Angel Eyes
夢のような時間
〜「prayer」8章から18章まで、セフィロス視点のお話〜
「あああぁぁ――ッ!」
オレの背中に爪を立て、オレの精を搾り取りながらイッたクラウドに覆いかぶさり、オレは肺腑のなかから緩やかに息を吐き出した。
肌を重ねてから身体を何度も結合させ、クラウドの秘腔はすっかりオレの形に緩まってしまった。身体を結ぶ何ヵ月も前から指でクラウドの後肛を慣らし、快楽に馴染ませていたが、決して並みとはいえないオレ自身に早々に愉悦を感じるようになった彼は、男同士の性交に向いている肉体の持ち主かもしれない。
――昨夜は、強姦に等しい酷い抱き方をしたのにな……。クラウド、おまえはそんなオレでも許し受け入れてくれた。
絶頂に達したのと同時に意識を失ったクラウドの、汗の滲んだ額髪を撫で付け、オレは目尻に浮かんだままの涙を唇で吸い取る。
クラウドの身体に納めていた自身を引き抜くと、オレは彼の成長途中な軽い身体を抱き上げ、バスルームに向かった。
オレにとってクラウドとの情交は、夢のまた夢という次元の出来事だった。
――オレは、クラウドに会うまで、男として欠落した人間だった。
最強のソルジャー、神羅の英雄。そう讃えられても、オレの内情は男たちのペット以外の何物でもなかった。
幼い頃から実験材料にされてきた神羅カンパニー科学部門のラボで、統括・宝条率いる研究員から実験と称して性の玩具にされてきた。統括になりたい宝条の手により、オレは神羅カンパニー社長・プレジデント神羅の稚児として貢ぎ物にされ、以来愛玩されてきた。
ソルジャー・クラス1stとして遇されるようになっても、オレの立場が変わらなかった。自ら性感を閉ざしていたオレを快楽に狂わせるため、高濃度の催淫剤を使われ男に犯された。薬で乱れた状態で実験用モンスターと戦わされたりした。
男に抱かれるのが当たり前になっていたオレは、果たして薬なしで誰かを抱けるのかと不安を抱いた。
思春期に達してから親友になったアンジールやジェネシスと神羅上層部ご用達の娼館に出入りし、馴染みの高級娼婦と何度か寝たが、エレクトはしても射精することができたのは五回に一回という有様だった。
――オレは、男として不能なのかもしれんな。
自身の男の機能を諦め掛けていた頃、オレは入社式でクラウドを見付け、こころを奪われた――一目惚れだった。
クラウドを見つめるオレの目に不審を抱いたプレジデントは、彼をベッドに呼ぼうとした。虫の知らせでクラウドの危機を感じ取ったオレはクラウドの身代わりにプレジデントに抱かれたが、オレの身に信じられないことが起こった――薬を使っていないのに、クラウドの姿を思い浮べるだけで、オレの男性機能は生き生きと働いたのだ。
妄想のなかでクラウドを犯した自分にオレは恥じたが、クラウドへの欲望は止まらず、オレの身を熱く掻きたて、何度も自身の手で情熱を迸らせた。
アンジールは正常だったオレの男性機能に安堵の言葉をくれたが、オレの苦しみはさらに増えた――クラウドへの熱情が、何かの弾みで彼に襲い掛かりそうで怖かったのだ。
――畢竟、オレもプレジデントや宝条たちと変わらぬ、野獣だったのかもしれない。
たまに出会うクラウドの髪や頬に触れるたびに、オレの男が疼く。クラウドを、メチャクチャに抱いてしまいたくなる。
男なら本来持ち得る本能だ、欲望に逆らわずクラウドに想いを打ち明けるんだ、とアンジールが叱咤するが、何度も男たちに自身を凌辱されてきたオレは、クラウドにまでオレと同じ傷を負わせたくなかった。
が、オレの恋慕と胸の痛みを、他者が軽がると踏み躙る――プレジデントからオレの身体と内面の変化を知らされた宝条が、残酷な実験を仕掛けてきたのだ。
オレはヴァーチャルのなかで愛欲のままクラウドを抱きながら、現実でクラウドではない少年兵を犯してしまった。
幻想のクラウドを抱いたことにショックを受け荒れたオレを見ていられなかったアンジールとジェネシスにより、宝条の目論みは破れた。が、クラウドではない少年を犯す現実を精神が受け止められず、オレは意識を魔力で閉ざしながらラボを爆破した。
そんなオレを現実に引き戻したのが、アンジールに連れられ駆け付けたクラウドだった。オレは慚愧し、クラウドにこころのなかで詫びながら気絶した。
目覚めてからも、オレはクラウドをまっすぐ見られなかった。付きっきりでオレの側にいるクラウドの優しい瞳に、オレは助けを請うてしまった。
――おまえはオレが何をしても、許してくれるか、と。
縋る気持ちで見つめるオレに、クラウドは少しく苦笑した。
――許すも許さないも、俺はあなたになら、何をされても構わないんです。
オレはクラウドの返答に耳を疑った――まるで、オレを丸ごとすべて受け入れるつもりのようではないか。
実際、クラウドの空色の瞳は強く輝き、オレの手をしっかり握っている。まったく望みがないわけではないかもしれないと、オレは希望を抱いた。
が、幸せの予感は、あっさり崩された――オレとクラウドの会話をどこかで聞いていたジェネシスが、ソルジャーたちを使い、クラウドを傷つけようとしたのだ。
ジェネシスがオレに劣情を抱いていたのは、会ったときから薄々感じていた。が、オレは気付かない振りをしていた。その頃のオレはプレジデントの愛人だったので、ジェネシスの想いを受け入れる余裕がなかった。なにより、もう男たちの欲望に振り回されるのは真っ平だった。
そんなオレの態度が、大きな仇となったのだ――オレが必死で自分を抑えつけたのに、他者がクラウドに性的なトラウマを植え付けたのだ。
この時も不吉な予感と、クラウドを助けてほしいと懇願する彼の親友に、クラウドの初物が散らされる前に彼を助けることができた。
だが、クラウドの親友を人質に取ったジェネシスが、オレを脅し意の儘にしようとした。オレはジェネシスに従い、奴の望みどおり抱かれた。これは、ジェネシスとの抉れた関係にけじめをつける意図もあった。
しかしそれが、性のトラウマと相まって余計にクラウドを傷つけ、苦しめる結果になってしまった。胸に痛みを覚えたのと同時に、オレはクラウドのオレへの想いが何なのか確信した。
――クラウドが、オレに好意を抱いてくれている。
オレはストレスから睡眠障害に陥っているクラウドを自宅に引き取り、彼に自分の想いを告げ、お互いの恋慕を確認しあった。
オレはクラウドと生活をともにすることになり、ひとつのベッドで一緒に眠るようになった。が、クラウドに触れるのを躊躇った――クラウドのトラウマを疼かせたくなかった。
それでも、生理現象には逆らえない。クラウドの身体や吐息を間近に感じて、オレの男は素直に反応する。
オレは毎夜クラウドに見つからないように、隠れて自身の情欲を処理した――クラウドが気付いていたとは知らずに。
膠着した状態から一歩動いたのはクラウドだった。彼が十四歳の誕生日を迎えた晩、オレは彼の望みを何でも叶えると約束した。
クラウドは言った――オレの身体が欲しい、と。要するに、セックスしてほしいと願ったのだ。
――俺がトラウマに捕われているせいで、あんたは俺に欲望を向けられず、ひとり自慰をしている。
俺も同じ男だから、あんたの苦しみが分かる、だから辛いんだ、と。
こころ優しいクラウドがオレを思いやって大胆な行動に出てくれたのだ。が、オレはクラウドの望みを却下した。無茶なことをして、クラウドのこころの傷口を拡げたくなかった。
そんなオレを、クラウドはバカだ、過保護だと詰り、無理矢理オレ自身に直接触れて刺激し、硬直したオレに接吻した。
――オレはクラウドの必死さと情熱に、あっさり墜ちてしまった。即効クラウドを寝室に連れ込み、彼の素肌の感触を味わい、熱情を解放し合った。
それでも、なんとかクラウドのなかに挿入するのは思い留まった。クラウドの秘蕾は男性自身を受け入れる準備が出来ていなかった。
が、関係が深まったのは確かだ。クラウドの誕生日の夜から、オレはクラウドに性の悦楽を教え込み、オレ自身を受け入れさせるためクラウドの秘奥を慣らしはじめた。
オレを受け入れられるまで充分肉体が開発されても、オレは戯れ合うだけで交わろうとしなかった。男同士のセックスは、受け入れる側の負担が多すぎる。
素肌を触れ合わせるだけでオレは満足していたが、クラウドはオレの態度に不満を抱き、過保護だと詰っていた。それでも、オレが笑って宥めると、クラウドは渋々従ってくれた。
それなのに、オレが、クラウドの肉体を壊すような抱き方をしてしまうとは――…。
クラウドのなかに放った精を、指とシャワーを使って清め、オレは彼を抱えて湯に浸かった。
今まで堪えてきたオレの欲望を余さず受け入れ、クラウドは疲れ切っている。セックスの後始末をされている間も、目を覚まさないほどに。
眠るクラウドの額に口づけ、オレは彼の温もりに激しい失望感が癒されていくのを感じていた。
クラウドを手酷く犯した理由――それは、アンジールとジェネシスの裏切りだった。
オレとクラウドが同棲することになったその日にジェネシスが失踪し、あとを追うようにアンジールがウータイ戦線の最中に姿を消したのだ。
それだけでなく、ジェネシスの姿を写した何者かがオレたちに襲い掛かってきた――神羅やオレに対するジェネシスの明らかな反逆だった。
オレは親友ふたりに裏切られ、絶望し何も信じられなくなった。苛立ちは膨れ上がり、何者でもいいから蹂躙し、欝憤を晴らしたくなった。
そのとき目の前にいたのが、クラウドだった。オレはろくにクラウドの身体を慣らしもせずいきり立ったモノを狭いクラウドのなかに突き立てた。クラウドが泣き叫んでいるのに気付き、彼の肉体から夥しい血が流れているにも関わらず、オレは暴行を止めもしなかった。
正気に戻ったときには、死んだように土気色の顔色で、血みどろの身体を横たえているクラウドに、オレは激しいショックを受け、自分自身への立ち直れないほどの絶望を味わった。
とりあえず回復魔法でクラウドを治癒し、彼が目を覚ますまで側に居たが、もうクラウドと一緒にはいられない、触れ合うことも出来ないと悲嘆ばかりが込み上げてきた。
が、目覚めたクラウドは、オレの目を真っ直ぐ見つめ、オレの手を取った。
――そんなに落ち込んだ顔するなよ。
あんたになら、何されてもいいって、俺言ったよな……?
だから、気に病まなくていいよ。
そう言って微笑むクラウドに、オレは救いの神を見たような気がした。
自分が姿を消すことで、こういう事態もありうるかと手紙を書き置きしたアンジールの先手により、クラウドが覚悟していたと後で知った。が、それでもオレのしたことは酷すぎた。
――それなのに、おまえはオレのすべてを受け止めてくれるのか。
おまえだけはオレを裏切らないと、誓ってくれるのか――…。
オレは昨夜の挽回をしようと、恥ずかしがるクラウドに執拗で優しい愛撫をし、奥処を慣らしきったうえで熱い自身をクラウドに挿入し、溢れる想いのまま貪った。クラウドは白い素肌を艶やかに染めながら乱れ、オレとともに何度も高みに昇った。
幸せで、堪らない。まだ、熱情が鎮まらない。
「う…ン、セフィ……?」
背中を意味ありげになぞるオレに、クラウドは薄く目を開ける。
「目が覚めたか、クラウド」
「……なに、ここ。バスルーム?」
オレに抱かれたままきょろきょろと広いシステムバスルームを見渡すクラウドに、オレはキスをする。
「意識を飛ばすまで淫らに乱れて……可愛かったぞ」
オレの言葉に、暫時クラウドは眉を寄せるが、ぼっと火が点くように赤くなった。
「あああああ、あんたがっ、初心者に、手加減なかったからだろうがっ!」
ベッドのなかでの自分の痴態を思い出したのか、クラウドは引き攣った顔で焦ったように叫んだ。
狭くもないがふたり入ると窮屈なバスタブのなかで暴れるクラウドの腰を両手で掴み、オレは自身の股間のうえに彼を跨らせる。
クラウドの顔がさらに紅潮した。
「あ、あの、俺、休みすぎたから、もうそろそろ訓練に出なきゃいけないんだけど」
だから、これ以上はちょっと……と、および腰で逃げようとするクラウドのなかに、オレは遠慮なくそそり立った自身を突き挿した。
「バ、バカァッ――! ダメだって、言ってるのに…っ、セフィの、わがま…………アアアアアッ!」
非難と罵倒の声を上げていたが、嬌声に邪魔されクラウドは流されるまま腰を動かす。にやりと笑い、オレはそのまま水飛沫を上げながらクラウドを突き続けた。
このまま、ずっと続けばいい、夢のような時間が――。
end
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