love and hatred

いつか地獄に堕ちたとしても。




「俺はあんたを許さない!
 絶対に、あんたを殺してやるッ!」

 セフィロスが夜這いにきた最後の日、俺は彼に殺意を抱いた。
 俺の項に残る鬱血を見たティファが、その夜俺の様子を探りに来たのだ。
 セフィロスの力により、俺の部屋にはバリアが張られていた。
 それに気付いたティファは何度もドアを叩き、忌々しく思ったセフィロスがティファを退けるため、わざと俺と彼の喘ぎ声を聞かせたのだ。
 ティファは泣きながら部屋に帰り、恥をかかされた俺は、セフィロスに激しい殺意を突き付けた。

「――いいだろう、わたしを殺しにこい」

 セフィロスは無表情でそう言った。
 彼に背を向けた俺だったが、セフィロスの気配が消えかかったとき、ふと振り向いた。

 ――正気のときと同じ、静かで哀感を湛えた眼があった。

 セフィロスが完全に消えたあと、俺は当惑し、以前から抱いていた予感が正しかったと悟った。

 ――現在のセフィロスには、狂気のなかに正気だったときの記憶や想いが残っている。
 そのなかには、俺に対する心残りも含まれている。

 俺はどうすることもできないまま、セフィロスを倒すため、仲間たちと北の大空洞にやってきた。





 セーブクリスタルを使い、大空洞最深部の入り口にセーブポイントを作って、俺たち一行は野営をした。
 皆が眠ったのを確かめると、俺はひとり起き上がり、洞窟を彷徨い歩く。

 ――これは仲間を裏切る行為。
 だが、今夜しか真実を知ることができない。
 たとえ地獄に堕ちたとしても……俺は逢いたい。

 ある程度仲間から離れたあと、俺は息を吸い込み、虚空に呼び掛ける。

「あんた……どこかで見てるんだろ?
 これが最期の機会だ、会って話したい」

 目を瞑って呼吸を整えると、神経を研ぎ澄ます。
 やがて、よく知っている気配を感じ、背中から抱き締められた。

「……わたしと会って、話だけで済むと思うのか?」

 顎に手を掛け上を向かせられると、唇に柔らかな感触がかぶさった。そのまま、舌を絡ませられ、深い口づけをする。
 いつもは意地を張ってキスを返さなかった。が、今夜は俺も舌を蠢かせる。
 唇が離れたあと、セフィロスは皮肉な笑顔をみせた。

「どうした? 今宵は積極的だな」

 俺はセフィロスをまっすぐ見つめ、言葉を紡いだ。

「あんたに襲われるまま、俺はずっと抱かれてきた。
 ……あんたが自分の体液に含まれる細胞を使って小細工したにしても、たいして拒みもせずに。
 だから……、今夜は俺の望みを聞いてほしい」

 表情のない眼で、セフィロスは俺を探ってくる。
 暫しの無言。鍾乳石から垂れ落ちる水音だけが響く。

「……望みとは何だ」

 色のない静かな声で、セフィロスは問うてくる。
 俺は唾を飲み込み、言った。

「これで、最期だから……一夜だけ、幸せな夢を見させてほしい。
 俺の恋人だったあんたの振りをして、神羅にいた頃のように俺を抱いてほしいんだ……」

 俺はじっとセフィロスを見つめる。その目と声には、哀願が含まれていたかもしれない。
 少しの間目を瞑ったあと、セフィロスは応える。

「……よかろう、来い」

 そう言って、セフィロスは俺に手を差し伸べてきた。





「はっ…ああぁ……」

 優しく丁寧な手つきで敏感な場所を愛撫され、俺は甘ったるい声を漏らしてしまう。
 セフィロスの指と舌が、俺の肌を余すところなく這う。そのたび、俺は喘ぎ続けた。

「クラウド……」

 俺を見るセフィロスの眼は、狂うまえにみられたような、柔らかな光で揺れている。――それが本質なのか擬態なのか、分からない。

 ――たとえ今のあんたが嘘でも、構わない。
 昔のあんたが、俺を愛してくれていたあんたが、ひたすら恋しい……。

 なかに入ってきたセフィロスの背に腕を廻し、俺は素直に縋りつく。セフィロスも逞しい腕で俺を抱き締めた。

「愛している、クラウド……」

 身体に染み込んでいくような、低くつややかな声。冷たさの欠けらもない、優しく、どこか甘い囁き。
 それだけで、俺の目尻から涙が零れ落ちる。
 俺の様子に切なげに眉を寄せ、セフィロスは激しく腰を使いだした。

「あああっ、セフィッ……!」

 むせび泣く俺の涙を唇で吸い取り、セフィロスはがむしゃらに動く。

「クラウ、ド……、オレの、クラウド……ッ」

 昔のあんたの一人称を聞くだけで、どうして胸が張り裂けそうになるんだろう。愛し合っていた頃を思い出し、切なくて、哀しくてたまらない。
 何で、俺たちは傷つけあい、殺しあう運命にあるんだ。こんな残酷な宿命など、欲しくない。
 少し潤んだセフィロスの瞳に、同じ想いがあることを願いながら、俺はセフィロスを道連れに臨界点を突き抜けた。





 事後処理をし、服を身につけたあとは、現実に戻るだけだ。
 先刻までの甘さを脱ぎ捨て、セフィロスに背を向けていた俺は振り返った。

「……もう迷いはない。
 俺は星に仇なす者であるあんたを倒し、ホーリーを解放してメテオを食い止める」

 セフィロスも冷たく鋭い眼差しで俺を見据えた。

「やれるものならやってみろ、わたしは簡単にやられはしないぞ。
 死ぬ覚悟でわたしのもとに来い」

 セフィロスの言葉に頷き、俺は完全なる決別をした。
 皆のもとに戻ろうとする俺の背に、声が掛けられる。


「最期の瞬間まで愛している。――オレのクラウド」


 はっとして後ろを見ると、闇に溶け込みながら優しく微笑むセフィロスの姿があった。
 愛するひとの姿がなくなったのを見届けたあと、俺は再び溢れてきた涙を拭い、後戻りできない道を進む。






 あんたは最期まで嘘吐きだ。真実をひた隠しにして、敵としてあんたは俺に向き合った。
 俺はそんなあんたを忘れない。生きているかぎり、ずっとあんたを想い続ける。



 ――さよなら、俺のたったひとりの愛するひと。






→おまけにつづく


 

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