love and hatred
Miracles
「あのときは、とても切なかったんだよな……」
事を終えたあと、俺はベッドのなかでセフィロスの腕に抱かれながら、悲しかった思い出を語る。
「オレも、あの日のことは憶えている。
――正確には、おまえのお陰で過去の記憶を自分のものに出来たんだが」
遠い眼をするセフィロスに、俺は苦笑いする。
どんな魔法か奇跡か、星痕を巡る戦いの二年後、セフィロスは正気の自我の状態で俺の前に現われた。
以来、俺たちは遥かに長い年月を共に生きている。
――魔法か奇跡か、といったが、セフィロスの壮大な企みというほうが正しい。
星の体内最深部での最終決戦で俺に敗れたセフィロスは、星に対する恨みや俺に対する愛執がこころに残ったため、ライフストリームに拡散することを拒んだ。
そして俺を自分の精神の核にし、『セフィロス』という意志をライフストリームに留めた。
が、容姿や生前の記憶を留めることは不可能だった。――だから、俺に対する想いだけが残り、他の部分はライフストリームに削り去られた。
セフィロスは星に対する悪意や俺への気持ちをライフストリームにばらまいた。――それが星痕症候群の原因だった。
星痕によって死んだ者の暗部を利用し、セフィロスは復活を目論んだ。そして生み出されたのが、カダージュたちだった。
カダージュたちはジェノバの首を取り戻すため、俺たちに接触してきた。
いや、カダージュたちという端末を通じて、セフィロスを知る俺たちから過去や容姿の記憶を読み取り、セフィロスは無くした記憶の欠片を取り戻していった。
――そして、再び俺はセフィロスと剣を交えた。
彼は星を船にして宇宙を旅するという目的を持っていたが、本当の思いは別だったかもしれない。
――セフィロスは精神の核である俺と戦うことにより、拡散した彼の欠片を完全に取り戻した。
深謀遠慮というか、なんというか……誤算だったのは、俺のなかに根付いた正気のセフィロスへの願望まで、彼が取り込んだことだろうか。
俺はセフィロスの身体に掛かる長い銀の髪を取り、弄んだ。
「俺はあのとき泣いたんだ。あれが正気のあんただと思って」
銀の糸に口づける俺の手を取り、セフィロスは悪戯っぽい顔で指先にキスしてくる。
「あぁ、ジェノバ戦役のときも、狂う前の記憶や想いを持っていた。
だから、おまえがいうところの『正気のセフィロス』と『狂気のセフィロス』は同一だ」
再び抱き締めてくるセフィロスに、俺はやっぱりな、と溜め息を吐いた。
「……あの時の俺は、しなくていい意地を張ってたわけか」
くすくす笑いながら首筋に口づけし、セフィロスは呟く。
「昔のことだから構わんが、あの頃のおまえの態度に、オレは傷ついていたんだぞ」
鎖骨から胸へ辿る唇に息を詰まらせながらも、俺は口を開いた。
「その……あのときは、ごめん」
段々と小さくなっていく語尾に、セフィロスはまた声を発てて笑う。
「いいと言っているだろう?
それに、オレもおまえを傷つけていたから、お互いさまだ……」
本格的に肌を愛撫され、俺は喘ぎながらも小さく頷いた。
「あんた……少年のとき、から…俺のこころ…と身体を、自分に縛りつけた…んだから……、最期まで、責任…取れよな」
軽く睨みながら言う俺に、セフィロスはフッ、と笑った。
「勿論」
end
*あとがき*
この小説は、お題を使って拍手で連載したものです。
本編ラスト前、クラウドが本当の自我を取り戻してから、最終決戦に至るまでのお話です。
一応、拍手連載分のあと、短編「gravity」に続きます。
が、拍手分だけではあまりに悲しかったので、AC後の話も付けました。
こちらは、ACや公式小説の盛大なネタバレをしています(汗)。
……このお題小説の激しく詳細なバージョンが、裏で連載した「悦楽の果てに」だったりします(ぼそり)。
紫 蘭
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