prayer
第14章 壊れゆく音 by.Angeal
俺とジェネシス、セフィロスは、いつものように2ndのいないトレーニングルームで訓練を行っていた。
が、いつもは余裕の素振りで剣技に応じるセフィロスが、険しく荒んだ様子で正宗を振るっている。
といっても、判断力の狂いはなく、ジェネシスが放ったファイガをセフィロスはすべて弾き返していた。
見え隠れする苛立たしげな表情に、俺は眉を寄せる。
そうこうしているうちに、2ndたちの訓練が終わったらしい。がやがやと足音が聞こえてきた。
「今日の訓練は終わりだな」
そう言った俺を見ようともせず、セフィロスはトレーニングルームから出ようとする。
そんな彼の背に、ジェネシスが声を掛ける。
「いつものあんたらしくないな。
さては、科学部門で何かされたのか?」
ジェネシスの挑発する言葉に、俺は頭を抱えた。
セフィロスが不機嫌になるのは、必ず科学部門――宝条が絡んでいる。
鋭い瞳でジェネシスを睨み、無言でセフィロスは廊下に出る。
慌てて追い掛けると、ちょうどセフィロスとザックスが行き合わせていた。
いつもは俺がザックスの稽古をつけてやっているが、時折セフィロスにも相手をしてやるよう頼んでいる。だから、ザックスもセフィロスのひととなりを知っていた。
平常時とは明らかに違うセフィロスに、ザックスは硬直し立ち止まる。
そのまま歩き去ったセフィロスを目で見送ったあと、俺はザックスの肩を叩いた。一瞬で緊張が解けるザックスに、俺は微笑む。
「お……おっかねぇ! 何だよ、ありゃ」
まだびくびくしているザックスに、俺は肩を竦めた。
「まぁ、色々あってだな……ああいう時もあるのさ。
セフィロスも人間だからな」
そう言う俺に、ザックスも苦笑いする。
――とはいったものの、明らかにいつもとは違う。
よほど宝条に酷いことをされたのか……いや、並の人間では耐えられないことを、セフィロスは何度となく宝条にされている。とはいえ、感情が希薄なセフィロスは、どんなことがあっても表情を変えなかった。
――そんなセフィロスが荒れるようなこと……宝条は一体、何をしたんだ?
心当たりが、ないわけじゃない。以前のセフィロスとは違い、今はこころの動きにメリハリがついてきている。
ひとつ溜め息を吐き、司令室に行くと、俺はセフィロスの勤務表を確認した。
今夜のセフィロスは予定が無い。俺は携帯を取り出すと、ボタンを押してゆく。暫しコール音を聞いたあと、低くくぐもった声が聞こえてきた。
『……何だ、アンジール』
セフィロスの憮然とした声に構わず、俺は口を開く。
「今夜おまえの部屋に行く。色々聞きたいことがあるんだ。
おまえも話したほうが楽になるんじゃないか?」
少しの間を置いて、セフィロスが返してくる。
『……分かった』
そう一言だけ言うと、セフィロスはぶつりと電話を切った。虚しく耳に響く機械音に、俺は二度目の溜め息を吐いた。
約束していたとおり、セフィロスは自分の家で待っていた。苦い表情のままセフィロスはふたり分のウイスキーを用意に、リビングのテーブルに持ってゆく。
無言でウイスキーを飲み始めるセフィロスに、俺は口火を切った。
「……宝条のラボで、何かされたんだろう。
それも、クラウド・ストライフ絡みの」
俺の言葉に、セフィロスは口元にグラスを運んでいた手を止める。
重苦しい、無言。これは、肯定に等しい。――セフィロスはクラウド・ストライフ絡みで何かをされたのだ。
大きく嘆息を吐くと、セフィロスはグラスを揺らしながら言いだす。
「……ひとの脳に接触する機械があるだろう」
「……あぁ、ヘッドギアから電流を流し、脳の回路に侵入するやつか」
具体的にいえば、コンピュータの制御により、被験者の願望やイメージを読取り、バーチャル・リアリティとして見せるものだ。
俺たちは大体、体液を採取するときに使われている。俺は折々に視るものが違い、ジェネシスは、その……セフィロスとバーチャル・セックスをするという。
そこまで考え、俺はハッとした。
「まさか、おまえ……バーチャルの世界で、クラウド・ストライフと……?!」
「その、まさかだ。
……オレはクラウドのホログラムを視、欲望のまま抱いてしまった」
セフィロスの告白に、額から嫌な汗が流れるのが分かった。
セフィロスはプレジデントに抱かれたとき、プレジデントに唆され、イメージのなかでクラウド・ストライフを抱いたという。
あのあと、セフィロスは深い後悔のなかにいた。自分も宝条やプレジデントと同じように浅ましい獣欲を抱いていたのかと恥じていた。
それは今も変わらず、クラウド・ストライフを別宅に泊まらせた夜、セフィロスは何度もバスルームで尽きぬ欲望を処理しながら、苦悶していた。
――そんなセフィロスに、あの機械を使ったのか。
どんなに恥じ入っても、クラウド・ストライフに受け入れてもらいたい願望は、セフィロスにもあるだろう。そしてあの機械はそれを器用に具現化する。
おそらく、バーチャルのクラウド・ストライフはセフィロスの愛欲を許し、まるごと受け入れたに違いない。だから、セフィロスは折れて抱いたのだ。
――セフィロスはあの機械のそういう特徴まで知っている。
そして、幻想と現実のギャップと自分のしたことの重さに気付き、酷く苦しんでいる。
だが、ソルジャーの特異な体質や魔晄による変調を調べるため、血液や唾液、皮膚組織にいたるまで検査が必要なのは確かだ。
そしてそれは、遺伝子レベルにまで至る。生殖することに支障があれば、恋愛や結婚が出来なくなる。ソルジャーも人間だ。普通の幸せも当たり前の如く掴みたい。
俺は救いにもならない一言を、苦し紛れに言う。
「……誰かを愛し、欲して、結ばれたいと願うのは、人間として当たり前のことじゃないのか。
以前は何も欲しなかったおまえだから、これは進歩なんだぞ」
俺の言葉に、セフィロスは自嘲する。
「……退化の間違いじゃないのか?
むしろ、みっともなくなったくらいだ」
「どこがみっともないんだ!?
おまえのそれは、素直じゃなく、やせ我慢しているだけだ!
欲しいものを欲しいといって、何が悪い?!
クラウド・ストライフに対しても、もっと積極的になれ! 相手を尊重する限り、おまえは宝条やプレジデントとは違う!」
俺の力説に一瞬目を見開くと、セフィロスは声を発てて笑いだした。
暗かった表情も、生彩を帯びてゆく。――なんとか、気分を持ち上げられたか。
「……どうだかな。こう見えて、オレも激しい部分がある。
クラウドを潰しかねない危なさも持っている」
先程より穏やかな眼で、セフィロスは呟く。俺は胸を張って言った。
「段階を踏んで付き合ってから、潰しかねない激情を出せばいいだろう。
いきなりなら無理だが、想いを通じ合わせたら、どんなことでも絶対受け止めてもらえる」
俺の説得に、セフィロスは柔らかく笑った。
とりあえず危機を脱したと悟り、俺は安堵する。
――おまえには教えないが、クラウド・ストライフもおまえに惚れてるからな。
おまえさえその気になれば、すぐにでも悩みを解消できるというのに、まったく……。
セフィロスとクラウド・ストライフは、お互い鈍感だ。見ているこっちがやきもきするほど、遠回りな恋をしている。悩むのが馬鹿らしいくらいに。
――とりあえず、宝条博士に一言いうべきだな。
言って聞いてもらえるかは分からない。ほぼ無理だろう。だが友人として、放っておけない。
――確か、三日後がセフィロスの検査の日だ。絶対にラボに乗り込んでやる。
固くこころに決め、俺はようやくウイスキーに手を付けた。
セフィロスの検査当日がやってきた。
何も言わずにセフィロスを送り出した俺は、宝条や研究員への脅しのため、バスターソードを背負い、攻撃魔法と回復・補助魔法のマスターマテリアをバングルに嵌める。
勇み足でブリーフィングルームを出たとき、まずいヤツと出会ってしまった。
「任務でもないのに、フル装備でどこに行くんだ?」
赤い革の表装の本を片手に優雅に微笑む幼なじみに、俺は眩暈がしそうになった。
「いや、ザックスに稽古でもつけようかと……」
しどろもどろになる俺を鼻で笑い、ジェネシスは俺の横に並んだ。
「どこかに特攻に行くなら、付き合おう。
行く先は、宝条のラボだろう?」
ぎくりとする俺に、ジェネシスは艶然と笑った。
「……何で、宝条のもとに行くと分かった?」
狼狽する俺に、ジェネシスはやれやれと手を挙げる。赤革のコートの袖から、様々な魔法のマスターマテリアを装備したバングルが見えている。コートのあわせからは、レイピアも覗いている
「セフィロスの様子がおかしくなりだしたのは、先だっての検査のときからだ。
おまえはセフィロスの苦悩の原因を取り除きに行くんだろう?
そんな役目、おまえだけにさせるほど、オレは間抜けじゃない」
梃子でも付いていくという意志をありありと感じ、俺は頷くしかない。
こいつはセフィロスに惚れている。今あそこで行われていることを知ると、ジェネシスは傷つくだろう。
そのうえ、セフィロスが本気で誰かを愛していると知ったら……確実に、ややこしくなる。
が、行く気まんまんのこいつを止めるのは、不可能だ。止めようとすれば、ジェネシスと死闘を繰り広げなくてはならなくなる。
大きく溜め息を吐き、俺たちは科学部門のラボに向かった。
「な、何ですかッ! あなたたちはッ!」
ラボの入り口でヒステリックに叫ぶ研究員の首に手刀し気絶させると、俺たちは部屋のなかに入る。
俺たちの乱入に、数人の研究員がどよめいていた。ジェネシスがレイピアを突き付け脅している間に俺は宝条の姿を探すが、影も形もなかった。
――おかしいな……どういうことだ?
検査台が見えるガラス張りの部屋に入ると、俺はセフィロスに目を向ける。
――そして、瞠目した。
「なッ……! セフィロス、何をしているんだ?!」
検査台の上に、ヘッドギアを装着した一糸纏わぬセフィロスが横たわっていた。が、ひとりだけではない。金髪の小柄な少年が全裸でセフィロスの腰に跨り、突き上げられながら激しく動いていた。
――が、その少年はチョコボのような髪型をしておらず、茶色の双眸を持っていた。クラウド・ストライフとは似ても似つかない、そばかす顔の少年だった。
咄嗟に俺はふたつあるコンピュータを観る。
ふたつの画面に、セフィロスが映っている。ひとつはそばかす顔の少年とセックスするセフィロス。もうひとつはクラウド・ストライフと貪りあうセフィロス――。
俺は瞬時にしてセフィロスに何が起こっているか察した。
――セフィロスに甘い夢を見せながら、実際は違う者と交わらせているのだ。
「あ…の、下衆野郎……ッ!」
宝条の下卑た笑いが、脳裏にこだまする。
――このとき俺は、怒りのあまり、背後に高まる魔力の気配に気付かなかった。
「……消え失せてしまえ」
ぞっとするほど低い囁きを聞いたあと、闇の魔術の凄まじさにに背筋が戦慄する。寸でのところで避けた俺の目の前を、魔術が過り、ふたつのコンピュータに直撃した。
俺は振り返り、ジェネシスに抗議する。
「突然リミット技を放つな、ジェネシスッ!」
ジェネシスの陰惨な笑いにぞっとしたが、それどころではない。――バーチャル・リアリティを制御していた機械が破壊されたのだ。俺はガラス越しにセフィロスたちを見る。
欲望に支配されていたセフィロスが正気になり、目が見開かれる。見知らぬ少年と交わっている事実を知り、セフィロスの躯が小刻みに震え始めた。
――俺たちははっきりと見た。セフィロスから巨大な魔力が発動し、その身体をドス黒いオーラが覆っているのを。
俺はジェネシスに叫ぶ。
「急いでここから出るぞッ!!
動きながらウォールとリフレクを掛けろッ!!」
走りながら研究員を担ぎ、俺も補助魔法を自分や研究員に掛ける。
――ラボを出た後に起きたのは、大爆発とどんな補助魔法も効かない瀕死にさせる魔術の攻撃だった。
ぎりぎりラボから飛び出た俺たちは、爆風の煽りを受けて離れた場所に吹き飛ばされ、地面に身体を叩きつけられた。
セフィロスの技だけでもダメージが大きいのに、激突の痛みも受けて、目がちかちかする。
俺たちソルジャーは、ぎりぎりでも死なないような体質だ。俺は意識を失いそうになるのを辛うじて堪え、自分や研究員にフルケアを掛ける。ジェネシスからも回復魔法の発動を感じた。
「ジェネシス、無事か?」
気絶した研究員を廊下に寝かせ、俺はジェネシスに駆け寄る。ジェネシスは渋い顔で起き上がり、コートに付着した埃を払った。
「流石はセフィロス。最強の名に相応しい破壊の仕方だな」
ふん、と鼻を鳴らし、ジェネシスは瓦礫となったラボに近づく。
崩壊した部屋からは、今だに魔力の気配を感じる。ジェネシスはマテリアバングルに手を翳し、軽い地震を起こして瓦礫をラボから遠くに飛ばした。
同様に歪んだドアを弾き飛ばしたジェネシスは、崩壊し尽くしたラボに足を踏み入れる。あとに続いた俺は、割れたガラスの奥に肉片と化した少年と屹立するセフィロスを発見した。
「セフィロスッ!」
ジェネシスがセフィロスに走り寄ろうする。が、見えない障壁に跳ね返された。
「なッ……シールド?!」
狼狽しつつジェネシスが再度近寄ると、またしても押し返される。
俺はジェネシスの肩を掴みながら、セフィロスを観察する。
セフィロスは茫洋とした眼差しをし、何を見るともなく一点を凝視していた。
完全に意識が飛んでおり、無自覚にバリアを張っているのだろう。もう誰にも触れさせないように。
――これは極めてまずい状態だ。セフィロスの自我が戻ってこないかもしれない。
セフィロスの名を叫び、シールドを解除しようとデスペルを掛け続けるジェネシスを宥めながら、俺はセフィロスを元に戻す手がないか考え、ふと閃いた。
「ジェネシス、おまえはこのままセフィロスを見張っていろ!」
そう言い置いて、俺はラボだった場所を飛び出し、走りながら治安維持部門に電話を掛け、懸案事項を確認した。
俺は一般兵の訓練場に降りてくると、訓練半ばに騒めく一団のなかから目当ての人物を見付け、その名を呼んだ。
「クラウドッ!」
ルームメイトのスィースル・クレトゥと話し込んでいたクラウドは、名を呼ばれ顔を上げる。
「サー・アンジール!?」
驚きの声に構わず、俺はクラウドの腕を掴み、走りだす。咄嗟にクラウドに付いてきたスィースルが俺の顔色を見て何かを察し、尋ねてきた。
「サー・アンジール、ビルのなかで爆発が起きたようですが、サー・セフィロスと関係があるんですか!?」
スィースルの口からセフィロスの名が出たことに目を瞠り、クラウドは俺を見る。ふたりに頷いてことの次第を話し、俺は科学部門のある階に向け階段を登り始める。
不意に横を誰かが過る。見ると、クラウドが全速力で階段を駆け上がっていた。驚きながらも、俺とスィースルはクラウドのあとを追う。
科学部門のフロアに着くと、クラウドは迷いなく酷い惨状の部屋に突入した。転がる瓦礫をものともせず、クラウドはガラスを避けセフィロスのいる研究室に入る。
バリアに手間取っているジェネシスなど目に入らぬかのように、クラウドはセフィロスに駆け寄った。
「――セフィロスッ!!」
泣きそうなクラウドの叫びに、セフィロスの指がぴくり、と動く。
その光景は、驚愕としかいいようがない。
クラウドの手がシールドに触れると、呆気なく解除される。セフィロスはクラウドの胸に倒れこみ、そのまま意識を失った。
自分より大きなセフィロスを受け止めきれず崩れかけるクラウドを、俺は背後から支える。
セフィロスを抱き締めると、クラウドは俺を振り返った。
「サー・アンジール、セフィロスさんに何があったんですか?」
いささか厳しい眼差しに、俺は言い淀む。ほぼ全壊状態のラボに悲惨な肉塊、そして素裸で昏睡するセフィロス。クラウドが睨み付けるのも当然だ。
俺は頭を掻き言った。
「その……なんだ、イカレたヤツの実験のせいで、こうなった」
クラウドの目がさらに鋭くなる。俺が悪いわけじゃないが、どうにも居たたまれない。
――そのとき、不気味な笑い声が聞こえてきた。
「イカレたとは酷いのではないか? アンジール」
ハッとして振り向くと、今回の元凶――宝条がいた。俺やジェネシスを眺めたあと、セフィロスを抱くクラウドに目を留め、宝条はにやりと笑った。
「イメージでは何度も見たが、実物とお目にかかるのは初めてだねぇ?」
自分に向けられた言葉と舐めまわすような目線に、クラウドは眉を顰める。
「確かに、美しいな。セフィロスがよ――」
「宝条ッ!!」
宝条が余計なことを言う前に、俺は遮る。
肩を揺らし、宝条は楽しげに笑った。
「おやおや、これは怖い。
さては、この少年は何も知らんのかね?」
「それ以上言うと、叩っ斬るぞ!!
何を考え、あのような実験を行った!!」
激怒する俺を見上げ、クラウドは訝しむ。自分のことを話されているクラウドからすれば気味が悪く、その上いまのセフィロスの状態からして不安になるのだろう。
離れた俺の代わりに、スィースルがクラウドに寄り添い、安心させるように腕を掴んだ。
宝条はにやにやと笑い、口を開いた。
「セフィロスに異変が起きたのを、プレジデントから教えられたのだ。
わたしの知らぬところでセフィロスが変わるなど、実に気に食わん。
が、同時に何が変わったのか興味を持ったのだよ。
まだまだセフィロスは未知数なのでな、それをデータ化したかった」
俺は目を見開く。
プレジデントは宝条にセフィロスの変化を知らせていたのか。
だが、それでも宝条の行ったことは酷すぎる。これではまるで、セフィロスが実験動物のようではないか。
宝条を睨み付け、俺は怒鳴った。
「あんた、最低だな!!
セフィロスは人間なんだ、あんたが実験の対象にするモンスターじゃないッ!!」
俺の絶叫に、宝条は暗い眼で笑う。
「さぁ、それはどうだろうな。セフィロスの尋常ならざる強さに、おまえらは何も感じんか」
「何ッ?!」
聞き捨てならない台詞に、俺は詰問しようとする。
が、眠っているセフィロスから呻き声が聞こえ、俺はセフィロスを見た。
二重の整った瞼が薄ら開き、翡翠色の瞳が覗く。
「……クラウド……?」
クラウドの頬に手を触れると、セフィロスは再び意識を途切れさせた。
「セフィロス、セフィロス?!」
クラウドの悲痛な叫びに、宝条は乾いた視線を向ける。
「一時に膨大な力を使ったからだろう。脳や身体に支障はないはずだ。
……数度見ただけで確認できなかったが、やはりセフィロスは驚異的な破壊力を持っていたのだな」
宝条は怪しく笑うと、壊れた部屋から出ていった。
俺たちは不安を抱えたまま、その場で立ち尽くした。
――宝条は一体、セフィロスの何を知りたいんだ?
セフィロスが何だというんだ。何故、あのような酷い扱いをするんだ……。
俺はクラウドの腕のなかで眠るセフィロスを見、目を伏せた。
end
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