a short story

Boum・Boum




 クラウドがセフィロスの家に同居するようになって、一カ月半。
 彼は英雄なので、任務や遠征で一緒にいられないことのほうが多い。が、クラウドは彼と寝食を共にすることに慣れてきた。
 しかし、セフィロスと同じベッドに寝ることで、クラウドの悩みは増えてしまった。

 ――あのひとは、なんであんなに自虐的なんだろう。
 あんなに苦しい思いをしなきゃならないなら、俺など引き取らなければよかったのに。

 ジェネシスが差し向けたソルジャーに犯されかけたクラウドを慰めるため、セフィロスは彼を自分の家に住まわせた。
 クラウドはソルジャーに襲われるまえに、セフィロスに告白まがいのことを言った。そのおかげで、セフィロスはクラウドの気持ちに気付いた。
 だが、クラウドの親友・スィースルから彼がソルジャーに襲われたことでトラウマを抱えており、またセフィロスが自分を庇ってジェネシスと寝た事実を知って、クラウドはショックで不眠症になっていると言われた。
 ゆえに、セフィロスはいっそのこと仲を深めようとクラウドと住むことにした。
 が、クラウドの肉体が忌まわしい記憶に縛られているため、セフィロスは彼に触れることを躊躇している。
 クラウドにとっては、それが歯痒い。セフィロスが我慢を重ねているので、尚更。

 ――セフィロスは、俺に見つからないように自分を慰めている。そのことに、俺が気付いているとも知らずに。

 真夜中、セフィロスはひっそりとベッドを抜け出し、リビングやトイレで性欲の処理をしていた。が、彼の欲望は果てがなく、鎮めてもクラウドに触れることでまた昂ぶってしまう。そして再びクラウドに見つかられぬよう自慰をする。
 クラウドはひとの動きに鈍くはない。みじろぐ気配に嫌でも気付いてしまう。
 クラウドはセフィロスがひとり欲を吐き出すのを覗き見た。
 艶やかな喘ぎを漏らし、切なげな表情で自分の名を呼びながら情欲で手を濡らすセフィロスに、クラウドは申し訳なく、そして自分を情けなく思った。
 そして、セフィロスの声に、心臓が煩く鼓動を叩くのを感じていた。

 ――俺だってあんたが好きなんだから、あんたのそんな姿を見てると、どきどきして堪らなくなるんだ。

 セフィロスが欲しいという気持ちが、収まらない。勇気を出して、一歩進んでみようか? 幸い、誕生日は一週間後だ。無茶を言っても、聞いてもらいやすい。
 クラウドは決心した。






「ただいま――…」

 クラウドが訓練から帰ってきたとき、セフィロスはキッチンに立っていた。ダイニングキッチンに漂う香草や香辛料、オリーブオイルの香りが、空腹を刺激する。
 セフィロスはクラウドの誕生日というので、わざわざ休暇を取って、誕生日祝いの準備をしている。
 神羅カンパニー最強のソルジャーがそんなに簡単に任務を休めるのかとクラウドは心配になるが、彼は難易度が高い任務以外は気にせず休暇を取る。場合によっては、命令拒否をしてまで。
 あるいは、ある程度の自由が許されるほど、セフィロスは神羅に特別視されているのかもしれない。
 一般兵であるクラウドは誕生日だからといって簡単に休めないので、普段と変わらず出社している。
 舌びらめをフライパンで焼きながら、セフィロスはクラウドを振り返る。

「まだ夕食が出来上がるまで間があるから、先に風呂に入ってこい」

 それだけ言って再び調理に戻るセフィロスに頷き、クラウドは着替えを手にバスルームに向かった。
 シャワーを浴びタオルでボディソープを泡立たせながら、クラウドは鏡に映る自分に頷く。

 ――大丈夫、トラウマなんかに負けはしない。

 このままでは、いつまで経ってもセフィロスに苦痛を強いらせるだけだ。
 以前とは違い、セフィロスに無意識に身体を触られても、嫌悪感を抱かなくなった。
 乱暴したソルジャーたちとは違い、セフィロスの指や唇の感触には疼きを感じてしまう。その感覚に従えば、きっとうまくいける。
 よし、と気合いを入れ、クラウドは念入りに全身を洗った。






 クラウドの誕生日ということもあり、その晩の夕飯は豪勢だった。
 完熟トマトと生ハムのミルフィーユやかぼちゃの冷製クリームスープ、殻付き岩牡蠣のグラタンと舌びらめのムニエル、牛バラ肉の赤ワイン煮込みをすべて平らげたクラウドを、セフィロスはワインを飲みながら満足そうに見る。
 有名パティシェに特注で作らせた生クリームケーキを頬張るクラウドに微笑み、セフィロスは懐からラッピングされた小さな箱を取出し、クラウドに手渡す。

「誕生日プレゼントだ。おまえに似合うといいが……」

 アイスティーを一口啜り、クラウドは包みを解いて箱の中身を確かめる。

「セフィロス、このピアス……」

 ジュエリーケースの中に入っていたのは、薄い緑の石が付いた揃いのピアスだった。

「モルダバイトという、隕石の一種だ」

 セフィロスの説明を聞きつつ、クラウドは石をつくづくと眺める。

「セフィロスの瞳のような色だ。
 ……あ、でも俺、ピアス穴開けてない。
 明日は休暇にしてもらってるから、病院に行って開けてもらってくるよ」

 耳たぶを触り顔を上げたクラウドに、セフィロスは笑う。
 ケーキを食べ終え、アイスティーを空にしたクラウドは、悪戯っぽく言った。

「俺、今日はセフィロスに我儘聞いてほしいな……ダメかな」

 クラウドの問い掛けにセフィロスは片眉を上げるが、ふっと笑みを浮かべる。

「いいだろう。何をしてほしいんだ?」
「俺、欲張りだから一杯言うよ?」

 身を乗り出すクラウドに、セフィロスは頷く。

「かまわん、何でも言ってみろ」

 セフィロスの返しに、クラウドは内心ガッツポーズを取る。

「じゃあさ、前みたいにカクテル作ってよ。
 今度は甘すぎないやつがいい」

 わかった、と言い立ち上がった背に、クラウドはほくそ笑む。

 ――これで何があっても、セフィロスは後戻りできない。

 ステアグラスにジンとトニックウォーターを入れ混ぜ合わせるセフィロスを見ながら、クラウドは微笑を浮かべた。






 セフィロスが作ったジントニックを飲んだクラウドは、軽く酔っていた。
 否、それさえも作戦といっていい。――素面では、大胆な行動を取れそうにない、そう判断したからクラウドは身体にアルコールを入れた。
 キッチンで後片付けをするセフィロスの背後に足音を起てずに忍び寄り、クラウドは抱きつく。

「クラウド?」

 どきりとしながら、セフィロスは後ろを見る。今のクラウドの格好は、タンクトップにハーフパンツだ。どれも生地が薄く、カットソー越しにクラウドの肉体の感触がはっきり伝わる。

「あの、さ……俺が一番聞いてほしい我儘、言っていい?」

 身体を密着させながら言うクラウドに、セフィロスは当惑する。

「……何だ?」

 セフィロスが手に持っていた皿をワークトップに置くのを確認してから、クラウドは口を開いた。


「俺……セフィロスが欲しい……」


 クラウドの言葉に、セフィロスは呆気にとられる。彼の言っている意味が分からない。

「……オレは既におまえのものだが?」

 セフィロスはクラウドに向き直りそう告げるが、クラウドは首を振る。

「そうじゃなくて、……セフィロスの身体が、欲しい」

 そして、クラウドはセフィロスの胸に触れていた掌を下にずらす。

「ッ……! クラ、ウド?」

 ――クラウドの手が、ボトムのうえからセフィロスの股間に触れていた。
 動揺するセフィロスに、勇気を振り絞りクラウドは言う。

「俺に遠慮し、ひとりで自分を慰めるあんたなんて、見ていられない。
 ――あんたに、辛い思いさせたくないんだ……」

 クラウドの真摯な眼に、セフィロスはぎくりとする。――夜中、ひとりで性処理していることを、クラウドは知っていた?
 狼狽するセフィロスに、クラウドは肩を落とす。

「……ごめん、真夜中に起きだして自慰をするあんたを何度か見てるんだ。
 俺がトラウマに捕われてるせいで、あんたはそばにいる俺に欲望の矛先を向けられず、ひとりで処理してる。
 そう思うと、苦しくて、自分が情けなくて堪らないんだ。
 俺だって男だから、欲望が高まるとどうなるか分かってる。だから、余計に苦しくなるんだ」

 しゅんとするクラウドに、自分が犯してはならない失態を行っていたのだとセフィロスは悟る。こころ優しいクラウドが、セフィロスの苦しみを見て黙っていられるわけないのだ。
 苦し紛れにセフィロスは微笑みを浮かべる。

「おまえが気を使う必要はないんだ。
 無茶なことをすると、傷口を拡げてしまう」

 そう言ってあやすように抱き締めるセフィロスに、クラウドはかっと目を見開いた。

「……あんた、本当にバカだッ! どこまで過保護になるんだよ、俺が欲しいって言ってるのに、何で……!」

 叫びざま、クラウドはセフィロスのボトムのボタンを外し、ジッパーを緩めてボトムを彼の尻までずり下げた。そのままセフィロス自身に触れ、ゆっくり撫で擦る。

「クラウドッ……!」

 驚愕するセフィロスに構わず、クラウドはセフィロスに口づける。彼がいつもしてくるのを真似るように、クラウドはセフィロスの舌に舌を絡めた。
 セフィロスを刺激しながら、クラウドはハーフパンツをずり下げ、自分自身を弄ぶ。

「はァ……ッ」

 唇を離し、クラウドは喘ぎを漏らす。セフィロスの喉も震えていた。
 セフィロスの首に腕を廻すと、クラウドは腰を動かし、セフィロス自身に自分を擦りあわせる。――互いの昂ぶりが、触れ合う。

「ァッ……」
「ッ……!」

 生々しい感触に、セフィロスの理性がはち切れる。導かれるように自身とクラウドを手の内に納め、扱き上げる。同時にクラウドのタンクトップをたくし上げ、つんと主張する胸の頂きを指先で揺らした。

「ああッ……」

 薄く開いたクラウドの唇から、甘い吐息が零れ出る。セフィロスは仰け反ったクラウドの白い首筋に口づけ、強く吸い上げる。

「セフィ……ッ!」

 濡れた声で自分を呼ぶクラウドに堪らなくなり、セフィロスはクラウドを抱き上げ、寝室に運ぶ。
 クラウドを裸にしてベッドに寝かせると、セフィロスはすべて服を脱ぎ捨て、恋人の身体に身体を重ねた。

「……誘ったのはおまえだからな、後悔しても知らんぞ」
「……大丈夫だよ。はやく、セフィロスを俺にくれよ」

 クラウドの挑発にセフィロスはにっと笑い、クラウドに深く接吻する。
 先程高めあった互いの欲望が、出口を求め下腹部で渦巻いている――セフィロスがクラウド自身に腰を擦り合わせると、クラウドも同じように返してくる。セフィロスはふたつの昂ぶりを手にし、玩弄した。

「アッ、アッ……」

 腰を揺らめかしながら、クラウドはセフィロスの腹筋に胸の突起を擦り付ける。
 クラウドが感じている――彼がトラウマを乗り越えたのを察し、セフィロスはクラウドの肌を唇と指先で愛撫した。
 熱く熟れた互いの芯が、欲望を吐き出そうと震えている。それはふたりの身体も同じで、小刻みに痙攣し始めていた。

「セフィッ、セフィ……!」
「クラ、ウド……ッ!」

 絶頂は、ほぼ同時だった。噴き上げた熱が互いの肌を濡らす。肩で息をしながら、クラウドは微笑んだ。

「これで、一歩進めたかな……。
 あんたも、もう隠れて自分を慰めなくてもいいだろう?」

 そう言って抱きつくクラウドに瞠目したあと、セフィロスは声を発てて笑いだした。
 クラウドはぽかんとセフィロスを見る。

「セフィロス?」

 大胆で小憎らしい恋人に、セフィロスは笑いが止まらない。自分を案じてトラウマを乗り越えた彼が、セフィロスには愛しくて堪らなかった。

「残念だが、まだまだ満足できていない。オレは貪欲だからな」

 そう言いつつ、セフィロスはクラウドの胸の尖りに吸い付き、片方の手でもう一方の突起を摘んだ。クラウドは吐息を震わせる。
 セフィロスは片手でクラウドの股を開くと、双臀の奥に潜む蕾を指でなぞる。

「クラウド、言っておくがこれくらいで済むと思うなよ。
 最後はここに、オレ自身を入れ、おまえのなかに種を撒くんだ。
 これから徐々に馴らしていくが、覚悟しておけ」

 意地悪な笑みを浮かべ菊花を弄るセフィロスに、負けじとクラウドは笑い返す。

「……いいよ、そうしなきゃ、あんたを完全に俺のものにできないんだろう?
 俺だって貪欲だから、もっとあんたの印を付けてよ」

 クラウドの切り返しに食えぬ奴、と思いながら、セフィロスは情熱的に口づけた。






 クラウド十四才の誕生日は、新たな関係の生まれた日であり、クラウドを性的に大人にした。
 その後身体の汚れを落とすためふたりで入ったバスルームで、クラウドは再びセフィロスと戯れた。
 先刻よりも身体を隅々まで触られ、クラウドは身悶え続ける。そして負けん気の強いクラウドが仕返ししたことにより、セフィロスも昂ぶらせられた。
 だが、その晩は少しだけクラウドの菊座に触れただけで、セフィロスは何もしなかった。

 ――やっぱりセフィロスは過保護だよなぁ。俺、セフィロスになら何されてもいいのに。

 一糸纏わぬままセフィロスとベッドに入り、うとうとしながらクラウドはそう思った。




 明くる日、戯れ狂った疲労を感じさせず放置したままだったキッチンを綺麗にし、ぴんぴんした状態で任務に出ていったセフィロスのタフさにクラウドが驚いたのは、言うまでもない。







end







*あとがき*


 この小説はクラウド誕生日記念小説であり、セフィロス連作短編「prayer」の番外編です。
 なので、時間軸は神羅時代、クラウド14才の誕生日の設定です。


 うちのへたれな英雄サンが、いかにクラたんと性愛関係になったかを書いたんですが……既にクラウドのほうがリードしてますね(汗)。
 英雄サンがダメすぎるから、クラウドに動いてもらわなきゃ仕方がない、というか。クラウドまだ幼いのに……;;。


 とにかく、いちゃらぶを書けたので、よかったです(笑)。
 今はまだ触り合いっこ止まりですが、そのうち最後までいっちゃうでしょうね。
 その場合は、「prayer」で書きますです。


 紫 蘭
 

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