prayer
第7章 その手を捕まえたい by.Genesis
オレがソルジャー・クラス1stになって四年。――憧れ恋い続けていたセフィロスと、『親友』の間柄になって、五年。
自慢じゃないが、オレは容姿に恵まれているほうだ。
幼い頃からずっと、老若男女問わず、欲望を孕んだ眼差しで見つめられてきた。唯一そういう目で見なかったのは、掛け値なくオレを育ててくれた両親と、熱血天然馬鹿な幼なじみのアンジールだけである。
だから、幾度となく秋波を送られ、時折危険な目に遭いかけもしたが、徹底的に叩き潰してきた。
自分の恵まれた姿形を利用して、たまにセフィロスと容姿の似た銀髪の者を見つけ、手を出したりしていた。
が、それはすべて遊びだ。
――オレのこころを自由に出来るのは、たったひとりの愛しいひと・セフィロスだけ。
オレはひたすらセフィロスを目指し、ソルジャーになるため神羅カンパニーに入社した。
――そして今1stの地位にあり、セフィロスの身近にいる。
口数は多くないが、セフィロスが時折見せる笑顔は美しい。声も甘さを含んだ低さで、極めてセクシーだ。何より、立ち姿や棘のある薔薇のようなかんばせが、艶やかな色気を滲ませている。
セフィロスを見るたび、任務で一緒になるたび、オレは指の先だけでも触れたくてたまらなくなる。
――オレのセフィロスへの恋は九年越しの長さだ。近くにいるようになって五年は経った。
というのに、このオレが、セフィロスにまったく触れられないとは……。
思わず自分に呆れてしまう。
アンジールから、
『セフィロスに告白するなら、英雄を乗り越えてからにしろ』
といわれたが、それを後生大事に守っているわけではない。もとより、アンジールの言うことを真面目に聞くオレではない。
――セフィロスには、触れることはおろか、想いを告げる隙さえないのだ。
無口で、何を考えているか分からないセフィロス。虚無的で、世間で喧伝されているのとは裏腹に、存在感が薄い。
オレはかまを掛けるためにセフィロスに皮肉を言ったりするが、氷の刄のような遠慮のない言葉で倍返しにされるのがオチだった。
奇跡的に、アンジールはセフィロスの心象を読み取ることができる。――それがオレでないのが、腹立たしい。
――オレはセフィロスが愛しくてたまらない。セフィロスに触れたい、口づけたい、その身体を味わいたい。
正直、オレの理性は限界に近かった。
が、セフィロスにはまことしやかに流れる噂があった。
――セフィロスはプレジデント神羅の愛人のひとりだ。
それも、プレジデントは格別にセフィロスを鐘愛しており、他の愛人よりベッドに呼ばれる機会が多い。
耳を疑いたくなった。
が、セフィロスの襟足やコートに隠れた胸元にキスマークが付いているのを見たことがある。
事実、1stになってからセフィロスのプライベートタイムの情報を知ることが出来るようになり、彼がプレジデントに呼ばれていることが多いと分かった。
――オレが手に入れるより以前に、セフィロスは他人のものだった。
オレは悔しくて堪らなかった。プレジデントの愛人であるなら、滅多なことでは手を出せない。セフィロスに触れれば、神羅カンパニーにいられなくなる。
――セフィロスがオレを愛してくれるなら、オレは命を掛けてもいいのだが……。
いかんせん、セフィロス自身の意思を感じ取れない。
神羅カンパニー最高の男に愛され、ソルジャーとしても絶対的に強く、何より美しい。
満ち足りた環境にいるはずなのに、セフィロスはどこか空虚に見えた。何かに感情を揺らされることもなく、波のない水面のように静謐だ。
プレジデントの護衛のため、ともに任務についたことがあったが、プレジデントが肉体を通じた者が持つ親近感を醸しているのに対し、セフィロスはプレジデントを空気のように扱っている。
愛人といっても、想いはプレジデントの一方通行で、セフィロスはただ身体だけの繋がりなのかもしれない。
だから、セフィロスを諦めきれない。
――オレにも希望があるかもしれない。
とはいえ、やはりセフィロスの気持ちは読めない。が、オレはセフィロスがプレジデントの愛人だろうが、いつか必ず手に入れるとこころに決めていた。
「おまえ、ぎりぎりだな。今にもセフィロスを襲いそうだ」
定期検査の日、科学部門の第二ラボでホランダーにそう言われ、オレは目を見開いた。
「……ふざけたことをいうな」
鋭さを込めたオレの言葉に、ホランダーは首をこきこき鳴らす。
「おまえ、いつも物欲しそうにセフィロスを見ているからな。
セフィロスの背中を追い掛け、指に触れようとするが触れられない。
まるで初心者みたいな行動だな」
研究員にオレの血液や皮膚の細胞を採取させながら、ホランダーは事もなげに言った。
「……セフィロスはプレジデントの愛人だ。
手を出したら大問題だろう」
「あぁ、確かに肉体関係はあるだろうが、プレジデントがやっこさんに惚れても、やっこさんは誰に対しても等しく無関心だろうな。
――いや、おまえらは親友の座にありつけたか。
珍しいもんだな、やっこさんのこころを揺さ振る人間がいるとは」
オレは眉を顰める。美しいセフィロスをやっこさん扱いするとは、阿呆にも程がある。
不機嫌なオレに構わず、にやつきながらホランダーはオレの頭にヘッドギアを被せた。――あぁ、夢のはじまりか。
「さぁ、お楽しみタイムだ。しっかり堪能しろよ」
ラボのライトが落とされ、ヘッドギアから微弱な電流が流される。
頭に走った刺激に目を瞑ったオレは、頬に触れる感触に目を開ける。
――目の前に、抜けるような白い素肌を晒した一糸纏わぬセフィロスがいた。
これは本当のセフィロスではない。体液採取のために、コンピュータがヘッドギアを通して、被験者の都合のよいホログラフを見せるのだ。
それにも関わらず、オレは幻のセフィロスの唇を貪る。
――セフィロスを抱けるなら、幻影だって構わない。
オレは腕のなかにセフィロスを閉じ込め、胸の尖りを指で挟み擦りあわせる。片方の突起は舌先で揺らし続ける。
切なげに眉を寄せ、セフィロスはなまめかしく濡れた喘ぎを零す。
唇で下半身を辿り、臍を抉るように愛撫し、菊花を指でなぞる。
下肢に接吻すると、セフィロスは腰をもぞもぞとさせ、花芯から雫を溢れさせた。オレはそれを丁寧に舐めとり、指をゆっくりと菊座に埋め込んだ。
強ばるセフィロスの身体。すこしずつ解しながら指の本数を増やし、セフィロスのいいところをまさぐった。
途端に激しく身悶えるセフィロスに堪らなくなり、オレは片手でセフィロスの蘂を弄ぶ。
オレに誘われ、セフィロスは解放する。
肩で息をするセフィロスの膝を抱えると、オレは自分の熱でセフィロスの花を散らした。
体液を採取し終わったあと、オレはホランダーに呼ばれラボのコンピュータールームに行く。
コンピュータの画面を見、オレは瞠目する。
そこには、ヘッドギアから送られてきたオレのイメージ世界――セフィロスと濃く淫らに交わる映像が流れていた。
珈琲を飲みながら、ホランダーはいやらしい笑みを浮かべる。
「……いや、本当にぎりぎりというか……セフィロスを愛しちゃってるんだな。
あんなに優しく愛しげに扱って、まぁ」
「……貴様――!」
オレは手から魔力を発動させようとする。
どういう訳か、オレは小さな頃から無意識に闇系の魔力を操っていた。
神羅に入ってから力をコントロールするすべを身につけ、自在に使うことができる。
コンピュータに向かって魔力をぶつけようとしたとき、慌ててホランダーはオレを止めた。
「ま、待て! この画像の唯一の原本をおまえに渡す!
捨てるなり潰すなり自由にしていいから、コンピュータを壊すのだけは止めてくれっ!」
ホランダーの必死の制止に、ぴたり、とオレは腕を止める。
――この画像、オレのものにできるのか?
「本当にオレに渡すのだろうな」
「も、勿論!」
そういうホランダーの背後から、焦りを見せる助手が一枚のデータディスクを持ってきた。――これが、例のデータ原本だろう。
助手からディスクをむしり取ると、オレはラボをあとにした。
「……まぁ、あれ程愛している姿を見せられると切なくなるがな、おまえとセフィロスが結ばれるのは根本的に無理なんだ、ジェネシス」
オレが立ち去ったあと、ホランダーはぼそりと呟いた。
神羅カンパニーがソルジャーの寮にと用意した高級デザイナーズマンションに、セフィロスやオレ、アンジールは住んでいる。
最上階の超高級ルームはセフィロスの住居が割り当てられており、その下にオレとアンジールの住まいがあった。
気ままなひとり暮らしを満喫しているが、たまにセフィロスやアンジールとともにそれぞれの部屋で、料理上手なアンジールのオードブルを片手にワインを飲み明かしたりした。
今夜はアンジールは遠方に長期任務、セフィロスは……愛人としてベッドで過ごしている。
オレはブルーチーズをつまみに、赤ワインを飲んでいた。ソルジャーになってから、多少のことでは酔いにくくなった。
――頭のなかに、プレジデントとセフィロスの裸体が絡み合う空想が舞う。
胸が焼け付く……オレは一気にワインをあおった。
――そういえば、ホランダーから取り上げたデータディスクがあったな。
自分の恥ずべき妄想をこの世に残しておくのは、何かとまずい。オレはディスクをふたつに割ろうとして、手を止めた。
――このディスクには……オレとセフィロスの愛し合っている映像が入っているんだ……。
今頃セフィロスはプレジデントの腕のなかにいるのだろうが、このディスクのなかのセフィロスは、オレのものなのだ。
オレはフルスクリーンの電源を入れると、プレイヤーにデータディスクを読み込ませ、ソファに戻った。
大画面に、オレに組み敷かれるセフィロスが映る。長い銀の髪を生白い肌に貼りつかせ、オレに身体を揺すられていた。
オレの背に腕を廻し、律動に身を任せるセフィロスは、この上なく淫らで妖艶だ。
オレはレザーパンツのジッパーを降ろし、我慢が効かなくなっている情熱に手を添え、性急に弄った。
スクリーンのセフィロスは、激しすぎるオレの動きに小刻みに震えている。オレもそれに合わせるように手の動きを早めた。
濡れて擦れる叫びをあげ、セフィロスは絶頂に上り詰める。オレも一声呻き、手から滴を零した。
――いまの映像のように、今おまえは他の男に貫かれ喘いでいるのか?
オレは頬に涙の筋があるのに気付かなかった。
それから二日後、オレはセフィロスとともに高難度のミッションにつくことになった。
「ジェネシス、セフィロスに張り合おうとして無茶するなよ」
アンジールが渋い顔をし、説教口調でくどくど言ってくる。
「1stなんだから、無傷、ノーミスで当たり前だよな!」
そういうのは、先の任務でアンジールと知り合い、アンジールが気に入ったという3rd、ザックス・フェアだ。はりねずみのような黒髪つんつん頭に人懐こい顔をしている。――実際、性格もきゃんきゃん吠える犬のようだ。
ふたりが大きな声で話すから、うしろのセフィロスにまで丸聞こえではないか。
「黙れ、親犬・仔犬」
えぇっ、俺って犬扱い!? と文句を足れるザックスを無視し、オレは愛用の武器・レイピアを腰の鞘に収めた。
不意に、背後から吹き出す声が。
見ると、セフィロスが声を発てて笑っていた。
――セフィロスが朗らかに笑うのを、初めて見た。
「案じる必要はないだろう。ジェネシスは今回のミッションに見合う腕と魔力を持っている」
――セフィロスが、オレを誉めた?
セフィロスはオレの実力を認めている?
何だか、とても嬉しい。愛するひとに認められることで、力が湧いてくる。
――いや、それで終わってはいけない。
いつか英雄を越え、セフィロスに想いを告げるんだ。
「このオレが敵に無様に負ける訳がないだろう?
オレはあんたを跪かせ、英雄になるんだからな」
挑戦的なオレの言葉に、セフィロスはにやりと笑った。
「あぁ、いつかオレを跪かせてみせろ。
その日が来るかこないかは、おまえの言う女神のこころ次第だがな」
絶対に負けるとは思っていない、自負の強さを感じさせるセフィロスの翡翠の瞳。
――絶対に孤高の英雄を跪かせ、啼かせてみせる。
あぁ、その日が楽しみだ。
オレは腕のなかで崩折れるセフィロスをイメージし、背筋をぞくぞくさせた。
end
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