love and hatred
ここにはない、本当の。
――幾夜訪れ、幾度抱いただろうか。
すっかりオレの愛撫を思い出し、少しの動きでしなやかな身体をくねらせるクラウドを見下ろす。
神羅にいた頃、何度もオレに抱かれ、乾いた土が水を吸い込むようにオレの手による快楽に馴染まされた身体。
いまあの頃のように身体の隅々まで愉悦を引き出され、クラウドの肉体はオレ無しではいられなくなっているだろう。
白い項に吸い付き鬱血を残し、尖った胸の先端を摘んで軽く捻る。それだけでクラウドはつややかな喘ぎを漏らした。
逸る自身の腰付きを宥め、オレはクラウドの腰に添えた手に力を込める。
緩くなったオレの動きに、クラウドは薄く瞼を開ける。
――以前とは違う魔晄の瞳。オレが愛した空色より濃くなった蒼の眼。
だが、色が変わろうが愛しい双眸だ。オレは軽く瞼に口づけた。
「……あんた、どういうつもりだ」
不意に聞こえてきた声に顔を離すと、鋭く睨み付けてくる眼があった。
「ただ俺をなぶりたいだけなんだろう?
人形になり損ねた、ナンバー無し欠陥品の味は、どうなんだ?」
少年の頃にはなかった荒んだ口調、険しい眼差し。
――そのどれも、オレが狂ったことにより変化したのだ。
昔を懐かしむと、胸にかすかな痛みが走る。
口元を歪めて笑みを作ると、オレはクラウドの耳元に甘く囁いた。
「おまえのなかは、とても具合がいい。
最高だ、セフィロス・コピー・インコンプリート」
そう言って口づけたオレに、反ってくるものはない。構わず歯列を舌でなぞり、無理矢理舌を絡める。
――どれだけ抱こうと、クラウドがオレを受け入れることはなかった。
徹底的に肉体に染み込ませたオレの手練手管に、簡単に折れはするが、それは身体だけで、こころは伴われていない。
――あくまでクラウドはオレを敵として見ていた。
当たり前だ、オレはクラウドの故郷を焼き払い、クラウドとの愛と絆を自ら断ち切ったのだから。
あまつの果てには、クラウドが大切に想っていた古代種の娘を、オレはこの手で殺した。
――オレはすべてを憎んだ。この世の予定調和を歪め、人為的に作られたことを。オレを苛んだすべてを。――オレを生み出したこの世を、人間を、この星を。
だから、世界を破壊することによって湧き出てくるライフストリームを独占して、この世の神になろうと思った。
だが、たったひとつこころに掛かるものがあった。
――今なおこころに残る、クラウドへの恋慕。身悶えるほどに餓えるクラウドへの妄執。
ゆえに、真実の自我を取り戻したクラウドのベッドに毎夜通い、強引に抱いた。欲望は尽きることなく、迸る愛欲をクラウドに刻み続ける。
が、抱けば抱くほど、オレに対するクラウドの想いが変化していくのを感じていた。
――オレはクラウドの敵なのだ。愛するための行為も、クラウドの憎しみを増加させるだけなのだ。
ニブルへイムで知ったオレの真実。
それに絶望し狂わなければ、クラウドは今も変わらず、オレを愛し続けてくれただろうか。
クラウドの手で討たれたときに命を諦めていれば、クラウドのなかでオレは美しい思い出のまま残ることが出来たのだろうか。
――クッ……いまのオレは醜悪だな。クラウドの憎しみの対象になりながらも、執着を捨てきれない。
クラウドにとって、オレは嫌悪の対象でしかないだろう。
ならば、いっそ徹底的に憎まれ、恨まれるのも悪くない。
クラウドが愛したオレは、過去のオレ。クラウドが過去のオレを本当のオレというなら、それもいい。
いまのオレは、壊れた厄災の化身、ただそれだけだ。他の何でもない――。
再びオレは腰を動かし、欲望の赴くままクラウドを犯し尽くした。
それはどこか、虚しくもあった。
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