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第15章 誰にも渡さない by.Genesis
検査台の上で、セフィロスが金髪チョコボ頭の少年とセックスしている。
少年のするがままに任せ、セフィロスは少年の動きに合わせて、小さな臀部を掴み突き上げていた。
ラボの外から、オレはセフィロスと少年が睦む様を見つめるほかない。どんなに叫んでも、オレの声はセフィロスに届かない。
何故だ、セフィロス。
あの小僧より、オレのほうが長くあんたを見てきた。
あの小僧より、オレのほうがあんたを知っている。
あの小僧より、オレのほうが、あんたを愛している。
なのにどうして奴なんだ。奴だけを愛しげに見つめるんだ。
あんな力ないガキが、そんなにいいのか? オレには気を許さず、あいつなら無防備になれるのか。
オレの視線をよそに、身体を反転させると、セフィロスは少年に接吻しながらより深く貫き、強く抱き合いながら激しく蠢く。
悔しくて、たまらない。こんなに酷い敗北感は、初めてだ。
――あんたは、そんなに奴と貪りあいたいのか。奴を愛しているのか。
何故、あんたと愛し合うのが、オレじゃないんだ……。
「……ジェネシス、ジェネシス!」
遠くから名を呼ばれ、オレは目を開ける。
いや、遠くからじゃない、目の前にアンジールの顔がある。天井から遮蔽カーテン、壁や寝具まで白く、消毒液の匂いが漂っている。――どうやら病院にいるようだ。
起き上がろうとすれば、左肩に激痛が走った。
「オレは……?」
どうしてオレは怪我をし、病室で寝かされているのか、さっぱり分からない。
そんなオレに、くわっと顔を怒りの形相に変え、アンジールは怒鳴った。
「この、バカが! トレーニングでむきになるなと、あれほど言っただろう!」
言われ、オレは思い出す。
いつものように、2ndたちが留守なのをいいことに、トレーニングルームで訓練していたんだ。
ジュノンの魔晄キャノン上を擬似空間として選びトレーニングし始めたときから、オレは荒れていた。傾倒する「LOVELESS」を読んでも、少しもこころ穏やかにならなかった。
半月前、宝条のラボに特攻したとき、セフィロスがバーチャルのなかでチョコボ頭の一般兵――クラウド・ストライフと交わっているのを、コンピュータを介して見てしまった。
オレは我慢ならず、怒りのままコンピュータを破壊した。
バーチャル・リアリティが壊れたことにより、セフィロスはクラウド・ストライフではない少年とセックスしていると気付き、力を暴発させこころを閉ざし、自分のまわりにシールドを張った。
オレはシールドを解くため体当たりし、何度もデスペルを掛けた。それでもびくともせず、セフィロスは閉じこもったままだった。
が、アンジールが連れてきたクラウド・ストライフがシールドに触れた途端、障壁は解除され、セフィロスは少年に身を預け意識を失った。
アンジールは少年とともにセフィロスを彼の自宅に運び、少年を眠るセフィロスに付きっきりにさせた。
眠りのなかにありながら少年の手を握り続けるセフィロスと、慈しむようにセフィロスを見つめるクラウド・ストライフに、寝室の入り口から覗いているオレは入っていけぬ何かを感じた。
目覚めたあと、セフィロスは自責のなかにいた。クラウド・ストライフが
『俺はセフィロスさんが辛そうにしているのを見ると、胸が苦しくなります。
だから、元気を出してください』
と言ったあと、セフィロスは暫し黙り込み、小さく呟いた。
『……おまえはオレが何をしても、許してくれるか』
セフィロスらしからぬ弱々しい言葉に、クラウド・ストライフは戸惑っているようだった。が、真摯な目でじっと見るセフィロスに、クラウド・ストライフは淡く微笑んだ。
『許すも許さないも、俺はあなたになら何をされても構いません』
少年の優しい一言に感じ入ったか、セフィロスはモチベーションを上昇させた。
セフィロスは以前の状態に戻った。いや、前以上に表情が柔らかくなったかもしれない。
――結局、オレは虚しい道化だったわけか。
セフィロスを超え、英雄の座を手に入れても、決してセフィロスは手に入らない。セフィロスのこころは、すでに他人のものだ。
オレが「LOVELESS」を閉じたと同時に、セフィロスは悠然と正宗を凪ぎ払う。それが、トレーニングのはじまりだった。
オレやアンジールは全力で刄を交えたが、セフィロスは笑みを浮かべ、余裕の態で剣をガードし、軽がると攻撃を躱している。
――クラウド・ストライフがこころの支えになっているから、あんたは笑いながら戦えるのか。
オレのなかで、何かがふつりと切れたような気がした。
「――オレも英雄になるんだ」
それからは、闇雲にセフィロスに猛攻を加えていった。三連ファイガを何度も放ち、セフィロスの身体を包囲した。
アンジールが止めに入ったが、オレにとっては邪魔なだけ。ファイガでアンジールを退け、セフィロスを包む炎球に嗤う。
しかし、セフィロスが本気を出し、ビルを破壊する勢いで激闘し始めた。
オレはレイピアに魔力を込め、セフィロスを攻撃しようとした。が、アンジールの剣による制止で、勝負着かぬまま終わりそうになる。
――途中で止めることなどできない。オレの激情をぶつけるまで、終われない!
「邪魔だ――ッ!!」
オレは左手で魔法を発動させた。が、それがアンジールの持つ神羅支給の剣にぶつかり、衝撃で折れた剣がオレの左肩に刺さった。
激しい痛みに眉を顰めながらも、オレは何でもない素振りでトレーニング・ルームを出た。――そこからの記憶がない。
「なにが掠り傷だ。手術するほどの大怪我だったぞ」
説教口調のアンジールに、オレは眉を顰める。
と、そのとき、遮蔽カーテンが開けられ、黒皮のロングコートと長い銀髪が見えた。
――今一番会いたくない相手、セフィロスだ。
「意識が戻ったか。具合はどうだ?」
覗き込んでくるセフィロスに、オレは目を背ける。
アンジールが呆れたように腕を組んだ。
「おまえは出血多量で輸血が必要だったんだ。
血液が合わなかったからだめだったが、セフィロスも輸血を申し出てくれたんだぞ」
アンジールの言葉に肩を竦めると、セフィロスはオレの病室着の結び目を解いた。
ぎょっとするオレを無視し、セフィロスは傷の具合を診ている。
「これなら、魔法で回復できるな」
そう言って、セフィロスはオレの左肩に手を翳した。
「――フルケア!」
碧の光がセフィロスの掌から発せられ、オレの傷に吸い込まれる。光が消えたときには、すっかり傷跡が無くなっていた。
病室着の前を直すと、オレはベッドに横になりセフィロスたちから背を向ける。
「ジェネシス! おまえセフィロスに礼も言えんのか!」
発憤するアンジールに、セフィロスが声を掛けた。
「いいんだ、アンジール。
オレがジェネシスの怪我の一因であるのに、何もできなかったんだから、せめてもの罪滅ぼしだ。
……ジェネシス、魔法で傷を無くしても、体力は回復してないはずだ。もう少し休んでから復帰すればいい」
そういうと、セフィロスはコートの裾を翻し、病室を出ていった。
……何とも素っ気ない態度だな。クラウド・ストライフならこうでもないだろう。そう思うと、また悔しさが込み上げてくる。
咳払いし、アンジールが心配そうに言う。
「あんな素振りだが、セフィロスはおまえを傷つけたことを気にしていた。
俺とは違い、ホランダーは何故かセフィロスの輸血を許さなかったからな。
セフィロスはかなり気落ちしていたぞ」
オレはアンジールに向き直る。
「一応これでも、セフィロスの親友だからな。
あいつもそう思ってくれていたということだろう」
親友というだけで、それ以上の繋がりはない。――クラウド・ストライフより重くこころを揺さ振る存在にはなれない。
睨み付けるオレに、アンジールは困惑する。
「おまえはそう言うが、あまり人付き合いしないセフィロスにとって、親友という絆はかなり大事なものだぞ」
「でも、恋人には劣る。――オレは、所詮クラウド・ストライフ以上にはなれない」
オレは立ち上がり、簡易ソファのうえに纏めてある服を手に取り、着替え始める。
傷さえ塞がったなら、自宅でも静養できる。ずっと病室にいるなど、ごめんだ。
着替え終わり荷物を纏めると、戸惑うアンジールを尻目にオレは病室を出た。
オレは傷が塞がれたことで、完全回復すると思っていた。
が、どういう理由か、身体の倦怠感が抜けきらない。バトルにおいても、以前より力を出せなかった。
――どういうことだ、オレの身体に、何が起きているんだ?
当惑し焦るオレは、先の怪我の治療をしたホランダーのもとに向かった。
――そこで、オレは信じられないことを聞くのである。
「劣化だと……?!」
オレはホランダーの胸倉を掴み、ラボの壁に叩きつける。蛙の鳴き声のような音を発て、ホランダーは白目を剥く。肩の壺を刺激し、オレはホランダーの意識を取り戻させた。
「……おい、どういうことか説明しろ」
凄むオレに、ホランダーは三つのファイルを差し出した。
ひとつは『古代種プロジェクト概要資料』、もうひとつは『プロジェクト・G実験概要』、あとのひとつは『ソルジャーの劣化現象に関する報告』とあった。
オレはひとつずつ目を通していく。
――地中から発見された伝説の古代種の細胞を使い、星の声を聞く古代種を量産、魔晄採掘コストを大幅に削減する。
――人間の胎児に古代種の細胞を埋め込み、古代種の能力を得ることを目的とする。
古代種……確か本で読んだことがある、伝説の種族。その古代種が地中から発掘され、細胞を削り取って胎児に埋めたというのか。胎児の生命など無視した、なんとも狂気じみた実験だな。
そう思いながら三つ目のファイルに目を通し、オレは瞠目した。
「ホランダー――…、身体から何かの因子が流れ出て能力のバランスが崩れ、劣化するだと?
それも、G系ソルジャーだけとは……。
オレは劣化が起きている。――G系ソルジャーだからか?」
強ばった顔でホランダーは頷き、身振り手振りを付け説明し始める。
「おまえはこの前負傷し、大量の血液を失った。
だから、血液のなかの因子が流出し、劣化が始まった。
おまえは……いや、アンジールとおまえは、G系ソルジャーのプロトタイプだ」
「なん…だと……?」
どういうことだ? それは。オレはソルジャーとしては後出組だ。先にソルジャーになった者など沢山いるし、セフィロスこそソルジャーの一番の先駆者だ。
そんなオレとアンジールが、G系ソルジャーのプロトタイプだと?
凝視するオレに引きつりながらも、ホランダーは続ける。
「古代種――ジェノバの細胞を一旦アンジールの母・ジリアンの身体で馴染ませ、用意した受精卵に埋め込み、女性研究員の腹に懐胎させた。
――その胎児がおまえだ。
そしてジェノバ細胞を保有するジリアンの卵子から生まれたのが、アンジールだ。
だからおまえの輸血は、同じG系ソルジャーのアンジールでなければ駄目だったんだ。
アンジールの血液なら、流れ出た細胞を補えるかと思ったが、やはり無理だったか……」
ホランダーの告白に、オレの目の前が真っ白になる錯覚がした。
――オレの劣化は止められない。いつか、オレは……死ぬのか?
そして、アンジールは……。
オレはホランダーを見る。
「……アンジールに劣化は起きていないのか」
オレの問いに、ホランダーは首を振った。
「おそらく、おまえに輸血するため血液を失ったアンジールも、劣化が起きているはずだ」
「……そんな……」
オレは自分が怪我したせいで、アンジールまで道連れにしたのか。
絶望に沈みながらも、ふと気になることがあった。
「ちょっと待て。オレたちは今劣化が始まったばかりだ。
なのに、なんでG系ソルジャー劣化に関する論文があるんだ?」
オレの問い掛けに、ホランダーは少し言い淀んだあと、開口した。
「……実は、おまえたちの検査のときに採取した血液や体液を、宝条たちに秘密でソルジャーに投与していた。
奴らはおまえたちに劣化が出始めてから、同じように劣化し始めた」
「……最低だな」
オレは頭を振り、ホランダーから背を向ける。
クラウド・ストライフに恋い焦がれ、オレを見ようとしないセフィロスに怒りをぶつけた結果が、これか。
このままでは、オレは衰え、朽ち果ててしまう。それも、アンジールを巻き込んで。
そして、劣化してゆく姿を、セフィロスに見せるのか……?
――それだけは、いやだ! セフィロスに無様な姿など、晒したくない!
愛するセフィロスには、完全な自分だけ見せていたい。が、それも叶わなくなる。
「……あぁ、どこかに消え失せたい気分だ。
恥を晒すなど、耐えられない」
ましてや、衰えてゆく身で、クラウド・ストライフを見つめ続け、場合によってはこころを通じあわせるセフィロスを見るのは、絶対無理だ。
――そもそも、セフィロスのこころがオレに向いていれば、こうはならなかったのだ。
いや、セフィロスが誰にも惹かれていないなら、それでよかった。
クラウド・ストライフが現われたから、こうなったのだ……。
オレは暗くなりゆく思いのなか、ひととしての倫理や情けをも消え失せてゆくのを感じた。
ホランダーを振り返り、オレは唇を開いた。
「オレの細胞を与えられたG系ソルジャー達に会ってみたいんだが」
そのときのオレは、さぞや陰惨な顔をしていたに違いない。
この瞬間、オレはひとから魔物に転がり堕ちた。
G系ソルジャーたちに与えられた特殊ミッションはひとつ。
――一般兵クラウド・ストライフを完膚なきまでに強姦し尽くし、その精神を破壊すること。
精神崩壊したあとは、ミッドガルの外に捨ててきて構わない。
G系ソルジャーたちは、もとの細胞主であるオレに従順だった。命じられたとおりに行動を起こし、一般兵の訓練場から奸計でもってクラウド・ストライフを内密裡にプレート下スラムの人気のない場所に連れ込んだ。
「クラウド・ストライフを連れ去ることに成功しましたが、ただひとつ気になることがあります。
クラウド・ストライフのルームメイトという者が、我々を訝しげに見ていました」
クラウド・ストライフのルームメイト――そういえば、セフィロスを助けたとき、クラウド・ストライフと一緒にいた奴がいたな。多分それだ。
「構わん、プレート下のスラムに隔離したのでは、一般兵ごときに見つけられないだろう」
オレが手を振ると、報告に来たG系ソルジャーは計略の場に戻った。
――さて、オレも宴を見物するか。
セフィロスを籠落した小僧が犯し尽くされるのを見るのは、さぞかし楽しいに違いない。他人に開発され淫乱になったガキなど、セフィロスは見向きもしないだろう。
オレは唇を歪めて嗤った。
六番街スラムから七番街スラムに至るまでの区間に、廃車になった列車が無造作に置かれている。
通称・列車墓場といわれるそこは、夜になると幽霊が出ると噂される陰欝な場所だ。
壊れた列車のひとつのなかで、クラウド・ストライフに対する私刑が行われている。
オレは斜め前の列車に隠れ、猿轡をされ手首を戒められたクラウド・ストライフの白い上半身が晒されるのを見ていた。
「うぅ〜〜ッ、んん〜〜ッ!!」
クラウド・ストライフは必死で身を捩り足をばたつかせるが、男数人掛かりで押さえ付けられているので、ろくに抵抗ができない。
少年は複数の男に身体じゅうを撫で回されたあと、耳朶や項に舌を這わされ、同時に乳首を責められる。臍のあたりを舐められながらボトムのバックルを緩められた。
少年の蒼い瞳は恐怖に見開かれ、涙が頬を伝い落ちている。
下着ごとボトムを脱がされると、クラウド・ストライフは悲鳴を挙げた。が、猿轡に邪魔され声が出ない。萎れたままの稚い花芯を無理矢理いたぶられ、上肢は汗と唾液で汚れ切っている。
――この姿をセフィロスが見たら、どう思うだろうな。
そう思ったとき、複数の乱れた足音が聞こえてきた。オレは慎重に身を隠すと、誰が来たのか窺い、目を見開いた。
「クラウドッ!!」
素早い動きで正宗を振るい、クラウド・ストライフに群がるソルジャーたちを斬り捨ててゆくセフィロスの姿があった。
――まさか、セフィロスが助けに来るとは!
苛立たしげにセフィロスが走ってきたあたりを見ると、スクラップ列車の影にクラウド・ストライフのルームメイトが隠れているのが分かった。――おそらく、不審に思ったルームメイトが、セフィロスに知らせたのだ。
オレの見込みが、甘かったのだ。だが、G系ソルジャーたちはまだクラウド・ストライフを手放そうとしない。セフィロスは八刀一閃や居合い斬りなどの技を繰り出しながら、ソルジャーたちを退ける。
全裸で横たわるクラウド・ストライフを保護したセフィロスは、少年の口を塞ぐ布や手首を縛る紐を外す。自分のコートを脱ぐと、小さな身体をすっぽりと覆い、腕のなかに抱き締めた。
泣きじゃくるクラウド・ストライフの肩や背を擦るセフィロスの姿に、胸が妬けてくる。
が、G系ソルジャーの動きが止まったわけではなかった。未だクラウド・ストライフを手に掛けようと粘っている。
――その異様さに、セフィロスの理性が限界を迎えた。黒く立ち上がるオーラと巨大な魔力に、全身鳥肌が立つ。オレは咄嗟にフルケアのマテリアに手を翳す。
が、物理・魔法防御無視の瀕死攻撃は、不発に終わった。
「ダメだッ、セフィロスッ!!」
異変に敏感に気付いたのか、クラウド・ストライフがセフィロスの身体に抱きつき、攻撃の手を止めていた。オレは呆然と目を瞠る。
――嘘だ……たかが一般兵が、あの攻撃を未然に防ぐなど。
驚いているのは、セフィロスも同様だった。唖然と少年を見ている。
「俺、レイプされてない。少し触られたけど、大丈夫だから」
強い眼をして断言する少年に頷き、セフィロスは長刀を中段に構える。
セフィロスはサスペンダーだけ付けた上半身裸の姿を晒し、刃物のような銀髪を散らしながら、切れのよい動きでG系ソルジャーをことごとく斬っていった。
ソルジャーをすべて始末し終えた頃、クラウド・ストライフは脱がされた一般兵の制服を着付け終わっていた。借りていたロングコートをセフィロスに手渡し、少年は微笑む。
オレはぎりりと歯軋りした。
――このまま終わって、たまるか!
セフィロスに見つからぬよう動くと、廃列車の影で安堵しているクラウド・ストライフのルームメイトを捕らえた。
暴れるので後ろ手に戒め、片手で青年を抱えると、オレは跳躍する。
「セフィロス!」
和やかに笑い合うセフィロスとクラウド・ストライフの前に降り立つと、オレはセフィロスによく見えるようルームメイトの喉にレイピアを構え、前に突き出した。
「ジェネシス……!」
セフィロスの顔が、驚愕で彩られる。そしてはっと瞠目し、オレを睨み付けた。
「クラウドを襲わせたのは、おまえか……!」
憤怒の眼差しのセフィロスを鼻で嗤うと、オレは口を開いた。
「おっと、へたなことをすると、こいつの命はないぞ。
クラウド・ストライフを汚すのは未遂に終わったのだから、オレとしてはもっと穏便にことを進めたいんだがな」
唇を噛み締めると、セフィロスは苛烈な目のまま言った。
「何が穏便に、だ。最後までされてなくても、十分クラウドは辱められた。
それなのに、穏やかな親友面などできるか!」
クラウド・ストライフのために激怒するセフィロスに、猛烈な嫉妬が起こってくる。
「……本当は、あんたさえオレを見てくれれば、あのガキやこいつなどどうでもいいんだ。
オレの目的は、はじめからあんただったんだ」
ぽろりと零れた言葉に、オレは胸が苦しくなる。こんなことを言うつもりはなかったのに、無意識に漏れてしまった。
セフィロスは眉を寄せると、深い嘆息を吐いた。
「……おまえはどうしたいんだ?
おまえに従うことで、クラウドたちに危害を加えないなら、オレはそれでいい。
オレはおまえの願いを叶える。だから、クレトゥを放してやれ」
セフィロスの折れた言葉に、オレは一瞬思考を忘れた。クラウド・ストライフのルームメイトを捕らえていた手を、思わず緩めてしまう。
青年を解放したのを見届けると、セフィロスはオレに歩み寄ってきた。
「セフィロス、行っちゃダメだッ!
俺はどうなってもいいからッ!」
クラウド・ストライフの必死の叫びに、セフィロスは振り向き微笑を浮かべる。
恋人が叫び続けるのも聞かず、セフィロスはオレを横切り、七番街スラムに向け歩きだした。
何も言えず、オレはセフィロスのあとを追った。
オレたちは無言でマンションに帰ってきた。セフィロスはオレの家の前に来ると、顎でドアを開けるよう促す。
激しい動悸を押さえながら、オレは玄関の扉を開き、セフィロスをなかに入らせた。
明かりを点けていないリビングの窓際まで来たとき、セフィロスはぽつり、と呟いた。
「……おまえがオレを欲情の目で見ていたことは、ずっと前から知っていた」
その言葉に、オレの身体が軋む。リビングの入り口からセフィロスの静かな背を見つめ、オレは言葉を探すが、見つからない。
「だが、オレはおまえに応えることが出来なかった。
オレは男に抱かれることが、基本的に好きではない。……いや、どちらかというと、嫌悪を感じている。
理由は……大体知っているだろう?」
振り返ったセフィロスに、オレはおずおずと頷く。
「……プレジデントのことだろう。
あんたはプレジデントの愛人だった。だから、男に抱かれたことがある。
……男に抱かれて、快楽を感じたことがあるだろう? 男でも女のように感じることができることは、オレも知っている。
それでも、抱かれることが嫌なのか?」
オレの問いにふっと笑い、セフィロスは窓から見える魔晄炉の光を眺める。
「好きで抱かれていたわけではないし、快楽も感じなかった。
いや、快楽を感じることに抵抗していた……クラウドに会うまでは」
「クラウド・ストライフに?」
――こんなときまで、奴の名を聞かねばならんのか。そこまで、セフィロスは奴に入れ込んでいるのか。
オレは眉を寄せ、セフィロスから視線を外す。
「プレジデントのベッドに呼ばれたクラウドを庇って抱かれたとき、オレはクラウドを思い出して快楽を感じた。
それまでは、薬でよがる不感症のダッチワイフだった」
オレはセフィロスを睨むと、早足で窓際に歩み寄り、背中からセフィロスを抱き締めた。
「……クラウド、クラウドと何度も言うなよ。あんたはオレの言うことを聞くんだろ?
オレの望みなど、たったひとつ――あんたを、抱くことだ。
オレはずっとあんたを抱きたかったんだ」
半ばはだけたコートのあわせから手を入れ、セフィロスの胸の尖りを摘んで引っ張る。セフィロスは息を呑んだ。
「……知っている。オレを抱けば、おまえはクラウドに手を掛けない。
だからおまえに従った。オレは抗いはしない、おまえの好きなように抱け」
そう言うと、セフィロスは目を閉じた。
生まれたままの姿でベッドに横たわるセフィロスに、自分の持てるかぎりのテクニックを使ってオレは責めた。
が、セフィロスの身体に変調はなく、吐息を漏らすこともない。――不感症というのは、本当らしい。
本当は、こんな手など使いたくなかった。オレの手管だけでセフィロスに悦楽を与えたかった。
――だが、オレの愛撫に、セフィロスは乱れない。
一度深く目を瞑ると、オレはセフィロスの耳元に囁き掛けた。
「……クラウドの肌は、肌理細かく白いな。
あれは、愛撫すると匂うような極上の色気を放つはずだ」
びくり、とセフィロスの身体が弾む。
穴が開くほど凝視するセフィロスに、オレはにやりと笑う。
「恐怖に震える泣き顔が、とてもセクシーだった。
十三歳であれだと、先が思いやられる。間違いなく、クラウドは美しくなるだろう。
……おまえ、裸のクラウドに抱きつかれて、何も感じなかったのか?
肌と肌が触れ合う感触に、血が沸き立たなかったか?」
一語一語含むように言うと、思ったとおりセフィロスの身体は反応しだし、汗ばんでくる。
「クラウドの引き締まり括れた腰つきは、堪らんな。
それでいて、尻の肉は柔らかく、ふるりと弾力があった」
「あ……ぁ……」
悩ましげな声を漏らしはじめたセフィロスに、オレはほくそ笑む。そのまま胸の突起を舌と指先で愛撫し、片手で濡れた彼自身をなぶった。
クラウド・ストライフの艶姿を耳に吹き込むだけで、素直に感じだすセフィロス。それはオレに感じているのではなく、あの少年に感じていることの証だった。
――オレにとってはひどく惨めな手で、打ち拉がれそうになるが、セフィロスに痛みを与える性交だけはしたくなかった。
「あんたは、正直だな……。クラウドを抱きたくて堪らないんだ。
クラウドの穴が欲しくて、ここはもう、こんなにびしょ濡れだ」
勢いづくセフィロス自身をつつっと指先でなぞると、セフィロスは艶めかしい喘ぎを放つ。
「この手はクラウドの手……あんたは今、クラウドに愛撫されている。
ほぅら……クラウドは、こんなこともしてくれるんだぞ」
言いつつ、オレはセフィロスのモノを頬張り、舌で刺激する。
「あ、ぁ……クラ、ウド……っ」
切なげに呼ばれるクラウド・ストライフの名。その度に、オレは虚しくなる。
――オレは何をやっているんだ。こんな、プライドが折れてしまいそうなことをして、何の意味があるんだ。
自分の恋を押し潰すようなことをして、楽しいのか。
惨めな真似をしてまで、セフィロスを抱きたかったのか。
オレは自問し続ける。が、答えはひとつしかなかった。
――オレはセフィロスを自分のものにしたかった。それだけのためにソルジャーを目指したんだ。
だから、誰かに掠め取られるなど、嫌だった。
セフィロスを――誰にも渡さない。
たとえ劣化し、命が絶え友情という絆が失われても、セフィロスが欲しかった。
命のリミットが見えたからこそ、セフィロスを縋るように欲する。――オレの生きる目的だったから。
セフィロスの後腔を慣らしていた指を引き抜くと、オレは情熱で高まった自身をセフィロスのなかにゆっくり挿入する。
銀糸の髪を振り乱し凄艶に悶えるセフィロスを見下ろしながら、オレは激しく蠢き果てた。
――復讐にとりつかれたる我が魂。
苦悩の末に辿り着きたる願望は
我が救済と、君の安らかなる眠り――
何度目かの情交のあと意識を失ったセフィロスを見ながら、オレは「LOVELESS」の一節を思い浮べる。
――オレは何故か涙が溢れてくるのを感じた。
end
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