
 ゴルベーザは月世界の乾いた風を頬に感じながら、様々な思いに耽っていたが、近づいてくる気配に振り返る。

「兄さん、何を考えてたの?
 この世界の行く末が心配?」

 弟の問い掛けに、ゴルベーザはマスク越しに笑う。

「……セシルか、何、大したことはない。
 セフィロスという男の面妖さに関し、徒然と考えていただけだ」
「セフィロスの?」

 セシルの纏う空気が不穏なものに変わり、声色が低くなる。ゴルベーザは訝しんだ。

「面妖ねぇ。あの男、何考えてるか分からないように見えるけど、実は単純だと思うよ」
「……セシル?」

 弟らしからぬ辛辣な言葉に、ゴルベーザは面食らう。

「あの男、多分クラウドしか見ていない。
 僕はクラウドとよく行動しているけど、たまにはぐれる事があるんだ。
 そういうとき、クラウドは大抵セフィロスに捕まって、性欲の捌け口にされているんだ。
 僕の見立てでは、クラウドはセフィロスに複雑な感情を抱いているみたいで……。
 だから、クラウドが憔悴して帰ってくるのを見るのが辛くってさ、大事な仲間を汚すセフィロスを許せないよ。
 わざわざクラウドの身体の見えるところに所有の痕を付けてさ、鬼畜だよね」

 セシルの感情的な言動に、ゴルベーザは首を捻る。

 ――性欲の捌け口にしていた? あの、兵士を切なげに呼びながら自分を慰めていた男が?

 ゴルベーザは弟に向き直る。

「セシル、それは考え違いかもしれんぞ」

 諫める兄を、セシルは怪訝そうに見た。






 ライフストリームは、いつ見ても翠の輝きを宿し、色褪せない。
 星の命。
 星に生まれた生命が、生まれ出ては帰るところ。
 星で生きたものの記憶が、渦を巻いて循環する場所。
 ――約束の地。

「本当に、星の体内は綺麗だよね。翠が神秘的で、見ていて飽きないよ」

 その宵、クラウドは散策に行こうとセシルに連れ出された。
 そして、行き着いた先が星の体内だったのである。

「……セシル、はやく違うところに行こう」

 今の時間、十中八九居るだろう――セフィロスが。
 クラウドは慎重に気配を消しつつ、セフィロスへの警戒を万全にしていた。
 が、セシルはクラウドのこころを慮ろうとしない。

「もう少しいいでしょ?
 何かあれば、僕も一緒に応戦するから」

 事もなげに言ったセシルに、仕方なくクラウドは息を吐いた。
 自身もライフストリームに目を向けたクラウドに、セシルは含みある笑みを浮かべた。






 星の体内――自身とセフィロスにとって、何かと因縁深い場。
 何時だったか、はっきり思い出せない。これは記憶の断片か。――暗い星の奥底で、自身とセフィロスは対峙した。
 星に仇なす者となった愛するひと。星を救うため、究極の白魔法を唱え殺された亡きひとのため、哀しみを抱えながらも、クラウドは堕ちた英雄と戦った。

 ――いや、俺は俺のために戦ったんだ。
 愛するひとがひとならざる者として生き続けていることに、我慢がならなかったんだ。
 だから、俺は愛するひとを手に掛けたんだ――…。

 星に仇なす者を葬ることは、すなわち自身の最も愛したひとにとどめを刺すこと。クラウドは愛するひととの思い出をこころの奥底に留めながら、新しい生を歩もうと思った。

 ――なのに、何で終わっていない?
 終わるどころか、何でこんな形で続くんだ?

 この世界で再び狂気の英雄と見ることになり、剣を交え続けている。
 それだけなら、まだいい。
 セフィロスはクラウドと戦うたび、正宗で痛め付けたあと、必ず彼を凌辱する。――ジェノバ戦役のときのように。
 もう何度抱かれたか分からないほど、クラウドはセフィロスに犯され、神羅時代に仕込まれた肉体の悦楽を、あまつところなく引き出されていた。

 ――あいつは俺に拭い去れぬ屈辱を与えるため、嘲笑いながら何度も快楽を与える。
 過去の英雄への想いを引きずる俺に痛手を負わせるため、あいつは昔のように愛を囁く。

 これ以上、想い出を壊されたくなかった。
 こころの最深部に眠る、クラウドの一番大切な存在。少年時代最も愛し慕ったひと。
 そのひとが、無慈悲な笑みを浮かべ、偽りの言葉を囁きながら自身を犯し続ける。――想い出のなかの優しい笑みと柔らかな瞳が、壊されてゆく。

 ――俺が求めるあのひとは、穏やかで優しかったあのひとだけ。

 少年時代の大切な思い出。二年の時を共に過ごし、素肌を重ね愛を貪りあった。
 親友に裏切られたことや、科学部門のこころない扱いにより不安定になることもあるが、セフィロスはいつも愛と優しさで自分を包んでくれた。クラウドもセフィロスの哀しみを余さず受け止め、彼を癒そうとした。
 ――その絆も、ニブルヘイムでセフィロスが豹変したことにより、無残に壊れてしまった。
 クラウドは顔を伏せる。

 ――確かに俺は、いまのあいつが嫌いだ。
 でも、あいつはあのひとなんだ。
 だから……何度も挑まれ、負けさせられても、全力であらがおうとしなかった。

 はっと目を見開き、クラウドは唇を噛む。

 ――結局、俺もあいつに抱かれたかったのか?

 認めるのは悔しい。自分から大事な思い出を壊そうとしているようだ。――でも、それが本音だったら。

 ――俺は……馬鹿だ。嫌なあの男に、昔の面影を重ねている。

 決着をつけたはずの恋がまだ終わっていないことに、クラウドは愕然とする。
 嘆息を吐き、クラウドは傍らのセシルを振り返る。
 ――が、セシルはどこにもいなかった。
 慌ててクラウドは辺りを見渡すが、姿は疎か、気配も感じ取れなかった。

 ――何考えてるんだ、セシル! ここで俺をひとり置き去りにするか?!

 ここには、セフィロスがいる。
 襲撃を受けても、セシルがいたならこちらも理性を保って英雄を退けられた。が、ひとりだと自信がない。――弱い自分に負けそうで、怖い。
 しかし、じっとしたままではいられない、とにかくここから脱出しなければ。
 クラウドは慎重に自身の気配を消し、セフィロスの動向と退路を探った。
 そして、気が付く。
 どこからか、くぐもった低い喘ぎが聞こえてくる。――それはまさしく、セフィロスの声だった。

「んッ…う、…はぁッ……」

 悩ましく、つややかに擦れた呻き声に、クラウドの背筋が戦慄する。

 ――セフィロス、何やって……。

 ひどくなまめいた声から、何をしているかくらい予想できる。
 だめだ、とこころに言い聞かせながらも、好奇心に負け、クラウドは声のする方――広い足場にそろそろと近づいた。
 クラウドは死角になるブロックに身を潜め、銀の姿を見て瞠目する。

 ――確かに、セフィロスはそこにいた。
 驚いたことに、彼は切なげに喘ぎながら、露出した下肢を弄んでいた。

 クラウドは驚愕のあまり、その場で固まってしまう。
 セフィロスは暴れ狂う熱に捕われているのか、クラウドに気付かない。
 濡れた音と淫らな声に彩られ、凄艶な色気を放ちながら、ひとり自らを慰めている。
 暫らく動けないままでいたが、見てはならないものを見ていると自覚し、クラウドはゆっくりその場から離れようとした。
 ――その時。

「はッ…あッ……。クラ…ウド…クラウ、ド……ッ」

 扇情的な声色で、セフィロスからクラウドの名が漏れる。
 それはひどく切なげで、悩ましげだった。
 再び、クラウドは動けなくなる。

 ――なん、で……俺の名を……。

 求めるように、苦しげに呼び続けられる自身の名に、クラウドは混乱する。
 セフィロスの乱れた姿に、クラウドのなかの記憶が呼び起こされる。
 クラウドはセフィロスに焦がれていた彼の親友・ジェネシスの差し向けたソルジャー達にレイプされかけたことがこころの傷になり、セフィロスと同棲しても中々性愛に踏み出せなかった。
 セフィロスはそんな自分を気遣い、自分に見えないところで自らを慰めていた。クラウドはセフィロスが自分に隠れて自慰をしているのを知って無性に切なくなり、セフィロスの情欲に応えられない自分を歯痒く思った。
 それは、正気のセフィロスと愛し合った日々の、大切な記憶の一場面だ。
 クラウドはその記憶を、生々しくフラッシュ・バックしてしまう。

 ――どうして、自分を慰めながら、苦しげに俺を呼ぶんだよ……。

 何が何だか分からぬまま、クラウドはじっとセフィロスを見入っていた。
 終わりが近いのか、吐息が震えている。
 薄く開いた眼には、悲愴さと孤独がある。
 それは、かつて見た正気の英雄・セフィロスの瞳だった。

 ――どういう、ことだよ……あのひとと、同じ眼をしてるなんて……。

 クラウドは懐かしい痛み――自分に秘密で愛欲を処理するセフィロスを覗き見したときのこころの痛みと切なさを再び味わい、惑乱する。
 その間にも、セフィロスは果てようとしていた。

「はぁッ、あぁッ、ク…クラ、ウド……クラウドッ……」

 泣き叫ぶようにクラウドを激しく求め、セフィロスは恋慕を解き放つ。
 情熱が行き去り、セフィロスは脱力した。






 自分の前では秘めた想いを一言も口にせず、ひとりきりで自身を求め呼びながら情欲を満たしたセフィロスに、クラウドは腹立たしくなってきた。

 ――何で、何も言ってくれないんだ。
 あんた、どういうつもりで俺を抱いていたんだよ。
 俺に何も言わないで、こんなところで俺を求めるなんて……!

 交わりのなかで囁かれた、嘘だと思えた言葉が、本物だったとしたら?
 あれが――真摯な愛の言葉だとしたら。
 どうして頑なに受け止めようとしなかった自分に、セフィロスは何も言わなかったのか。
 もしいまのセフィロスが、正気のセフィロスの想いを引き継いでいるとしたら……。
 クラウドのなかで、怒りがふつふつと込み上げてくる。

 ――俺も馬鹿だけど……あんたはそれ以上に大馬鹿だ!

 クラウドは物陰から出ると、気怠げに目を瞑っているセフィロスの前に立ちふさがった。






 夜になると、たまらなくクラウドが欲しくなり、セフィロスは密やかに自らを慰める。
 身体を掻き立てる情熱は、刄を交えるときに感じる獣欲ではなく、狂う前に抱いていた慕情と同じ。
 クラウドを見つめているだけだった頃、夜ひとりで自らを慰めていた。
 同棲し始めの頃、ジェネシスの差し向けたソルジャーに汚されかけたクラウドを気遣い、彼の肉体に触れなかったときも、自身の情欲をひとりで処理していた。
 愛しく、切ない想い――狂気に走ったあとも、あの頃の想いのかたちが、ありありと存在している。
 だから苦しくて堪らない――セフィロスは自嘲する。
 戦うときに感じる痺れるような欲望も、夜切なさと遣る瀬なさを感じさせる情欲も、もとをたどれば同じもの。ひたすらに、クラウドだけに向けられる愛執だ。
 それを今クラウドに向けたところで、混乱させるだけではないか?
 正気だったときはいざしらず、今は敵だ。
 正気だった頃は、色々ありながらもお互い疑うものがなかったから、真っすぐ愛し合うことができた。
 が、戦いの延長戦で凌辱したジェノバ戦役のときや今では、クラウドに葛藤しか与えない。

 ――だから、この想いを知るのは自分だけでいい。

 この淋しさと哀しさ、切なさは、クラウドの愛を裏切り、自らの手で彼との絆を断ち切った報いなのだ。
 セフィロスは弛緩したまま、面を伏せる。

「……不様だな、あんた」

 突如として頭上から振ってきた声に、セフィロスはぎくりとする。
 見上げると、冷笑を浮かべたクラウドがいた。

「……クラウド」

 いつのまに、ここに。
 そんな疑問が湧く。が、自慰に没頭するあまり気配に気を配っていなかった自身の不注意だった。
 ――が、よりによって、クラウドに見られてしまうとは……。
 思ったとおり、クラウドの蒼の眼は冷たい。

「神羅最強のソルジャーで、真性のサディストが、こんな情けない姿を晒しているなんてな。
 ――今のあんたは、本当に醜悪だよ」

 じゃあな、とクラウドは冷めた面持ちで告げ、セフィロスに背を向けた。
 明らかな拒絶。見捨てられた想い。
 このまま去られてしまえば、すべて終わるのではないだろうか。

 ――このまま、何もせずに、失ってしまうのか……。

 ぎりり、と噛み締められる唇。



 ――失うのなら、いっそのこと、壊してしまえばいい!



 延ばされたセフィロスの手が、去ろうとするクラウドの腕を強く掴んだ。






「んあぁッ、……ひぃッ……!」

 何度貫き、どれだけ欲望を叩きつけたか、数えていない。ずっと繋がり続け、長々と蠢いている。
 下にねじ伏せたクラウドの白い肢体には、狂気と妄執の証である紅い華がいくつも散っている。

「ひぁッ…も、だめ…んぁぁッ……!」

 淫らに悶えるクラウドに煽られ、セフィロスは激しく動き、噛み付くように接吻する。




 ――まえにも、同じことがあった。

 クラウドを責め苛みながら、セフィロスはぼんやりと思う。
 あのとき、親友であるアンジールとジェネシスに無言で姿を消され、絶望し人間不信に陥ったままクラウドを抱いた。
 が、今は違う。

 ――自ら、狂気と絶望のなかに堕ちたのだ。




 あぁ、これで二度目だな……クラウドも同じことを考えていた。
 あの夜は何とか愛するひとを救えないかと、必死になってセフィロスの肉体を受け止めていた。
 それによりセフィロスと確かな愛と絆を築いたが、結局セフィロスは肝心のことを何も言わず、クラウドを見捨てて狂ってしまった。
 クラウドは何の力もないちっぽけな自分に絶望した。
 が、今はどうだろう。身体もこころも成長した。

 ――今の俺なら、このひとのすべてを受け止められないか?

 狂気も、愛執もすべて受け止めたい。



 ――なぁ、あんた。もう怯えるなよ。俺がすべて包み込むからさ。



 情交の激しさに意識を手放しかけたクラウドは、愛するひとの瞳から、雫がこぼれ落ちたのを感じた。


 

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