prayer

第10章 変化の兆し by.Angeal




 入社式で金髪の少年を見たセフィロスの反応は、希有だった。

 ――任務以外、まったく他人に興味を示さないセフィロスが、少年に釘付けになっていた。

 それだけなら、俺も少年――クラウド・ストライフのことをすぐに忘れただろう。
 が、さらなる異常な出来事が起こり、俺はのっぴきならない事態だと悟る。

 ――プレジデントとの愛人関係を断っていたセフィロスが、クラウド・ストライフを庇うため、再びプレジデントと情事をもった。

 本来プレジデントのベッドに呼ばれていたのは、クラウド・ストライフだった。
 偶々というべきか、第六感の導きというべきか、セフィロスはタークスによってプレジデントのもとに連行されかけていたクラウド・ストライフを見付け、自分をクラウド・ストライフの身代わりにとプレジデントに直談判したのだ。
 セフィロスは本来、プレジデントとの肉体関係を嫌悪しており、ゆえに年齢と体格を理由にしてプレジデントのベッドから離れていた。
 初めて会ったときから、俺はポーカーフェイスなセフィロスの感情を見抜いていたが、ある晩プレジデントとのベッドタイムで消耗しきったセフィロスの面倒を看、俺はセフィロスの立場や心情などテリトリーのなかに、深く入り込むようになっていた。
 自己防衛本能により、セフィロスは不感症になっていた。プレジデントは宝条博士に命じ、セフィロスにも効く催淫剤を作らせ、情事のたびにセフィロスに使用していた。
 が、今回は非常事態だったので、催淫剤を用意しておらず、薬なしでセフィロスと寝たらしい。
 それが、大きな波紋を生んでしまった。

 ――プレジデントに愛撫されながらクラウド・ストライフを思い出していたセフィロスは、催淫剤なしで悦楽を感じてしまったのだ。
 それをプレジデントに見抜かれてしまい、セフィロスはプレジデントの誘導により、クラウド・ストライフをイメージのなかで抱いてしまった。

 朝飯の用意をしにセフィロスの家に行った俺は、本人からそのことを聞き心底驚いた。

 ――セフィロスの肉体に快感を呼び起こしたのは、プレジデントではなく、クラウド・ストライフなのだ。

 それだけではない、いつも無表情だったセフィロスが、クラウド・ストライフのことを話すときだけ、切なげな顔をする。
 思った以上に、事態は深刻だと俺は理解した。


 ――セフィロスは、クラウド・ストライフに激しい恋をしている。






「……で、俺がそいつを探ってくればいいわけ?」

 はりねずみのような頭を掻きながら、後輩のザックス・フェアが言う。
 前に一緒の任務になったときから、可愛がり気に掛けているソルジャー・クラス2nd。
 知り合ってから、ザックスは何かと俺に付き纏い、セフィロスやジェネシスとも顔見知りになっている。

「まぁ、俺がそいつを探ってもいいけど、何でアンジールが直接出向かないわけ?」

 首を傾げるザックスに、俺は腕を組む。

「ソルジャー・クラス1stである俺が、一般兵の訓練場に行ってみろ、大事になるだろう」
「そりゃまぁ、確かに」

 現在、1stの人数は少なく、俺はセフィロスやジェネシスとともに有名になりすぎていた。――余計なごたごたは、極力避けたい。
 ザックスは人懐こい顔で頷く。

「ん、分かった。
 ちょっくら探ってくるよ」

 敬礼の真似事をして身を翻したザックスに、頼んだぞ、と言うと、彼は大きく手を振って走りだした。

「――あの少年兵が、そんなに気になるか?」

 ザックスの後ろ姿を見送る俺に、掛けられる声が。
 ぎくりとし振り返ると、壁にもたれたジェネシスがいた。

「ジェネシス……」

 ――まずい奴に見られてしまった。

 ジェネシスは幼い頃から、セフィロスに恋い焦がれ続けている。
 1stになってから、ジェネシスは何かとセフィロスを口説きにかかったが、セフィロスが無防備すぎるため、俺が阻止してきた。
 ジェネシスのセフィロスへの想いは積もりに積もり、欲求不満も溜りに溜りきっているだろう。

 ――いつセフィロスを襲ってもおかしくないくらい、ジェネシスは危うさと脆さを醸していた。

 俺がセフィロスから家の合鍵を渡され、何かと面倒をみていることは、ジェネシスも知っている。だから、合鍵を貸してくれと頼まれることもある。が、それはできない。
 友人としてなんとかしたい気持ちがないではないが、セフィロスのこころがジェネシスに向いていない以上、俺は仲立ちしてやれない。
 身構える俺に、ジェネシスはふっと笑った。

「そんなに構えることはないじゃないか。
 チョコボ頭の小僧が気に掛かるのは、オレも同じだ。
 情報を共有してもいいだろう?」

 入社式でのセフィロスの異様さに気付いていたのは、ジェネシスも同様だった。が、セフィロスがクラウド・ストライフを愛していると、ジェネシスはまだ知らない。
 今はクラウド・ストライフがどんな性格の少年で、セフィロスが恋うるに相応しい人格をもっているか確かめるだけだ。
 クラウド・ストライフの内面や、想い人がいるかどうかを探ろうとしているわけではない。――ジェネシスがいても、問題はないだろう。

「……あぁ、構わない」

 俺が頷くと、ジェネシスは含みのある顔で笑った。






 俺はザックスがクラウド・ストライフの人柄を調査し、伝えにくると思っていた。
 ……が、どういうわけか、ザックスはひとりの一般兵を伴い、ブリーフィング・ルームで待つ俺とジェネシスの前に現われた。
 面帽を被っているので分かりにくいが、クラウド・ストライフより背が高いので、当人ではないだろう。
 ザックスはジェネシスが俺と一緒にいるのに驚き、身体を仰け反らせた。

「えぇっ?! 何でジェネシスがここに」
「居て悪いか、仔犬」
「……い、いえ、滅相もありません」

 冷笑を浮かべるジェネシスに、恐縮しきっているザックス。
 一般兵は呆然とふたりのやり取りを見ていたが、やがてくすりと笑った。
 ジェネシスの眉が上がる。

「……無礼な、何が可笑しい」
「これは失礼しました、サー・ジェネシス。
 サー・ザックスの行動が楽しかったので」

 あくまで悪びれることなく慇懃に言ってのけ、一般兵はヘルメットを外す。
 現われ出た顔に、既視感を覚え、やがて俺はハッとする。

「おまえは……」

 そうだ、入社式で倒れそうになっていたクラウド・ストライフをずっと支えていた青年だ。

「申し遅れました、スィースル・クレトゥです」

 柔和な顔立ちでにこりと笑い、スィースル・クレトゥは名乗る。
 ザックスはスィースル・クレトゥの隣に並ぶ。

「アンジール、スィースルはクラウドの友達で、同室なんだってさ。
 他の一般兵が、クラウドのことを一番よく知ってる奴だって紹介してくれたんだ。
 だから、こいつを直接連れてきた」
「ほぅ……」

 スィースル・クレトゥは緊張することなく、柔らかな眼差しを崩さぬまま俺たちを観察している。――なかなか、度胸がある。
 俺は感心し、スィースル・クレトゥを見た。

「残念ですが、クラウドは任務でジュノンまで行っています。
 ……クラウドの何が知りたいんですか?」

 スィースル・クレトゥが単刀直入に本題を切り出してきたので、俺は少し面食らう。
 隣でジェネシスがくすり、と笑った。

「いや……入社式であれだけ目立ってしまったが、クラウド・ストライフに不便はないか?」

 言いたいことがズレてしまい、何とも歯痒い。
 スィースル・クレトゥの眼が一瞬鋭くなるが、それは束の間で、穏やかな表情に戻った。

「1stのあなた方に覚えていただけているくらいだから、一般兵達にはしっかり記憶されてしまいましたよ」
「あの可愛い顔だ、雛鳥は餓えた狼の餌食になっていないか?」

 意地悪そうな顔をして、ジェネシスが禁句を言ってのける。俺はジェネシスの腕を掴み、ザックスはまずいと手で目を覆った。
 治安維持部門にしても、ソルジャー部門にしても、男だらけのむさ苦しい場所で、女旱りもいいところだ。
 そういうところに顔立ちのいい者が入り込んだ場合、欲求不満の獣に性処理の道具にされ、酷い場合強姦・輪姦の標的になってしまう。
 悪意を込めたジェネシスの言葉を意に介さず、スィースル・クレトゥは微笑みを湛えたまま言った。

「確かに、脳みその蕩けたバカがクラウドを襲おうとしましたが、クラウドは喧嘩慣れしているみたいで、簡単に伸してしまいました。
 人数が多いときは、俺も協力してならず者どもを撃退しています」

 スィースル・クレトゥの返答に、俺は頷く。

 ――そうか、なかなか気骨のある少年なのだな。

 俺はやっと肝心要を口にする。

「――クラウド・ストライフの人物像は、どういったものなんだ?」

 俺の問いに、スィースル・クレトゥは真摯な眼差しをする。

「……それを知って、あなたはどうなさるのですか?」

 優しげな笑みにどこか冷ややかさを隠し、スィースル・クレトゥは尋ねる。
 ――その眼は、何故か敵意にも見えた。
 慌ててザックスがなかに入る。

「いや、俺が聞いてもこの一点張りでさ。
 クラウドのことでは、物凄く警戒しているみたいなんだ」

 ザックスの一言に、スィースル・クレトゥは困惑した顔をする。
 俺は僅かに理解する。

 ――セフィロス……これは、難関かもしれないぞ。

 クラウド・ストライフを攻略するとすれば、間違いなく彼が最大の障壁となる。
 それくらい、スィースル・クレトゥも真剣なのだ。
 だが、俺はその態度に好感を持った。

「……おまえにとって、クラウド・ストライフは大事な友人なんだな」

 スィースル・クレトゥはハッとし、俯いた。

「……クラウドは大きな陰を背負っています。
 でもそれにあらがい、強く生きようとしています。
 過去になにかあったのか、彼はこころを閉ざし、ひとを近付けようとしません。
 でも、俺が食い下がったからか……彼は俺が近くに居ることを許してくれました。
 だから何があっても、片意地張って素直になれない、生きにくさを抱える彼を護ろうと誓ったんです」

 スィースル・クレトゥの告白に、俺は目を見開く。

 ――クラウド・ストライフとセフィロスは、似ている。

 ひとり孤独を抱えているところも、ひとを寄せ付けないところも、生きるのに不器用なところも、似過ぎている――。

 ――だから、セフィロスは惹かれるのか?

 同じことを思い当たったのか、ジェネシスも目を細める。
 俺はスィースル・クレトゥに微笑む。

「……おまえの想いはよく分かった。
 そして、クラウド・ストライフの人柄も。
 すまなかったな、無理矢理聞き出すようなことをして」

 俺の言葉に、スィースル・クレトゥは首を傾げる。

「あの、どうしてクラウドのことを知りたがったんですか?」

 スィースル・クレトゥの質問に、俺は苦笑する。

「……おまえだけじゃないんだ、クラウドを護りたいと思う人間は」

 俺の一言に、ジェネシスは瞠目し、スィースル・クレトゥは余計に分からないていう顔をした。
 にっと笑い、俺はスィースル・クレトゥに帰っていいと告げる。
 去っていくスィースル・クレトゥを見るまでもなく、ジェネシスは突っ掛かってきた。

「どういうことだ、アンジール。
 まさか、セフィロスが……!」

 切羽詰まったジェネシスに、ザックスは目を丸くする。

「え、セフィロス?
 これってセフィロス絡みだったわけ?」

 食い付いてくるザックスを適当にあしらい、俺は次の任務の予定を確かめようと、司令室に足を向ける。
 自動ドアを潜ったとき、長身の人影があるのを見て、俺はぎょっとした。

「セフィロス……!」

 い、いつからいたんだ、ここに?
 ひとより耳がいいセフィロスだ、俺たちの会話が筒抜けだったんじゃないか?
 セフィロスは表情を変えず、俺の胸に書類の束を軽く叩きつけた。

「昼からオレとおまえで任務だ。
 これはその詳細だから、よく読んでおけ」

 そう言うと、セフィロスは司令室から立ち去る。

「おっ、おい!」

 俺も追い掛けるが、セフィロスは立ち止まらず、颯爽と歩いていった。






 午後から俺たちに与えられた任務は、コンドルフォート魔晄炉にいる反神羅組織が盛んに暴れているというので、見せしめに一撃してこいというものだった。
 反神羅組織といっても、元コンドルフォートの住人と彼らが雇った傭兵で、魔晄炉のうえに巣を作っている巨大なコンドルを護るために戦っている。
 神羅は部隊を差し向けていつも交戦しているが、今回はテロ組織も絡んでいるので、俺とセフィロスが行くことになったらしい。
 俺たちはコンドルフォートに近いジュノンに向かうため、ヘリポートでヘリの準備を待っていた。

 ――何とも、気が進まん任務だな……。

 コンドルを護るために戦うコンドルフォートの人間の気持ちもわからんではない。――だから、気が重い。
 と、そのとき、不意にセフィロスが口を開いた。

「……ジュノンには、クラウドがいるのか」

 小さな呟きだが、俺は聞き逃さなかった。

「あぁ、運がよければ、会えるだろうな」

 俺たちがヘリの支度が終わるのを待っていると、一台の違うヘリがヘリポートに降りてきた。
 着地するため風が起こり、セフィロスの銀糸の髪が舞い上がる。

「……あの男も、クラウドを強く想っている。
 だが、オレの想いも、負けない程、強い。
 ――引き下がるつもりはない」

 セフィロスにしては、異常に強烈な決意。俺は言葉に出さず頷いた。

 ――おまえは誰よりもクラウド・ストライフを愛し、自分の身より大事に想っている。
 これほど強い愛が、あの男に負けるわけないだろう?

 それは俺の確信だった。
 着地したヘリのドアが開き、白いスーツを着た金髪の人物が現われる。

「……ルーファウス?」

 セフィロスが神羅カンパニー御曹司の名を言う。
 確かにあの服装に特徴は、プレジデントの息子であるルーファウス神羅だ。
 が、目を疑ったのは、ルーファウス神羅が小柄な神羅兵の両脇を抱えてヘリから降ろし、足を着けたのを確認してから、ルーファウス神羅直々に一般兵のヘルメットを取ったことだ。
 ――きらきら輝く蜂蜜色のチョコボヘアーが、ヘルメットの下から現われた。

「クラウド!?」

 思わずセフィロスが早足で歩きだし、俺は慌てて後を追った。
 ルーファウス神羅は嫌がるクラウド・ストライフの肩を無理矢理抱き、出口に歩きだす。

「お、お戯れはお止めくださいっ!」
「こら、敬語は使うなと言っただろう? クラウド」

 何だか、妙に馴れ合った雰囲気だ。――これは、不味いのではないだろうか。
 セフィロスが纏う空気も、ピリピリしている。――これもまた、珍しい。本気で怒っているようだ。

「ルーファウス、幼気な子に、ふざけた真似をするな」

 ふたりに近付きざま、ぴしり、とセフィロスは言ってのける。
 セフィロスの姿に、クラウド・ストライフは目を瞠る。
 ふたりを見比べ、ルーファウス神羅は楽しげに口を開いた。

「わたしはふざけてなどいないさ、こんなに可愛い子を愛しまないのは、惜しい」

 そして、セフィロスの目の前で、ルーファウス神羅はクラウド・ストライフの柔らかな頬に軽く口づけた。
 セフィロスは目を剥き、クラウド・ストライフの腕を掴んで自分の胸に引き寄せる。

「――貴様、クラウドに何かしたのか?」

 セフィロスに抱き締められ、クラウド・ストライフはびくり、とする。
 ルーファウス神羅は苦笑いし、肩を竦めた。

「そうしたかったのは山々だが、生憎時間がなくてね。
 惜しいことをしたよ、こんな自分好みの美少年がいたのに、指一本触れられないとは。
 ヘリのなかで口説いても、好きなひとがいるの一点張りで、折れようとしない」

 セフィロスの目が見開かれる。――クラウド・ストライフに好きなひとがいる。

 ――あぁこれは、相当ショックだろうな。

 黙って成り行きを見守っていた俺は、セフィロスの顔が色を失っていくのをまじまじと見ていた。

「あ、あの、セフィロスさん」

 クラウド・ストライフがセフィロスの袖を引っ張り、揺する。が、セフィロスは固まったままだ。
 困った顔をしていたが、やがてキッとルーファウス神羅を睨み付け、クラウド・ストライフは叫んだ。

「御曹司、あんた最低だッ!
 自分勝手で強引で、ひとの気持ちを考えようともしないッ!
 あんたの世迷言なんて、聞く価値もない、こっちから願い下げだ!」

 少年はきっぱりと啖呵を切り、唖然としているセフィロスの腕を引いてヘリポートを出ようとした。

 ――お、おい、これから任務……。

 当惑しているセフィロスに構わず、クラウド・ストライフは突き進んでいった。
 跡を追う俺の後方で、ルーファウス神羅がさも可笑しそうに笑っていた。






「す、すいません、勝手なことして……」

 俺たちが任務に向かうところだったとあとから知り、ヘリポートの入り口でクラウド・ストライフはひたすら平謝りしている。
 軽く手を上げ、セフィロスはクラウド・ストライフの謝罪を止めた。

「いや、構わん。
 それより、ルーファウスに変なことをされなかったか?」

 セフィロスの指摘に、クラウド・ストライフの眉が不機嫌に上がる。

「あぁ、わたしと付き合えとか、今度一緒に食事をしようとか言われましたけど、断りました。
 何故、としつこく聞かれたから、適当に好きなひとがいる、と言っておきましたが」
「……本当に好きな者がいるのではないのか」

 呆気にとられたセフィロスに、暫時大きく目を開けたが、クラウド・ストライフは気まずそうに告げた。

「……昔、淡い恋ならしましたけど、現実が見えたらどうでもよくなりました」
「それは過去、ということか」

 セフィロスの問い掛けに、クラウド・ストライフは頷き、微笑む。

「……それより、また助けていただいて、ありがとうございました。
 前はお礼も言えてなかったから……。
 でも、憧れのひとに二度も会えて、すごく嬉しいです」

 少年は頬を染め、綺麗な笑顔を見せる。
 セフィロスは目を見開いたまま、クラウド・ストライフを見つめている。
 俺はクラウド・ストライフを観察して、確信を抱いた。

 ――これは、もしかすると……。

 暫しクラウド・ストライフを見つめていたセフィロスだが、くすりと笑うと、少年の頬に掛かる髪を掻き上げ、先程ルーファウス・神羅がキスした場所に接吻した。
 クラウド・ストライフの頬がぼっ、と赤くなる。

「あ、あ、あのっ!」
「先程ルーファウスに口づけされて、嫌だっただろう。
 だから、邪気祓いだ」

 そう言ってくせのある金髪を撫で、セフィロスはクラウド・ストライフに背を向けた。
 少年の顔は茹で蛸のようになり、乙女の如く目を潤ませている。
 俺はクラウド・ストライフに軽く手を振ったあと、ヘリポートへ向かうセフィロスに追い付き、驚いた。

 ――セフィロスが、幸せそうに笑っている……。

 あの、感情を現わすのが苦手なセフィロスが、ルーファウス神羅の手からクラウド・ストライフを奪い、その頬にキスをした。
 ――随分、大胆じゃないか。昔のセフィロスからは、考えられない。
 対するクラウド・ストライフからは、セフィロスに対する明らかな思慕が匂い立っていた。


 ――これは、変化の兆しだ。
 セフィロスは本格的に人間としての情感を取り戻しつつある。



 思わず俺の口元に、笑いが込み上げてきた。








end
 

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