love and hatred
罪悪感を追いやる幸福
「どうして……セフィロス……」
毎夜、宿屋の寝所に現われる男。本体は北の大空洞に眠り、自身の肉体を完全に再生させようとしているはずだ。
――その男が、何故何度も自分の前に現われ、無理矢理犯してくる?
今宵もベッドに押し倒されて衣服を剥ぎ取られ、強引に互いの身体を繋げられていた。
幾夜も抱かれ、過去に仕込まれた快楽を、男に引き出される自分の身体が恨めしい。
少し揺すられ、貫くもので刺激されただけで、俺は出したくもない喘ぎを漏らしてしまう。
そんな俺を見て嬉しげに嗤う男に、悔しさが込み上げてくる。
――昔は、愛していた。たったひとりの大事なひとだった。何よりも無くせない恋人だった。
が、今の相手は、完全に狂い神になろうとする、星に仇なす者。
淡い思慕を抱いた女性を目の前で殺した男。
自分を操り人形にし、あまつの果てには肉体の一部として取り込もうとした男だ。
――あんたが大空洞で俺に手を差し伸べようとしたのは、人形を労うためだったんだろう?
今の俺は本当の自分を取り戻し、あんたの人形じゃなくなった。
なのに、なんで抱くんだよ……。
神羅時代に幾度も重ねた情交とは違い、セフィロスの眼には俺をいたぶる喜悦が見え隠れしていた。
昔のような優しい手付きで、容赦ない愛撫に俺を溺れさせてゆく。快楽の淵に沈め、這い上がれないようにさせる。――まるで、肉体の愉悦で俺を支配しようとするかのように。
もう、誰にも俺を支配させない――そう眼差しに意志を込め睨むと、面白そうに唇を歪め、セフィロスは口づけしてきた。
「おまえは本当に楽しいな……、クラウド」
艶と甘さの含まれた低い声に、背筋が震え極まりそうになるが、気力を振り絞って耐える。
――身体は同じ、声も同じ、でもこころが、まったく違う……。
今自分を抱いているのが、柔らかな微笑みを見せてくれたあのひとだったら、どれだけ幸せか。
同じ肉体と声に、昔と錯覚させられ、悲しさがいや増す。
――俺は、馬鹿だ……今あんたに抱かれることに、幸せを感じかけている。
一緒に旅する仲間を裏切り、秘密の関係を結び、胸が痛いはずなのに……。
セフィロスは人形になり損ねた俺に屈辱を与えるために犯しているんだ。それなのに……。
仲間を背信する罪悪感と、過去の恋の幻影に浸る幸福感に、何が何だか分からなくなる。
――あぁ、俺はこの底無しの淵から、抜け出せるんだろうか。
知らず知らずのうちに、俺の目尻から涙が零れた。
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