prayer

第18章 失えぬ者 by.Sephiroth





 その日は一日中デスクワークだった。
 神羅ビル49階にあるソルジャーフロアの、下級ソルジャー立入禁止区域に、ソルジャー・クラス1st用の執務室がある。
 オレは三日後に始まるウータイ制圧作戦に向け、ウータイ・タンブリン山周辺地図を睨みつつ、自分が率いるB隊の作戦指揮方法を練っていた。
 デスクトップPCに向かいながら、オレは眉間を指で押さえる。

 ――落ち着かない。嫌な予感がする。

 何が、というわけではない。第六感の囁きともいうべきものか。――不測の事態が起こる、オレはそう感じていた。






 仕事が終わり家に帰ってくると、クラウドがフローリングの床に直に座り込み、遠征用のバッグに必要最低限の荷物を詰め込んでいた。シャワーを浴び終わっているのか、クラウドはトレーナーとスウェットパンツに着替えていた。
 そういえば、クラウドは明日からアイシクルエリアでミッションだった。オレもウータイ制圧作戦を控えているので、ふたりしてこの家を空けることになる。
 ふとオレが帰っていることに気づき、クラウドが顔を上げる。

「お帰り、今散らかしてる荷物を全部詰めるから」 

 鞄の周りに置かれていた衣類を無造作に放り込むクラウドの手を取り立たせると、細い身体を抱き締め、クラウドの唇に軽く口づけた。
 小さくリップ音を起て離れた後、クラウドが首を傾げる。

「……セフィロス、何かあったのか?」

 ここ数ヶ月一緒に居るからか、クラウドはオレの微妙な変化も鋭く察するようになった。

「いや……何もない」

 まだ眉の間に縦皺を刻んだまま、クラウドが聞いてくる。

「大きなミッションがあるから、緊張しているのか?
 最強ソルジャーのセフィロスでも、ミッション前に不安定になることがあるんだな」

 意外そうに言うクラウドに、オレは笑う。

「緊張などしていない。ただ、色々思うことがあるだけだ」

 オレの言葉に、クラウドは憂い顔になった。

「あぁ……そうだよな。ウータイでソルジャー・ジェネシスが行方不明になったんだから。
 これから行くところが、ソルジャー・ジェネシスが失踪した場所なんだろ?」

 肩を竦めるクラウドに頷き、オレは思いを巡らせる。
 ジェネシスの親友であるオレは、ジェネシスが姿を消したその日、奴が失踪したことを聞いて怒り動揺した。その場にクラウドが居合わせていたのだが、クラウドはそんなオレを咎めなかった。
 オレとクラウドが想い合っていると知ったジェネシスは、下級ソルジャーたちにクラウドを浚わせ、列車墓場にてレイプさせようとしていた。オレは寸でのところでクラウドを魔の手から救ったが、今度はジェネシスが現れ、クラウドに手を出さないことと引き替えにオレと取引してきた。
 ジェネシスの取引の内容は、オレを抱くことだった。オレはクラウドを救うためなら何でも出来る。だからジェネシスの申し出に乗り、一晩奴に抱かれた。
 が、ジェネシスとオレの取引に、クラウドが傷ついているなど、オレは思いもよらなかった。クラウドはレイプされかかったことでも、こころに傷を負っていたので、それに上乗せするようにオレが傷を深めてしまったのだ。
 クラウドがオレとジェネシスの仲で傷ついたのは、ひとえにオレを愛してくれていたからだ。
 だからオレは、心的外傷により抑鬱や不眠になっているクラウドを自分の家に引き取った。そして、クラウドの傷が癒えた頃に少しずつ身体を触れ合わせるようになっていた。
 今、オレの恋人の立場にあるのはクラウドだ。が、オレがジェネシスと肉体関係を持ったのも、また事実だ。
 それなのに、クラウドはジェネシスを案じるオレを許してくれている。クラウドを酷い目にあわせたジェネシスだというのに、だ。クラウドはオレとジェネシスの親友としての関係を重んじてくれているのだ。
 オレのことを深く思いやってくれるクラウドに、オレは益々惹かれてゆく。クラウドが居なければ成り立たないほど、オレにとってクラウドの存在が不可欠になっていた。 
 クラウドの頭のうえに手を置くと、オレはスカイブルーの瞳を覗き込む。

「着替えてから夕食に準備をする。少し待っていてくれ」

 そう言って再び軽くキスすると、オレはクラウドから離れウォークインクローゼットに向かった。






 明日から暫くクラウドと会えない。だから無性に肌を重ねたくなる。
 キッチンの片づけを終え、バスルームから出てきたオレは、ベッドに腰掛け雑誌を読んでいたクラウドを慌ただしく押し倒した。
 まだ本を手に持ったままのクラウドは、オレの性急さに当惑している。

「ち、ちょっと! 明日から会えないのは分かるけど、が、がっつき過ぎだっ!」

 クラウドの抗議の声を無視し、オレは彼のトレーナーとスウェットパンツを早々に脱がし、自分もバスローブを取り去った。
 重なる皮膚が、熱い。どちらの温もりなのか判別できない。あるいは、お互いの熱が混じり合っているのかもしれない。
 深く接吻しながらクラウドの胸をゆっくり撫で回す。たまに胸の突端を揉み潰し、指先で何度も震わせる。それだけで、クラウドの吐息が荒くなる。脇腹や臍をゆったりしたタッチで撫で、そのまま下肢の中心に触れないままクラウドの内股を撫でさすった。

「あっ…セフィ……」

 クラウドの濡れた声に、オレは堪まらなくなる。反応するそれから零れる滴を舌で舐め取り、そのまま自分の喉奥までクラウド自身を銜え込んだ。

「うっ、んっ……」

 快楽が滲む声に、オレの興奮が高まってくる。舌での愛戯で震えるそれを咥内から出すと、ベッドサイドに用意しておいた潤滑油をクラウドの股の中心にたっぷりと垂らした。潤滑油の冷たさに、クラウド自身がひくひくと蠢く。
 クラウドを俯せにして双臀の間に流し込むように潤滑油を滴らせ、濡らした指で柔らかな肉の狭間にある菊花にぬるりとした液体を籠めていく。指を入れたままクラウドの尻を突き出させ、クラウド自身を弄びながら、中の襞を優しく、ときに激しくまさぐった。
 後庭への愛撫を開始してから、かなり日数が経過した。クラウドの秘花は既にオレの指を三本呑み込むようになり、体内にある悦楽のスイッチだけで絶頂に達するようになった。
 だが、オレはクラウドと身体を繋げることに、まだ迷いがあった。後花は繊細な箇所で、本来男の徴を受け入れる場所ではない。やり方が不味いと、クラウドの粘膜を傷つけてしまう。
 ゆえにオレは、交接ではないやり方で自身の昂ぶりを解放していた。尻を上げさせた体勢のまま、潤滑油やクラウド自身の体液で濡れた内股に爆発しそうな自身を挟み込み、クラウドの股を密着させた。
 小刻みに腰を揺らし、クラウド自身の感触と大腿部の柔らかさを味わう。クラウドもオレ自身との摩擦により快楽を得ているようだった。

「あッ、セフィッ、セフィッ――!」

 乳首を捏ねまわし限界まで自身を高められ、クラウドは絶頂に追い上げられ啼き叫ぶ。クラウドが情熱を解放したのと同時に、オレも欲望を吐き出した。
 背中を合わせあったまま肩で息をしあう。呼吸が収まってきたあと、ぽつりとクラウドが言った。

「……あんたって、本当に過保護だよな。
 もっと自分の思い通りにすればいいのに」

 ベッドを共にするたびに、クラウドが呟いてきた言葉。それはクラウドを大事にする余り、自分の情欲を疎かにするオレへのクラウドの思いやりなのだ。が、オレは今のままでいいと思っていた。
 黙ってクラウドを抱き締めるオレに、クラウドは小さく嘆息を吐いた。






 クラウドをミッションに送り出してから三日経った。オレもウータイ制圧作戦の要として、2ndソルジャーと一般兵からなるB隊を率いて夕刻にウータイのタンブリン山に到着した。
 この作戦は、本来ジェネシスが行っていたものだ。が、ジェネシスが大勢の2nd・3rdソルジャーとともに行方不明となり、二ヶ月半あまり頓挫していた。その尻拭いとして、オレとアンジール、そしてザックスが作戦を続行することになった。
 戦況を実地検分するため、今回はラザードもウータイに来ている。ラザードは全く戦闘力を持っていない。銃器の使用もしたことがないようだ。そんな人間が戦場に居るのは、足手まとい以外の何者でもない。
 タンブリン砦爆破とウータイ軍殲滅を行うアンジールとザックスには、自分たちの作戦に集中してもらいたい。だから、ラザードの護衛は、B隊にいる者やオレがすることになる。
 ラザードがプレジデントの息子であることは、神羅カンパニーの秘中の秘なので、ラザードの無事帰還も任務のうちに入っている。ほぼオレがラザードの護衛をしなくてはならないだろう、頭の痛いことだ。
 陽動作戦を行うB隊は、アンジールとザックスが持ち場に到着するまで待機だ。じきにアンジールから任務開始の連絡が入るはずだ。

 ――アンジール……あいつは、ジェネシスの幼なじみだ。ジェネシスへの不安は、オレよりも強いだろう。
 ジェネシスが失踪したタンブリン砦に来て、あいつはどう思っているだろう。

 近頃のアンジールは沈みがちだった。幼い頃から一緒に行動してきたジェネシスの行方が分からないので、それも当然だと思われた。
 が、アンジールの憂いは相当深い。何か、ジェネシスのこと以外にも、心痛することがあるのだろうか。
 そういえば、アンジールはジェネシスのオレへの想いを知りながら、プレジデントのダッチワイフにされていたオレの面倒を見ていた。
 その上、オレがクラウドを愛するようになってからは、クラウドとの恋を結ばせようと働きかけ、またなかなか一歩を踏み出さないオレに発破を掛けてきた。
 そういう一々の行動にしても、片方でジェネシスの激情を案じていたアンジールだ。色々と複雑だったに違いない。
 様々に思案していると、携帯端末が振動した。アンジールから連絡が入ったのだ。オレは携帯の受信ボタンを押す。

「アンジール、持ち場に着いたのか」
『あぁ、いつでも作戦を開始してくれ』
「分かった」

 必要事項を伝達し終わったので、オレは携帯から耳を離そうとする。が、不意にアンジールの声が聞こえてきた。オレはもう一度受話器に耳を寄せる。


『セフィロス……無茶するなよ』


 そう言って、アンジールからの着信が切られる。
 オレは携帯端末を見ながら眉根を寄せる。

 ――無茶とは何だ。オレは一度も任務を失敗したことはない。それに、ぎりぎりまで体力を使うようなミッションのこなし方をしたことはない。

 それはアンジールも分かっているはずだが、何が言いたいんだ?
 開いたままだった携帯端末を畳むと、オレはB隊に作戦開始の合図をした。
 爆破準備をしていた一般兵が、爆破装置に火を点けた。






 B隊の陽動に引き寄せられてきたウータイ兵を作戦通り仕留めてゆき、時折オレも正宗を振るっていると、タンブリン砦から爆破音が響いた。オレはミッションが成功したと悟った。
 あとは、ラザードを保護してアンジールたちと合流し、ミッドガルに戻るだけだ。もうクラウドはアイシクルエリアでの任務を終え、ミッドガルに帰っているのだろうか。ウータイからミッドガルまで、帰着するのに数日掛かる。――早く、クラウドに逢いたい。

 ――だが、胸騒ぎがする。悪い予感がする。

 この任務に出るまえからあった、胸のざわめき――それが、現地に着いてから、余計に酷くなっている。
 オレの勘は、戦場にあるほど、よく当たる。この予感は、そういった類のものだ。これは、見逃すわけにはいかない。タンブリン砦に向かったほうがいい。
 オレは統率力のある2ndにB隊の指示を任せ、ひとりタンブリン砦――アンジールとザックスのもとに向かう。山中の森を駆け抜け、生い茂る枝を掻き分けながら先に進む。
 そのとき、素早い動きで何かがオレの目の前に飛び出てきた。それは人の形をしており、ゆらゆらと動きながらオレに刃を向けてきた。
 この動き、見覚えがある。どこでだったかは思い出せない。が、今はそれどころではない。攻撃を仕掛けてきた敵を剣圧で返し、返す刀で剣筋を飛ばす。正宗を中段で構え、敵を何度か切り刻んだあと空に打ち上げ、とどめの斬撃を加えた。
 絶命した敵の被っているヘルメットを外し、オレは相手が何者なのか確かめる。

「――――?!」

 まさか、そんなことがあるのか?
 敵の顔は、ジェネシスそのものだった。が、ジェネシスがこんなにあっけなく敗れるはずがない。また、扱っている武器がジェネシスのものとは違う。
 そういえば、以前クラウドがジェネシス配下のソルジャーに襲われたが、奴らの動きが同じようなものだった。

 ――ジェネシスの顔をしたものが、オレに襲いかかってきた……。

 これは神羅カンパニーへの明らかな反逆であり、オレとの決裂だ。ジェネシスは、オレに何も言わずに、裏切ったのか。
 オレがプレジデントに裏切りを密告すると思ったから、何も言わずに失踪したのか? 確かにオレはプレジデントに近い場所に居るが、オレはプレジデントよりジェネシスとの友情を取る。だから、ジェネシスの裏切りを告発したりしない。
 ジェネシスもそのことは分かっていたはずだ。それなのにオレに何も言わずに消え失せたということは、オレのことを信用していなかったということになるのか?
 あぁ、考えても、何も見えてこない。とにかく、アンジールたちに合流しなくては……。
 オレは走るスピードを上げて砦に急いだ。
 が、待っていたのは、更に最悪な現状だった。






 砦に駆けつけたとき、ザックスはひとりイフリートと戦っていた。ザックスの足元には、先程オレが倒したのと同型の敵の屍がいくつか転がっている。
 何とかイフリートに致命傷を負わせたようだが、イフリートは落命していなかった。ザックスはイフリートを倒したと思い、油断していたようだ。
 イフリートは最期の力を振り絞り、ザックスに火炎の攻撃を仕掛けてきた。ザックスはイフリートの猛攻に気づいたが、無防備だったので防ぎきれない。
 オレはイフリートの動きを見切っていた。ザックスとイフリートの間合いに回り込むと、イフリートを一閃のもとに斬って捨てた。

「すげぇ――」

 オレの戦いぶりに、ザックスが唖然としている。オレはそんなザックスを気にせず、地面に転がっている敵の死骸のヘルメットを取る。

「ジェネシス――」

 思ったとおり、やはりジェネシスと同じ顔をしている。先程戦ったもの以外にも、ジェネシスと同じ顔をしたものがいたとは。これは、何なのだ?
 オレが事態を把握しようとしていると、背後でザックスが素っ頓狂な声を出した。

「脱走したソルジャー・クラス1st!
 同じ顔!?」

 きんきんうるさい声に、眉間が窄まってしまう。
 もう一体いる敵のヘルメットを剥ぐ。やはりそこから現れたのは、ジェネシスの顔だった。

「ジェネシス・コピーか」

 取りあえず、答えなどこれしかないだろう。こうとしか言いようがない。
 驚いたように、ザックスが喚く。

「コピー!? 人間のコピー?」

 一々うるさい奴だ。いい加減、アンジールが止めに入ってもよさそうなものだが。そう思い辺りを見渡すが、アンジールの姿はなかった。
 オレは立ち上がり、ザックスを振り返る。

「アンジールはどこだ?」

 ザックスは首を振り、顔を伏せた。

「ここで戦っていたはずなんだけど――」

 あぁ、やはりオレの予感は当たっていたか。こんなもの、外れてくれてもよかったのに。

「ふん、あいつも行ったか」

 そう、アンジールも、オレを裏切ったのだ――。
 ジェネシスが失踪したウータイのタンブリン砦で、アンジールも姿を消した。まるでジェネシスを追うかのように。また、オレに一言も言わないで。
 オレの言葉に、アンジールを師と仰いでいるザックスが反発する。

「あ? 今の、どういう意味だよ!」

 ザックスがオレの言葉を信じたくない気持ちは分かる。オレだってそうだ、アンジールがオレに無言でどこかに行ってしまったなど、思いたくない。
 だが、事実は残酷だ。突きつけられている真実は、アンジールの裏切り――これしかないだろう。

「アンジールも裏切り者になった。そういう意味だ」

 半ば自暴自棄になりオレは言う。
 これ以上この現場に居ても仕方がない。事態は起こったのだ、ことに応じて対処しなくては。オレはB隊に異常事態発生を知らせに行こうとする。
 が、その足を止めたのは、ザックスの必死な言動だった。

「ありえない! 俺、アンジールのことはよく知ってるんだ!
 そんなことする男じゃない!」

 大声で絶叫するザックスを、オレは睨み付ける。
 オレだってアンジールのことはよく知っている。むしろ、ザックス以上に知っているんだ。
 だからこそ、アンジールが裏切ったと確信できる――アンジールは、ジェネシスの幼なじみだ。あいつは、ジェネシスの側に付いたんだ。

「アンジールは、俺を裏切ったりはしない!」

 ザックスの悲痛な叫びが、森中に轟く。
 信じたくない気持ちは分かる。オレの言葉を信じたくないなら、信じなくていい。
 だが、人間の気持ちなど、変わるものだ。はじめから、信じられるものなど、何もなかったのだ――。
 オレは自分のこころが冷えていくのを感じていた。






 その後ザックスを連れてラザードとB隊に合流し、オレたちはヘリに乗ってミッドガルに向かった。
 帰路はみな終始無言だった――あのザックスでさえ。ヘリのなかは重苦しい空気で満ち溢れている。
 ラザードが携帯端末で本社にアンジール失踪の報告をしている。オレはぼんやりとその声を聞いていた。






 三日後、オレたちはミッドガルに帰ってきた。過度の疲労を理由にミッションの報告書を後回しにし、オレは自分のマンションに帰宅する。
 リビングに入ると、深刻な表情をしたクラウドが、一通の封書を手にし俯いていた。冷蔵庫からミネラルウォーターを出すオレに、クラウドは弾かれたように顔を上げる。

「あ……お帰り、セフィロス」

 冥い眼差しが、オレのこころを抉ってくる。誰もかれも、こんな顔をしている。もう……沢山だ。クラウドくらい、違う面相を見せてほしい。
 ミネラルウォーターを飲みながらそう思ったオレは、とうの昔に理性の限界を突破していた。だから、クラウドを思いやる余裕などなかった。
 クラウドの腕を掴み強引に引っ張ると、オレはクラウドを連れてベッドルームに入る。ベッドのうえにクラウドを突き飛ばすと、オレは彼のうえに無造作にのしかかった。
 荒々しい手つきで、オレは下着ごとクラウドのボトムを脱がす。見開かれるクラウドの眼。だが、構ってなどいられない。
 潤滑油を使わず突然後腔に指を入れると、クラウドの身体が強ばった。無理矢理排泄の穴を拡張し、濡れてもいない襞を掻き分け指を動かす。

「ひッ……いた、痛いッ……!」

 クラウドが悲鳴をあげる。硬く瞑られた瞼には、涙が浮かんでいる。
 乾いた指に、ぬるりとした感触が伝わる。どうやら、後ろの粘膜を傷つけたらしい。それでも、オレはクラウドの後花を拡げるのを止めなかった。出血したのを好都合に、クラウドのなかの最も感じやすい場所を執拗にまさぐる。

「いッ……あ、はぁッ! いアァッ……!」

 苦痛と快楽の混じった声に、オレの欲望が昂じてくる。コートを着込んだままボトムのジッパーを下げ、猛り狂ったオレ自身を取り出す。クラウドの後庭から指を引き抜くと、血に塗れたそこに凶器を突き立て、激しく動かした。

「ひぎィッ! いああぁぁッ!」

 クラウドから痛ましい悲鳴が聞こえる。が、オレは無我夢中だった。
 親友に裏切られた苦しみと悲しみが獣欲と直結し、誰のなかでもいいから、どろどろしたものを吐き出したいと藻掻いていた。自分のなかに渦巻く苛立ちと憎しみを、誰かにぶつけたかった。
 オレの側には、手頃なクラウドが居た――それだけだ。だから、クラウドの蕾を裂き怪我を負わせても、こころは何も感じなかった。ただ、肉体が相手への苛虐と悦楽を求めていた。
 身に余る痛みに朦朧としているのか、クラウドからは苦しげな呻き声しか漏れない。オレは自身を締め付ける肉の感触に惑溺し、何も考えられぬまま性欲をクラウドのなかに吐き出した。
 オレは荒い息を吐き、気絶したクラウドの身体に上体をもたれ掛からせる。興奮が緩まってくると、しだいに現実が見えてくる。自身の下に血の気の失せたクラウドを認め、我に返ったオレはやっと自分の行ったことを把握した。

「……クラ、ウド……?」

 オレは、クラウドを、無理矢理抱いたのか……? あんなに傷つけぬよう気を遣い、大切にしていたクラウドを、襤褸雑巾のように扱ったのか……?
 繋がっていた身体を放し、クラウドの身体の状態を見る。凄惨な裂傷を負ったクラウドの菊花に、オレは思わず眼を背けてしまう。

 ――これを、オレが全部やったのか……。

 改めて自分のした取り返しのつかない出来事に、目眩がしそうになる。
 が、このままにしておくことも出来ず、よろけた足付きでリビングにマテリアバングルを取りに行くと、震える手を回復のマテリアに翳し、クラウドに魔法を掛けた。
 発動したケアルガが、緑の光となってクラウドの全身を包み込む。再度ケアルガを掛けると、クラウドの傷がみるみるうちに消えていった。
 クラウドの身体が癒えたのを見届けホッとしたものの、オレは自分のしたことに打ち砕かれていた。どうしていいか分からず、オレはベッドの傍らに崩れるように座り込んだ。






 身に起きたことのショックと疲れから昏睡していたクラウドは、次の朝に目を覚ました。
 オレはベッドの横に椅子を付け、眠るクラウドを見守っていたが、瞼から覗いた空色の瞳に、思わず目を逸らしてしまう。

「セフィロス……」

 ジェネシスが差し向けたソルジャーたちより酷いことをしたオレが目の前に居るのに、クラウドの声は静かだった。クラウドをまともに見られない――オレはいつまでも顔を背け続ける。
 クラウドの掌がオレの手首に触れる。びくりとし、オレはクラウドに目を向ける。
 狼狽するオレに、穏やかな表情でクラウドは首を振った。

「そんなに、落ち込んだ顔するなよ……。
 あんたになら何されてもいいって、俺言ったよな……?
 だから、気に病まなくていいよ」

 クラウド……何を言うんだ? おまえの身体を痛めつけたオレだというのに。簡単にオレを許すのか?
 オレに微笑み掛け、クラウドはゆっくり立ち上がった。少し身体を捻り、クラウドは微笑む。

「ぶっ飛んだあんたのやり方、かなりきつかったからどうなるかと思ったけど、ちゃんと回復してくれたんだな。
 おかげで痔にならなくて済んだ」

 ははは、と屈託なく笑うクラウドに、オレは困惑する。――クラウドの考えていることが、分からない。
 ちょっと待ってて、と言い置き、クラウドはリビングに向かう。やがてクラウドは封書を持ってベッドルームに戻ってきた。

「……これ、サー・アンジールからの手紙。
 これ読んだから、あんたが何で荒れてたのか分かったんだ。
 サー……もう、神羅には居ないんだろう?」

 クラウドの言葉とともに差し出された手紙に、オレは目を瞠る。
 これが……アンジールの残した手紙?
 オレは不器用な手つきで封筒から折り畳まれた手紙を出す。


『クラウド、この手紙をおまえが読む頃、俺は神羅に居ないはずだ。おまえは、セフィロスからそのことを聞くはずだ。
 黙って姿を消した俺を、許してくれとは言わない。何も言わずに失踪した俺は、セフィロスの親友失格だな。
 いつか本当のことをおまえたちに言えたらと思っている。自分でも、自分に何が起こっているか分からないんだ。
 こんなことを言っても、何も言わずに消えた俺だから、セフィロスの眼には裏切り者にしか見えないだろうな。
 クラウド、セフィロスが帰ってきたとき、あいつは荒れているはずだ。もしかすると、誰も信用できなくなっているかもしれない。最悪、おまえに酷いことをするかもしれない。
 だから頼む、セフィロスが何をしても、おまえだけはあいつのすべてを受け止めてやってほしい。
 あいつが失ってはならないものは、俺やジェネシスじゃない。あいつに必要なのは、おまえしか居ないんだ。おまえが居れば、あいつはいつか信じる思いを取り戻せる。信じる思いが、いつか夢や希望に繋がるはずだ。
 だからクラウド、セフィロスを頼む。あいつを支えてやってくれ。そして時がくれば、この手紙をあいつに見せてやってほしい。
 俺の大切な親友を、クラウド・ストライフ、おまえに託す』


 アンジールは、オレを裏切ってなどいなかった。ちゃんと、クラウドを通してオレに言葉を残していた……。

「時がきたら、ってあったけど、今見せた方がいいと思ったから見せた。
 この手紙を読んだとき、何が言いたいのか分からなかったけど、帰ってきたあんたの荒れた様子を見て、サーの残した手紙の言わんとしたことが分かったんだ。
 だから、あんたがどんなことをしても、受け止める覚悟をしたんだ。
 それに、あんたは俺に遠慮し過ぎて、セックスしようとしなかっただろ? これが一歩を踏み出すきっかけになるから、いいと思ったんだ。
 まぁ、ちょっと……いや、かなり痛かったけど」

 最後ふざけて言うクラウドに、オレは思わず謝ってしまう。クラウドは慌てて首を振った。

「あぁ、責任感じなくていいから!
 今回のことでまた触り合うだけの関係に戻ったら、元も子もないじゃないか。
 俺は今までのあんたの態度が、ずっと不満だったんだからな」

 そして、クラウドはオレに身を寄せてくる。

「さっきも言ったけど、俺はあんたのすることを、すべて受け止める。
 何があっても、俺だけはあんたを裏切らないから。
 俺は、あんたの側に、ずっと居るから――…」

 オレの背に腕を廻してくるクラウドを強く抱きしめ、オレは呻いた。

 ――クラウド……おまえは、オレを裏切らないか? おまえだけは、ずっとオレの側に居てくれるか?

 アンジールはオレを裏切っていなかった。あいつがクラウドに託した手紙に、アンジールのこころが籠められていた。
 オレは最も失えないものがクラウドだと、改めて気づいた。おまえを無理矢理犯し傷つけ、オレはおまえとの絆を、自ら手放すようなことをしてしまった。
 そして、傷ついたおまえがオレを嫌悪し、オレから離れてしまうことを恐れた。――その痛みは、アンジールやジェネシスを失ったと知ったときの比ではなかった。

 ――アンジールは、そのことを知っていた。だから、自分が失踪したあとのオレを予想して手を回し、クラウドのこころをオレから離さないようにした。
 アンジール、おまえは本当にオレ以上にオレを知っている奴だったな……。

 クラウドが少し身じろぎし、物言いたげにオレを見上げてくる。

「あの、さ。こんなことを今言うのも何だけど……。
 サー・アンジールが失踪したのは、ソルジャー・ジェネシスのことが心配だったのもあると思うんだ。
 勿論、それだけが理由じゃないはずだ。けれど、サー・アンジールはソルジャー・ジェネシスの幼なじみだろう?
 そして、ソルジャー・ジェネシスはあんたのことが好きだったんだ。あんたが俺と結ばれて、あの人が穏やかでいられるはずないと思うんだ。
 だから、サー・アンジールはソルジャー・ジェネシスのところに行ったんじゃないかな」

 クラウドの言うことに、もっともだ、とオレは頷く。
 にっと笑い、クラウドはオレの胸に額を擦りつけた。

「だから、さ。あんたには俺がいるから、サー・アンジールはソルジャー・ジェネシスに渡したらいいじゃん。
 そうじゃないと、ソルジャー・ジェネシスが可哀想だろう?」

 余裕しゃくしゃくなクラウドの言い様に、オレは吹き出してしまう。
 声を発てて笑うオレに、クラウドが膨れっ面をする。――なんて愛しい存在なんだ。オレだけの、失えぬ者は。
 溢れくる想いに、オレはクラウドの唇に接吻する。舌を差し込み絡め合う口づけに、クラウドの息があがってくる。
 衣服越しにクラウドの背筋や臀部を撫でる手に、クラウドは唇を離し様抗議した。

「な、何するんだよっ! 昨日ヤったばかりだろうっ!」

 顔を真っ赤にするクラウドに、オレの顔は弛んで止まらない。

「昨晩のオレは最悪だった。あれがオレのセックスだと思われると困る。
 だから、本当のオレの実力を、いま見せてやる」
「い、いいよっ、あんたが優しいのは、ちゃんと知ってるから!」

 暴れて逃れようとするクラウドをベッドに押し拉ぎ、オレはさっさとクラウドの服を脱がせ昨晩のやり直しを始めた。
 今回はじっくりと時間を掛けてクラウドの全身を隈無くねっとりと愛撫し、花弁をとろとろに蕩かしてから、ゆっくりと身体を繋げた。
 昨夜と違い、クラウドの顔に苦痛はない。まだ挿入自体慣れていないので、時折苦しげに顔が歪むのは否めない。が、それを上回るほどの淫蕩さを滲ませるクラウドの表情と初々しい彼の媚肉に、オレは引き摺られ溺れた。
 憎しみや苦しみの捌け口としてではない、愛しさと切なさからくる情交に、オレとクラウドはお互いを尽きることなく貪り合った。




 クラウド、誰よりも愛しい者、たったひとりの失えぬ者。
 オレもおまえに、オレのすべてを捧げる。おまえの側に居て、おまえを愛し続けよう。
 だからおまえも、ずっとオレの側に居てくれ、たったひとりの愛する者よ――。







end
 

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